第三十九話 ゴールデンウィーク 幼馴染アイドル編②
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「こ、ここが私がよく行くおすすめの喫茶店だよ」
ゆーちゃんが案内してくれたのは、さっきの駅前から10分ほど歩いた住宅街の中にあるこじんまりとした喫茶店だった。
いわゆる古民家カフェというやつだろうか。住宅街の中でも奥まった方にあり、レトロモダンな雰囲気が漂う外観をしていた。入口のドアは古ぼけた感じの木でできており、「Cafe Garden」と書かれた小さなドアプレートがかけられている。
まさに知る人ぞ知るといった感じの喫茶店だった。
さて、何故俺とゆーちゃんがこんなオシャレな喫茶店に来ているのかといえば、竜也がドタキャンしたのと今日がゴールデンウィークだからという理由に尽きる。
竜也を抜きにした俺とゆーちゃんの二人で遊びに行くことになったのはいいものの、考えないといけない問題があった。
ゆーちゃんは幼馴染である以前に人気アイドルだ。これがただの幼馴染だったら、ショッピングモールだったりボーリングだったりゲーセンだったり、普通に遊べばいいだけなのだけど、いま挙げたような学生にとって鉄板の遊び場は、ゴールデンウィークの今日、めちゃくちゃ混んでるのが簡単に想像できる。
そんな場所に何も考えず遊びに行けば、いくらゆーちゃんが眼鏡と帽子で変装? をしているとはいえ、ゆーちゃんがアイドルだってバレる危険が高い。
もしバレてしまったらさあ大変。しかも男子と二人で遊びに来てたとなったら、大変さの倍率はさらにどん! 俺相手じゃまず、絶対にありえないと思うが、万が一にでも彼氏的な存在だと思われてしまったら、いくらゆーちゃんの会社が恋愛OK的な方針を掲げているからといっても、ゆーちゃんの人気にマイナスのダメージを与えることは間違いない。
そんなことになったらまずいから、もし遊ぶならあんまり人気のないところの方がいいんじゃないだろうか?
みたいなことを駅前でゆーちゃんとあーだこーだ相談した結果、久しぶりに再会したわけだからゆっくりおしゃべりをしようということになり、それだったらおすすめの喫茶店があるとゆーちゃんが案内してくれたのがこの場所だった。
「別にバレてもいいのに……」なんて最後まで不満げな顔をしていたゆーちゃんを納得させるのは少し骨が折れたけど。きみはもっとアイドルの自覚を持ちなさい。
というかあの時の俺! 人気のないところの方がいいって言い方ダメだろ! 女子を人気のないことに誘うとか文字に起こすとヤバすぎる! 違うんだよゆーちゃん! 変なこととか一切考えてなかったから! ただ思った事実をそのまま言葉にしてしまっただけで……ああ、めっちゃ気持ち悪いこと言われたって思われてそう……かといって今更そのことを謝るのもおかしいというか、そういう意識をしてたみたいになりそうだし……。
黒歴史がまた一つできてしまった。きっと今日の夜にでも思い出して死にたくなること受け合いだろう。
それはともかく、ゆーちゃんがゆっくり話ができそうな喫茶店って言ってたけど、まさか住宅街にある古民家カフェだったとは。
たしかにこんな場所にある喫茶店なら、少なくとも俺たちと同世代の学生はいないだろうし、ゆーちゃんがアイドルだってバレる心配もほとんどないだろう。
う~ん、けど古民家カフェとか初めて来たけど雰囲気がすごいな……俺が陰キャだからか、行ったことのない喫茶店ってなんかめちゃくちゃ入りづらいんだよなぁ。こんなオシャレでひっそりとした感じの喫茶店は特に。
きっと利用してるほとんどは常連さんなんだろうなぁ……なんて考えると店に入るだけで謎のハードルの高さを感じてしまう。
ゆーちゃんに紹介されて一緒に来てなかったら、多分、一生ここに来ることはなかっただろう。
「それじゃ入ろっか」
ゆーちゃんが喫茶店のドアを開けると、からんころんとベルの音が鳴る。
自然な感じで中に入るゆーちゃんに続いて、少し緊張しながら店内に足を踏み入れると、ふわっとコーヒーのいい匂いがした。
店内にはカウンター席が少しとテーブル席が三つほど。外観と同じくレトロモダンな内装で、テーブルや椅子、カウンターなどは木製のもので統一されており、不思議なあたたかみがある。店内に流れているゆっくりとした曲調の音楽もマッチして、とても落ち着いた雰囲気が広がっていた。
ただ一点、ものすごく気になることがある。
カウンターの向こう側、めちゃくちゃ顔の濃いムキムキマッチョの男性が立っていた。
年齢は三十代くらいだろうか、普段からどんだけ鍛えてるのか服がぱっつんぱっつんである。いや腕太いな。
オシャレな喫茶店のイメージが、その店員さんのインパクトの凄さに吹っ飛んでしまった。
「いらっしゃいませ~――ってあんらぁ~結月ちゃん」
「こんにちは店長。いつもの席、空いてますか」
「ええ、空いてるから好きに座っちゃっていいわよ~」
「ありがとうございます。じゃあ空ちゃん、奥の席使ってもいいみたいだから行こっか」
「え、あ、お、おう」
ゆーちゃんに先導され、店の一番奥にあるテーブル席にゆーちゃんと向かい合わせで座る。
え、え、なんかゆーちゃん普通に会話してたけど、まさかあの人、オネエっぽいしゃべり方がデフォルトなのか!? てか店長だったの!? こんなオシャレな喫茶店なのになんだあの濃いキャラ!? やばい、めちゃくちゃ気になるんだけど!
