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第二十四話 うわさとアイドル

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 人のうわさも七十五日なんていうが、その諺には重要な注意事項が隠されている。

 ただし何もせず静かに目立たないようにしていれば、という大事な文言が。


 注目されていない状態を維持しなければ、七十五日どころか、いつまでたっても収束することはないだろう。


「空ちゃん、よかったら一緒に帰りませんか?」


 そう、間違ってもこんな風に燃料をくべるみたいなことをしていてはダメなのである。


 わかるかな? わかるでしょ? アイドルって立派な芸能人なんだから、俺みたいな一般人よりむしろキミの方がよくわかってるんじゃないのかな? ねえ、ゆーちゃん!?


 放課後になって、それはもう真っすぐに俺の席にやってきたゆーちゃん。


 ああ……周りのクラスメイトからの視線が痛い……! この子は、思春期の男女が一緒に帰るだけでも変な勘違いされる危険があるってわかってるのだろうか?


 もしこれが天崎だったら、こんこんとそのあたりを説教してやるのだが、ゆーちゃんにそんなことはできない。


 なぜかって? だって俺の中じゃ幼馴染のゆーちゃんっていうより、アイドルの伏見さんって感じが強いから! ぶっちゃけ普通に会話するのも難しい! 


 昔みたいな感じは絶対に無理。やばい、どんな感じでしゃべっていいのかわからない。

 かといってこのまま黙り込んでるわけにもいかないので頑張って声を出す。


「あの、その、生徒会、あるので……す、すみません……」

「あ、そうでしたね。じゃあ、生徒会が終わるまで待ってます」

「ぃや、い、いつ終わるかわからないし、た、多分、遅くなるのでそれは申し訳ないと言いますか……」

「気にしないでください、私、今日は暇ですから」


 なんでそこまで俺と一緒に帰ろうとする!? 暇なんだったらもっと有意義なことに時間使えよ!


 いかん、このままじゃ最悪、押し切られてアイドルと仲良く下校することになってしまう。誰か助けて! いい感じに割って入ってきて! 誰かというか主に竜也!


 完全に野次馬と化してるクラスメイト達の中、我関せずといった様子で帰る準備をしている竜也を必死の思いでじっと見る。


 頼むから気づけ! 気づいてくださいお願いします! 幼馴染のピンチなんだよ! そのピンチを招いてるのも幼馴染だけど!


 そんな俺の必死の思いが届いたのか、竜也が俺たちの方を見てきた。目が合う。そっと視線をそらされた。


 なんでだよ! スルーするんじゃないよ!


「もう、空ちゃんどこ見てるんですか? 今は私と話してるんですから、ちゃんと私のこと見てください」


 ちょっと拗ねた風に言うゆーちゃん可愛すぎか! でも今は頼むからそういう可愛い感じのはやめて! 完全な野次馬と化したクラスメイトさんたちに燃料を注ぐような行為はおやめください!


 どうやら、実は幼馴染だった目の前のアイドルは、完全に周りが見えてないのか全く気にしていないご様子。


 もうこれははっきり言うしかないのか? いや言うしかないな頑張れ俺! 幼馴染のアイドル生命と俺の命のために! 炎上やファン過激派の怖さはネットで何度も見てるんだから! 


「あ、あのっですねっ! だ、だだだだだだ男女がい、一緒に帰るのはですねっ! あ、あまり、よ、よろしくない勘違いを生む可能性が無きにしも非ずなのですがっ! あ、アイドルの伏見さん的にそ、それはとてもよくないことだとなあと思いました!」


 言ってる途中でテンパって最後が小学生の作文みたくなってしまった。


 だって言いながら思っちゃったもん。え、俺ごときがゆーちゃんとそんな勘違いされると思ってるの? 自意識過剰も大概じゃね? うわぁ……我ながらキモイわぁ……って!


 そんな感じで心に傷を負いながら必死の思いで言ったのだが、当のアイドル様はそれはそれは不満そうだった。


「伏見さんじゃなくてゆーちゃん」


 今そこはどうでもいいところぉ! ねえあなたちゃんと俺の話聞いてました!? 一緒に帰るのと同じくらいダメだろそれは!


「それに、うちの事務所は彼氏作ってもオッケーですから、もしそんな勘違いされたとしても何も問題はないですよ」


 彼氏、と言った瞬間、俺たちの様子をうかがっていたクラスメイト(女子)たちからはキャー! クラスメイト(男子)たちからはギャー! という悲鳴が上がった。


 ちょいちょいちょい! この会話の流れでそういうこと言うのはよくない想像をさせる! わかっててやってるのかわからないけど、このアイドルは自分のアイドル人生を雑に扱いすぎ!


