幕間② 屋上の幼馴染たち
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「んじゃ竜也、俺このまま生徒会に戻るわ」
「おう。まあ、なんだ、急に呼びだして悪かったな」
「へーきへーき、どうせやることもなかったし。伏見さ……あー……呼び出した本人にも別に気にしてないからって伝えといてくれ」
「わかった」
あいつら二人を屋上に閉じ込めてから数十分後、話が終わった空太は生徒会に戻っていった。
おいおい……本当にあいつ、ちゃんと言いたいこと言えたのか?
空太の様子を見ていると、そんな不安にかられた。もし、あいつが伝えたいことを余すことなく伝えることができていたのなら、空太は間違いなく、あんな感じにはならない。
ただ、あいつのことを微妙に言い淀んでる感じだったので、まったく何も言ってないということはなさそうだったが……。
とりあえず、本人に聞くのが一番手っ取り早いので、ドアを開けて屋上に出た。
ああ……これは確実にやらかしやがったな。
一人でベンチに座っているそいつの様子ですぐにわかった。
わかりやすいくらい肩を落としてうつむいている。
正直、ここから先の展開がありありと想像できてあまりにも面倒くさい。ため息をつきながら、そいつの隣に座る。
「おいヘタレ」
「…………」
「そんな恨めしそうに見られても俺は知らんぞ。お前が空太に自分の気持ちを伝えたいって言ったんだ。結果はまあ、さっき出て行った空太の様子を見たら何となくわかった。ちょっとは頑張ったけど土壇場でヘタレて肝心のことは何も言えなかった、とかそんなとこか?」
「…………何も言ってないのにそこまでわかるのキモイ……」
「お前がわかりやすすぎんだよ」
そう、昔、三人で遊んでた時からそうだった。
「で、どこまで空太に伝えられたんだよ」
「…………私が実は空ちゃんの幼馴染だってことは言えた」
「ああ、そりゃよかった。ようやくお前がゆーちゃんだって認識したんだなあいつ」
けどまあ、この間の休みに、空太がこいつのことを忘れてないか確認してなかったら、そのことすら言えなかったんだろうけど。
空太の連絡先を教えるからゆーちゃんとして連絡を取ればいいだろ、なんて勧めた時にも「そ、そんな急に、昔ちょっと遊んでただけの相手から連絡されたって空ちゃんだって困るだけでしょ……それに、もし忘れられてたらって想像したら怖くて連絡なんてできない……」
なんて、あの日の空太とほとんど同じようなこと言ってヘタレやがったからな。どうして無駄なところが似てるんだこいつらは。
「でも……それしか言えなかったの……私の本当の気持ち……好きだって言えなかった……はぁ……いつになったら伝えられるんだろ……」
「そりゃお前がちゃんと空太に言えるまでは一生無理だろうよ。まあ、相手が空太じゃなけりゃ、昔一緒に遊んでた頃に、お前の態度でとっくにバレてたとは思うが」
「ど、どういうこと!? え、嘘……わ、私、ちゃんと隠してたよ……!?」
「どこがだよ。むしろ隠す気なんてあるのかって感じだっただろ」
ずっと思ってたことを指摘してやると、めちゃくちゃ驚いた様子で目を見開いた。
むしろどうして隠せてると思ってたんだこいつ。
定位置とばかりに空太の隣を常に確保してずっと引っ付いていたし、なんなら何故か、男友達の俺に嫉妬までしてきやがったからな。
あの頃は俺もまだ子どもだったが、それでも、こいつが空太のことを好きなんだろうなってのは普通にわかった。
当の引っ付かれてる本人は、こいつの気持ちにまったく気づいてなかったみたいだったが。
「安心しろ、この前空太に聞いたら、あいつ的には懐いてくれてる程度の認識しかなかったらしい。よかったな、人懐っこい犬か猫みたく思われててお前の気持ちはバレてなかったみたいだ」
「い、犬猫……そ、それって良いの悪いの?」
「さあな。ただ、あいつが昔から物凄く鈍感で、しかも変な勘違いするバカなのは間違いない」
「そ、空ちゃんをバカにしないで!」
「その鈍感と勘違いのせいで俺とお前が付き合ってると思われかけたのにか?」
「そ、それは……! で、でも、やっぱり空ちゃんは悪くないよ、わ、私がちゃんと私の気持ちを空ちゃんに言えてないのが悪いんだから……」
「それはそうだ。だから今からでも遅くない、さっさと空太に言ってこい。好きだの愛してるだの抱きしめて欲しいだの思ってること全部」
「できるわけないでしょ!」
「だろうな」
もしこいつにそんなことをする勇気や根性があれば、とっくのとうに空太とくっついていただろう。
少なくとも、俺がヘタレの幼馴染二人の間を取り持つとかいうくそ面倒なことに巻き込まれることはなかったはずだ。
「そもそも、私は空ちゃんのこと大好きだけど、空ちゃんは私のことどう思ってるのかな……一緒のクラスになれたけど全然お話できないし……天崎さんとは毎日一緒に生徒会してるし、しかも二人は幼馴染らしいし、なんでか今日は山本さんとも仲良さそうな感じになってたし……うぅ……二人とも絶対、空ちゃんのこと好きに決まってるよ……」
「いやそれはないだろ」
仲良さそうってお前、天崎さんは知らんが、山本さんはただ帰りに挨拶してただけじゃねえか。
確かに、今まで絡みがなかったからちょっと意外には思ったが、好きとかそんな感じにはまったく見えなかったぞ。
「あるよ! だって空ちゃんカッコいいし! うちのクラスにも、空ちゃんのことちょっといいなーって思ってる女の子、割といるんだから!」
「へえ、それは初めて聞いたな」
ただ意外には思わない。
本人は陰キャヘタレだのなんだの言って自分のことを卑下しまくっているが、別にコミュニケーションがまったくできないわけでもないし、たまに変なテンションになることはあるが、なんだかんだ真面目で優しくて面倒見のいいやつだ。いいなって思う女子がいるのも普通のことだろう。
本人はそのことにまったく自覚がないどころか、そんなことが起きるなんて欠片も思ってないという始末だが。
空太はどうも自分を過小評価しすぎているというか、女子が自分に好意を抱くなんてありえないと思っている節があり、しかもそれが普通のことだと考えているようなのだあのバカは。
そんなところが変な勘違いをする根本的な原因に違いないので、治すように何度も言ってるのだが残念なことにそのまま今に至る。
実際、変な勘違いをして、あいつが見事に自分からフラグをへし折るところを何度も見てきた。そういうところがなけりゃ、彼女なんてとっくにできてただろう。
「はぁ……きっとそんなモテモテの空ちゃんだったら、私の知らないところで告白なんてされ放題なんだろうし、もしさっき空ちゃんに告白できてたとしても、私なんかじゃきっとフラれちゃってたよね……そう思えば告白しなかったのは正解だって言えるんじゃ……?」
「自分がヘタレたことを納得するために謎の言い訳をするんじゃねえ、お前は空太か」
本当にあいつらはよく似ている。自分に自信がなくヘタレなところなんかそっくりだ。
これがまさか歌って踊れる人気アイドルの真の姿だなんて誰が想像できるだろうか。
うじうじと落ち込み始めた結月を見て、幼馴染二人の恋愛を手助けするという面倒事から俺が解放されるのは、まだまだ先のことになりそうな予感がした。
とりあえず、こいつが空太に幼馴染だって言えただけでも一歩前進、前向きにそう思うことにした。
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