第三十六話 ゴールデンウィーク 自宅編①
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
『今日は楽しかったよ! また遊ぼうね!』
天崎の家から帰ってきて、自分の部屋にある一人用のソファでくつろいでいるとそんなメッセージと一緒に画像が送られてきた。
神社の本殿をバックに明らかに笑顔がぎこちない冴えない男が一人、そしてそいつを挟むように、お淑やかな笑顔の美人系巫女さんと、元気にピースをして笑う可愛い系巫女さんという超絶美少女たちが両隣に立っている。
帰り際、せっかくだから初めて遊んだ記念にと、天崎が部屋からスマホ用の三脚を取ってきて撮影した、俺と天崎姉妹が映った写真だった。
う~んやっぱり二人とも顔がいいな……それに比べて俺の残念な感じよ。神さまはなんて残酷なのか。改めて見ても、もうギャップがすごいもん。
何も知らない人がこの写真を見て、三人が友だちだって果たしてわかるだろうか。天崎と先輩には失礼かもしれないけど、なんか俺が二人にお金を払って撮ってもらった、いわゆるチェキみたいなものに見えてくるな……。
「おお……お兄ちゃんめっちゃ美人さん侍らせてるじゃん」
「うおおおおっ!?」
天崎と先輩の美少女っぷりを実感していると、突然、背後からと聞きなじみのある声と両肩を掴まれる感触が一気にやってきた。
驚きながらソファから飛び起き、俺のプライベート空間に不法侵入してきやがったであろう犯人を確認すると、予想通りの人物がそこにいた。
「いや驚きすぎでしょ、うけるわ~」
申し訳なさそうな気持ちは欠片もないらしい、犯人は俺のオーバーなリアクションを見ておかしそうに笑っていた。
犯人の身長はやや低め、外見は少しウェーブのかかったツインテールの茶髪に大きく垂れた目、可愛らしさがあふれるあどけない丸顔。特徴は、笑っている口から見えている綺麗な八重歯だろう。
名前も判明している。こいつの名は高原海音、俺の一つ年下の妹であった。
さっきまで夕飯を準備していたんだろうか、フリルのついた大きめのエプロンをしている。そういや今日の夕食当番はこいつだったな。
あれ? けどなんか、こいつのエプロン姿なんか変じゃないか? 全体的に違和感があるというか……なんだろう、重要なことに気づきそうで気づけないみたいな何とも気持ち悪い感覚がある……い、いや今はそんなことはどうでもいい! こいつは毎度毎度こういうことしやがってからに!
「うけるわ~じゃねえよバカやろう! 部屋に入る時はノックするか声かけろっていつも言ってんだろうが!」
「え~あたしもいつも言ってるけどもうそれ別にしなくてよくない? 毎回毎回、ノックとか声かけするのめっちゃ面倒なんだけど。ほら、妹なんだしお兄ちゃんの部屋はフリーパスでもいいじゃん」
「いやよくねえよ!? お前はもっと兄のプライバシーを大事にしろ!」
「えぇ~今更お兄ちゃんにプライバシーとかある? ほぼ毎日、あたしに入り浸られてるんだから実質、あってないようなものじゃない?」
「めちゃくちゃあるわい! てかなんでお前は毎日のように俺の部屋に来るんだよ!」
小さい頃ならまだわからなくもないけど、高校になっても一日一回は兄の部屋にやってくるのだこの妹様は。
なんなの? 兄の部屋に入るデイリー任務でもあるの?
最近じゃ学校から帰って部屋に戻って来たら、だいたい、こいつが我が物顔で俺のベッドを占拠して漫画やらスマホやらゲームやら満喫してやがるからな。
「え、だってお兄ちゃんの部屋の方が漫画もゲームも多いし気軽にくつろげるから」
「それは前にも聞いたけどいい機会だから改めて言うぞ? 漫画とかゲームに用があるなら自分の部屋に持っていってやれや! あとどう考えても俺の部屋より自分の部屋の方が気軽にくつろげるだろ!?」
「え~めんどくさいじゃん。わざわざあたしの部屋まで持っていって、読み終わったらまたお兄ちゃんの部屋に戻しに来ないといけないんでしょ? だったらお兄ちゃんの部屋で読む方が無駄な労力を省けるじゃん。それにあたしお兄ちゃんの部屋でも余裕でくつろげるし。だからお兄ちゃんの部屋で全部完結させるのが一番効率的なわけですよ」
「それは効率的じゃなくて、ぐうたらっていうんだバカタレ!」
「へへへ、さーせん」
わざとらしくペロッと下を出して、まったく謝る気のない謝罪をかます我が妹。まあ今更、口で言って直るとか欠片も思ってもないけどな。
はぁ……天崎も面倒くさがりだけど、こいつのぐうたら具合はそれ以上だな……。
面倒くさがりということで思わず今日遊んでいた天崎を思い出したが、さすがのあいつもこの妹のレベルじゃないだろう。たぶん、きっと。
想像してみたら割と普通にありそうとか思ってない。思ってないぞ。
「それはそれとしてお兄ちゃん、もしかして今日コンカフェに行ってたの? うんうん、なんとなくお兄ちゃんの気持ちはわかるよ? 妹に巫女さんコンカフェに行ってくるなんて恥ずかしくて言えないよね? でも友だちの家に遊びに行くって嘘までつかなくてもいいんだよ? あたしは別にお兄ちゃんが巫女フェチでコンカフェ通いでも気にしないから」
「誰もコンカフェなんて行ってないし巫女フェチでもねえわ!」
「いやでもさっきのメッセージとあの写真は絶対そうでしょ。しかもあんな可愛い巫女さん二人とお兄ちゃんが、あんなに近い距離で写真撮るとかコンカフェか何かの有料サービスとしか思えないんだけど、違うの?」
「そ、れはだなぁ……」
目を細めて俺が嘘をついてコンカフェに行ったのではないかと疑ってくる妹。
いや有料サービスってお前……まあやっぱりそんな風に見えるよな!
