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第四十一話 ゴールデンウィーク 幼馴染アイドル編④

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 俺とゆーちゃんが喫茶店を出た時には、すっかり夕方になっていた。


 ゆーちゃんと楽しく思い出話をしていたら、いつの間にかそんな時間である。楽しい時間が過ぎるのは早いというのは本当らしい。


 ゆーちゃんはまだまだ話し足りない様子だったし俺も同じ気持ちだったけど、あまり遅くなってしまうとゆーちゃんの帰りが心配だし、今日は俺が夕食当番なのでそろそろ家に帰って夕飯の準備をしないといけなかったから、名残惜しいけど少し早めに帰ることになった。


 オネエマッチョの店長さんに見送られて、ゆーちゃんと二人、並んで喫茶店を後にする。


 夕方の閑静な住宅街には人気がなく、茜色に染まったその風景に、無性に寂しさを感じた。

 ゆーちゃんと二人、並んで話しながら駅前に向かって歩き始める。


「いや~……それにしてもよくしゃべったな~」

「だね~。でも私、まだまだ空ちゃんに話したいことも、聞きたいこともたくさんあるよ。だからその、空ちゃんさえよかったら、また今日みたいにおしゃべりしない?」

「いいな! しようしよう! 今度は竜也も呼んで三人で話そうぜ」

「えー……私は別に空ちゃんと二人でもいいんだけど。またドタキャンされても困っちゃうし」

「ははは、めっちゃ今日のこと根に持ってるな。気持ちはわかるけど、竜也だってしたくてドタキャンしたわけじゃないだろうし、そんな意地悪言わないで許してやったらどうだ?」

「空ちゃんがそう言うなら許してあげてもいいけど……でも後でちゃんと文句は言っておくね」 

「おう、言ってやれ言ってやれ。むしろ俺の分も頼むわ」


「任せて」と自信ありげな顔で力こぶを作って言うゆーちゃん。

 そんな姿に思わず頬が緩んでしまう。


 今までのゆーちゃんから見ることができなかった、とても自然で親しい友だちにするみたいな雰囲気に、本当に今日は一緒に遊びに来て良かったと思う。


 もし竜也がドタキャンせずに三人で遊んでたり、今日、さっきの喫茶店に行かなかったりしてたら、今、こんな風になってただろうか? 


 いや、きっとなってたような気がする。別に俺とゆーちゃんは、仲が悪いとかそういうわけでもなかったし。


 多分だけど俺たちはお互いに変な緊張とか遠慮とかがあっただけで、何かしらのタイミングやきっかけ一つで、こんな風に仲良く話せるようになってただろう。


 ……やっべ、今なんかちょっと恥ずかしくなるような感じのこと考えてたな俺。いつの間に自然とこんなこと考えるようになったんだ。


「そ、そういえば、ゆーちゃんは何であんなオシャレな喫茶店のこと知ってたんだ?」


 なんだか少しクサい感じのことを考えてしまった妙な恥ずかしさを振り払うように、ゆーちゃんに話題を振った。


 今が夕方でよかった。これくらいの恥ずかしさで顔に出てることはないと思うけど、もし顔が赤くなってたら夕日のせいにできるからな。

 

「こんな住宅街の奥の方でひっそりと経営してる喫茶店なんて、何かきっかけがないと知ることはないと思うんだけど。もしかしてあのお店って俺が知らないだけでネットで有名とかだったり?」

「うーん、むしろ知名度だったら全然ないと思うよ。あのお店、ほとんど店長の趣味でやってるみたいでネットで宣伝とかしてないらしいし。店長が伯父さんじゃなかったら、きっと私も知らなかったんじゃないかな」

「え!? あの店長さんってゆーちゃんの伯父さんだったの!?」

「うん。だから今日はあの喫茶店に案内したんだよ? 空ちゃんは私のマネージャーさんか! って言いたくなるくらい私がアイドルだってバレること気にしてたから、私がアイドルだって知ってる伯父さんの喫茶店だったら空ちゃんも安心すると思って。あれ? もしかしてこれ言ってなかったっけ?」

「聞いてない聞いてない! あの喫茶店がゆーちゃんのおすすめのお店だってことしか聞いてなかったって!」

「ご、ごめんね、竜也が急に来れなくなって緊張しちゃってたせいかな……なんだか普通に伝えたつもりになってたかも」

「な、なるほど。つまりドタキャンした竜也のせいだってことだな。よし、この分も竜也の文句に上乗せして言っておいてくれ」

「うん、任せておいて!」

「ゆーちゃんゆーちゃん、冗談だから。任せておいてじゃなくて、そこは、竜也は関係ないでしょ、とかつっこむところだぞ」

「そうなの?」


 キョトンとした顔のゆーちゃんに、記憶の中にある昔のゆーちゃんが重なる。


 そういえば、ゆーちゃんってあんまり冗談が通じない子だったな。しかも頑固なところもあったから、変な冗談を言ったり勘違いさせたりしたら、誤解を解くのが大変だったっけ。


