第三十七話 ゴールデンウィーク 自宅編②
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「「いただきます」」
下着エプロンとかいうヤバい恰好の妹を何とか着替えさせることに成功し、ダイニングテーブルに用意されたいた晩飯を一緒に食べ始める。
今日の献立はさっき妹が言っていたみたいにハンバーグ、それとパスタにサラダにお味噌汁に白ご飯。あとは昨日の夕飯の残りである煮物。
円形の大きなプレート皿には煮込み風のハンバーグと、ナポリタンがこれでもかと盛られており、デミグラスソースのいい匂いとほかほかと湯気が食欲をそそる。うちでハンバーグと言ったらこれだ。
ハンバーグはもちろんのこと美味いが、ソースのついたナポリタンもこれまた美味い。ソースそのもの味が美味いので白ご飯が進むこと進むこと。
テーブルの真ん中には大皿にサラダが盛り付けられており、その横には小皿とドレッシングの容器が数本並んでいた。サラダは自分が食べたいだけ取って好きなものをかけて食べるのがうちのスタイルである。
うちの妹は面倒くさがりなのに、夕食の準備はきっちりやるというか割と手間暇をかけるのが不思議だ。そして普通に料理が美味い。
うちの両親は俺たちが小さい頃から仕事で忙しいことが多く、昔から家事は俺と妹で分担してやっていた。
母さんは仕事から帰ってくるのがたいてい夜遅くだし、親父にいたっては何の仕事をしてるのやら、世界中を飛び回っていて一年に数回顔を合わせればいい方だ。
なので当然、俺も頻繁に料理を作っているのだが、なぜかこの妹に勝てない。地味に料理の腕が負けてるのが悔しかったりする。母さんも料理上手だし何かセンスでもあるんだろうか。ちくしょう今日も美味いじゃねえか……。
ハンバーグの美味さと地味な敗北感を味わっていると、ジャージに着替えた妹がにやにやした目で俺を見ていた。天崎といい、やっぱりぐうたらなやつにとってジャージは定番なんだろうか。
「ねえねえ美味しい? 妹が素手でこねたハンバーグ美味しい?」
「普通に美味いぞ。それと、さっきも言ったけどその言い方やめろ」
「え~でも事実だしな~てか普通に美味いってな~んかリアクションとして面白くないんだけど」
「お前は兄に何を期待してるんだ」
「ん~口からビーム出すとか海の上走るとか?」
「それができるのは特殊なグルメ漫画の世界だけだ」
「だよね~ま、美味しかったんならいいや。でもお兄ちゃん、忠告しておくけど、もし彼女ができた時に、普通に美味い、とか言っちゃダメだよ? あたしは別に気にしないけど、人によったらそれが原因でフラれてもおかしくないからね?」
「マジか、気を付けるわ。まあ? そもそも俺に彼女ができるわけないから気を付ける機会もないんだけどな? はははははは」
「お兄ちゃんって自分がモテないことに自信持ちすぎでしょ。でも安心して? もし一生彼女ができなかったら、あたしがちゃんと面倒見てあげるからね?」
「そんな情けないことになるくらいなら潔く独り身を選ぶわ」
「え~なんで~情けなくても別にいいじゃんか~ねえねえパパ~ちゃんとお世話するからお兄ちゃん飼ってもいいでしょ~」
「ダメ! うちにそんな余裕はありません! 元いた場所に返してきなさい!」
「ぶーぶーお兄ちゃんのケチー! あ、そういえばさっきお母さんか連絡あったけど、やっぱり今日は帰るの遅くなるって」
「今日はっていうか今日もだけどな。けど急な話題の転換にびっくりするわ。会話の脈絡とかないのか」
「だっていま急に、お兄ちゃんに伝えておいて~って言われたの思い出したんだから仕方ないじゃん。でもお母さんも大変だよね~あたし絶対お母さんと同じ仕事はしたくないよ」
「それは俺もそう思う。夜遅いのは当たり前だし、何かあったら休みの日でも関係なく会社に呼び出されてるもんな」
うちの母親は芸能関係の仕事、いわゆるマネージャーをしている。
どんな人のマネジメントをしてるとか詳しいことは知らないけど、昔からとにかく忙しそうに動き回ってるイメージしかない。
夜は遅いし休みは不定期、不意な休日の呼び出しは当たり前、我が母ながら体が心配である。
「だよね~。お母さんの仕事を知ってるせいか、ああいう番組とか見てると、マネージャーさんとか裏方の人は大変なんだろうな~って思って純粋に楽しめなくなっちゃった」
「わかる。特にああいう生放送系だとな」
苦笑いする妹の視線を追いかけてたどり着いたのはリビングにあるテレビ。毎週アーティストが生ライブを披露する音楽番組が流れている。
あそこに出演するアーティストさんは人気のある人たちばかりなので、マネージャーさんもさぞかしお疲れ様だろう。もしそれが複数のグループのマネジメントを引き受けているマネージャーさんだったら、そのしんどさは計り知れない。
なんて裏方の人の苦労を想像して若干暗い気持ちになりそうになったので、あまり妹も興味がなさそうだし別の番組に変えようとリビングの机にあるリモコンを取りに行こうとしたその時だった。
『続いてはラビアンローズの皆さんです!』
司会をしている人気若手女優のそんな言葉が聞こえて来てきた。
映像が切り替わり、ステージに立つ、グループ名の通りバラをモチーフにした綺麗なライブ衣装に身を包んだラビアンローズの三人が映し出される。曲が流れて三人が歌い始めた。人気アイドルの名に恥じない歌声と踊りに思わず目を奪われてしまう。
全員がこれでもかというくらい可愛く魅力的に輝いているが、やっぱり特に目を引かれるのはセンターに立つ子。本名は伏見結月、あだ名はゆーちゃん。まさかあんなきらきらしてるアイドルが幼馴染だなんて、こうして実際にテレビで歌って踊ってる姿を見てもいまだに信じられない。
ていうか明日、俺、このセンターの子と遊びに行く予定なんだけどマジ?
