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第三十三話 ゴールデンウィーク 天崎神社編②

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

「お茶とかお菓子とか持ってくるから適当にくつろいでて~。そこの漫画とか好きに読んでいいからね」


 自分の部屋まで俺を案内した天崎が、そう言って部屋のドアを閉めて出て行った。


 何か言う暇もなく部屋に残された俺。


 くつろいでとか言われてもどうすればいいんだ? こちとら女子の部屋に遊ぶに来るのなんて初めてなんだから、もうちょっと詳しく言って欲しいんだけど!


 まず座るにしてもどこに座ればいいんだ? ベッドが論外なのはわかるから、普通に床でいいんだよな?


 ていうか漫画も好きに読んでいいって言ってたけど本当に勝手に触ってもいいのか? ああもう、どんなことならOKでどんなことがNGなのか誰か教えてくれ!


 そんなことを色々考えてしまって少しというか、かなり落ち着かない。とりあえず、何かするよりはしない方がマシだと思ったので、何もせずに突っ立ったまま天崎が戻るのを待つことにした。


 天崎の部屋は二回の奥の突き当りにあって日当たりは良好、白い清潔感のあるカーテンを通して窓から明るい光が差し込んでいる。

 部屋にはシンプルなデザインのベッドが一つに、テーブルが一つ、そして勉強机と洋服ダンスがあり、壁にはしわ一つない学校の制服がかけられていた。


 それだけ見れば普通の学生の部屋なのだけど、そこはゲーム好きと自分から言う天崎。壁際にずらりと設置されたシックな感じの棚には漫画やらゲームのカセットやらが所狭しにきちんと並べられており、棚の上には見たこともないボードゲームの箱がいくつも置かれていた。

 

 そこから目を移せば、テーブルの前にあるテレビ台の上に、バカでかいモニターがどーんと鎮座している。いつもこのモニターでゲームをしてるんだろう、モニターの横には最新のゲーム機がいくつも置かれていて何本ものコードがモニターへつなげられていた。よく見るとテーブルの上にアケコンまで置かれている。


 格ゲーまでやるのかあいつ……お、勉強机の方にパソコンとヘッドセットまである。おいおい、椅子もゲーミングチェアじゃないか。

 なんだろう……こうして見ると、女子の部屋って言うよりめちゃくちゃゲーマーの部屋だな。女子の部屋ってもっとこう、ふわふわしてるというか、ぬいぐるみとかあったりするんじゃないの? めちゃくちゃシンプルな感じというか、遊ぶためのもの以外に余計なものがほとんどないというか……。


 そう考えるとだんだん緊張がほぐれてきたような気がするが、やっぱりだめだった。


 めちゃくちゃゲーマーの部屋で異性の部屋って感じは全くしないのに、さっきからなんでこんないい匂いするの? 消臭剤って感じじゃなくて何だろう、女子特有の柔らかい匂いというかなんというか……てか匂いとか意識してる俺、気持ち悪すぎない?


「おまたへ~」

「おわ!?」


 これが天崎の匂いか、なんてとんでもなく気持ち悪いことを考えそうになった瞬間、部屋のドアが開いてジャージ姿の天崎が帰ってきた。


 両手でお盆を持っており、その上には炭酸飲料のペットボトルが二本と大量のお菓子。そしてさっき俺が渡したクッキーを口に咥えている、というか食べている。


「入るなら入るって事前に言えよびっくりするわ!」

「もぐもぐ……なんで自分部屋に入るのに声かけないといけないのさ。あ、もしかして、何かやましいことでもしてたの~?」

「だ、誰がそんなことするか! こちとら今まで彼女いたことのないヘタレ男子だぞ! 普通に女子の部屋に放置されて緊張してただけだわ!」

「あはは、何その言い訳~女子って言ってもわたしだよ? どこに緊張する要素があるのさ」


 あっけらかんと笑う天崎に、いや普通にあるだろ! と声を大にして言ってやりたいが、それを深く掘り下げられると、俺が天崎をがっつり異性として見てることがバレてしまいかねないので沈黙を貫いた。


 縁の問題があるせいなんだろうけど、本当にこいつは自分が女子って自覚がなさすぎる。


「ていうか着替えてきたんだな」

「まあ、さすがにあの服でダラダラするわけにもいかないしね~。しわくらいならまだいいけど、もし汚したら怒られちゃうから。けどこの格好ならしわも汚れも安心安心~」

「いやだとしてもその恰好はだらけ過ぎじゃないか?」


 いくらここが自分の家とはいえ、年頃の女子的に上下ジャージはどうなんだろうか? 