「そうだよ。いくら幼馴染の竜也相手でもそんな理不尽なこと言わないって。でも、そういうちょっとした冗談を真に受けるところも昔から変わってないな」

「そ、そう? なんだか小さい頃から成長してないって言われてるみたいで恥ずかしいんだけど……」

「いやそういうネガティブな意味では言ってないぞ? むしろ俺的には昔と変わってないところを見つけられると安心するというか、ああ、あのアイドルの伏見さんって本当に幼馴染のゆーちゃんなんだなぁって実感するんだって」

「そういえば喫茶店でもそんな感じのこと言ってたね。でもそっか……じ、じゃあこうしたら、そ、空ちゃんはもっと安心と実感してくれる?」

「ほわっ!?」


 そう言うとゆーちゃんが突然、ぎゅっと俺の左腕に捕まってきた。

 

「ちょっと待っていきなり何やってんのゆーちゃん!?」  

「む、昔はよくこうやってたから、こ、これでもっと安心と実感してくれるかなぁって」

「そういえばよくひっつかれてましたね! 今めっちゃ思い出したわ!」

「で、でしょ? それでその、ど、どうかな? あ、安心した? じ、実感した?」

「十分すぎるくらい安心も実感もしてるよ!」


 まあ実際は、こんな恋人みたいに左腕を抱きしめてる体勢はものすごくドキドキして安心なんてまったくできてないし、実感してるのはゆーちゃんの柔らかい体の感触とあたたかい体温だけどな! でも服が違うだけで、こんなにもくっつかれた時の感触って変わるのか!


 この前、屋上で引っ付かれた時のことを思い出してしまい、無意識にその時と比較してしまう。この前は制服とブレザーだったが、今日のゆーちゃんの服はそれよりも確実に薄着だ。そのおかげで体の感触がよりはっきり――ってばか! 気持ち悪い分析してるんじゃないよ!! 


 やばいやばいやばい! くっつかれてる恥ずかしさとかゆーちゃんの女の子らしい感触とかで俺のメンタルがやばいのはもちろんだけど、それ以上に今こうしてる場所が一番やばい! この前ひっついてきたのは俺と竜也とゆーちゃんしかいない屋上だったけど、ここ完全にお外! いくら人気のない住宅街だからって誰かに見られたら一発でアウト! 一刻も早くゆーちゃんに腕を放してもらわないと!!


「よしゆーちゃん! もうゆーちゃんの気持ちはありがたく受け取ったし安心も実感もこれでもかってくらい感じたしたから、とりあえず今すぐに俺の腕を放そうか!!」

「……は、放さないとダメ?」 」

「ダメに決まってるだろ! この状況を誰かに見られたらどうするんだ!?」

「ま、前にも言ったけどうちの会社は恋愛OKって公言してるから、別に見られても問題ないよ? そ、それにこの前屋上でくっついた時、好きにしていいって空ちゃん言ってたよね?」

「いやいくら公言しててもアイドルなんだから絶対に問題になるだろ!? もっとアイドルとしての自覚持って! あと好きにしていいっていうのはあの時に限った話だから!」

「むぅ………………!」


 夕日のせいだろうか少し顔を赤くしたゆーちゃんが、片方の頬を膨らませてめちゃくちゃ不満そうにじーっと見てくる。心なしか左腕を掴まれる力が強くなった気がした。


 そういえば昔のゆーちゃんも自分が納得できないことがあった時なんかに、よくこんな顔してたな!


 そして同時に思い出す。この顔をしたゆーちゃんはとんでもなく頑固で、言うことを聞いてもらうのにものすごく苦労したことを。

 そして残念なことにそんなところは今のゆーちゃんも変わらなかった。


 この後、いつ誰かに見られるか気が気じゃない俺の必死の説得するが中々応じなかったゆーちゃん。

 最終的に、誰もいない場所だったら好きな時に俺の左腕を掴んでもいいという、謎の条件を約束することでようやく俺の左腕は解放され、ゆーちゃんのスキャンダルの危機は無事に去ったのだった。


 いや、ほんと誰にも見られてなくてよかった……そういう頑固なところは変わっててもいいんだぞゆーちゃんよ……ていうか今も昔もなんでゆーちゃんはそんなに俺の左腕を掴みたいんだ? あんな謎の条件を自分から言い出してまで掴むほどの価値はないはずだぞ……。


 何故か謎の条件と引き換えに左腕を解放してから駅前で別れるまで終始ご機嫌だったゆーちゃんの態度に、思わず自分の左腕に何かあるのか割と真剣に考えてしまう俺だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。

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