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第五話 準備と想定外

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 恋愛において、準備はとても大切である。

 好きな相手の好みを調べたりするのは基本中の基本だし、告白が成功する確率を上げるためには、様々な情報を集めて相手との距離を詰めたり、周りに協力してもらって外堀を埋めたり、事前に色々仕込んでから行動に移すのが一番だろう。

 妹から聞いた話だと、女子なんかは他の誰かが先に告白しないよう、あえて好きな人を公言して牽制したりもするとかなんとか。男の俺にはまったくわからない話である。

 まあとにかく、事前準備と駆け引きが大切なのは間違いないだろう。そして、当然これは恋愛だけにはとどまらない。

 学校のテストだろうが、ゲームのイベントボスだろうが、何の準備しないで挑むのは愚の骨頂。どんなこともできる限り、準備をしてから挑むべきであり、失敗したくないならちゃんと準備するのは基本である。逆に言うと、周到な準備をしていれば、それは、その人にとって絶対に成功させたい重要なことなのだと考えることができるわけだ。

 と、するとである。全校集会で発表して全生徒に周知させて外堀を埋めた挙句、断られないために脅迫用の映像を撮る準備までするとか、どんだけ重要なことなんだって話だし、そもそもな話ーー


「何であんなことした……?」


 胸の谷間という名の最終兵器に完全敗北した後、生徒会室の長机に俺と天崎(もうこいつは呼び捨てでいい)は向かい合って座っていた。

 天崎はご満悦な様子でニコニコと笑っている。俺の顔は間違いなく、こいつとは真逆の、げんなりした顔になってるだろう。

 

「まあまあ、そんな細かいことはどうでもいいじゃない? これから一緒に生徒会頑張ろうね、副会長?」

「いや、細かくないから。100歩譲ってこのまま生徒会に入るとしても、何でこんなことしたのかはきちんと説明しろ。でなきゃ即辞任するぞ」

「えー、女子の胸に手を入れる勇気もないヘタレな高原くんにそんなことする権利があるとでもー?」


 ドヤ顔で、これ見よがしに決定的映像が収められているスマホを見せつけてくる天崎。完全に調子に乗っていた。


「いいのかな〜いいのかな〜? この映像が広まったら、高原くんはいったいどうなっちゃうのかな〜?」

「腹立つ! というかそれヘタレ関係ないだろ! そんなことできるやつは変質者だけだ!」

「ふふん、じゃあ変質者になってみれば〜? その勇気がないなら副会長頑張ろうね〜?」


 楽しそうにどんどん煽ってくる天崎。そんな彼女の顔を見ていて、俺は決意した。

 よろしい、ならば戦争だ……! あっちが最終兵器を使ってくるなら、こっちも初手から最終手段を使ってやる。

 俺はポケットからスマホを取り出し、こっそりと机の下で、ワンタップである番号に繋がるように準備する。


「おい天崎。今すぐにその腹立つ挑発をやめて、事情を説明しろ。さもないとこっちにも考えがあるぞ」

「や〜だよ。ヘタレの高原くんのすることなんて怖くもなんともないも〜ん。そんなことより、わたしも鬼じゃないし? ちゃんと副会長になってわたしのことを助けてくれるって約束してくれるなら、この映像は消してあげてもいいよ? 優しいわたしに感謝してね?」

「これを見ろ」

「高原くんのスマホだね? 何? あ、もしかしてわたしと連絡先交換したいの? まあたしかに、副会長なら会長の連絡先は知っておかないとだからね。さっそく副会長の自覚が出てきたみたいで感心感心」

「これ以上調子に乗るなら、今この場で天崎先輩に全てチクる」

「待って待ってまずは落ち着こう? 流石にさ、自分じゃ勝てないからって相手の姉にチクるのはどうかと思うよ? お互い小学生じゃないんだからさチクリとかやめよう? ね? ほら、高原くんにも男のプライドとかあるでしょ?」

「悪いな天崎。お前の言った通り、俺ってヘタレだからそういうプライドとかないんだわ」

「大変申し訳ございませんでしたぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 満面の笑顔で言ってやると、俺が割と本気なのが伝わったのか、瞬間、天崎の表情が一変、焦った様子で椅子の上で土下座をかましてきた。

 よし、勝ったな。流石に、こんなことをしてるのが身内バレするのは嫌すぎるだろうと思ってやってみたが、効果は抜群だったらしい。

 逆転完全勝利に満足していると、土下座の姿勢はそのままに天崎は顔だけをあげて、こっちを恨めしそうに睨んでくる。

 

「うう……この卑怯者! ていうか、女子にチクって助けてもらうなんて男として恥ずかしくないの!?」

「さっきも言ったが、俺はヘタレだからなぁ? まーったく恥ずかしくないね! むしろ清々しい気分だ! さぁて、チクられるのが嫌なら、まずはさっきの映像を消しもらおうか?」