あの写真を見て俺と似たようなことを考えるあたり、やっぱり俺たちは兄妹なんだと実感する。
それはそれとしてこいつにどう説明したもんか。普通にあれが天崎と先輩だって言えばいいんだろうけど、あの写真の天崎はめちゃくちゃ素の状態だ。親しくない相手にそんな姿を見られるのを、力強く無理だと断言している天崎の許可なく、あの写真の人物が天崎だとこいつに説明していいのかどうか……。
しかもこいつは今年うちの学校に入学したぴかぴかの一年生なので、天崎のことは間違いなく知っている。全く接点がない相手ならともかく、同じ学校に通っているこいつに、天崎の素がバレるようなことをするのはよくない。
かといってそれを黙って上手いこと説明できる気もしないし、もし説明に失敗したらこいつの中で俺は「嘘をついてコンカフェに行った挙句、有料オプションを使って写真を撮ってもらいをそれを見て部屋でにやにやしていた兄」にジョブチェンジしてしまう。
そうなってしまえばおしゃべりなこいつのことだ、おそらくその情報は瞬く間に家族間で共有されてしまうことだろう。それだけは絶対に避けたい。もうこうなったら天崎に説明する許可をもらうか……?
「ぷっ……あははははは! お兄ちゃんめちゃくちゃ焦ってるじゃん! ごめんごめん、からかいすぎちゃった。なんで二人と写真撮ってるのかはわからないけど、それ天崎先輩でしょ、んで反対側のは天崎先輩のお姉さん」
「は!? そ、そうだけど、なんでお前が二人のこと知ってるんだ?」
「現生徒会長の方の天崎さんは学校で何回も顔を見たことあるし、前生徒会長の方の天崎さんも去年のオープンキャンパスで見たことあったから。お兄ちゃんの写真を見てすぐ二人だってわかったよ」
「な、なるほど……ん? ちょっと待て、じゃあお前なんでコンカフェとか言い出した?」
「いやぁ~いい感じにお兄ちゃんをいじり倒せそうな気がしたからついやっちゃいました。てへ?」
「てへじゃねえ! お前ほんとそういう悪いところあるぞ!」
「へへへ、さーせん。けどお兄ちゃんも悪いんだからね。ぐうたらで面倒くさがりのあたしがおもーい腰を動かしてそれはそれは美味しい美味しい夕飯を作って、ようやく完成したから呼びに来たのに、その兄が巫女さんの写真見てにやついてるんだよ? そんなことしてる暇があったなら手伝えー! むしろ代わりに夕飯作れー! ってなんかカチンときて仕返しにいじっても問題ないよね?」
「いやそれ完全に八つ当たりじゃねえか!」
「うんそうだよ? だからおわびにお兄ちゃんには一番大きいハンバーグあげるからそれで許して? お兄ちゃんハンバーグ好きでしょ? お兄ちゃんの大好きな妹が素手でこねこねして作った特製ハンバーグだよ」
「その言い方やめろ。普通に好物だけど、この流れで頷いたらまるで俺がシスコンみたいになるだろ」
「え、普通にシスコンでしょ?」
「違うわ! 誰がシスコンじゃ誰が!」
その、またまたご冗談を~みたいな顔やめろ! 俺は断じてシスコンではないから! その証拠に普通にこの妹がうざいとか思うこともあるし。というかまさに今! 今うざい!
