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第二話 環境と先輩の予言

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 恋愛において、環境は非常に重要な要素である。

 例えば、彼女が欲しいと思っても、男子校に通っているのと、共学の学校に通っているのとでは、純粋に女子と関わる頻度そのものが大きく異なってくるだろう。

 仮に恋人がいたとしても、毎日会える環境にいるのと、一年に一度しか会えない環境にいるのとでは、交際を続ける難しさも大いに変わるはずだ。

 つまり、環境を上手く味方につけられるかどうかで、恋愛の難易度は大きく変動するわけである。

 

 そう、環境って本当に大事だと思うんですよ。恋愛とか関係なく、平和な日常生活を過ごすためには。

 例えばですよ、世間一般でめっちゃ有名な超絶美少女の現役女子高生アイドルがいるとするじゃないですか。アイドルですよアイドル。学校のアイドルとかじゃなくて、マジもんのアイドル。そんな相手をですよ? うっかりナンパなんかしちゃったら、どうなると思います? しかも同じ学校の同じクラスの子を。

 クラスメイトをナンパするだけでもヤバイ案件なのに、そこに、ナンパした相手が、男女問わず人気があって、学校内の影響力一位(個人の印象)のリアルアイドル、というオプションが加わるわけです。知らなかったとはいえ、そんな相手を俺みたいなスペックのやつがナンパしたという事実がバレたらどうなるか……もう頭の良い先輩ならわかるでしょう? 間違いなく学校中の晒し者ですよ。そんな環境で生活するとか地獄じゃないですか。だからですね、先輩。俺は考えたわけですよーー


「これはもう神頼みしかないな、と」

「うん、とりあえず、神頼みが選択肢に出るくらい高原くんが追いつめられてるのはわかったかな」


 とんでもない初ナンパを経験した翌日。

 昨日の夜に、何とか最悪の事態を避けようと考えに考えた結果、もう自分の力ではどうしようもないという結論に達した。

 というわけで、日課の早朝ランニングのついでに、うちのご近所さんである天崎神社あまさきじんじゃを訪れ、巫女服姿で境内の掃除をしていた先輩を捕まえて話を聞いてもらっているわけである。

 

「あと、神さまにお願いするついでに先輩に相談して、もしかしたらその頼りになる先輩が何とかしてくれたりしないかなーなんて、カルピスの原液くらい濃い希望もあります」

「なるほどなるほど……うん、それ神頼みじゃなくて、私への相談がメインだね」

「その通りでございます」

「素直でよろしい。まあ、高原くんが私を頼ってくれたのは素直に嬉しいよ? でもね? こんな早朝に来る? 今、朝の6時だよ6時」

「いや、善は急げって言うじゃないですか」

「きみの願いって、言うほど善かな?」

「平和に日常生活を送りたいと願うのは、立派な善でしょう!」

「いや、そうなんだけどね。はぁ……前から思ってたけど、きみ、ヘタレのくせに変な行動力あるよね」


 そう言って、先輩こと天崎神社の娘にして巫女さん大学生である天崎灯里あまさきあかり先輩は、呆れたように笑った。


「まったく、私が朝早くから境内の掃除をしてたから、きみに気づけたけど、そうじゃなかったら、どうするつもりだったの? お願いだけして帰るつもりだった?」

「いえ、先輩が出てくるまで、ここで出待ちしてようかと」

「通報されるから絶対にやめてね? そういう時は、連絡先知ってるんだから、普通に電話なりメッセージ送るなりしなさい」

「え、でも、こんな朝っぱらに電話とかメッセ送るとか、めっちゃ迷惑じゃないですか」

「うん、ものすごい正論なんだけど、今のきみが言っていいことじゃないね」

「すみません冗談です。先輩、朝はいつも境内の掃除してるから、運が良ければ会えるかなくらいの気持ちでした」

「きみの冗談ってたまに本気に聞こえるから怖いよ。ちなみに、運悪く私に会えなかったらどうしてたの?」

「え、多分、そのまま普通に帰ってましたけど」


 本当に、ランニングの帰りに会えたらラッキーくらいの気持ちだったので、出待ちは論外としても、連絡してわざわざ出て来てもらうなんて、まったく考えてもいなかった。

 そんな俺の答えが、どうも先輩はお気に召さなかったらしい。ちょっと怒ったような表情で腰に手を当てると、


「こら、そこは迷惑とか気にせず連絡しなさい。どんなしょーもないことでも、高原くんに頼られるのは、迷惑でも何でもないんだから」


 そう言って、こっちを安心させるように柔らかく笑った。


「先輩……ちょっといい人すぎません? 将来、変な男に引っかからないように気をつけてくださいね」

「大丈夫大丈夫。そんなことには絶対にならないし、それに、何と言っても私も変な女だからね。見た目からして普通じゃないし」

「まあ、そうですね」

 

 先輩は、自分の髪と目を順番に指差してドヤ顔をする。

 腰のあたりで一つ結びにされた色素の薄い雪のような白髪と、燃えるような深い赤色の瞳。先輩いわく、母方の家系が、代々、日本人なのに白髪赤眼らしく、それがばっちり遺伝したんだとか。

 だが、俺が言ってるのはそこじゃない。

 

「普通の人は先輩みたいに美人さんじゃないです」

「うん、誰もそんな意味で言ってないね」


 この先輩、とにかくめちゃくちゃ顔がいい。可愛いというよりは綺麗という言葉が似合う感じの、普通じゃないレベルの美人さんなのだ。

 少し恥ずかしそうに顔を赤らめて、頬に手を当てる仕草がべらぼうに可愛い。綺麗なのに可愛いとか最強か?