 しかもそれ、多分だけど中学にお前が着てたやつだろ。胸の所にこれでもかってくらい「天崎」ってがっつり刺繍されてるじゃないか。


 うちの学校のジャージとはデザインも色も違うし、え、中学校のやつだよな? まさか小学校のやつじゃないよな?  


「え~でも楽だからいいじゃん。あ、チャックをちゃんと首まで上げたらまだマシに見える? でもあれ首はともかく胸が窮屈だから嫌なんだよね。ていうかそもそもこれ中学の時のだから、今じゃ胸が大きすぎてチャック閉まらないんだけどさ~」

「そうかい。そして誰も胸の話はしとらん。チャックどうこうじゃなくてジャージだからだらしなく見えるんじゃないかって言ってるんだよ」


 さらっと胸とか言いやがった天崎に、よく大げさに反応しなかったと自分を褒めてやりたい。

 こいつ自分が女子って意識がないどころか、俺が男子って意識もなくなってきてるんじゃないか?


「でもジャージってけっこう機能的じゃない? 動きやすいし長い間着てても疲れないし。だらしない恰好なのは認めるけど、それを気にしない相手と過ごす時には、正直いいことずくしだと思うんだよ。それとも高原くんはジャージのわたし、嫌? もしそうならすごくすごくものすご~く面倒だけど着替えるよ?」

「どんだけ着替えるの面倒くさいんだよ。まあ、お前がジャージでも俺は気にしないけどさ」

「じゃあ別にこのままでいいよね! さ、早くゲームしよゲーム! へいパ~ス!」


 天崎はテーブルの上のアケコンをどかしてお盆を置くと、ベッドの上にあるクッションらしきものを取って、こちらに投げてきた。


 受け取って確認してみると、某モンスターハンティングゲームのマスコットキャラクターの顔を模したクッションだった。猫をモチーフにしてデザインされたキャラクタ―が、つぶらな瞳で俺をじっと見ている。


「それ使っていいよ。ほら座って座って」

 

 そう言いながら、同じものを手に取った天崎は、それを床に置くとその上にがっつり座った。

 容赦なくつぶれる顔。可愛いマスコットキャラクターなだけに、つぶれた顔が妙に哀愁を誘っている。


「どしたの高原くん? 座らないの?」

「いや、いくらクッションとはいえ顔の上に座るのはちょっと抵抗ないか?」

「ないよ? だってクッションってそのためのものでしょ? これお尻に敷くにはちょうどいい柔らかさなんだよね。それこそ一回使うと他のクッション使えなくなっちゃうくらい。ほら、高原くんも座ってみなよ。病みつきになっちゃうから」

「そこまでのレベルのクッションとか逆に怖いわ」 


 ただ天崎が言ったことが少し気にはなったので、可哀そうだが一度試してみることにした。

 つぶらな瞳で見てくるマスコットに心の中で謝りながら、その上に座ってみる。

 

「…………おお…………おお! これいいな! フィット感? みたいなのが絶妙だ」

「でしょ? だから長い時間、座ってゲームする時はいつも使ってるよ」

「いやほんと天崎の言う通りだわ。ちょっと欲しくなってきたな、これどこで売ってるんだ?」

「公式の通販だけど、残念ながらもう販売終了してるよ。うらやましい? ねえ、うらやましいでしょ?」

「いや、これは素直にうらやましいわ」

「そうでしょうそうでしょう~だから今日はいっぱいその感触を楽しむといいよ。そして帰ってからいつものクッションを使って、なんか違う感を思う存分味わうといいよ~」

「うぐぐぐ……!」


 この腹立つ感じのにやけ顔をこねくり回してやりたい。


 もしかしたら通販サイトにならあるかもしれないけど、クッションで中古はなんか嫌だしなぁ……。


 このマスコットが出てくるゲームはめちゃくちゃ遊んでるけど、グッズなんかに興味はなかったから公式の通販なんてチェックしていなかった。今後はチェックするようにしよう。