「どうしたの空ちゃん? なんだかそわそわしてるけど」
「え!? いや、ものすごく気になることがあるというか、その……そう! 普段、喫茶店とかあんまり入らないから、ちょっと落ち着かないというか、なんか緊張してて!」
「そ、そうなの? そ、空ちゃんが落ち着かないんだったら別のお店に行く? でもここの他に、あんまり人がいなくて二人でゆっくりおしゃべりができるところってあったかな……」
「ちょっと結月ちゃ~ん。たしかに今は結月ちゃんたちしかお客様はいないけど、その言い方だとまるでうちが繁盛してないみたいに聞こえちゃうでしょ~」
「あ、ご、ごめんなさい店長! その、私そういうつもりじゃなくて……」
「冗談よ冗談、ちょっとした軽口なのに相変わらず結月ちゃんは真面目ね~。まあそれはと・も・か・く~……なるほどねぇ~」
おしぼりを持ってきてくれた店長さんだったが、何故かカウンターに戻らずに、まるで値踏みするみたいに俺のことを上から下までじーっくりと見てくる。
え、なになになに!? なんかめちゃくちゃじろじろ見られてるんですけど!
「あ、あの、なんでしょうか……」
「あらやだ私ったら、不躾に見ちゃってごめんなさいね。まさかあの結月ちゃんが男の子と二人で来るなんて思いもしなかったから。しかもその相手が、結月ちゃんがよく話題にしてる、あの空ちゃんみたいだったし、もう私、気になっちゃって気になっちゃって」
「ちょ、ちょちょちょちょちょっと店長!?」
店長さんがにやりと笑い、ゆーちゃんが顔を真っ赤にして慌て始めた。
あの空ちゃんってなに!? ゆーちゃんこの人に俺のことしゃべってんの!?
「ち、ちが、違うからね空ちゃん! わ、わた、私そんなに空ちゃんのことばっかり話したりなんてしてないから!」
「え~してるでしょ~結月ちゃんの口から空ちゃんの話が出ない日の方が珍しいじゃな~い。この前に来てくれた時なんか――」
「わー! わー! 注文が決まったら呼びますからもう店長はお仕事に戻ってください!」
「はいはい。それじゃあお二人ともごゆっくり~。うちはコーヒーがおすすめだから、よかったら頼んでみてちょうだいね~」
そう言うと、店長さんはばちこ~んと俺にウインクをして颯爽とカウンターへ去っていった。
いやもう個性的すぎるというか個性しかないな、あの店長さん。
まあそれはそれとして、ゆーちゃんが俺のことをどんな風に話してたのか、めちゃくちゃ気になるんだが!? だってゆーちゃんものすごく誤魔化そうとしてたし! そもそも俺にそんな話題性はないと思うんだけど……う、考えたくないけど愚痴とか悪口とかじゃないよな。さっきの店長さんとゆーちゃんの会話の感じ的に、そういう悪い意味じゃないような気はするけど……気になる……気になるぞ!
「うぅぅぅ……店長のバカぁ……!」
ただ、赤くなった顔をテーブルに置いてあったメニュー表で隠して、恥ずかしそうにしているゆーちゃんを見て、これはきっと聞いても教えてくれないだろうなと思った。
この後、ゆーちゃんがメニューを解放して、無事に俺たちが注文を済ませるまでに10分ほどの時間がかかり、それまでの間、カウンターにいる店長がとてもにやついた顔で俺たちを見ていたのだった。
いや本当にどんな話したのゆーちゃん!?
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