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第四話 ケンカと逆転

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 恋愛には、程度の違いはあれど、ケンカやぶつかり合いがつきものである。

 馬鹿馬鹿しい口喧嘩から、流血沙汰になるような笑えないくらいヤバいものまで、人と人の距離が近づけば近づくほど、そういったことは大なり小なり必ず起きてしまう。

 なんでも、相手に自分の気持ちを理解して欲しい気持ちがあるから、ぶつかり合いは起きるらしく、喧嘩するほど仲がいい、という言葉は、割と的を得ているらしい。喧嘩は一種のコミュニケーションツールなのだ。


 しかし、しかしである。一方的に、喧嘩になるようなことをふっかけてくるのは、ただの嫌がらせだと思うわけだよ。その相手がいくら、俺の好みどストライクの、低身長で胸の大きな可愛い美少女であってもだ。

 いくら俺が自他共に認めるヘタレだとしても、文句の一つでも言ってやらないと気が済まないし、何とか撤回してもらわないと今後の学校生活が大きく変わってしまう。


 休み時間ごとに訪れる、好奇の視線に晒される異常に長い数分間を何度も必死で耐え抜き、襲いくる直帰したい衝動を堪えながら放課後を待った。問題の生徒会長はA組なので隣のクラスになるが、他所のクラスに突撃する勇気はなかった。完全にアウェーな状況に突っ込むとか無理無理。なので、放課後、生徒会室に1人でいる所を狙おうと思った次第である。

 そして、待ちに待った放課後、討ち入りするような覚悟で生徒会室を訪れた俺が見たものはーー


「この度は大変申し訳ありませんでしたあぁぁぁぁぁぁ!!」


 生徒会長の綺麗な土下座である。どういうことなの!?

 想像の斜め上どころか、そもそも考えもしていない展開だった。


「あのーー」

「高原さん、いや、高原様! あなたのおっしゃりたいことはわかります! わかっております! 勝手に生徒会の副会長にされて、さぞご立腹ですよね! あんの胸がデカいくらいしか取り柄のないくそアマ、何勝手なことほざいてやがるんだぶっ飛ばしてやる! と拳を握るのも痛いほど理解しております!」

「いや、ちょっとーー」

「しかし! しかしでございます! まずは言い訳をさせていただきたい! わたしもこんな非常識な真似はしたくてしたわけではないのでございます! わたしを処すのはそれを聞いてからでも遅くはないはず! ですのでどうか! どうか話を聞いてーー」

「とりあえず土下座やめてもらっていいですか!?」


 さっきから土下座のインパクトが強すぎて、何を言われても頭に入ってこない。


「いえ! これはわたしの謝罪の意を、一番わかりやすく伝えることができる、現時点における最適の姿! 高原様の許しをいただくまでは、いくら高原様の願いといえど、これはやめられません!」

「何でだよ! 謝罪相手がやめてくれって言ってるんだから、素直にやめてくださいよ! あと、ぶっ飛ばしてやるとか思ってませんからね!?」

「え、思ってないんですか!?」

「思ってないですけど!?」

「……土下座やめても叩いたりしない?」

「しませんよ!」


 この人は俺をどういう人間だと思ってるんだ。

 天崎さんは、おっかなびっくりと言った様子で顔を上げると、不安そうな表情でじっと俺を見てきた。

 必然、彼女に上目遣いで見つめられる形になってしまう。

 うっ……美少女の上目遣いってこんな破壊力あるのか、初めて知った。

 

「じゃあ……わたしのこと許してくれる?」

「許ーーいや、そこはこれからの話次第ですけど」

「ちっ……」

「今、舌打ちしました?」

「してません」


 笑顔ではっきりとそう言った彼女は、ゆっくり立ち上がると、服についた埃を払う。かなり大きめのサイズのブレザーを着ているため手がブレザーから出ておらず、俗に言う萌え袖の状態なのに気づく。それで埃払っても、結局、服の袖につくから意味ないのでは?