「それじゃ、お菓子もジュースもいい感じのクッションも準備できたし早速ゲームしようゲーム! ソフトは高原くんが選んでいいよ。そこの棚と、あとはベッドの下にある収納ボックスにもしまってあるから好きに漁っちゃって」

「この棚だけでもすごい量があるのにベッドの下にまだあるのか」

「ダウンロード版しかないゲーム以外は基本的にパッケージ版買ってるからね。気づいたらどんどん増えちゃってさ~あ、普段やらないやつとかは押し入れの方にしまってあるから、それも合わせたらもっとたくさんあるよ」

「押し入れにもあんの!?」

「あるよ? でも、そっちはほとんどお父さんのだけどね。うちじゃ、わたしだけじゃなくてお父さんもゲームするから。むしろ買ったゲームの量で言ったら、わたしよりもお父さんの方が圧倒的に多いんじゃないかな?」

「まさか天崎パパがゲーマーだったとは……」

「あんまり上手くはないけどね~。というか父さんのことはどうでもいいよ! それでそれで~何するか決まった? ねえねえ決まった? ま、どんなゲームでもわたしが勝つと思うけどね~」

「はえーよ、まだ棚の一列も見れてないから。というかやけに自信満々だな。けど、こちとらゲームが趣味のインドアオタクだぞ? 天崎の腕がどんなもんかは知らないけど、そう簡単に勝てると思うなよ」


 これでも昔からどっぷりゲームにハマっている。基本的に自分に自信のない俺だが、ゲームだけは得意な方だという自信があった。


 天崎の実力は未知数だが、そこまで一方的に負けるようなことはないだろう。


「お、じゃあ負けた方は罰ゲームでもする? その方がきっと燃えるでしょ? あ、でもそれじゃ高原くんばっかり罰ゲームになっちゃうから可哀そうかな~やめとこっか?」

「は? 誰が可哀そうだって? いいじゃねえか罰ゲーム。もしお前が負けた時は、ごめんなさいって謝ったら罰ゲームしなくても許してやるよ。俺は強いだけじゃなくて優しいからな」 

「そんなことはないと絶対ないと思うけど、その気持ちはありがたく受け取っておくね~」

「いや受け取るんかい」

「うん。負けないとは思うけど、万が一そうなった時のための保険は大事でしょ? いや~高原くんが優しい男の子でよかったよかった。これで罰ゲームのリスクがなくなったよ。あ、ちなみにわたしは高原くんが謝っても許してあげないから罰ゲーム頑張ってね? あ~高原くんの罰ゲームが楽しみだな~」

「前言撤回だこのやろう。謝っても絶対に罰ゲームさせてやるから覚悟しとけ」

「ふふ~ん、やれるものならやってみるといいよ。さ、早く勝負するゲームを選んで選んで~」


 おそらく自分が負けるだなんて欠片も思ってなさそうな、めちゃくちゃどや顔の天崎。


 絶対にこいつに罰ゲームを受けさせてやることを心に決めながら、俺は自分が得意なゲームソフトを探し始めた。


 結論として、天崎にゲームの腕はたしかに上手かった。

 ただ予想した通り圧倒的に差があるわけでもなく、ゲームジャンルにもよるがそこそこいい勝負ができたと思う。


 運の要素が絡むと恐ろしいくらいラッキーな所だけが印象的だったけど……配管工のレースゲームで5連続で星を出すとかどうやったらできるんだ。


 最終的な戦績としては五分五分かやや天崎の方が勝利数が多いくらいで、罰ゲームもほとんど均等に受けることになるのだった。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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