第二十八話 連休と女装
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「ふ~んふふ~んふふ~ん~」
休み時間のたびに俺とゆーちゃんのことについて質問してくる人たちへ、朝、幼馴染会議で決めたようなあいまいな回答を繰り返すこと数十回。
なんとか放課後までのらりくらりと追究をかわし、生徒会室に避難すると、めちゃくちゃご機嫌そうな天崎がいた。
ふんふん鼻歌まで歌っちゃって、何かいいことでもあったんだろうか。今日一日、記者に囲まれる政治家みたいな気分を味わって割とげんなりしてる俺とは大違いである。
生徒会室に入ってきた俺と目が合った天崎は、軽やかな足取りで俺のところまでやってきた。そしてにっこり笑って言う。
「あと一週間でゴールデンウィークだよ!」
「お、おう、そういえばそうだな。それはわかったけど、何でそんなにテンション高いんだよ」
「だって、待ちに待った連休だよ? れ・ん・きゅ・う! 学校に行かなくてもいいし、授業なんて面倒くさいことを何時間も聞かなくてもいいなんて最高じゃん!」
「いやまあその気持ちはめちゃくちゃわかるけど、そんなにご機嫌になるほどか?」
「なるよ! むしろどうして高原くんはならないの? ゴールデンウィークっていう連休があれば、噂もある程度、落ち着くかもしれないのに。運が良かったら、そのまま忘れられるかもしれないよ?」
「その発想はなかったわ。ゴールデンウィーク最高かよ」
確かに天崎の言う通り、連休を挟めば注目される度合いもマシになるかもしれない。
人間の興味なんて移りやすいものだし、定期的に思い出させるようなことをしない限り噂なんてすぐに忘れ去られるものだ。だから連休は大いに効果的だろう。
少なくとも、学校が休みなので今日みたいに質問攻めにされることはなくなる。それだけでも俺のメンタル的に助かるのは間違いない。
「というか、もう四月も終わりなのか……」
思い返してみると、なんだかあっという間だった気がする。
まあ、どう考えても色んなことが起きすぎてるせいだろうけど。
いや本当に色々ありすぎたぞ……彼女が欲しいって竜也に相談したらナンパさせられるし、必死にナンパしてみたらそれがクラスメイトのアイドルだったし、しかもその次の日に唐突に生徒会入りさせられるし。
そこから天崎の本性に驚かされたり縁結びの神さまなんてファンタジーな存在が現れたり、実は隣の席のクラスメイトがコスプレ趣味の女の子で彼女の撮影会に参加することが決まっちゃったり、挙句の果てにはナンパしたアイドルの正体が仲の良かった幼馴染だったり。
いやこの出来事の濃さよ。こんなん胃もたれどころか胃に穴が空くわ。
「な~にしみじみ~って感じで言ってるの?」
「そりゃしみじみもするわ、今月どれだけのことが起きてると思ってるんだ」
「そんなに何かあったっけ? 可愛いアイドルの幼馴染とスキャンダル疑惑くらいでしょ?」
「スキャンダル言うな何もしてないから。それもあるけど、一番は生徒会に入ったことだよ」
「そんなに生徒会関係ある? せいぜい、縁結びの神さまに呪われてる宣言されたことと、仁美の趣味を知ったことくらいでしょ?」
「山本さんの方はともかく、神さまの方はどう考えてもせいぜいってレベルじゃないだろ。ていうかま~た呪われてるとか言ってるけど、前みたいに神さまに聞かれて怒られても知らんぞ俺は」
「へーきへーき、なんか気になる子がいるらしくて、最近はずっとその子を追っかけてるらしいし。前みたいにわたしの後ろでこっそり聞いてたりはしないよ。しないよね? ちょっとどこ見てるのその視線やめてよ」
出来心でわざとらしく天崎から視線を外してやると、途端に慌て始めた。天崎の動きが完全に肉食獣を警戒する小動物過ぎて笑いそうになる。
当然だが、天崎の後ろに肉食獣もとい神さまはいない。
おそるおそる後ろを振り返って確認した天崎だったが、誰もいないとわかると勢いよく俺の方を振り向いてきた。
「ちょっと神さまなんていないじゃん!?」
