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第二十五話 邪魔とプレッシャー

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

「わ、私っ! い、一緒に遊んでたあの頃からずっと……! ずっと空ちゃんのことが――!」

「失礼します」


 ゆーちゃんの言葉を遮って、教室のドアが開く大きな音と、静かな、それでいてはっきりと聞こえる声が教室に響いた。


 タイミングをうかがっていたかと疑いたくなるくらい絶妙な入室に、俺もゆーちゃんもクラスメイト達も思わずその声の主の方を見てしまう。


 そいつは綺麗な礼儀正しい所作で頭を下げると、いやこのタイミングで? みたいな目で見るクラスメイト達の視線なんてまったく気にしていないかのような堂々とした態度で、ゆっくりとクラスメイト達の間を抜けて真っすぐ俺たちの元までやってきた。


 そして、もはや今となってはギャグか不気味にしか見えない外面の笑顔で俺に言う。


「高原くん、早く生徒会に行きますよ」


 いつも生徒会室に各々集合してたのに、何で今日に限って一緒に行こうとするのか。


 ていうかお前この空気よ! よくさっきの雰囲気ぶち壊して入ってこれたな! すごすぎて尊敬するわ!


「帰り支度は済んでますか?」

「は、え、いや、まだだけど……」

「でしたら手早く済ませてください」


 何事もないような涼しい顔で話し続ける天崎。


 こいつのメンタルどうなってんの? 羞恥心とか注目されるストレスとかはないのか? ないんだろうなぁ……さっきの空気ぶち壊して教室に乱入できたくらいだし。


 さっきからクラスメイト達が、天崎のことをじ~~っと見ているのに、こいつは何でこんな顔色一つ変えないでいられるのか。変なところのメンタル強すぎるだろ。


 ただ、そんな天崎の図太さに、助かった、なんて思ってしまっている俺が何とも情けない。


 ゆーちゃんが何を言おうとしたのかはわからないけど、もし、全高校生男子たちが夢見るような青春ど真ん中の恋愛イベント的な何かだったとしたら、俺はきっとどうしていいかわからなかった。


 だからあのタイミングで遮られて決定的なことを聞けなかったことに、少しほっとしていた。


 ああ……我ながらなんて情けない……ヘタレにもほどがある……ていうか、ゆーちゃんにものすごく申し訳ない……。


 おそらくかなりの勇気を振り絞って言おうとしたのだろう。

 ある意味、完璧なタイミングで邪魔されたゆーちゃんは、顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせながら今にも泣きそうな顔になっていた。


「はぁ……何をぼんやりしているのですか。鞄を貸してください、わたしが帰り支度をしてあげますから」

「ちょ、こら鞄を勝手に取ろうとするな! 恥ずかしいからやめろ! ちゃんと自分でやるから!」

「でしたらお早くお願いします。今日も生徒会は仕事で溢れていますから、時間を無為にする暇はありませんよ」


 さっさとしろと笑顔で圧をかけてくる天崎はいったい何を考えてるのか。


 そもそも、生徒会が仕事で溢れたことなんて一度もないし、何なら仕事がない日しかないだろうが。なんで嘘をついてまで、無駄に生徒会忙しいアピールをする必要があるのか。


 いや、今はそんなことどうでもいいか。


 天崎の謎の発言の真意はともかく、ゆーちゃんには本当に申し訳ないが、こうして大勢に見られている状況からは一秒でも早く逃げ出したかった。


 天崎に言われた通り、そそくさと帰り支度をする。もう今日くらい教科書もノートも全部、置きっぱなしでいいか……いや、けど課題も出てるし持って帰らないとダメか……あぁ、もうこんな時に限って持って帰るものが多い!

 

「伏見さん」

「あ……は、はい」

「お話を遮ってしまう形になってしまい申し訳ありませんでした」

「い、いえ……そんな……」

「それと先ほど高原くんにも言いましたが、本日の生徒会は仕事が多くありますので、高原くんの帰りはとても遅くなってしまうでしょう。ですので、ご一緒にご帰宅されるのは日を改めた方が良いかと存じますが」

「え……あ、その、だ、大丈夫ですっ! わ、私、ま、待ってますから!」

「あまり遅いと伏見さんの親御様もご心配されると思いますし、そんな時間に、アイドルである貴女が男子と二人きりというのは、あまりよろしくないのではありませんか?」

「り、両親も二人きりなのも問題ありませんっ! と、というか何なんですか天崎さん! わ、私と空ちゃんが一緒に帰ったらダメなことでもあるんですか!?」

「いえ、そのようなことはありません。わたしは事実を述べているだけです。ただ、あえて一つだけ言うとしたら、もう少しよく周りを見た方がよろしいのではないかと。先ほど高原くんに何を伝えようとしたのかはわかりませんが、それはこのような公衆の面前で言ってよい内容なのですか?」

「あ……そ、それは……その……」

「それに、いくら幼馴染だからと言っても、先ほどのような距離感は近すぎるのではありませんか? 幼馴染といってももういい年頃の男女ですので、距離感というものを大切になさった方がよろしいと思います。そして、もう少しアイドルとしての自覚をお持ちに慣られた方がよろしいかと」

「う、うぅ……! だ、だとしても! ど、どうしてそんなことを天崎さんに言われないといけないんですか! そ、それに、先ほどは近すぎるみたいに言いましたけど、その言い方だと、さっきまで私たちのことを黙って見てたってことですよね? あ、悪趣味ですよ! も、もしかしてさっきのタイミングで教室に入ってきたのもわざとなんじゃ……!」

「黙って見ていたことは謝りますが、タイミングの方はたまたまです。完全なる偶然です」

「う、嘘です! だ、だったらどうしてあのタイミングだったんですか? 空ちゃんを早く生徒会に連れて行きたいんだったら、黙って見てないですぐ教室に入って来たらよかったじゃないですか!」

「仮にそうしていたら、むしろ伏見さんは困っていたのではないですか?」

「そ、それはその、そうですけど……は、話をそらさないでください! い、今は天崎さんがわざと邪魔をしたのかを聞いてるんですっ!」

「もう一度言いますが、偶然です。そして何度聞かれてもわたしはそう答えます」


 な、なんか帰り支度してたら。隣でものすごい空気ができあがってるんだが!? 


