第三十話 約束と左腕
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「空ちゃん、こ、今度のゴールデンウィークって何か予定ありますか?」
「……………………な、ないですけど?」
「なんでそんな緊張してるんだお前」
そりゃ、同級生女子からのお泊りのお誘い、なんてとんでもないイベントを回避した次の日に、朝っぱらから屋上に呼び出されてそんなこと聞かれたからだよ。
昨日は異性を意識してなさすぎる天崎を何とか言い聞かせて、お泊りはなしで普通に遊ぶ、という感じで落ち着かせることができた。もし、お泊りなんてしたらきっとヘタレの俺は間違いなく死んでしまう。
というか、普通に遊ぶにしても天崎に部屋なわけで、妹以外に女子の部屋なんて入ったことがない俺にしてみたら、それだけでも今からドッキドキだ。
泊りがけじゃなくなったことに安心した俺とは違って不服そうにしていた天崎に、いっそ俺がどんな風に天崎のことを見てるか言ってやった方がいいのかとも思ったが、色々考えるとリスキーすぎるのでそんなことをする勇気はなかった。
そんな感じで割と大変だった次の日に、まさかのゆーちゃんから屋上に呼び出されてそんなこと聞かれたら緊張もする。
ゆーちゃんが天崎みたいなことを言うことはまずありえないけど、昨日の流れがまだ頭に残ってるというか、前、屋上に呼び出された時みたいに何かまた俺が知らない衝撃的な事実でも言うんじゃないかって先入観があるというか……。
まあ、今回は竜也も一緒だったし、そんなことはないだろうなとは思ってたけど。
「つーかなんか挙動不審だな? ゴールデンウィークの予定って言われた時、一瞬、体が固まってたし、何かあるのか?」
「お前どんだけ俺のこと見てるんだよ! ちょっと怖いわ!」
「いやそこまで見てねえよ、なに気持ち悪い感じのこと言ってんだ。普通にお前がわかりやすすぎるだけだ。なあ?」
「う、うん、私もちょっと思いました。一瞬だけど、何か思い出してるみたいな目の動きをしてましたよね」
「ゆーちゃんもかい! お前らちょっと俺のこと観察しすぎだろ!? そんなに細かいところまで見てるとか、もしかして俺のこと大好きか!」
しーーーーーーーーーーーーーーん。
朝の屋上に一瞬で静寂が舞い降りた。朝練を頑張る生徒たちの声がやけに大きく聞こえる。
「ちょっと待て俺が悪かったからせめて何か言ってくれ! ボケのスルーだけはしちゃだめだっていつも言ってるだろうが竜也ぁ!」
「いやお前があまりに気色の悪いこと言い出すから……」
「そうだねごめんね俺が悪かったよ! ふし――ゆーちゃんもごめんなさい! もし気持ち悪かったら気持ち悪いって素直に言っていいんだからね!?」
「え!? その、だ、大丈夫です……よ?」
「めっちゃ疑問形! あのさ、俺が言うのもなんだけど、思ったことは素直に言っていいんだよ? ていうかキモイならキモイってはっきり言って! 逆に気を遣われる方が気まずいから!」
「ほ、本当に気持ち悪いなんて思ってないです! その、不意打ちすぎて、どきっとしたというかびっくりしちゃったというか……と、とにかく気にしないでください!」
そうは言いながらも、めちゃくちゃ何か言いたげに見てくるゆーちゃん。そしてそんな彼女にどう返せばいいのかわからず黙ってしまう俺。
微妙に気まずい雰囲気が俺たちの間に流れる。
昨日、竜也に言われたように昔、というか竜也と同じ感じで接してみたけど、これはやめた方がいいかもしれない。
ブランクがある幼馴染との距離感って難しい。そして竜也、早く助けろ。この空気にしたのは俺だけど、どうしていいかわからん。
何とかしてくれ、と幼馴染(男)に目で訴える。めちゃくちゃ呆れた顔でため息をつかれた。今回は甘んじて受け入れる。俺がしょうもないこと言ったのが悪いからな!
「それで空太、結局、ゴールデンウィークに予定はあるのか?」
「あ、そ、そうです、ゴールデンウィーク! ど、どうなんですか空ちゃん? も、もしかして、もう予定埋まっちゃってますか……?」
「い、いや埋まるどころかほとんど真っ白だけど」
「だろうな。だから言っただろ? 間違いなく空太にゴールデンウィークの予定なんてないって」
「それはその通りだけど失礼だな竜也ぁ!」
たしかに竜也の言う通り、まぎれもない事実なんだけど、こうして言葉にされると腹が立つな!
