第四十四話 相変わらずの天崎ムーブ
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「はい注目~ではでは~ゴールデンウィーク明けの生徒会、一発目のお仕事は~……これっ!」
「わーぱちぱちー」
バンッ! と天崎が力強く叩いたホワイトボードには「球技大会!」と書かれていた。
いつも使っている椅子に座り、天崎のノリに合わせて軽く拍手をすると、天崎はご満悦な様子で話し始める。
「月末にある球技大会の競技を決めるよ~」
「そういやこの前、今年の行事を確認した時にもそんな感じのこと書いてたな。球技大会の競技って毎年、生徒会が決めてたのか」
「そうらしいよ? わざわざ生徒会が毎年毎年、考えてるんだって。もう面倒だから今年からはみんな仲良くドッジボールにしない?」
「それはそれで楽しそうだけどそれじゃただのドッジボール大会だろ。あとせめて面倒くさいって本音は隠せよ」
「だって正直、面倒だよ? 各学年各クラスの生徒全員が少なくとも一つの競技に出られるように何個も競技を決めないといけないし、なおかつ全部の競技の試合がちゃんと一日で終わるように、競技ごとにルールとか変えないとダメだからね? しかも運動場や体育館のスペースも限られてるから、どの競技をどういう順番で同時に何試合したらいいのか、それぞれの競技が一試合どれくらいの時間で終わればいいのか、そういう諸々もことぜ~んぶ考えて一日のスケジュールを決めないといけないの。今言ったことを全部、生徒会だけでやるんだよ? わかる? めっちゃ面倒くさいと思わない?」
「お、おぅ……球技大会ってそんなに色々決めることあるのかよ……」
まさかそんなに細かいことを考える必要があったなんて、ただの参加者だった時は想像もできなかった。
天崎じゃないけど、これ割と面倒くさいというか、けっこう大変なんじゃないか?
そんな気持ちが顔に出てしまったのだろうか、天崎がにやにやしながら悪魔みたいな誘惑をささやいてくる。
「でしょ? だからさ、今年はドッジボールだけにしない? 人数の調整もしやすいし一試合の時間もそんなにかからない、運動場でも体育館でもボールさえあれば問題なくできる上にルールもシンプル、誰しも一度は遊んだことがあるメジャーな競技だから楽しみやすくて盛り上がりやすい、ほらこうしてみると利点しかないよ? ね?」
「や、やめろ! 変な理論武装でドッジボールを推してくるな! 色々言ってるけど、ドッジボールにしたい一番の理由はお前が面倒くさいからだろうが! いくらなんでも、決めることが多くて面倒くさいからって、そんな理由で球技大会をドッジボール大会にするのはどうかと思うぞ俺は!?」
「あはは、だよねー。まあ軽い冗談だから。いくらわたしが面倒くさがりでも、生徒会活動はちゃんとするよ~」
「本当に冗談か……?」
あっけらかんと笑っていたが、ドッジボールの良い所を説明してる時、あいつの目は間違いなく本気だった。
もし俺が、よしじゃあ今年の球技大会はドッジボール大会にしよう! って賛成してたら躊躇いなくドッジボール一択になってた気がするぞ……。
「もう、高原くんは疑り深いなぁ。さすがに本気でそんなこと言うわけないでしょ。その証拠に、はい」
そんな疑いの目で見ていると、天崎は自分の鞄からホチキスで綴じられた紙の束を取り出すと、長机の上に置いた。
「仮だけど今年の球技大会の予定を作ってみたから確認よろしく~」
「は!?」
さらっとそんなことを言ってのけた天崎に慌てて紙を手に取って確認する。
何枚にもわたって開催する予定の競技とそれぞれの人数、おおよその試合時間などが箇条書きでわかりやすく書かれており、最後には当日のタイムスケジュールがグラフで作られていた。
仮とか言ってるけどこれめっちゃきっちり作られてない? ていうかもうこれ完璧に出来上がってるだろ。いや、さっきチョコバーで機嫌を直していたちょろい姿とのギャップがすごいわ。
そんな、たまに見え隠れする天崎のハイスペックさに改めて驚いている俺を他所に、当の本人は、どや顔で自信ありげに胸を張っている。
