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第二十二話 気遣いとココア

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 昼休みの喧騒から逃れるように、というか全校生徒からの視線から逃げるため、昼休みが始まった瞬間、俺はダッシュで生徒会室に避難した。


 わざわざ昼休みに生徒会に来るような暇な生徒はいるまい。いたとしても最悪、居留守を使うまでよ。そんなダメな感じの決意を抱きつつ、いつも使ってる椅子に座って、大きく息を吐いた。


 朝のゆーちゃんによる衝撃発言の直後、教室はそれはもうてんやわんやの大騒ぎ状態、クラスメイトに囲まれてどういうことだと質問というか尋問を受けて必死で理由を説明をする羽目になった。


 しかも、その引き金を引いたゆーちゃんはクラスメイト達の質問に笑顔ではぐらかすばかりだったので、なおさら俺に集中砲火が浴びせられるという地獄。ご想像にお任せします、じゃないんだよゆーちゃん!


 竜也が登校して助けてくれなかったら本当に色々と危なかった。クラスじゃ信頼の厚い竜也からの説明もあり、俺とゆーちゃんとついでに竜也が幼馴染で、昔はお互いにそんな呼び方をしてただけで深い意味はないとクラスメイトたちを何とか納得させた。


 必死に説明したおかげか、俺とゆーちゃんが付き合ってると思われなかったのは不幸中の幸いだった。ゆーちゃんのアイドル生命的にも、俺のリアル命的な意味でも。

 もしそんな誤報が浸透して広まってしまったら、今頃、俺はどんな目に遭わされていたことか……考えるだけでも恐ろしい!


 まあ、相手が竜也ならともかく俺だったので、そんな心配は全く必要なかったわけだけど。


 誰がどう見たって俺とゆーちゃんじゃ釣り合ってないからな! むしろ、そんな勘違いをされる心配を一ミリでもしてしまった自分が恥ずかしい! 自意識過剰過ぎて死ねる! 俺とゆーちゃんがそんな風に見られるなんて地球が滅亡してもありえないはずなのに! ああ、これだから思春期の男子ってやつは!


 それはともかく、このゆーちゃんショック(命名俺)は朝だけで終わらなかった。


 次の休み時間にはもう俺たちの関係が学校中に広まっており、そのせいで休み時間のたびに他所のクラスや学年の生徒たちが、伏見さんの幼馴染ってどんなやつ? みたいな感じで俺のことを見に来る始末。


 情報の伝達が早すぎるだろ……ていうか貴重な休み時間にわざわざ見に来るとかみんな暇なの? クラスの連中にしたって昔のゆーちゃんがどんな感じだったのか聞きたいみたいで、男女問わずめちゃくちゃ絡んでくるし……。


 ゆーちゃんのおかげで生徒会役員に選ばれた時と同じかそれ以上に注目される羽目になった。


 いやまじでしんどい。本来、こんな目立つような人間じゃないんだって俺は。むしろ目立たず騒がれず平穏に学生生活を送りたいだけの陰キャだというのに……。


 というか天崎にしろゆーちゃんにしろ、俺みたいな面白みもなく目立ってもない、校内知名度0に近い俺みたいな陰キャを、クラスどころか学校中から注目の的にさせる影響力の強さよ。人気者の発言力って怖いわぁ……。


 そんな抗えない力にこの四月が始まってからすでに一度ならず二度までも巻き込まれたわけだが。


 三度目はマジで勘弁してくれ……そうなったら俺はストレスで間違いなくハゲてしまう。


 こうして生徒会室に退避できていなかったらもうすでにハゲてたかもしれない。


 生徒会室を自由に使えるという特権に、役員になって初めて生徒会に入ってよかったと心の底から思った。


「おやおや~お昼ご飯でも食べようと生徒会室にやってきたら、こんなところに偶然、アイドルの幼馴染さんを発見しちゃったぞ~」


 生徒会室を自由に使える特権を持つもう一人の役員が、いきなり入ってくるなり面倒くさい絡み方をしてきた。せっかく静かにゆっくりできると思ってたのに……。


 逃げてきた先でまた疲れそうな予感がしたので、露骨に嫌そうな顔で天崎を睨んでやる。


「そ、そんな本気で嫌そうな顔しないでよ。冗談、ほんのお茶目な冗談だから」

「残念ながら今の俺にはそういう冗談に付き合う気力はないぞ。なんか生徒会室に用事か? 用事がないなら俺を一人でゆっくりさせてくれ」

「疲れてるんだろうなっていうのはわかるし、変な絡み方したのも悪かったから追い出そうとしないでよ! さっき言ったけど、本当にお昼ご飯食べにきただけなんだってば」


 苦笑いをしながら天崎は弁当箱を机の上に置いた。


 あー……そういえば弁当箱教室に置いたままだ。取りに帰ったら間違いなくクラスのやつらに捕まるだろうし、今日は昼飯は我慢するか。


 さっきまで気疲れのせいかまったく空腹を感じなかったのに、我慢すると意識したら途端に食欲が出てくる不思議。


 人体ってままならないなぁ……なんて思っていながら椅子に座ったままだらけていると、がさり、と音を立てながら白いビニール袋を天崎が差し出してきた。え、何これ?


