第二十話 屋上と伝えたいこと
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「私っ……高原くんに伝えたいことがあるんです……っ!」
俺と伏見さんしかいない屋上に、彼女の声は思いのほか、大きく響いた。
遠くで運動部の声が聞こえる。
これはいったい何が起こってるんだ……!!?
竜也から急に呼びだされて、何の説明もないまま屋上に放り込まれと思ったら、そこで待ってたのが伏見さんで、しかも、何か俺に伝えたいことがあると宣言された。急な展開に頭がついて行っていない。
うーん……いや……えっと……本当にどういうこと?
色々わからないけど、とりあえず一番気になるのは伏見さんがいったい何を俺に伝えたいのかということだ。
屋上に呼び出され、その呼び出した相手は異性で、とても緊張した様子で何かを伝えようとしている。しかも、うちの学校の屋上は、定番の告白スポットで有名。
そんな条件がそろっている状況があった場合、普通に、客観的に、あくまで自然な流れとして、決して俺の願望などではなく、その呼び出した側の人物が告白をしようとしていると考えられるのは不思議なことではないのではないだろうか。
そして、その理屈で言えば、
呼び出した人→伏見さん
呼び出された人→俺
ということになるので、伏見さんは俺に告白をしようとしていると考えられなくもない状況――なんてあり得るはずのない夢みたいな未来を、ほんのちょっとでも心の片隅で抱いてしまった自分をぶん殴ってやりたい。勘違いと自意識過剰によって引き起こされる、羞恥ダメージは尋常じゃないのだから。
よ~し落ち着け~落ち着け~俺~そんなアホなこと考えるな~いままでの経験を思い出せ~こんな夢みたいな話が起きるわけないなんて知ってるだろ~……………………………………ないかな? ないよね? ないですよね? け、けど、とりあえず伏見さんが何を伝えたいのか聞いてみないことには始まらないよな? 案外、俺が考えてるようなこととは全く違う可能性もあるわけだし! うん! そうだ! その通り! 何事も決めつけるのはよくない!
だいたい、伏見さんは竜也のことが好きなはずだから、そんな告白なんて万が一にも、絶対、ありえないんだから! そう言えばそのことすっかり忘れてたなぁ…………あー…………恥ずかしくて死にたい! 恐れ多くもあの伏見さんが俺に告白してくれるかもなんて、そんな烏滸がましい夢をほんのわずかでも見てしまうだなんてっ!
で、でもまあ、それはそれでよし! これである程度、気持ちが落ちついた! 家に帰ったら恥ずかしくて死にたくなるかもだけど、とりあえず今は問題なし!
「コー……ホー……!」
腹の下、丹田のあたりを意識をしながら、大きく息を吸って体中に酸素を供給。しまった間違えたこれは暗黒卿の呼吸だった。でも今の精神状態だったら闇のフ〇ースも使えるんじゃね?
とにかく文字通り一息入れて意識をできる限りフラットに戻し、伏見さんに告白されるかも、なんて恥ずかしい妄想をしたことを絶対に悟られないよう、呼吸も気持ちも整えて、俺は言う。
「そ、そそそそそですか! へ、へぇ~……そ、それでい、いったいな、なにをお伝えし、ししししたいのでしょうかいな!?」
呼吸も気持ちもまったく落ち着いていなかった。むしろ、緊張で言葉は噛むは変な話し方になるわ、普段よりもダメな感じになっていた。
いやだってそうだろ!? あの伏見さんだぞ!? 学内の付き合いたい女子ランキングとお嫁さんにしたい女子ランキング堂々の一位の、今をときめく大人気アイドルからお呼び出しをされた時点で冷静になんていられるか!?
しかもこ~~~~~~~~んな青春ど真ん中みたいなシチュエーションで! 恋愛的な意味がまったくないってわかってても、動揺するわこんなもん!? あー! やっちまったよちくしょうが! めちゃくちゃ狼狽えてるのがバレバレじゃないか! しかもなんか気持ち悪い感じになってなかったか!? 俺のバカ! 伏見さんもどうしていいのかわからなそうな感じになってるし!
さっきから伏見さんがものすごくそわそわしている。顔は相変わらず真っ赤なままだが、俺のことをまっすぐ見ていた目は、ものすごく泳いでいるし、どこかテンパっているようにも見えた。
そしてそんな姿も可愛いのが伏見さんである。山本さん風に言うと、伏見さんしか勝たん!
ただ、あの、せめて何か言ってくれませんか? 何か言ってくれないと、話が全く進まないんですけど……。
かといってもう一度、こっちから何かを言う勇気はなかった。さっきやらかした変なしゃべり方の羞恥ダメージがボディにじわじわ効いてきている。無理して話そうとすれば、また同じようなことやらかすのは目に見えていた。
そんなこんなで俺も伏見さんも黙りこみ、お互い落ち着かなそうにしているという謎の空間が出来上がること、体感的に数十分(実際は数十秒くらいだとは思うが)。先に動いたのは伏見さんだった。
「えっと、あの、その……な、なにを伝えようと思ってたのか忘れちゃいましたごめんなさいっ! し、失礼しますっ!」
「はい!?」
早口でそう言った伏見さんは勢いよく頭を下げると、屋上の扉に向かって走り出した。
え!? どういうこと!?