だが甘いな竜也、こう見えて今年の俺には一応、予定があるんだよ!
「そ、そうなんですね! だ、だったら――」
「だがしかぁし! ほとんど真っ白なのであって皆無ではない! なぜなら天崎と遊ぶ予定があるからな!」
しーーーーーーーーーーーーーーん。
朝の屋上に静寂再び。相変わらず生徒たちは朝練を頑張ってるらしい。
そういえば中学の時は俺もたまーに朝練してたなー……っていうか何で二人とも無言?
二人とも、ぽかん、といった形容にぴったりの顔をしている。そんなに俺にゴールデンウィークの予定があるのが以外なのか。
「まさか空太が休みの日に女子と遊ぶ日が来るとは思わなかった」
「急に黙ったかと思ったら第一声がそれかい! 気持ちはわかるけどその感想は失礼すぎるだろ!」
「いやすまん。だってお前、今まで女子と遊びに行くとか絶対しようとしなかっただろ。中学の時なんか何回か誘われてたのに断ってたし」
「しようとしなかったんじゃない、その機会が訪れなかっただけだ! ていうか中学の時に女子に遊びに誘われるとか一回もなかっただろ。この野郎、悲しい事実をわざわざ口にさせるんじゃないよ。あの頃なんて竜也と遊びに行きたがってる女子しかいなかっただろうが」
「そんな感じのことを言うだろうと思ってたよ。はぁ……やっぱり安定の空太だったか……もう予想通り過ぎてむしろ安心したわ」
「お、出たな最近流行りの呆れ顔。もう一周回って飽きてきたぞこっちは。ちょっとバリエーション増やした方が――」
「天崎さんと遊ぶんですか!?」
「おわびっくりしたっ!?」
さっきから何故か固まってたゆーちゃんだったが、急にスイッチが入ったみたいに、めちゃくちゃ驚いた感じで前のめりで聞いてきた。
近い近い近い! そんな問い詰めるみたいに来られても困るから! 距離感大事にして! アイドル的にもお年頃の女の子的にも!
「ちょっとゆーちゃんさん!? もうちょっと離れて! 当たる! 体が当たりそうだから!」
「え、え、でもそんな、い、いつの間にそんな遊びに行くくらい仲良しになったんですか!?」
「うん、まったく聞いてないね! 天崎とは生徒会活動を通して自然に仲良くなりましたっ!」
「し、自然に! う、うぅ……! ど、どこに遊びに行くんですか!? も、もしかしてで、デートなんじゃ……」
「デート違う! 普通に天崎の家でゲームするだけ!」
「お部屋デートじゃないですか!!」
だからデートじゃないって言ってるだろ! ちくしょう! なんでこうも年頃の女子ってやつは何でもかんでもデートにしたがるんだ!
まさかゆーちゃんも、天崎と同じ感じの面倒くさいいじり方してくるとは思わなかったぞ!
「し、しかもれ、連休ですし、も、も、もしかして、お、お、お、お泊りデートだったりするんですか!?」
「だからデートじゃないし、泊りはなんとか断ったわい!」
「……断った? いま空ちゃん、断ったって言いました?」
あ、やばい、いま絶対、余計なこと言った。
さっきまで感情表現豊かな感じで騒いでいたゆーちゃんが、一転、ぴたりと静かになった。ものすごい真顔になってるのがめちゃくちゃ怖い。うつむいてしまって表情をうかがえなくなると恐怖がさらに増した。
そして、しーーーーーーーーーーーーーーん。
二度あることは三度ある。この三回目の静寂が一番落ち着かない。そしてめっちゃ不穏。部活とかしてないけど、聞こえてくる朝練に今すぐ混ざりに行きたい。
「…………………ずるい」
「は、はい?」
「天崎さんばっかりずるいです! 私も! 私もゴールデンウィーク空ちゃんと遊ぶ! 空ちゃんとお泊りする!」
「ちょ!? な、ななな何でいきなりひっついてんの!? 当店はおさわり禁止でございますよ!? ていうかお泊りって何ですかゆーちゃんさん!?」
急に顔を上げたかと思うと、とんでもないことを口走りながら、泣きそうな顔で俺の左腕にしがみついてきたゆーちゃんにパニックになる。
ああああああああ! 鼻腔をくすぐるゆーちゃんのいい香り! そして左腕から伝わるゆーちゃんの体の柔らかい感触! そしてさっきなんて言った!? 遊ぶはともかくお泊り!? お泊りって言ったか!? 俺が!? ゆーちゃんと!? お泊り!?
