第四十話 ゴールデンウィーク 幼馴染アイドル編③
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「そ、そういえば昨日、テレビでゆーちゃんのライブ見たよ」
さっきの店長さんの発言がまだ尾を引いてるのか、注文を終えてから恥ずかしそうに少し俯いてずっと黙ってしまったゆーちゃんと、そんな彼女にどうしていいかわからなかった俺。
このままだとまた駅前の時みたいな気まずい雰囲気になりそうな気がして、とにかく何か話さないとと焦った俺の口から出たのは、そんな言葉だった。
いやとっさとは言え、もうちょっと返事のしやすい話題あっただろ俺! 無難に天気の話題とか、ドタキャンした竜也の話とか、それこそ昔の話とかいくらでも! こんなん言われても、ありがとうございます、の一言で会話が終わるだろ! もうちょっと広げやすい会話のボールを投げろよ!
自分のポンコツ具合に、普段からもっとコミュニケーション能力を鍛えておけばよかったと後悔する。
「そ、そうなんだ……あ、ありがと……えっと、その、ど、どうだった?」
そんな会話のキャッチボールが下手糞すぎる俺のボールを受け取ったゆーちゃんは、まだ恥ずかしさが残ってる赤い顔のまま、上手いことボールを返してくれる。
ありがとうゆーちゃん! 頑張ってこのボールをつなげないと!
「ど、どうだったって、そりゃ、その、めっちゃアイドルだなぁって思った」
「あ、アイドルだなぁって……うんまあ、私、アイドルだからね。ほ、他には?」
「え、ほ、他? そ、そうだな……ゆーちゃんのライブはテレビで何度か見たことあるけど、やっぱり歌もダンスも上手いなぁって思った。それに笑顔が素敵ですごくキラキラしてた」
「ほ、褒めすぎだよ! わ、私なんてそんな風に言ってもらえるほどすごくないから!」
「い、いやいやいや! それくらいすごいって! その証拠に、ああ、明日はこんなキラキラした可愛い子と遊びに行くのか、って思ってめっちゃ緊張したもん俺!」
「うぅ……ほ、ほんとにすごくなんてないしキラキラもしてないのに……で、でも、空ちゃんがそんな風に思ってくれたのは嬉しいな……えへへ」
顔をさらに赤くして照れ臭そうに笑うゆーちゃん。
いやだからそういうところだってゆーちゃん! その照れた顔とか可愛すぎるだろ! ていうかそんなに照れて恥ずかしそうにされると、なんかこっちまで恥ずかしくなってくるんだけど!? なんか俺がめっちゃ恥ずかしいこと言ったみたいになるから!
……いや冷静に考えたら普通に恥ずかしいこと言ってたわ!? 本人を目の前にして笑顔が素敵とかキラキラとか可愛いとかよく言えたな! 気持ち悪いにもほどがあるだろ俺!! や、やばい、なんか俺も恥ずかしくなってきたぞ……か、顔が熱くなってきた!
いくら気まずい雰囲気にしたくないからって、焦って余計なことをしゃべりすぎた。
「あらあら~ちょっと目を放したら、二人してお顔を真っ赤にしちゃって~」
俺のやらかしのせいで、結果的に俺もゆーちゃんも顔を赤くして黙り込んでしまい、別の意味で気まずい感じになってしまいそうになった矢先にまさかの救世主。
注文していた飲み物を運んできた店長さんがいい感じに入ってきてくれた。
「二人とも青春ね~甘酸っぱいわね~アツアツね~でもあんまり見せつけられちゃうと、私も私の筋肉ちゃんも恥ずかしくなっちゃうから、いったんそれ飲んでクールダウンしてね~」
救世主かと思ったら悪魔だった。
店長さんは俺とゆーちゃんの前にそれぞれが頼んだ飲み物を置くと、とんでもないいじり方をしてきた。
「は!? い、いや、別に俺とゆーちゃんはアツアツとかそんな関係じゃないですけど!?」
「うんうんわかってるわかってる。結月ちゃんはアイドルだしはっきりしたことは言えないわよね~」
「わかってないじゃないですか! はっきりもなにも、俺とゆーちゃんの間には何もないんですけど!? ほら、ゆーちゃんからも何とか言ってくれ! 間違いなくとんでもない誤解をしてるぞこの人!」
「え、あ、そ、そうだよ店長! 前にも言ったけど空ちゃんと私は幼馴染! わ、私たち、まだそんな関係じゃないから!! 」
「知ってるわよ~うふふ~ごめんなさいね。あまりにも二人が可愛かったからついからかっちゃった。うんうん、まだ、そんな関係じゃないのよね~ごゆっくり~」
口元に手を当てたまま、さささーっとカウンターまで戻っていく店長さん。相変わらずにやにやしながら俺たちを見ている。
こ、この店長さん面倒くせえ! ついからかっちゃったとか言ってたけど、もうちょっとやり方があるだろ! せっかく人気のいる場所を避けたのにとんでもない勘違いをされてしまった! ってめちゃくちゃ焦ったんだぞこっちは!
