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幕間④ 灯里と神さま

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

「それじゃあ先輩、またお昼ごろ、お邪魔させてもらいますね」

「うん、わかった。いつも言ってるけど車に気を付けるんだよ?」

「先輩は心配性ですよね。小さい子どもですか俺は。先輩に言われた通りちゃんと気を付けてますんで安心してください。ではまた!」

「またね」


 びしっと綺麗な敬礼をして境内から出ていく高原くんに、私は手を振って彼を見送る。


 とんとんとん、と境内に続く階段を下りていく音が聞こえて来た。早朝で静かなせいなのか、はたまた私の耳が良すぎるのか、彼が神社から離れていく足音をはっきり聞き取ることができる。


 相変わらず、あの子は足が速い。あっという間に足音が遠ざかって行った。


 高原くんが帰って行って、静かになった境内には私一人になる。ううん、正確に言えば、一人と一柱かな。


「前に父さんたちにも言ったけど、のぞき見って悪趣味だと思わない?」


 言いながら視線を向けるのは鳥居の上、そこにいる和服姿の小さな女の子。


 高原くんは気がつかなかったみたいだけど、彼が境内にやってきた時から、彼女はずっと鳥居の上に座っていて、私たちことをずっと見ていた。


 少し咎めるように彼女を見ていると、苦笑いしながらふわふわと空中を飛んで、私の前まで降りてくる。

 そして、くるりと一回転すると、いつの間にか彼女の手にはプラカードが握られていた。

 

 いつも思うけれど、どこから出してるんだろう。

 

『ごめんね~。でもよく私がいるって気づいたね~』

「私があなたの存在に気づかないわけないでしょ?」


 鳥居の上なんて、わざわざ見上げない限りわからないから、高原くんが気がつかないのは当たり前だけど、彼女の存在がなんとなく感じられる私がわからないわけがない。

 少なくともこんな近くにいたら一発でその居場所がわかる。


「それで、今日はどうして私たちのことを見てたの? まさか、何か縁の問題が起きたの?」


 ただ、そんなことはどうでもいい。

 いま注目するべきなのは、彼女がのぞき見をしていたことじゃなくて、どうしてそんなことをしていたかってこと。彼女はただの子どもじゃなくて、縁結びの神さまなのだから。


 理由や内容にもよるけれど、もし高原くんに何かしら悪いことが起きてるのだとしたら、すぐにでも何とかしないといけない。縁に起因する問題の恐ろしさを私は身をもって経験してるから。


 もしそんなことが彼に起きようとしてるなら、私のすべてをかけてでも助けないといけない。


 自分の中で神経が張り詰めていくのがわかった。

 

『ちょっとちょっと顔が怖くなってるよ、落ち着いて。問題なんて何も起きてないから安心して。今日は、なんとなく二人の様子を見ようと思っただけだから~。神さまの気まぐれみたいなものだよ~』 

「本当に?」

『私が灯里ちゃんに嘘をつく意味も理由もないでしょ? だからそのこわーいオーラを抑えて~』

「…………それもそうだね。でも、もし高原くんが何か悪いことに巻き込まれるかもしれないなら、本当に、ちゃんと、絶対に、教えてよ?」

『わ、わかってるよ~何かあったら真っ先に灯里ちゃんに伝えるから怖い顔やめてよ~。灯里ちゃんってほんと高原くんが関係すると性格変わるよね~』

「自覚はあるよ」


 彼に何か悪いことが起きてるのだとしたら、私には彼を助けないといけない理由があるし、それを抜きにしても助けてあげたいという気持ちがある。


 彼が関係していることだけは、私の中じゃどんな些細なことでも見逃すことはできない。特に、少しでも彼が不幸な目に遭いそうな場合は。

  

「でも私がそうなるのもわかるでしょ? だってあなたは全部知ってるんだから。あの日に起きたこととその結果を」

『……まあね』


 きっとあの日のことを思い出してるんだろう。神さまが難しい顔になった。

 目を閉じなくても、あの日のことはいつだって鮮明に思い出せる。


 あの日――私がまだ小学校だった頃。高原くんが私のことを助けてくれたこと、そのせいで彼の縁が大きく変わってしまったこと、そして、彼が私のことを忘れてしまったこと。あの一日で色々なことが起きてしまった。


 ただ、間違いなく言えるのは、高原くんのおかげで私は今こうして無事に生きてるということ。だから私にとって高原くんは特別な存在なのだ。


『でもそれだけじゃないでしょ? もしあの日、あんなことがなかったとしても、灯里ちゃんは今と同じ感じになってたと思うけどな~。これでも縁結びの神さまだから色々わかっちゃうんだよ? 例えば、灯里ちゃんの気持ちとか~』


 重くなりかけた空気を変えるためだろうか、にや~っと笑って神さまが茶化してきた。私が物心つく頃からの付き合いだけど、この神さまは意外とこういうところがある


 こういうところ日縁ちゃんに似てるなぁ、なんて思ったりするけど、順番的に神さまの方に日縁ちゃんが似たのかもしれない。というか、今更、何を言ってくるのかなこの神さまは。