あの日、屋上で約束したときは幼馴染三人で遊ぶくらいの軽い考えをしてたけど、もしかしなくても、これはものすごいイベントなのではないだろうか。
ヤバいなんかめっちゃ緊張してきた……え、明日どんな感じで行けばいいの俺? おしゃれな服とか持ってないし、今まで使ったこともない整髪料とか使った方がいいの? だめだなんか色々考えてめちゃくちゃ不安になってきたぞ……!
「お兄ちゃんさ、そんな食い入るように見ててもパンチラとか絶対起きないと思うよ?」
「は!?」
急に何言ってんだこいつ!?
ライブを見ながら改めてゆーちゃんの凄さを思い知っていると、妹にとんでもない指摘をされる。
慌ててテレビから妹に視線を移すと、それはもういじりがいのあるおもちゃを見つけた時のような、にやにや顔をしていた。
「うんうん、わかってるよ? お兄ちゃん、女の子のパンツめっちゃ好きだもんね? でもね、生放送でもリハとかしてるし、カメラとか立ち位置とかもちゃんと調整してあるから、いくらそうやって頑張っても見えないと思うよ?」
「誰もそんなもん狙ってないわ! あと女子のパンツが嫌いな男子はこの世にいない!」
「あのさお兄ちゃん? そんなはっきり、男子は女の子のパンツが好きだって思春期の妹に言うのは、あたしどうかと思うよ?」
「ぐうの音も出ない正論だけど、先に言い出したのお前じゃねえか!? あと下着エプロンとかとち狂った格好で兄の前に出てくるやつが言う台詞じゃねえ!!」
「へへへさーせん。まあパンツは冗談だけど、同じ学校の同級生がテレビに出てたらつい見ちゃうよね。たしかこのセンターの人ってお兄ちゃんのクラスメイトで、しかも幼馴染なんでしょ? めちゃくちゃ学校で噂になってたよね」
「げ、そんな気はしてたけど、あの噂、一年にも流れてるのかよ」
「うん、めっちゃ流れてるよ。おかげで妹のあたしまで色々質問されて大変だったんだから。あたしはその伏見さんって人とは会ったことないから何も知らない、って何回説明させられたか」
「それは本当に申し訳ない。あれ、けどお前ってゆーちゃんと会ったことなかったっけ?」
「う~ん……多分ないよ? どれくらい昔の幼馴染なのかは知らないけど、小さい頃からあたしもお兄ちゃんもそれぞれ自分の好きなようにしてたじゃん? だから意外と共通の友だちとかあんまいないよね。兄ちゃんはよく外に遊びに行ってたけど、あたしは部屋でごろごろしてることの方が多かったし」
「そういや昔から自分の部屋大好きっ子だったなお前」
思い返してみればこいつは友だちと遊ぶよりも、家で一人のんびり過ごす方が好きなタイプだった。
ただ、友だちがいないというわけではなく、放課後や休みの日に友だちと遊びに行くことも普通にあり、よく迎えに行ったのを思い出した。
外へ遊びに行く時は、夕方の5時になったら絶対に公園で集合って、約束してたっけ。あの頃はまだ可愛げがあったよなぁ……。
「そういうお兄ちゃんは昔から妹大好きっ子のシスコンだったよね~なんせ毎日同じベッドで寝てたくらいだし~いや~根っからシスコンのお兄ちゃんを持つと辛いわ~」
少なくとも、こんな風ににやにやしながら俺をいじってくるようなことはなかった。
あと小さい頃はお互い自分の部屋を持ってなくて同じ部屋で寝てたけど、それでもベッドは別々だっただろうが平気で嘘をつくな。
本当に、いったい何が原因でこんな成長を遂げてしまったのか……まあ別にこんな妹も嫌いじゃないけど。
ただそれはそれとして、昔の純粋だった可愛らしい妹を返して欲しいと思わなくもない俺だった。
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