というか、なんだか最近、俺の周りってこういう感じのいじり方してくる人が増えてきたような気がする。人との出会いは縁とかって聞いたことあるけど、もしかして俺の縁の問題って、ああいう面倒くさい人と出会いやすいとかじゃないだろうな……。
「えっと……そ、それじゃあ飲み物も来たし、さっそくいただいちゃおうかな」
そんな地味に嫌な想像をしつつ、駅前からずっと緊張しっぱなしだったことと店長さんへのつっこみのせいで、すっかり喉が乾いてしまっているので、とりあえず注文した飲み物をいただくことにした。
頼んだのは店長さんがおすすめだと言っていたコーヒー。普段はコーヒーなんて飲まないが、おすすめと言われたので、他の飲み物もあるのについ選んでしまった。ただメニューにはコーヒー豆の種類がいくつも書かれており、どれがどんな味なのか全くわからなかったので、ゆーちゃんが注文したのと同じブレンドのアイスコーヒーにしてみた。
グラスを手に取ると、からん、と氷が涼しげな音を立てる。ストローに口をつけて一口飲んでみた。
おお……コーヒーだしまあ普通に苦い。でも苦いんだけど、なんだろう、よくわからないけどコク? みたいなのがあって後味がさっぱりしてるような気がする。
コーヒーに関してずぶの素人なので、この感想があってるのかはわからないけど、そんな風に感じた。
「ど、どうかな空ちゃん? あんまりコーヒー飲まないって言ってたけど……」
「いや、初めてちゃんとしたお店でコーヒー飲んだけど、うん、この味好きかも」
「よ、よかった~」
「あはは、なんでゆーちゃんがそんなほっとしてるんだよ」
俺の感想を聞いて心の底から安心するゆーちゃんがなんだかおかしくて、思わず笑ってしまった。
「だ、だって私がおすすめって言って一緒に来てもらったお店だし、注文したのも私と同じやつだし、その、なんだか気になっちゃって……でも空ちゃんのお口にあったみたいでよかった。私もいただいちゃお」
そう言うとゆーちゃんはストローに口を付けて美味しそうにアイスコーヒーを飲み始めた。
どうやら俺と同じくゆーちゃんもかなり喉が渇いていたらしい、一気にグラスの半分ほどをストローで飲むと、ふぅ、と落ち着いたように一息つく。
そんなゆーちゃんの姿を見ていると、ふと昔のことを思い出した。
「? どうしたの空ちゃん? そんなじっと見られると、その、恥ずかしいよ?」
「あ、ごめんごめん。そういえば昔も、今みたいにお菓子とかジュースとかすごい美味しそうに食べてたなぁって思い出してさ」
「ええっ、昔の私ってそんな感じだったの!? ぜ、全然、意識してなかった……うぅ、しかもそんなところが昔と変わらないなんて、なんだか恥ずかしい……」
「むしろ俺は昔と同じところが見つかって、ほっとしたけどな。正直、俺の中のゆーちゃんのイメージって、幼馴染のゆーちゃんっていうより、同じクラスにいるアイドルの伏見さんの方が強かったから。あ、本当に伏見さんってゆーちゃんなんだ、って今ようやく実感したかもしれない」
「ええ、何それ!? あ、だから私が幼馴染のゆーちゃんだって伝えた後も、なんか他人行儀な態度だったの? 昔みたいに接して欲しいってちゃんと言ったのに……」
「いやいやいやそんな恨みがましく見られても普通に無理だって! 同じクラスの人気アイドルから、実は私、貴方の幼馴染でしたー、なんて衝撃的なこと言われて、いきなり昔と同じ感じでいけるわけないだろ!」
「う……そ、そうだとしても昔みたいにして欲しかったんだもん!」
「もんじゃねえよ! ゆーちゃんってけっこう無茶なこと言うところあるよな!」
まるで今日までの気まずかった感じが嘘のように、急に歯車が上手くかみ合ったようにお互いに遠慮しない感じで話せている俺とゆーちゃん。
さっき店長が言った通り、冷たい飲み物を飲んでクールダウンしたおかげなのか、それとも俺がようやくゆーちゃんのことを幼馴染だと実感できたからか、はたまた何かしら別の理由か、不思議と緊張が解けており、まるで昔に戻ったみたいに、ゆーちゃんと自然な感じで話すことができている。
今この瞬間、ようやく俺とゆーちゃんはクラスメイトから幼馴染の関係に戻ることができたような気がした。
「ああそうだ思い出したぞ、昔、竜也と俺が公園で二人で遊んでた時、急にゆーちゃんが来て無茶なこと言い始めたことあったよな――」
「違っ! あ、あれは竜也が悪いんだよ! だって竜也が空ちゃんの――」
この後、まるでせき止められていた川が一気に流れだしたみたいに、俺とゆーちゃんはお互いのアイスコーヒーに手を付ける暇もなく昔話に花を咲かせ続けるのだった。
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