「そうだね。神さまも昔から知ってるけど、私は今も昔も高原くん――空くんのことを愛してるから。きっとあんなことがなくても今と同じように思ってるに決まってるよ」

『うん、灯里ちゃんにあんないじり方は通用しないってわかってたけど、でもよく、さらっと、あ、愛してるとか言えるね。少しは恥ずかしがったりしないの~?』

「隠したり恥ずかしがったりしても、縁の糸が見えるあなたには意味がないでしょ? それに愛してるのは事実だから、恥ずかしくもなんともないよ」

『事実でも普通は恥ずかしがると思うよ? う~ん、灯里ちゃんも日縁ちゃんに負けず劣らず変な所あるよね。まあ、灯里ちゃんの方は高原くん限定だけど~』

「当然だよ、だって高原くんは特別だから」

『う~ん、やっぱり変な子だね。でも、そんなに高原くんのこと愛してるなら告白しちゃえばいいのに。怪我の功名じゃないけど、灯里ちゃんなら、高原くんの縁の問題はまったく気にしなくていいんだから』

「そ、そんなことできるわけないでしょ。た、高原くんに愛してるって伝えるなんて……そ、想像するだけで恥ずかしいよ……!」

『それは恥ずかしいんだ……でも告白したら絶対に成功するよ? 縁結びの神さまである私が保証してあげる~』

「そんなことはずっと前から知ってるよ。でも今は告白なんてしない。ま、まだ私の気持ちの準備とかもあるし……それに日縁ちゃんの問題だってあるんだから、その件が解決するまで、少なくとも私は何もするつもりはないよ」


 私がそうだったみたいに天崎家に生まれる女の子には縁の問題が必ず付いてくる。


 当然、日縁ちゃんにも縁に問題があるわけで、あの子は私ほど酷い問題じゃないから大丈夫だとは思うけれど、私みたいなことになったらと考えると心配だった。


 そんな気持ちを抱えたまま自分だけ恋人を作るのはなんだか嫌だったし、しかも相手が、あの子が心を許してる高原くんだからね……もしそれが原因で二人の間がぎくしゃくするようなことになったら嫌だもん。


 そういえば昔も同じようなこと考えてたなーなんて小さい頃を思い出していると、ふと、私のことを神さまが微笑ましい感じの目で見ていることに気づいた。


「……言いたいことがあるならはっきり言ってくれるかな?」

『いや~灯里ちゃんも大きくなったな~って。昔はよく日縁ちゃんと喧嘩してたのにね~』

「まあ、私ももう大学生だからね。小さい頃ならともかく今はもう喧嘩なんてしないよ」 

『本当かな~? でも高原くんが絡んだらわからないんじゃない~?』

「それだったら時と場合によるね」

『即答で真顔は怖いよ灯里ちゃん……それだけで本気度がわかっちゃうよ~……』


 いくらお姉ちゃんと言われても、妹にだって譲れないものはあるから仕方ない。


 他のことはともかく高原くんに関してだけは、日縁ちゃんどころか家族相手でも、それこそ目の前にいる神さま相手でも、譲れないと思った時には絶対に折れるつもりはないのだから。

 

『でも、それだけ想うことができる相手がいるのはいいことだと思うよ。こんなに愛されるなんて高原くんも果報者だよまったく~』

「それは違うかな。むしろ果報者は私の方だよ。こんなに想えるくらいたくさんのものを高原くんが先に私にくれたんだから」

『うわぁ~……まさかあ~んなに小さい頃から見てきた灯里ちゃんに惚気られる日が来るとは思わなかったよ~』

「事実を言っただけで惚気たつもりはないんだけど?」

『自覚なしか~あのね、さっきみたいなのを惚気って言うんだよ~? あ~だめだ~やっぱり高原くんが絡むと灯里ちゃんはちょっとおかしくなっちゃうなぁ~まったくもう、こっちが恥ずかしくなっちゃうよ。これ以上ここにいて惚気攻撃されても困るから私はそろそろ退散するね~』


 神さまは顔を赤くしながら仕方なさそうに笑うと、文字が書かれたプラカードをぽいっと放り投げて、ふわふわと飛んで行ってしまう。


 わ、プラカードが一瞬で消えちゃった。あれってどんな原理なんだろう?

 なんてことをぼんやり考えていると、不意に声が聞こえた。


 それは外部からのものじゃなくて、まるで頭に直接、声が聞こえてくるみたいな、今まで体験したことのない不思議な感覚。少なくとも自分の声じゃない。今まで一度も聞いたことのない声だ。


 まるで鈴が鳴るような幼い女の子の声。その声はとても悲しげで、寂しさをこらえる迷子の子どもように、まるで叶わない夢を願うように、言った。


 もし、私の時にも彼みたいな人がいてくれたら――

 

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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