まだ小さかった頃の可愛げのある妹がまさかこんな成長を遂げるだなんて夢にも思わなかった。
「ま、お兄ちゃんが重度のシスコンなのか軽度のシスコンなのかはさておき、とにかくもうご飯の準備できたから早く食べない?」
「だから違うって言ってんだろ! まったく……何が何でも俺をシスコンにしたいのかお前は」
「シスコンにしたい、じゃなくて実際にシスコンなんだってば。ほら、早く行こうお兄ちゃん。急がないとお兄ちゃんが大好きな妹特製ハンバーグが冷めちゃうよ?」
「はいはいわかりましたよ――ぶふっ!?」
それはそれは楽しそうに兄いじりをする妹にもう反論するだけ無駄な気がしたので諦めた俺を、すさまじい衝撃が襲った。
その衝撃の原因はリビングに向かって歩き出した妹の後ろ姿、あまりの衝撃に思わず噴き出してしまった。
さっきからなんか違和感あるなって思ってたのはこれか! やたら大きいエプロンだったからすぐにわからなかったのか、それとも俺が鈍すぎるせいなのかは知らないけど、気づいたら明らかにおかしい! というかなんでこいつはこんな格好してるんだ!
「どしたのお兄ちゃん?」
「ど、どどどどどどどっっっ!? ど、どしたのじゃねえよバカ!!」
妹の後ろ姿は圧倒的な肌色だった。
綺麗な背中からむっちりしたお尻からすらっとした足先まで全部が丸見えである。
ブラの紐のようなものと柔らかそうなお尻を包む薄いピンク色のパンツが、かろうじで肌色率を下げているがそれだけ。もうほぼ裸エプロンである。
え? なんでこんな破廉恥な恰好してるのこいつ!? というかよくそれで平気な顔して俺と話せてたな!?
「なんで服を着てないんだお前は!?」
「楽だから? お昼にお兄ちゃんが出かけたあとお風呂に入って、その後はそのまま部屋でのんびりしてたんだけど、そういえば今日料理当番だったの思い出して、でも着替えるのも面倒くさいからもうエプロンだけつけてればいっか~って料理して今に至るって感じ」
普段、他愛もない雑談をする時みたいに説明する妹。
服を着てないどころか、下着エプロンという、どこのエッチな新妻なんだと言いたくなるような恰好をしてるのに、まったく恥ずかしそうじゃないところが末恐ろしい。
「今に至るって感じ、じゃないんだよ! 面倒くさくても服はちゃんと着ろ!」
「うん、だからちゃんとエプロンしてるじゃん」
「エプロンの下にちゃんと服を着ろって言ってんだよ!」
「ええ……面倒くさいんだけど。ご飯食べてからでいい?」
「ダメに決まってんだろ! 今すぐ着るんだよおバカ!」
「は~いパパ。じゃあ着替えてくるから先にリビングで待ってて。あ、先に食べないでよ?」
「誰がパパだ! ちゃんと待っててやるからさっさと着替えてこい!」
必死で妹の姿を見ないようにしつつ、何とか妹を部屋から追い出すことに成功して、ほっと息をついた。
本当にあいつはいったい何を考えてるんだ……下着姿が楽なのはわかる。俺も部屋じゃパンイチでゆっくりすることもあるから、楽なのはわからなくもないけど、普通その姿のまま兄の前に出てくるか? 下着エプロンとか絶対に恥ずかしいだろ。もしやあいつは羞恥心が死んでるんだろうか。
そうでもないとあんな恰好……いやいや思い出すな俺! 相手は妹だぞ妹! 妹のあんな――
「あ、そうそう」
「お、おう!?」
着替えに行ったはずの妹がドアを開けてひょっこりと顔を出してきた。
あ、あぶねえ、こいつが来なかったらあのまま鮮明に思い出すとこだった……。
それはそうと何しに戻ってきたんだこいつ。あの顔は多分、またなんか余計なこと言いに来たんだろうけど。
そんな俺の想像通り、まるでチェシャ猫みたいな笑顔で海音は言った。
「お兄ちゃん、さっきあたしの下着エプロンで興奮してたでしょ~色々言ってたけど、顔真っ赤にしながらじ~っと見てたもんね~いや~辛いわ~シスコンの兄を持った妹は辛いわ~」
「さっさと着替えて来いっつってんだろうがこのぐうたら妹がぁぁぁぁぁ!!」
「きゃ~! シスコンお兄ちゃんが怒った~!」
いったい何がそんなに楽しいのか、妹が笑って退散していく。
あいつが自分の部屋に走っていく足音とドアが閉まった音をちゃんと確認して、大きく息を吐いた。
兄をいじれそうな機会があればとことんまでいじってくる、それが我が妹の悪いところだ。
さっきの下着エプロンは、あいつの言った通り本当に着替えるのが面倒くさかったからなのかもしれないが、俺をいじるためにわざわざやった可能性も否定できない。
究極のぐうたらであり面倒くさがり、そのくせ兄をいじる時には無駄な手間をかけることも厭わない、それが高原海音という妹だからだ。
昔はどこに行くにも俺の後をついて来ていたヒヨコみたいなあいつはどこへやら、いつの間にか兄をいじって遊ぶメスガキみたいになってしまった。
その内、ざぁこざぁこ、とか言い出さないだろうな……けどめっちゃ言いそうな見た目してるんだよなぁ……!
とりあえず、今度からはあいつの格好にも注意しておこうと思う俺だった。
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