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第三十一話 ゴールデンウィーク 初日の朝

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 一週間は意外と早かった。


 あっという間にゴールデンウィーク初日。せっかくの休みの日だが、今日も今日とて早起きして日課のランニング。


 休みの日なんだから別に朝じゃなくてもよくない? なんて思わなくもないが一年以上続けてると、もう習慣になっていて、休みの日でも自然にランニングをする時間に目が覚めるのだから仕方ない。


 どんだけ夜更かししてても、なぜか5時半くらいに目が覚めるから、割としんどいことの方が多いんだよなぁ……。


 正直、二度寝したい欲求がめちゃくちゃあったりするけど、こんだけ毎日続けてたら、それを途中でやめるのは何だかもったいない気分になるし、なにより体が落ち着かない。まあ、それ以外にもランニング続けてる理由はあるんだけど。


「や、今日も朝から頑張ってるね」


 天崎神社の境内で休憩していると、いつものように巫女服姿の天崎先輩が声をかけてきた。


 手には箒を持っていて、なんというか、ザ・巫女さんって感じだ。


「天崎先輩こそ、朝からお疲れ様です。そして相変わらず巫女さんって感じですね」

「あはは、実際、巫女さんだからね。まあ、まだ資格とか取ってないから巫女といってもアルバイトみたいなものだけど」

「でも雰囲気とか立ち姿とか本職顔負けですよ。今日も巫女服がばっちり似合ってます!」

「それは褒めてるのかな? 高原くんの方こそ、今日もランニングウェア似合ってるね。でもまさか今日も朝からくるなんて思わなかったよ。せっかくのゴールデンウィークなんだから、ゆっくり寝たりしないの?」

「あはは……そうしたいな~とか思うんですけど、なんか毎日やってると落ち着かないといいますか。それを言うなら先輩の方こそ、お休みの日くらいゆっくり寝たいとか思わないんですか?」

「私も高原くんと同じかな。あ、それに、もし境内に私がいなかったら高原くんも寂しいでしょ?」

「はい! 寂しいです!」

「うん、すごくいい返事ありがとう。あのね、私は今、きみのことからかおうとしたんだから、ちょっとくらい恥ずかしがったりしてくれてもいいんだよ?」

「すみません、何故か先輩相手だと素直に本音が言えるといいますか、何を言っても全然恥ずかしくないので」

「だからどうして恥ずかしがらずにそういうことをすらすら言えるのかな?」


 ほんのり顔を赤くして恥ずかしそうに可愛らしく睨んでくる先輩。


 すいません、自分でもそう思います。でも不思議だけど先輩相手なら言えちゃうんですよこれが。


 出会ってまだ一年くらいなのに、なんだか先輩はとても話しやすいというか、他の女子みたいに変にテンパったり緊張したりしないで自然体で話すことができる。気遣いをしないとかそういうわけではないが、本音を言うことに抵抗や遠慮がまったく感じないのだ。


 何なら長年の付き合いがある竜也や、家族以上に話しやすく感じることすらある。本当に不思議。


 まあ、先輩が聞き上手なのもあるだろうけど、話していて心地いいのだ。


 だから実は朝の日課の中には、天崎先輩と話すこと、もこっそり含まれていたりする。こんな恥ずかしいというかキモイ感じのことは、目の前にいる本人には絶対内緒だけど。


 それもあって、ランニングのルートは日によって気分で変えてるが、ここ、天崎神社の境内で休憩してから家に帰るのだけはずっと前から変わらない。

 

「もしかして高原くん、他の人にも似たようなこと言ってたりする?」

「まさか! ヘタレ陰キャの俺がそんなことできるわけないでしょう! 見くびらないでください! こんなこと言えるの先輩だけに決まってるじゃないですか! 信じてください!」

「わ~なんて力強い宣言。先輩はもう呆れて何も言えないよ」

「恥ずかしすぎての間違いでは? 顔真っ赤ですよ?」

「気のせいだよ。もしこれ以上、私をいじろうとしたら、高原くんにも同じ目に遭ってもらうよ」

「先輩が俺と同じことをするんですか? いや、無理でしょ。先輩、初心だし恥ずかしがり屋だし、俺と同じことしようとしても、失敗して先輩の顔があの鳥居みたいに赤くなるだけじゃないですか?」

「この後、日縁ちゃんに高原くんが伏見さんをナンパした話を言っておくから、お昼に遊びに来た時、日縁ちゃんに死ぬほどいじられてね?」

「すいませんでした許してください」


 にっこり笑顔の先輩に全面降伏。

 あんな黒歴史が天崎に伝わるなんて想像するだけで恐ろしい。


 ゆーちゃんが幼馴染だってばれただけであんなにいじられたんだから、ナンパなんてした挙句、全力で逃げ出したなんてバレたら、どんな目に遭うか……!