「俺は神さまがお前の後ろにいるなんて一つも言ってないぞ?」
「言ってないけど目が語ってたじゃん! あれは絶対にいる雰囲気だったよ!」
「そうか? 俺はただぼーっとお前の後ろの方を見てただけだぞ?」
にやりと笑ってやると自分がからかわれたことに気づいたらしい、天崎はわかりやすく拗ねた表情で睨んできた。
「ううううううう! た、高原くんは結構いじわるだよね! わたしみたいな幼気な女の子をいじめて楽しむなんて絶対にSだよ! この童貞どS男!」
「だから童貞って言うんじゃないよ! いつもいじったりからかったりしてくるんだからたまには仕返しくらいさせろ! あと別にSでもない!」
「え、じゃあMなの……?」
「そうやって隙あらばからかってくるから仕返しされるんだぞ? あとSかMのどっちかに当てはめようとするのやめろ。俺はSでもMでもない普通のノーマルだ」
「え~本当にござるか~?」
「言ったそばから早くもおちょくってきやがる。何で俺が普通じゃないかもって疑われないといけないんだよ」
「だって次の仁美の撮影会で女装するんでしょ? いやぁ……まさか高原くんに女装したい願望があったなんて知らなかったなぁ。わたしにはよくわからないけど、男子の間じゃ女装願望って普通なの?」
「待て待て待て待て! 女装なんて絶対にしないぞ俺は! ていうかなんで俺が女装することになってるんだ!?」
「え、なんか仁美にそんな感じのこと言ったんでしょ? 仁美、めちゃくちゃ張り切ってたよ?」
「違う! まさか女装なんてしないだろうなって聞いただけだ!」
「うん、仁美もそう言ってたよ。でもそんなこと聞くくらいだから女装に興味あるのかなーって」
「ねえよ! それに山本さんにも女装は絶対にしないってはっきり言ったんだが!?」
もしかして人の話を聞かないタイプなのか山本さんは。何をとんでもない方向に張り切ってくれてるのか。
「え、そうなんだ。ごめんわたしてっきり興味あるんだと思って仁美に色々言っちゃった」
「お前こら何を言った! 何を言ってくれやがった!」
「そ、そんな直接的なことは言ってないよ? ただ、この世には、嫌よ嫌よも好きのうち、押すなよ押すなよ的なフリ、ってものがあるんだよ~って教えてあげただけで……あと、高原くんはちょっとツンデレなところがあったり、割と押しに弱いよ~って……」
「よしわかった絶対に許さん」
「ご、ごめんってば! あ、あとでちゃんと仁美に伝えておくからそんな怖い顔で睨まないでよ~!」
「後でじゃなく今すぐにやるんだよバカ野郎! さっき呪われてるって言ってたこと神さまにチクるぞ!」
「明日やろうはバカ野郎だもんね! 今すぐやります!」
大慌てで山本さんに連絡を取り始める天崎。
いや言っておいてなんだけど、そんなに神さまにバレるのが怖いなら呪われてるとか普段から言わなきゃいいのに。
ていうか誰がツンデレだこら。押しに弱いのは自覚あるけどツンデレの要素はまったくないぞ。
「もしもし仁美さん。今、少しお時間大丈夫ですか?」
すげえ、さっきまでめちゃくちゃテンパってた感じだったのに、一瞬で冷静になりやがった。
一瞬で会長モード(命名天崎)になり、山本さんと電話でやり取りを始める天崎。
どうやったらあんな瞬時に切り替えができるのか。ていうか前も思ったけど、友だちなのに俺に話すみたいに砕けた感じじゃないのは何でだ?
なんて疑問が湧いたが、友だちへの接し方なんて人それぞれだし、もしそこにデリケートな問題でもあったら首を突っ込むと間違いなく面倒なことになる。なんとなく気にはなったがスルーすることに決めた。
そんなことより女装は!? ちゃんと女装は撤回できてるんだろうな!?
部屋の隅の方へ移動して通話をしている天崎を、祈るような思いでじっと見つめるのだった。
数分後、電話を終えた天崎がこっちを向いてピースしてきた。
お、これは大丈夫だったか。
「男物と女物、二着分準備するって」
「なんでそうなった!?」
ていうかそれピースじゃなくて二着分って意味か! 紛らわしいわ!