「最低! 脅して無理やり言うことをきかせようとするなんて!」

「その台詞、そっくりそのままお前に返してやる。というか、すぐ土下座するけど、そっちこそ恥とかプライドとかないの?」

「あるわけないじゃん! むしろこんなことで許されるなら、いくらでもするよ!」

「……」

「無言で憐れなものを見るような目はやめてよ! 咄嗟に土下座しちゃうくらいお姉ちゃんにチクるのは反則技なの! それくらい洒落にならないことなの!」


 咄嗟に土下座するくらいって……天崎先輩ってそんな恐いのか? あの人が怒ってるとこ見たことないし、恐そうにも見えないけど。


「とにかく! 高原くんがお姉ちゃんにチクるのをやめてくれるなら土下座でも何でもするよ! ちょっとだけならエッチな命令でもいいよ! だから勘弁してくださいお願いします!」


 エッチな命令と言われて、思わず視線が天崎の胸に行ってしまったのは許して欲しい。普通、土下座した時に自分の胸が膝に乗るとかある!? 必死で見ないようにしていたのに、何てこと言うんだこいつ! 俺みたいな彼女いない歴=年齢のヘタレ男子には刺激が強すぎるんだよ! 


「だ、だだだ誰がそんな命令するか! さっきも言ったけど、映像を消して、こんなことをした説明をしてくれたらそれでいいから!」

「やだ!!」

「何でだよ!?」

「だって、そんなことしたら高原くんが生徒会に入ってくれなくなるもん!」

「もん! じゃねえよ! どんだけ俺を生徒会に入れたいんだ!」

「わたしの人生がかかってるの!」

「本当にどういうことだよ!?」


 何がどうなったら、俺が生徒会に入るのと天崎の人生が関係してくるのか。頼むからちゃんと説明してくれ。いや、マジで!


「だいたい、何で俺なんだよ! 天崎が頼めば、喜んで役員になってくれる人なんて腐るほどいるだろ!」

「高原くんじゃないとだめなの!」

「はぁ!?」


 いよいよもって、本当にわけがわからなくなる。男女問わず人気がある彼女なら、一声かければ、俺なんかよりはるかに優秀な役員をダース単位で揃えられるはずだ。面識のない俺にこだわる理由は一切ない。

 …………ダメだ、まったくわからん。いったん整理してみよう。

 仮に、天崎の言ってることが本当だとすれば、他の生徒ではダメなら、俺でないといけない理由があるはずだ。かつ、それは天崎の人生に関係するほど重い事情があること……うーん、わからん。俺を選ぶメリットなんてせいぜい……せいぜい……やばい、思いつかなさすぎて辛くなってきた…………………あ、なるほど、そういうことか!

 全てが完全に繋がった。まったく、そういうことなら、こんな回りくどいことしないで直接言ってくれればいいのに。

 学生にとって人生に関係するほど大事なこと、それは恋愛! 短い青春時代に素敵な恋をしたいのは当然だ! それとこの状況から導き出される答えはただ一つ!


 間違いない。天崎は竜也のことが好きなんだな!


 俺は竜也の友達だ。さらに、今までの経験上、女子が積極的に俺と関わってくるのは竜也と仲良くなりたいから、それ以外に理由はない。ないったらない(断定)。自分で言ってて悲しくなってくるけど!

 副会長に俺を指名したのは、竜也の友達である俺と関係性を作り、そこから徐々に外堀を埋めていって竜也との距離を詰めていこうって考えだろう。

 わかってみたら簡単な話だ。恋のためにそこまでやるかとは思うけど。恋は人を変えるって言うのは本当らしい。しかも、人生云々言うくらいだから、天崎は竜也との結婚まで考えていると見た。重い! あまりにも重いぞ天崎! それくらい真剣なんだろうけど! 

 うーん、恋は人を暴走させるんだなぁ……また一つ賢くなった。というか竜也のやつモテすぎィ! 伏見さんに天崎って……学校で人気に女子トップ3のうち2人に惚れられてるとか、俺の友達すごすぎるだろ。

 まあ、とりあえずここまでわかったら、あとは楽だ。竜也との恋愛に協力する約束をすれば、わざわざ俺を生徒会に入れる必要もないだろうし、すんなり解放されるだろう。彼女と同じく竜也のことが好きな伏見さんには悪いが、副会長とかマジで勘弁なので許していただきたい。