「その様子だとお昼食べてないんでしょ。そんな高原くんを気遣って、わたしが購買で色々買っておいたから遠慮なく食べるといいよ。こんなことになってるだろうなーって予測できたわたし流石だよね!」


 そう言って天崎はどや顔で無駄に大きい胸を張った。


 受け取ってビニール袋の中身を見てみると、購買で定番の焼きそばパンから男子人気の高いカツサンドを始め、カレーパンやメロンパンにチョココロネと美味しそうなパンで溢れていた。


 予想もしていなかった展開に袋を持ったまま固まってしまう俺。


 天崎が俺を気遣ってわざわざ買ってきてくれた……? え、ちょっと待って色々と理解が追い付かないんだけど?

 

「…………ちょっと! 何か反応してよ! スルーダメ絶対! ツッコミ待ちの、どや、なんだから何か言ってくれないと困るよ!」

「いや、なんていうか色々、予想外過ぎて驚いてたというか……いいのか?」

「ちょっとちょっと高原くん、驚くのはいいけど、ツッコミ役っていうお仕事さぼっちゃだめでしょ~? あと、何がいいのか? なのかわかんないけど、高原くんのために買ってきたんだし、普通に食べていいよ?」

「なんか悪いな……ありがとう、いくらだった?」

「お礼もお金もいいよ。わたしが勝手にしたことだし」

「ダメだ、礼も言うしちゃんと代金も返す。そういうところはちゃんとするべきだ」

「相変わらず高原くんはまじめだなぁ。わたしたち、もう友だちどころか運命共同体みたいなものだから気にしなくていいのに」

「友だちだったら余計に気にするわい。ていうか運命共同体ってなんだ」

「言葉通りの意味だよ? わたしたちの未来は一蓮托生、生きるも死ぬもずっっっっと一緒だって誓ったよね?」

「そんな重い誓いをした覚えはないんだが!?」

「あはは、冗談だよ冗談。でも実際、大事な秘密を分け合ってる生徒会の仲間なんだから、お互い変な遠慮はなし! 代わりに今度ジュースでもおごってくれたらそれでいいから、ね?」

「あー……じゃあ今回は天崎のお言葉に甘えちゃうことにするわ……ありがとうな」

「よろしい! どんどん甘えちゃいなさい! っておや? おやおやおや? なんかちょ~っと顔赤くな~い? もしかして照れてる? わたしの優しさに照れちゃってたりする?」

「ばっ!? あ、赤くなってねーし! 照れるとかそんなことは断じてねえでやがりますから!」

「は~いは~い。いや~意外と高原くんも可愛いところあるね~」


 どや顔が最高に腹立つがこれ以上何か言うと余計にいじられそうなので、ぐっとこらえた。


 ち、ちくしょう……! まさかこんなことで嬉しくなって照れるとか、ちょろすぎるだろ俺! ちょっと優しくされただけで喜ぶとかチョロインにもほどがあるぞ! 俺がチョロインとかどこに需要があるんだ!

 こんなちょっと可愛くて見た目好みで話しやすい女の子に、ちょっと優しくされただけで照れるとか思春期の男子高校生か俺は! いや思春期真っただ中の男子高校生だったわ!


 そんな謎の葛藤に苦しむ俺をにやにやした目で見てくる天崎。その目やめろ! 可愛いのがなおさら腹立つなこいつ……!


「違うからな?」

「うんうんわかってる、わかってるよ? 優しいわたしがあったか~い飲み物も用意してあげるから、もっと存分に照れてくれていいんだよ?」

「お前は絶対わかってないし、これ以上、俺は絶対に照れない! 飲み物はありがたくもらう!」


 返事をせず、しかし相変わらずにやにやしたまま、ご機嫌に鼻歌まで歌いながら、生徒会室に備え付けの電気ケトルで湯を沸かす準備を始めた天崎。


 ぐぐぐ……! 何故かはわからんが負けた気がして悔しい……! けどいま何を言っても勝てる気がしないので頑張って黙る。 


「お茶に紅茶にコーヒーココア、高原くんはどれがいい? 疲れてるしココアにしとく? ココアでいいよね? 返事がないのは肯定と見なしました、はいココア決定です!」


 さっきまで俺をおちょくっていた様子とは一変、焦った感じで言ってくる天崎。


 何事かと思って見てみたら、うっかり入れ過ぎたのだろう、ココアの粉がたっぷり入っている紙コップから空の紙コップへ、こぼさないよう慎重にスプーンで粉を移していた。


 いや、どんだけ出し過ぎてるんだお前……右のコップ、お湯が入る余地がないくらいココアの粉でパンパンじゃねえか。やっぱり変なところで不器用だなこいつは。


 何とか無事二つのコップにココアの粉が分けられたころには、電気ケトルがこぽこぽと音を立てていた。天崎がコップにお湯を注ぐと、ココアの甘い、不思議と気分が落ち着つく香りが生徒会室に広がる。