「言い出した私が言うのもあれだけど、日縁ちゃんのいじりってそんなになの?」

「姉である先輩に言うのは申し訳ないですけど、あいつのいじりはすごいです。そしてめちゃくちゃしつこいです」

「あはは……それだけ日縁ちゃんに気に入られてるってことだから許してあげて?」

「いやまあ別にそこまで嫌とかじゃないんでいいんですけどね。けど俺って気に入られてるんですか?」

「それは間違いないよ。なんて言えばいいんだろ、日縁ちゃんって極端というか、自分が仲が良いと思ってる人にはとことん自分を見せるし、そうじゃない人には一切見せないって感じなの。だから、いじられるってことは、仲が良いと思われてる証拠だよ」


 先輩の天崎評を聞いて、納得した。


 そういえばあいつ自身も素が見せられるのはよっぽど親しい人でないと無理とか言ってたっけ。

 なるほど、いじられるってことは俺は天崎のお気に入りってわけだ。


 なんとなく境内の奥にある社務所の方に視線が向いた。神社の景観に沿った、二階建ての和風っぽい大きい建物だ。以前、先輩に聞いたが、その社務所と自宅が一体化してるらしい。神社の人って社務所住んでるのかって驚いたのを覚えている。


 今頃あいつは絶対爆睡してるんだろうな。昨日、明日からお休みだし今日は徹夜でゲームするんだ! ってそりゃもう、うっきうきだったたし……まさかまだ起きてたりはしないだろうな? 昼から遊ぶ約束してるのに朝の六時頃まで徹ゲーとか死ぬぞ。

 いや、でもあの天崎なら十分ありえそうだな……もしそうなら遊ぶのは別の日にするか時間ずらした方がいいか? いやでもあいつのことだから、それも嫌がりそうだしな……。


 そんなことを考えていると、急に天崎先輩がおかしそうに笑った。


「ふふ、もしかして日縁ちゃんのこと考えてる?」

「なんですか先輩もしかしてエスパーですか。それとも巫女さんパワーですか」

「エスパーでもないし巫女にそんな力はないよ。あの話の流れでうちの方じっと見てたら誰だって気づくよ」

「いや、それでもこんなピンポイントで考えてたこと当てれます?」

「当てれます。なぜなら私は高原くんの先輩で日縁ちゃんのお姉ちゃんだからね」

「す、すごい、まったく答えになってないのに謎の説得力がある……!」


 というか、えっへん、と自慢げに胸を張る先輩。いや可愛すぎんか。


 その姿は天崎とよく似ていて、二人が姉妹だということを実感する。人間って不思議だ、髪型も体格も違うのに血の繋がりというか、そういうのがなんとなくわかる。


 先輩は天崎みたいに背が低くないし、顔つきも幼げで可愛い系の天崎とは違い、大人っぽい綺麗系だ。胸も普通に大きい方だと思うけど、そこは圧倒的に天崎の方が強いだろう。見た目で言えばそこまで近いわけじゃないのに、仕草だけでここまで似てるって思えるんだな。


 まあ二人とも方向性は違えど、めちゃくちゃ美人なのは間違いない。


 って俺はなんで先輩をまじまじ見ながらそんなこと考えてるんだ。いくら先輩が優しいとはいえ失礼だろうし、最悪セクハラと言われてもおかしくないぞバカ野郎。気安いとはいえ気遣いを忘れてはいけないのだ。


「こ、こほん。まあ、それはともかく、笑ったのはなんでです?」

「だって高原くん、だらしない妹に呆れながらもなんだかんだ文句言いながら心配してるお兄ちゃんみたいな顔してたから、なんだか面白くて」

「具体的過ぎません? どんな顔ですかそれ」


 実際にそんな妹がいる身としては、天崎先輩の言おうとしてることは何となくわかる。でもそんな風に天崎のことを見た覚えはないんだけど……え、もしかして俺って潜在的に天崎を妹みたいに見てるってこと? ヤバくない? 自覚がないところがなおさら。

 しかもさっきそんな顔してたの? さらにそれを姉である先輩に見られて指摘されるとか……。


「妹さんをそんな目で見てしまいすみませんでした……」

「どうして謝るの? むしろ日縁ちゃんのこと気にかけてくれてありがとうって言いたいくらい。高原くんが良かったらこれからも日縁ちゃんと仲良くしてあげてね」

「え、いや、そんな、先輩に言われなくても、天崎とは仲良くしたいと思ってますよ。でないと今日みたいに休みの日に遊ぶとかしないですし」

「だよね。ごめん、ちょっと野暮が過ぎちゃった。最近、ご飯の時なんかよく高原くんの話題が出るから、色々気になっちゃって。あんまり変なことされたり、しつこくいじられすぎたら遠慮なくビシバシやっちゃって大丈夫だから。お姉ちゃんが許します」

「大丈夫です、もういじられたら逆にいじりかえしたりしてるので。まあ、それはそれとして……ご飯の時に俺の話題が出るってどういうことですか?」

「言葉通りの意味だけど? きっと毎日楽しいんだろうね、日縁ちゃん、ご飯の時によく高原くんの話するんだ。そのおかげか、最近うちの家族の間だと高原くんがトレンド第一位だよ。うちの両親も高原くんに興味津々みたい」

「ちょちょちょちょっと待ってください先輩、さすがにそれは冗談ですよね? 冗談だって言ってください、俺、昼に先輩の家にお邪魔するんですよ? そんなこと聞いちゃったら気まずいどころの騒ぎじゃないですよね?」


 いや、よく話してるって言ってたけど、そんなに話題になるような要素、俺にないだろ!? 天崎のやついったい何を話してるんだ……想像ができな過ぎてめちゃくちゃ怖いんだが!?