「天崎、お前の気持ちはよくわかった。だから、もう土下座しなくていいぞ」

「え、本当に! じゃあ副会長になってくれるの!?」

「いや、ならないけど?」

「全然わかってないじゃん!」

「まあ落ち着け。副会長にはならないけど、天崎の目的に協力はするって言ってるんだよ。俺はお前の目的を知ってる」

「え……」


 一瞬、驚いた顔になる天崎。

 まさか自分の恋心がバレているとは思わなかったんだろう。甘いな、俺にはまるっと全部お見通しだ。

 不敵に笑ってやると、天崎は何かを諦めたような表情で、呆れたようにため息をついた。


「嘘はよくないよ高原くん」

「嘘じゃない。天崎の目的には恋愛が関係してる。違うか?」


 天崎の表情が一変、土下座をやめたかと思うと、焦った表情で勢いよく身を乗り出してきた。やっぱり、天崎のリアクションを見る限り、俺の予想は当たっていたらしい。


「な、なんで!? う、嘘だよ、高原くんが知ってるわけない! あ、もしかして、お姉ちゃんから聞いたとか!?」

「いや、さっきからお前を見てたらわかった」

「ぜっっっっったいに嘘!! むしろそれでわかってたら怖すぎるよ!」

「まあ、天崎と同じ目的を持つ子は何人も見てきたからな。経験ってやつだ」

「わたしみたいな子が、そんなごろごろいるわけないでしょ! やっぱり嘘じゃん!」

「嘘じゃないって。竜也が好きな女子なんて腐るほどいるし、別に竜也のことが好きなのは、恥ずかしいことでもなんでもないだろ」

「ほんとに何言ってるの!? 別に、ええと、たしか、五位堂くん? だっけ? 高原くんの友達の。彼にそういう気持ちは一切ないよ! 高原くんには悪いけど、むしろ苦手な部類! あんなリア充とは相容れない!」

「お、照れ隠しか?」

「違うから本当にやめて」

「お、おう。すまんかった」


 天崎の真顔があまりにも怖すぎたので、素直に謝ってしまう。この感じは本当のことを言ってるっぽい。この女子特有の冷めた目は、ガチ中のガチだろう。

 しかし、こうなると話が振り出しに戻ってしまう。竜也が関係ないなら、どうして俺にこだわるのか。まったくわからん。

 悩んでいると、天崎は咳払いをすると、ビシッとこちらを指差してくる。


「とにかく! 高原くんが生徒会に入ってくれなかったら、わたしの人生はお先真っ暗になっちゃうの! も、もしそうなったら責任とってくれるの!?」

「いやだから、何でそうなるのかを説明をだな……」

「それができたら苦労しないんだってば! 言ったって絶対信じてくれないし! 絶対に引かれるもん!」

「わかったわかった。どんな頭のおかしい理由でも信じるし引かないから、とりあえず言うだけ言ってみてくれ。さっきから話が進まなさすぎる」

「……本当に引かない?」

「引かない引かない」

「……わたしのこと信じてくれる?」

「信じる信じる」

「……副会長になってくれる?」

「な……らない!」

「ちっ」

「おいこら」


 舌打ちして恨めしそうに見つめてくる天崎。こいつ、この期に及んでまだやるか。まだ、ワンタップで天崎先輩に繋がる状態にしてあるスマホを、印籠のように突きつけてやる。


「次、余計なことしようとしたら、問答無用でお前のお姉ちゃんに連絡いれるからな」

「はい、すみませんでした。粛々とお伝えさせていただきます」

「わかってるなら、最初からそうしろーー!?」


 天崎は一度深々と頭を下げると、ゆっくりと顔を上げる。その顔は真剣そのものだった。

 真相を知ることができる、ミステリー小説やドラマで言えば山場のシーン。ようやくそこに辿り着いたというのに、俺の意識はある一点に、完全に引き寄せられていた。


「わたしがこんなことをした理由なんだけどね……うん、きっと信じてもらえないだろうし、わたしが高原くんの立場なら絶対信じないし二度と近寄らないようすると思うけど、今から言うことは本当に本当のことで……あー、うん、その、つまり……あ〜もう! はっきり言っちゃうからね! さっき、引かないし信じるって言ったのちゃんと聞いたし、きっちり録音してあるからね! 嘘ついたら責任取ってもらうから!」


 天崎は大きく息を吸い、まるで、事件の犯人が自らの罪を告白するかのように、真剣に、思い切ったように、はっきり言った。


「全部、うちの神社の神さまがそうしろって言ったの!」


 普通なら信じられないような理由。頭がおかしいと思われて引かれてしまいそうな理由。そう考えるのが普通だし、実際、普通の状況だったら、天崎には悪いが、信じられないしめちゃくちゃ引いているだろう。

 しかし、しかしである。今、俺は、天崎の言ってることを信じざるを得ない気持ちになっていた。というか混乱していた。何故か。

 緊張した様子で、ぎゅっと自分の服を握って、少し顔を俯かせて不安そうに目をつぶっている天崎が、とてつもなく可愛いが、今はそこはどうでもいい。問題は天崎のその上にある。

 天崎の頭上、信じられないことにそこにはーー


 和服姿の幼女が、天崎の頭上にふわふわと浮いているのだ。


 そもそも、さっき天崎が頭を下げた瞬間である。天井から突然、音もなく生足が生えたかと思ったら、目の前の幼女が天井を通り抜けるように降りてきたわけである。わけがわからないどころの騒ぎじゃない。

 夢でもみてるのか、それかこっちの頭がおかしくなったのかと思ったし、なんなら現在進行形でそんな不安に襲われている。和服幼女の幻覚見るとか色々とヤバすぎるだろ。

 その原因になっている問題の幼女は、可愛らしい笑顔でこっちを見ており、両手でプラカードのようなものを持っている。そしてそこには、これまた可愛らしい丸文字でこう書かれていた。


『やっほ〜神さまだよ〜よろしくね〜』


 この日、俺は生まれて初めて、神さまと呼ばれる生物? に出会ったのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。

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