まさかの行動に困惑する俺。そんな俺を他所に、普段の姿からは想像できない俊敏な動きで屋上の入り口までたどり着き、ドアに手をかける伏見さん。
「えっ!? ど、どうして!? なんで開かないの!?」
必死にドアを開けようとしているが、びくともしないようでめちゃくちゃ焦っている。
多分、いや、間違いなく、さっきみたいに竜也がドアを開かないようにしてるんだろう。
伏見さんが必死に格闘しているドアの向こうから、心底、面倒くさそうな竜也の声が聞こえてきた。
「ちゃんと話をつけるまで屋上からは出られないと思え、俺はそう言ったはずだよな?」
「えぇ!? き、聞いてないけど!?」
「いま言っただろ。わかったらさっさとやることやれ」
「そんな理不尽な話ある!? む、無理だからぁ! 竜也くん! 変ないじわるやめてよ!」
「黙れヘタレ。自分から呼び出して欲しいって言ったくせに、この期に及んでぐちぐちぐちぐち言うんじゃねえ。もし、これ以上駄々こねるなら俺の口から空太に全部、伝えてやってもいいんだぞ? お前が、自分からちゃんと伝えたいって言ってたことを全部だ」
「そ、それは嫌! そんなことされるなら死んだほうがまし!」
「だったら逃げるな。この一年、お前の愚痴に付き合うのもいい加減疲れてきてんだよ、そろそろマジで俺を解放しろ。わかったら今すぐドアから手を放せ、そうしないとマジで空太にばらす」
「はい、放した! だから黙って!」
「次逃げようとしたら問答無用で暴露だからな」
最後にしっかりと言い聞かせるようにそう言った竜也。
伏見さんはずーんと大きく肩を落として、しゃがみこんでしまった。
えぇ……これどういう状況? 俺はどうすればいいの……?
ドアの近くにいたので二人のやり取りを全部聞いてしまった。なんだかめちゃくちゃ気まずい。
ただ、とりあえず竜也と伏見さんが、けっこう仲がいいのはわかった。二人とも、まるで昔からの付き合いがあるみたいに、めちゃくちゃ気安い感じだったし。伏見さんがそんな風に話しているのを初めて見たかもしれない。
……ハッ! も、もしかするとこれは二人ともお付き合いしていたりするのでは!? そして伏見さんは、そのことを俺に伝えるために呼び出したんじゃなかろうか。
た、たしかにそれなら納得がいく! こうして誰もいない屋上に呼び出したのも、他の人に聞かれる危険性を少なくするため! 竜也がさっき、誰も来ないように見張ってる、って言ってたのもそういうことか! こんなこと誰かに聞かれたら絶対まずいもんな! 伏見さんはアイドルだし、いくら事務所があんなことを言ってるからとはいえ、誰かと付き合ってることがバレたらえらいことになりそうなのは想像に難くない。
ただ一つわからないのは、それをどうして俺に伝えようと思ってくれたのかだけど、そこは彼氏の友だちだったからとかそんな理由だろうか? いざという時、協力してもらうためとか?
いざという時が何なのかとかわからないけど。まあ少なくとも、付き合ってることを伝えても大丈夫な人だと思われてはいるのは間違いないだろう。
でもまさか竜也と伏見さんが付き合うとはな~……いや、めちゃくちゃお似合いだな。それに二人が付き合ってるってことは、竜也のやつのトラウマも何とかなってるってことだろうし、よかったな竜也。
今までの竜也のことを知ってるだけに感慨深いというか、本当によかったな、という気持ちがあふれてくる。ドアの向こう側にいるだろう竜也へ声をかけた。
「竜也竜也」
「なんだよ。さっきも言ったが、話が終わるまで屋上からは絶対に出さねえぞ」
「おめでとう!」
「は?」
「本当におめでとうっ!」
「はぁ…………まったく意味がわからんが、とりあえずお前がまた変な勘違いしてんだろうなってことだけはわかった。お前のそういうとこも、何回も注意してるはずなのになんで治らないかね……で、一応聞いてやるけど、それは何に対する祝いの言葉だ」
「え、そりゃもうあれよ、竜也と伏見さんがお付き合いをしてるってことに――」
「「付き合ってない(ですっ!)」」
ドアの向こうにいる竜也と、しゃがみこんでいる伏見さん両方から同時に突っ込まれる。
いや息ぴったりか。これは絶対付き合ってるだろ。
伏見さんなんかめちゃくちゃ必死な感じで、その態度が余計に二人の関係を必死で隠してるように見える。
「またまた~、そんな隠さなくても――」
「いいか空太、次そんな勘違いしてみろ。お前のパソコンにある「模擬試験対策」フォルダの中身を学校中に公表するからな」
「すみませんでした二度としません許してください」
「よろしい。おいこらポンコツヘタレアイドル、横で聞いてただろ。ちゃんと話さないと、どんどんこんな感じの勘違いをされ続けるからな。それが嫌ならマジでちゃんとしろよ」
「う、うん! 私がんばる! 竜也と付き合ってると思われるなんて絶対に嫌だから!」
バチン! と伏見さんは両手で自分の頬を叩くと、ゆっくりと立ち上がる。そして、真っ直ぐに俺のことを見つめてきた。
その目には何か強い決意が込められているような気がした。
「わ、私っ! 実はずっと前から高原くんのこと――!」
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