 しかも親御さんにも興味持たれてるとか、どんだけ俺のことしゃべってるんだあいつは! 色んな意味でこの後、遊びに行くのに緊張するだろうが!

 ていうか年頃の娘から毎日毎日、同級生男子の話聞かされる天崎パパの気持ちよ! 俺がパパさんの立場だったら、そいつがどんなやつなのかめちゃくちゃ気になるぞ! 

 あ、だから先輩が言ってるみたいに興味津々なのかあははー…………もしかするとこれはちょっとやばいんじゃないか!? 


「あの先輩、この後、遊びに来た時、いきなり先輩のお父様に尋問されたりしないですよね? きみ、うちの娘とはどういう関係なんだい? みたいな」

「ないない。うちのお父さんはそんなことするタイプじゃないよ」

「いやでも、娘がいきなり知らない男の話を毎日のようにし始めて、そいつが家に遊びに来るなんてなったら、母親はわかりませんけど、父親的には絶対、穏やかな気持ちじゃないですよ?」

「そうなの? でも、だったらなおさら大丈夫だと思うよ。だって、日縁ちゃんが色々話し始めるより前から、お父さんもお母さんも高原くんのことはよく知ってるし」

「はい!? なんで先輩のご両親が俺のことを!?」

「だって毎朝こうして私と話してるところ何度か見られてるから」

「マジですか……」


 思わず周りを見回してしまう。まさか今この瞬間も見られてたりするんだろうか。


「あはは、大丈夫だよ。両親には恥ずかしいから見に来ないでって言ってあるから。今はもうのぞき見したりしてないから安心して」

「その言い方だと、これまでは何度かのぞき見されてたんですね。まあ、こんな朝っぱらから自分の娘が、顔も名前も知らない謎の男と話してたら気になるのも当たり前ですよね」

「そうかもしれないけど、もっとデリカシーを大事にして欲しいよ。心配ないって伝えるために高原くんのこと説明したら、今度は、お父さんもお母さんも高原くんに挨拶しようとか言いだしちゃうし……止めるのに苦労したんだよ?」

 

 その時のことを思い出したのか、ちょっと疲れたように先輩が息を吐いた。

 先輩のご両親には申し訳ないが、挨拶されても困るだけなので、止めてくれてた先輩に感謝だ。


 けど言われてみたらそうか、こうやって毎日神社で話してたら誰かに気づかれるに決まってる。


 先輩が俺をどんな風に説明したのも気になるところだけど、この常識的な先輩のことだから普通に、当たり障りない感じでただの後輩だって説明してくれてることだろう。


 天崎は心配だが、先輩だとまったく心配にならない。なんだろう姉妹なのにこの安心感の差は。


「とまあそんな感じだから、少なくともうちの両親の中で高原くんは知らない男、って認識じゃないし、あったとしても、うちの娘がお世話になってます、みたいに挨拶されるくらいじゃないかな?」

「あの先輩、それもそれで気まずいんですが」

「だよね、私もそう思う。だから何もしないように後で二人に言っておくよ」

「ご両親には申し訳ないですけどその方向でお願いします……」

「うん、任された。まあ、日縁ちゃんほどじゃないけど私も家で高原くんの話をしたりするから、二人が気になる気持ちもわかるんだけどね」

「ちょいちょいちょいちょい! え!? ちょっと天崎だけじゃなくて先輩もそんなことしてるの!? そりゃご両親も興味津々ですよ! 具体的にどんなこと話したんですか!?」

「…………恥ずかしいから内緒。でも大丈夫、悪いことは言ってないから安心して」


 そう言って先輩はちょっと頬を染めてはにかむ。


 恥ずかしそうにしてる先輩も可愛い! けどそんな場合じゃない! 安心できない! まったく安心できないですよ天崎先輩!


 さっきまであった安心感が一気に吹き飛んだ。

 つまり俺は天崎家じゃ、年頃の娘二人ともが話題にする男子なわけだ。


 しかも姉の方とは毎朝会って話をしてて、妹の方とは同じ学校でしかも二人しかいない生徒会役員、そりゃ興味津々にもなるわ! なんなら知らない男と同じかそれ以上に興味が湧くぞ! もし俺がご両親の立場でも絶対に気になる! 父親だったら特に! え、これ、本当に尋問されたりしないよな? 


 妙な不安と気まずさを覚えながら、とりあえず今日遊びに行く時には何か菓子折りでも持っていこうと思う俺であった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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