 

「ごめん高原くん、ちょっと手伝って……! 二つ同時に持ってくの無理かも……!」

「そりゃそんなギリギリまで湯を注いだらそうなるだろ……加減しろ加減を」

「だ、だって、ケトルのお湯ちょっと多かったんだもん! 全部使わないともったいないかなって」

「だったら全部注がなくても何回かに分けて飲めばいいだろ……」

「あ、そっか。高原くんってば頭いいね!」

「お前がバカなだけだ」


 こいつ本当に変なところでポンコツだな……。


 まあ、こんな姿を見せてくれたおかげで、さっきまで天崎に感じていた変な照れくささのようなものがどこかに行ってくれたので、今回は良し。ナイスポンコツ。


 手で持って運んだら、二つ同時どころか一つだけだったとしても、普通に中のココアが跳ねるかこぼれるかして火傷しそうなくらいなみなみとお湯が注がれていたので、電気ケトルと一緒に置かれていたお盆を使って机まで運んだ。そして無事運び終えて、さあ飲むぞ、といった時、二人して気づく。


 これ、スプーンで混ぜると絶対こぼれるんじゃないか?


 粉を混ぜるためにスプーンを回そうとした瞬間、そんな地味に嫌な未来をひしひしと感じた。天崎も同じ未来を予想したのかスプーンを持ったまま固まっている。


 とにかく量を減らさないことにはどうしようもないので、あんまりマナーはよくないが、コップを机に置いたままそのまま口をつけてほんのりココアの風味がする湯をすすってちょっとずつ量を減らすことにした。


 うわぁ……うっすいどころじゃないココアの風味が絶妙に嫌だ……これなら白湯の方がまだ飲みやすいかもしれない……。


 俺とは違って、スプーンで湯をすくってちょっとずつ飲むという、牛歩もいいところな作戦をとっている天崎も微妙な顔をしている。わかる、わかるぞその気持ち。


 ていうか沸きたてのお湯だからめっちゃ熱い! さっさと量を減らしてココアにありつきたいのに、熱すぎて一気に飲めないから全然お湯が減らない!


 結局この後、俺たちが美味しいココアにありつくまでに割と時間がかかった。


 ようやくスプーンで混ぜてもこぼれないくらいの量になって、ちゃんとしたココアを飲んだ時、こんなにココアって美味しいのかと天崎と二人で感動したのだった。


 それにしても、わざわざ生徒会室に移動して昼飯を食べるだなんて天崎も謎だな。もしかして昼休みの間に生徒会の仕事でもしてるんだろうか? 


 こいつは面倒くさい面倒くさいと言いながらも、割と一人でやってしまうような所があるとわかってきたので、念のために後で聞いておこう。


 もらったパンをありがたくいただきつつ、両手でコップを持ってそれはもう美味そうにちびちびとココアを飲む天崎を見ながら、そんなことを思った。 


 なお、聞いてみたところ天崎の答えは――


「え? 昼休みに仕事なんて頼まれても絶っっっっ対にしないし、用もないのにわざわざ生徒会室でご飯なんて食べないよ? 今日は特別。あんなことになってるし、目立つの嫌いな高原くんのことだから、多分、避難先があったら真っ先に逃げるんだろうなーって。だから、生徒会役員以外は入れない生徒会室にでも隠れてるのかなーって思って、なんとなく来てみたの。購買でパン買って来たのも、高原くんが逃げるのを優先しすぎて、もしお昼を食べ損なってたらかわいそうだなぁなんて思ったからだよ? ていうかさっき言ったじゃん、高原くんのこと気遣って購買で買って来てあげたって。

 うん? もし予想が外れてたら? その時は普通に一人でお弁当食べればいいだけのことだし、パンは放課後にでも食べるかお姉ちゃんを肥えさせるために家に持って帰るだけだよ――ってあれ? あれあれあれ~? また顔が赤くなってるけどどうしてのかな~? あ、わかった! わたしが意外と高原くんのこと気にしてて嬉しいの? 嬉しいんでしょ? ねえねえ、どうなのかな? どうなのかな~?」


 とのこと。どんだけ俺の行動を正確に把握してるのかこいつは。そんなにわかりやすいか俺って!?


 ていうか、こいつ何でもかんでも自分の気持ちを口に出しすぎだろ……! 恥ずかしいって感情はないのか!


 うかつにもそんなことを聞いてしまったおかげで、静かに落ち着くために逃げたはずの生徒会室で、俺は天崎にめちゃくちゃいじられる羽目になるのだった。

 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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