あばばばばばばばばばばばばばばば!! ゆーちゃんから与えられる圧倒的情報量に脳がパンクしちゃうううううううううう! 助けて竜也ぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!
「ああ、なんか懐かしいわ。昔もこんな感じでお前ら引っ付いてたよな」
「懐かしんでる場合か!? いいから早く助けろ! 助けてくださいお願いします!」
「えぇ……お前からそいつ引っぺがすの昔からめちゃくちゃ面倒だから嫌なんだが……おーい結月ー空太が限界っぽいから放してやれー」
「いや!」
「だってよ空太? もう左腕くらい結月にくれてやったらどうだ」
「だってよ? じゃないんだよバカ野郎! もうちょい真剣にやれ!」
なんてあてにならない幼馴染なんだ! まあ、逆の立場だったら竜也と似たような感じになってた気はするけども! こうなったら自分で何とかするしかない!
まず、匂いを感じないために極力呼吸を浅くして意識を全力で左腕から逸らす! 力づくで引きはがすのは万が一ゆーちゃんに怪我をさせたらまずいので却下。なんとか左腕を解放してくれるよう交渉するしかない!
「あ、あのー……ですね? ゆーちゃん? お、落ち着いて話しあうためにさ、と、とりあえず離れない?」
「いや」
「そっかいやか~ははは~……じ、じゃあ、どうしたら放してくれる?」
「…………約束」
「や、約束?」
「ゴールデンウィーク、一緒に遊ぶ約束してくれる?」
「え、あ、お、おう! するする! もう目いっぱい遊んじゃうぞ~!」
「お泊りも?」
「それは無理!!」
「でも天崎さんとはお泊りするんだよね……?」
「しないから! 断ったって言っただろ! そこは幼馴染を信じろよ!」
「…………………わかった、信じる」
ゆーちゃんのやつ、いま割と信じるか悩んでたな。なんでそこまで疑うのか。
仮に、本当に天崎と泊りがけで遊ぶとしても、ゆーちゃん相手にわざわざ嘘なんてつく必要がないし、その理由もないのに。女子って生き物は不思議というか、やっぱりよくわからないところがある。
まあともかく交渉は無事成功、ようやく人質ならぬ腕質が解放されることが決まったはずなのだが、
「あ、あの……ゆーちゃん? 放してくれない?」
「あ、えっと、その……は、放さないとダメ?」
「いやダメっていうかほら、そういう約束だったでしょ? ね? いい子だから俺の腕を放そう?」
「…………そ、空ちゃんは昔みたいに私にくっつかれるの嫌?」
「そっ――んなわけないだろ。こんなん俺みたいなモテない高校生男子にとっちゃ夢みたいな出来事だよ! もう好きにしなさい!」
「やった……! えへへ、久しぶりの空ちゃんの感じ、昔と変わってない……すごく落ち着く……」
「竜也頼む助けてくれ。俺はもうだめかもしれない」
「いや弱すぎるだろお前」
だって寂しそうにあんなこと言われたら、放してくれなんて言えるわけないだろ!?
押しに弱い上にお人好しとか、そういうところ直さないと損するよ~みたいなことを昨日天崎が言ってたのをふと思い出した。
もしかしなくても、こういうところがそうなのか? いやでもこれ損か? こんな風に女子にくっつかれるなんて男子にとっちゃご褒美以外の何物でもないし、むしろ得しかしてないんじゃ――あ、やばい、だめだ、女子への免疫というか物理的接触の経験がなさすぎて顔が熱っつい! もうだめ降参! 白旗です! だからゆーちゃん離れてくださいもう色々と限界だから!!
ちくしょういつの間に俺の左腕は感度数千倍に改造されたんだ! ものすごい柔らかさとあたたかさで頭がおかしくなりそうなんだが!?
結局この後、竜也がゆーちゃんを引きはがそうと説得してくれたがまったく効果なし、予鈴が鳴るまでゆーちゃんは左腕を解放してくれなかった。
正直、チャイムが鳴ったのをあんなにありがたいと思ったのは生まれて初めてかもしれない。
なお、三人で教室に向かっている途中、わざわざこんな朝に屋上に呼び出したのは、ゴールデンウィークに幼馴染3人で遊ぼうと誘うためだったとゆーちゃんから改めて説明された。
屋上に呼び出したのは、教室で話をしたら前みたいに目立ちかねないから竜也が気を遣ったとか。
その気遣いはまったくもって大正解。教室でさっきの屋上みたいなことが起こってたら、それはそれはえらいことになってただろう。
改めていろんな面で優秀過ぎる幼馴染に心の底から感謝する俺だった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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