 そんなことを考えていると、彼女は、ぽてぽて、という擬音が似合いそうな動きでファイルが何冊もしまわれている棚に近づくと、そこに置かれていたスマホを手に取った。そして、そのスマホは、何故か横向きに立てて置かれており、カメラがこちら側に向いていた。

 …………ものすごく嫌な予感がする。

 天崎さんはスマホをいじっていたかと思うと、こちらを向いてその画面を見せながら、ニンマリと笑った。瞬間、嫌な予感が、確信に変わった。

 スマホの画面に映っていたのは、男子生徒が女子生徒を土下座させている画像だった。角度的と体勢から女子生徒の顔は見えないが、男子生徒の顔ははっきり写っている。見覚えのある冴えない顔の男だ。というか俺だった。

 しかも、絶妙に悪い顔をしているように見える表情。目の前の女子を土下座させて、愉悦を感じているように見える。

 見せられた物のあまりの衝撃に絶句していると、美少女の皮を被った悪魔が言った。


「何てことでしょう。偶然、男子生徒が女子生徒を土下座させている決定的な瞬間が撮れちゃいました」

「撮れちゃいました、じゃねーよ! 完っっっ全に意図的に撮ろうとしてただろうが! 今すぐに消せ!」

「すみません、わたしも消そうとは思うんですけど、画像の消し方がわからなくて……機械音痴なんですよー」

「絶対嘘だろ! じゃあ代わりに消すから、スマホ渡してくれ!」

「えーでも知らない人に、スマホなんて個人情報の塊は渡したくないですねー。せめて、同じ生徒会の仲間くらいの間柄なら渡すんだけどなー。もし、副会長ならすぐに渡してあげるんだけどなーちらちら」

「こいつ……!」


 にやにや笑って、こっちをちらちら見てくる生徒会長。

 めちゃくちゃ腹立つ! 誰だよこいつの人柄がいいとか言い出したやつは! 事後承諾させるために脅しまで使うとかヤバすぎるだろ!


「よし、わかった。お前がそういうつもりなら、こっちにも考えがあるぞ」


 こうなりゃ実力行使だ、物理的に奪い取る。この体格差なら、まず力負けすることはない。女子相手にそれはどうなの? とか思わなくもないが、先に脅してきたのは向こうだし、そんなやつに遠慮は不要だろう。


「力づくで消してやる、覚悟しろ……! 謝っても許さんからな……!」

「ひいっ!? め、目が怖いよ? ま、まさか、女の子に手をあげるの? さ、さっき叩かないって言ったよね? ね?」

「言ってません」


 全力の笑顔で言ってやった。

 まあ、流石に叩いたりはしないが、腕を掴むくらいはするつもりである。


「嘘だよ! 言ったよ! 言ったもん! こ、ここに証拠の映像だってあるんだからね!」

「なるほどなるほど、画像じゃなくて動画撮ってたのか。尚更、消さないといけなくなったなぁ?」

「ひえっ!?」


 俺の本気を感じ取ったのか、焦った表情になって後ずさりする生徒会長。助けを求めるようにきょろきょろと周りを見回すが、そもそもこの生徒会室には俺と彼女の2人しかいないし、唯一の扉は俺の後ろである。加えて、ここは3階なので窓から逃げることもできない。彼女に逃げ場はなかった。


「諦めてスマホを渡せ。それか画像と映像を消せ。そうしたら許してやる」

「……消したら副会長やってくれる?」

「この流れでやるわけないだろ」

「じゃあ絶対消さない!」


 天崎さんは、俺からスマホを守るように両手で握った。

 何でそこまでして俺を生徒会に入れたいんだよ! 一応、学校で人気のある女子生徒なんだから、あんたが頼めば喜んでやってくれるような、優秀でやる気のあるやつなんて腐るほどいるだろ!


「あ……」


 じりじりと後ずさりしていた彼女の背中が、壁につく。

 追い詰められた彼女は、涙目でこちらを睨んできた。

 う、可愛いなちくしょう……! 中身があんなだってわかっていても動揺してしまう。

 ここで少したじろんでしまったのが、まずかった。

 目の前の彼女は、何と言ってもあの先輩の妹であり、学内でも評判の優秀な人間である。頭の回転も相当早いのだろう、彼女はこの一瞬で、この絶体絶命の状況をひっくり返して見せた。

 天崎さんは、何かに気がついたように目を見開いたかと思うと、唐突にブラウスのボタンを上から何個か外した。開いたブラウスから、彼女の小さな身長に見合わない、大きな胸の深い谷間がはっきりと露わになる。

 見てはいけない! そう思いつつも、悲しいかな、視線が吸い寄せられてしまう。

 しかし、彼女の動きはそれだけでは止まらない。なんと、握っていたスマホを勢いよく胸の谷間に差し込み始めたのだ! どんどん胸と胸の間に吸い込まれていき、最後には完全に見えなくなってしまうスマホ。

 目の前で起きた光景が、色々な意味で訳がわからなさすぎて呆気に取られていると、とんでもないスマホ消失マジックをやってのけた彼女は、顔を真っ赤にして、スマホがしまわれた谷間を見せつけるように、こちらにぐいっと胸を突き出してきた。


「さあ! 取りたかったら遠慮なく取ればいいよ!!」


 俺の完全敗北が決まった瞬間だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。

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