「うちの事務所、というか社長が『当社のアイドルは恋愛オールオッケーです』って常日頃、言ってますから」


 あぁ……そう言えばそんな頭のおかしいこと公言してますねあなたの所の社長……。


 ゆーちゃんが所属している事務所は、あまりアイドル業界に詳しくない俺でも聞いたことがある程度には有名な所だ。


 その社長も元アイドルの女性で「アイドルも一人の人間だから恋だってする。そしてアイドルが恋することをファンの人たちにも認めて欲しい」という思いから会社を立ち上げたって、この前もドキュメンタリーで言っていた。


 自分自身の経験って言ってたし、あの社長さんも色々とあったんだろうか。


 そう言えば番組の中で「まあ、そんな気持ちとは別に、黙って恋をしてたことがバレて何らかの事件に発展するリスクを負うくらいなら、最初から恋愛しますって公言してた方がバレた時のダメージが少ないですよね。リスクマネジメントですよ」なんてことも言ってたけど……それはリスクマネジメント的に正しいのか?


 ともかくそんな謎の、というかその方針はアイドル事務所としていいのか? 恋愛オッケーって公言してるアイドルの人気が出るのか? みたいな疑問が沸くスタンスだが、不思議と世間には受け入れられているし、人気アイドルも多数在籍している。


 むしろ、その事務所のアイドルに彼氏ができたら祝福するのが当たり前みたいな風潮まであるくらいだ。


 あれ? 世界ってこんなに優しかったっけ? それとも俺がおかしいのか? 俺の心が狭すぎるだけなのか?


「ですからその……空ちゃんは何も気にしなくていいんですよ?」


 ぽっと顔を赤くして、少しもじもじしている彼氏作っても大丈夫系のアイドルさん。


 いいんですよ、じゃないんだよ! え、何、これどういう展開? そもそも一緒に帰るかどうかって話じゃなかったっけ!? 


 会話の流れやゆーちゃんの態度を見る限り、まるで俺を彼氏って思われてもいいみたいに――あああああああ! また自意識過剰で恥ずかしい感じの想像をしてしまったぁぁぁぁぁ! 

 お、落ち着け俺、冷静に、冷静になれ、そんなありえない想像をするんじゃあない……! 恋愛じゃ、自分に都合のいい方向に物事を考えたら十中八九痛い目を見るんだ……! そういうのはもうやめるってあの日の自分に誓ったじゃないか!


「あ、あのあのあのあのっ! あのですね、伏見さん! そ、そういう、へ、変な勘違いをしそうになる冗談はよくない! い、いたいけな男子高校生をからかうのはよくないことだなあと思います!」

「ゆーちゃんって呼んでください! そ、それに、じ、冗談なんかじゃないですっ! だって――」

 

 ぐっと前のめりになってきたゆーちゃんの顔が近い!


 おかげで色々な情報が五感を通じて入ってくる。柔軟剤とは別の女の子特有の甘い香り、シミ一つない綺麗な肌、赤く上気した柔らかそうな頬、ぷるっとした艶やかな唇、長い睫毛とうるんだ瞳。


 あばばばばばばばばばばば! 可愛すぎる女の子という情報が大量に入ってきて脳がパンクするぅぅぅ! めちゃくちゃ真剣な顔で見てきてる! 


 その顔は昨日、屋上に呼び出された時に見た顔にそっくりだった。


 それはまるで今から告白しようとする恋する乙女のような――――あああああああああああああ! また! また恥ずかしい感じの想像がぁぁぁぁぁ!! や、やばい! マジでヤバい! このままじゃ都合のいい妄想製造マシーンになって羞恥で死んでしまう! 誰か! 誰か助けて!


 助けを求めて周りに目をやったが、ざわざわしていたクラスメイト達はいつの間にか静かになっていて、こっちの様子を固唾をのんで見守る感じになっていた。


 おいやめろ貴様ら、そんな目で見るんじゃない! お前らのその雰囲気のせいで、もしかしてゆーちゃんって……みたいなものすごく死にたくなるような恥ずかしい妄想が加速するから! 

 ていうか竜也ぁ! 一緒になって野次馬してるんじゃないよ! いやマジか……みたいな目で見てる場合か!


 残念なことに助けは来ないらしい。ちくしょうめ。もうこうなったら自分で何とかするしかない。


 もし万が一、絶対に間違いなくありえないし、考えるだけでも恥ずかしさで悶えて死んでしまいそうな、本当に自意識過剰の極致みたいな話だけど、ゆーちゃんがこれからしようとしてることが、そんな俺の恥ずかしすぎる妄想みたいなことだったら――


 俺は、いったいどうすればいいんだろう?


「わ、私っ! い、一緒に遊んでたあの頃からずっと……! ずっと空ちゃんのことが――!」

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。

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