「どう? 本気でドッジボール大会を開催しようとしてたらこんなの作ってこないでしょ」
「お、おう、そりゃその通りだろうけど……いやお前すごいな。こんなのいつ作ったんだ? もしかしてゴールデンウィーク中か?」
「あはは、高原くんってば、わたしが休みの日にわざわざ生徒会の仕事なんてすると思う? 作ったのはゴールデンウィークに入る前だよ。面倒くさいなーだるいなーゲームしたいなーって思いながら、ぱぱっとやっちゃった」
「ぱぱっとて。それでこんなの作れるとか、やっぱり天崎ってスペック高いよな」
「そう? 褒めてくれるのは嬉しいけどそんなすごいことじゃないよ? 競技もタイムテーブルも去年の球技大会のやつをベースにして、ちょっといじっただけだし。褒めるなら去年の球技大会を企画したお姉ちゃんの方だよ。いやぁ優秀な姉を持つとこういう時は楽でいいよね~」
「いや先輩もすごいのかもしれないけど、天崎が優秀なのも間違いないだろ。俺じゃ絶対にこれと同じものとか作れる気がしないわ」
「も、もう、そんなわたしのこと褒めても何も出ないんだからね? これくらいふつーだよふつー」
とかなんとか言いながら顔がにやけている天崎だったが、ぺちぺちと軽く自分の頬を両手で叩いたかと思うと、気を取り直すように咳払いをする。
「こほん――じゃあ高原くんも資料を確認してくれたことだし、気を取り直して球技大会の競技を決めよっか」
「え、まだ競技で決めるようなことあるか? ざっと見た感じだと、天崎が作ったこの資料の中で競技とかちゃんと決まってたと思うんだけど」
「もう高原くんってばちゃんと確認してよ~。ほら、最後のページのタイムスケジュールのここ、仮って書いてるでしょ。他の競技は去年と同じでいいと思うけど、これだけはちゃんと考えないといけないからね。はぁ……うちの学校って何でこういう面倒くさいことを続けてるのかな――」
天崎がいつもの調子で話しているが、途中から全く頭に入ってこなくなる。
椅子に座っている俺と立っている天崎の身長差だが、いくら天崎の身長が低いからといっても座っている俺より小さいわけではない。
そんな身長差がある状況で、何故か俺の後ろに立った天崎が、そこから前かがみになりながら手を伸ばして、俺が持ってる紙をめくって説明を始めたらどうなるか。
さっきからずっと背中に当たってるどころか、もう完全に乗ってるんだよ! 想像以上に重くて大きくて柔らかいなにかが!!
こいつが何を考えてこんなことをしてるのかはわからないが、声の感じや話し方はいつも通りなので、おそらく俺をからかうとかそういった意図ではないのだろう。
まだあまり付き合いは長くないが、多分こいつは、自分が仲が良いと思ってる相手には、距離感が一気に近くなるタイプだ。しかも、それだけならまだしも自分が絶対に異性として意識されない確信を持ってるのが、非常にタチが悪い。
そうでもないとこんな、オタサーの姫でももうちょっと慎みがあるんじゃない? って言いたくなるようなこと、普通は出来ないだろう。ゴールデンウィーク後も、自分に無頓着かつ無自覚すぎる天崎は健在らしかった。
いやむしろ、出会った時よりも仲良くなってるから、どんどん距離感が近くなっている分、悪化してるって言ってもいいんじゃないか?
少なくともゴールデンウィーク前までは、こんながっつり接触してきたことはなかったはずだし。
もう引かれてもいいから俺が天崎を意識してるって伝えるか? いやでもやっぱりそれで気まずくなったらしんどいしなぁ……かと言って、このまま放置してこれからもこういう無自覚な天崎ムーブを繰り返されても困るし……ああもう! なんでこんな面倒くさいことになってんだ!!
「それで今年の特別競技なんだけど――ってさっきからずっと黙ってるけどちゃんと聞いてる? もしかして寝ちゃってたりしないよね? もしも~し、起きてますか~」
そんな俺の気持ちや葛藤なんて欠片も理解してないだろう天崎は、少し不満そうに、こんこん、と俺の頭を叩いてくるのだった。
なお俺の心臓に悪いこの体勢は、天崎が説明をひとしきり終えるまで続いた。
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