 ちらっとそっちを見てみると、凄みのある笑顔の天崎と、明らかに拗ねてる感じで天崎を睨んでるゆーちゃんがいた。


 二人の間に謎の火花と「VS」という大きい文字の幻が見える。


 いったい何事!? この二人が何を話してたのかまったく聞いてなかったけど、何でこんな一触即発みたいな空気になってんの!? 

 ぷ、プレッシャーがすごい! 周りのクラスメイトもなんかハラハラした感じで見守ってるし、心なしかさっきよりも二人から離れてるような気もするぞ!? 野次馬してたくせにちょっと逃げてるんじゃないよ! 


「あ、あわわわわわわわ!」


 ほらみろ可哀そうに! あまりのプレッシャーに隣の席の山本さんがめちゃくちゃあわあわしてるじゃないか!? 

 何でそんなことになったのかは知らないけど周りに迷惑だから二人ともやめなさい!


 なんて言ってこの空気をなんとかしたい気持ちはあるが、ここに介入したら何故かこっちまで巻き込まれそうというか、犬の喧嘩を止めようとして両方に噛まれた人の話を思い出したというか……………………うん、触らぬ神に祟りなしって言うよな。


 音を立てないようゆ~っくり帰り支度を終わらせた俺は、すごい圧を出しながら向かい合っている二人に気づかれないよう、そろ~りそろ~りと動き始める。


 この空気の中、ただ一人逃げるなんて人としてどうなんだと思わなくもないが、今のこの二人をどうにかできる気なんて全くしない。

 それどころか、最悪、二人の矛先が何故か俺に向いて、両方から噛みつかれて大怪我するような予感がする。


 無事に二人を落ち着かせて軟着陸させるテクニックなんて、悲しいかな俺は持ってないので、ひとまずは戦略的撤退を選択することにした。


 黙って逃げたら間違いなく怒られるだろうが、それは後で一人ずつ個別に謝ろう……二人同時に相手をするよりは絶対マシだ。だからとにかく今は、二人に気づかれないように離れるのみ……!


 しかし人間、緊張してたりテンパってるときに限って、何故か、やらかすことが多いものだ。そう例えば、音を立てないよう慎重に後ずさってる俺が、今まさに、うっかり後ろの机に自分の足をひっかけてしまったように。


 普段の放課後ならクラスメイト達の喧騒にかき消される程度の小さな音、しかし、誰もが固唾をのんで見守っている静かな状況では、それは教室に響くほど大きい音になるのだった。

 

 少なくとも、ものすごいプレッシャーを放つ彼女たちに、俺の存在を知らせるには十分すぎるレベルで。


「高原くん?」

「空ちゃん?」


 ゆっくりと、向かい合っていた二人が俺の方を向いた。


 あ、ヤバい、これは逃げようとしたのがバレてますね。


 二人の顔と雰囲気から何となく察する。そりゃそうだよね、帰り支度するって言ってたやつが、いつの間にか肩から鞄を提げて何も言わずに黙って離れようとしてたら、何しようとしたかなんて、なんとな~くわかりますよね! 


 ゲーム的に言えば二人のタゲが完全に俺に向いたのがハッキリ分かった。


 だ、だれかヘイト散らして! タンクの人! タンクの人呼んできてぇぇぇぇ!


 しかし残念ながらこのクラスにタンクはいないし、仮にいたとしてもタゲを取ってくれるようなことはしなかった。いや、こんなどうでもいいこと考えてる場合じゃない。


 キミたち完全に怒ってるよね? みたいなツッコミを入れたくなるオーラを漂わせながらゆ~っくりと近づいてくる二人。こ、これは何とかしないマジでヤバそう!

 

「あ、ち、ちょっと待って二人とも! いったん落ち着こう!? ち、違うんですよ? こ、これは別に逃げようとしてたわけじゃなくてですね! そう! 帰り支度終わったけど、二人がなんか盛り上がってるな~って思ったから、それを邪魔するのも悪いし先に生徒会室に行っとこうかな~なんて俺なりの気遣いをしたというかね? つ、つまりこれは二人のことを思っての行動だったんだよ! だ、だからその……ゆ、許して?」


 この後、二人に謝り倒して何とか許してもらった。


 結局この後、俺が二人から怒られて? お説教されて? 改めて俺が二人に謝罪するという形で、ゆーちゃんがきっかけとなったこの騒動はうやむやになった。


 俺が想像以上のヘタレでダメなやつなのが、クラスメイトにバレてしまったこと以外は何もかも無事に済んだので良しとする。


 いやまあ事実だし、別にそんなことがクラスのやつらにバレても痛くもかゆくもないぞ! 俺にダメージはない! ないったらないのだ!

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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