「いや、なんか高原くんから女装の話を聞いて、女装用の服も作ってみたいって欲望が湧いちゃったんだって。だから、着てもらえなくてもいいから作るだけ作るらしいよ」
「どうしてそんな欲望がわいちゃったんだ山本さん……!」
「仁美は自分の欲望に素直すぎるとこがあるから仕方ないよ」
「友だちのことをそういう風に言うのはやめてやれよ……」
「だって事実だもん。はぁはぁ興奮しながらコスプレ撮影してるところなんかまさにそうでしょ」
「いやまあ……そうだけど……」
あの撮影会の時の様子を出されてしまうと否定できない。
あの時の山本さん、見事に自分の欲求に心の底から従ってた感じだったもんなぁ……。
「でしょ? 次の撮影会じゃ多分、高原くんもはぁはぁ言われながらパシャパシャされるから覚悟しておいた方がいいよ?」
「えぇ……天崎ならともかく俺で?」
「間違いなくすると思うよ? きっと男物のコスでも女装の方でも。まあ、女装の方は作りはするけど別に着なくてもいいって言質を取ったから、女装は無事回避できたわけだしよかったじゃん。これで次の撮影会は、男キャラの衣装を着て興奮した仁美に激写されるだけで済むよ」
「だからその言い方よ……でもわざわざ作ってくれたのに着ないのはなんか申し訳ないような気がしてくるな」
「……高原くんさぁ、そういうところ直さないといつか損するよ?」
「いやけどさ! 前、気になって調べてみたけど衣装作るのって手間も時間もかかるみたいだし! それにほら、頑張って作ったものを放置するのはなんか心が痛むというか……」
見たこともないのに、しょんぼりとした山本さんの姿が思い浮かんでしまう。
いや本当にそんな感じになるのかはわからないけど! もし自分が山本さんの立場だったら残念に思うんだろうなぁ、なんて考えちゃうと……。
「ほら女装して死ぬわけでもないし、だったら別に着てもいいかなぁ、なんて思っちゃったり……」
「なんでそんな風に思っちゃうかなぁ……冷静になろ? 仁美が別にいいって言ってるんだから何も気にしなくていいんだって。押しに弱い上にお人好しとか、ほんと悪い人に捕まったら死ぬまでカモにされるよ?」
「天崎みたいなやつとかにか?」
「そうそうなし崩しに生徒会に入れられたり――って違うよ! まったく……ちょっとだけ真面目に言うけど、高原くんのそういう優しいところは美点だしわたしも好きだよ? でもほんとにもうちょっと気を付けて。特に女の子には。変なのに捕まったら一生後悔するからね?」
「あー……心配してくれてありがとな、気を付けるよ」
「うん、心配してる。だから本当に気を付けてよ?」
真剣な感じで心配そうに言ってくる天崎に、なんだか照れくさい気持ちになった。
こいつたまに真面目な感じになるけど、からかってくる時とのギャップがすごいな。
「いや~でもあれだね、高原くんさ、やっぱり女装したかったんじゃないの? 申し訳ない~なんて言って、わざわざ自分から女装する感じに持って行ったしさ~」
惜しむらくはその真剣な感じがあまり長続きしないどころか、場合によったら秒でからかう方向にシフトすることだろう。
さっきまでの真剣な空気が、俺と同じように照れくさかったのか、はたまた、うまいことからかえる流れに持っていけそうだと思ったのか、一転して、天崎がめちゃくちゃにやにやしながらいじってくる。
その姿を見て、なんか天崎らしいなぁ、なんて思う俺だった。
「ねえねえどうなの? 女装趣味なの? それとも女の子になりたい気持ちがあるの? もう、それならそうと早く言ってくれたらよかったのに~」
ただ、この調子に乗りやすいところだけは何とかした方がいいような気がする。
「ねえねえどうなのどうなの~? ほらほら~隠してないで本音を言っちゃいなよ~実は女装したいんでしょ~女の子になりたいんでしょ~……ぶふっ! あ、ダメっ……た、高原くんがっ! ぶ、ブラ付けてるとこ想像しちゃった! こ、このブラで……ひっ……だ、だいきょ……んふっ……大胸筋を鍛えてるんだって何その言い訳! あはははははははははは! お腹痛い!」
前言撤回、早急に何とかしなければいけない。俺の心の平穏のためにも。
極めて失礼な想像をして大爆笑している天崎を見て、そう決意するのだった。
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