「というか、よく本人に美人とか言えるね。少しは恥ずかしいとかないの?」

「不思議なことに、先輩相手だと、まったく恥ずかしいとか緊張するとか無いんですよ。何でですかね?」

「それ、とり方によったらものすごく失礼だから、私以外にそういうこと言っちゃダメだよ?」

「先輩以外にヘタレの俺がこんなこと言えるわけないでしょう。俺を舐めないでください」

「あのね、まず、ヘタレな人は誰相手でもそんなことできないし、現役アイドルをナンパしたりしないんだよ?」

「先輩は特別枠なので。あれですよ、モナリザを綺麗って言うのは別に恥ずかしくも緊張もしないじゃないですか。多分、そういう感じです」

「……これ以上、私を恥ずかしがらせるなら、高原くんが伏見さんをナンパしたこと広めちゃうよ? 私のコネクション全部使っちゃうよ?」

「すみませんでした」


 この先輩、俺の二つ年上であり同じ学校の卒業生である。しかも、現役時代は3年間学年トップの成績を維持し、2年から生徒会長になったと思ったら、卒業までの間、生徒会業務を全て1人で完璧にやり遂げるなどなど、うちの学校のちょっとした伝説になっている。当然、この外見と性格なので、男女問わず人気もあった。先輩を慕っている後輩は、今も非常に多い。

 先輩にかかれば、俺のナンパ事故を広めることなんて造作もない。一瞬で学校中に知れ渡るだろう。


「よろしい。あんまり先輩をからかわないように。それで、えっと、何だっけ? 女に飢えた高原くんが、クラスメイトの人気アイドルのナンパに成功した話だったっけ?」

「先輩、言い方。言い方よくないです。彼女が欲しいのを女に飢えてるって言うのはやめてください。あと、ナンパは成功してないです」

「そうなの? 話を聞く限り、高原くんの誘いにのったんだし、成功でしょ」

「その後で、2人で遊びとかご飯とかに行ったなら成功かもしれませんけど、そうじゃないので」

「行かなかったの?」

「全力でナンパしたことを謝罪して走って逃げました」

「何してるの……」


 自分でもそう思います。けど、正直、あの時は色々と想像もしてなかったことの連続で軽くパニックだったんです。許してください。

 あと、竜也がいよいよ大学生くらいのお姉さん集団の圧に負けてに連れていかれそうになってたから、それを見捨てるわけにもいかなかった。


「高原くん。きみ、かなり失礼なことしたって自覚ある?」

「ありますよ……だからこそ先輩に相談しに来たんです。あんなことをしたら、友達とかに愚痴るのは明らか。人気者の伏見さんは友達も大勢いるから、昨日今日で、間違いなく、俺がナンパした挙句いきなり逃げ出した事実が広まってるはず……あれ? この先の学校生活詰んだのでは? という結論にいたりまして、転校先としてどんな学校がいいか相談しに来たわけです」

「うん、とりあえず転校は却下ね。というか、よくそこまで物事を悪く考えられるね。変な所はありえないくらいポジティブなのに」

「ヘタレなんて生き物はみんなそんな感じです」

「適当な嘘はやめようね。うーん、私は、高原くんが考えてるようなことにはならないと思うよ? 大丈夫大丈夫」

「先輩ポジティブすぎません? なら、せめてそう思った理由とか理屈を教えてください」

「状況から想像した結果というか、推測できそうなところが話の端々にあったというか……あ、この言い方が一番わかりやすいかな」


 少し顎に手を当てながら考える素振りをしていた先輩だったが、こっちをまっすぐ向くと悪戯っぽい笑みを浮かべて、こう言うのだった。


「女の勘」


 なるほど、女の勘。なるほどなるほど。


「なら仕方ないですね。先輩を信じて登校しようと思います」

「あのさ、言った私の台詞じゃないけど、よくあの答えで信じようと思ったね」

「なんか女の勘って割と根拠あるらしいですよ? 知らないですけど」

「ええ、あやふやだなぁ」

「何より、他ならぬ先輩の言うことなら信じられます」

「うーん、嬉しいけど、信頼が重いよ?」


 天崎先輩が大丈夫って言うなら大丈夫。それは、今までの付き合いから断言できる。目の前の恥ずかしそうに頬を掻いている先輩は、それくらいすごい人だし、信じられる人なのだ。

 正直、先輩の「大丈夫」が聞きたくて、ここに来たようなものである。


「よし、じゃあ、そんなおも〜い信頼を私にくれてる可愛い高原くんには、先輩のありがた〜い予言もあげちゃおうかな」

「わ〜い。絶対お断りします」


 この先輩、たまーに、ありがたい予言なるものをくれる。本人曰く、この神社の巫女に備わる力らしいが、その的中率は俺が知る限り百発百中という恐ろしい精度。

 万が一、悪い結果だったらめちゃくちゃ引きずるので、信じている先輩とはいえ、これだけは全力でお断りしている。できたことは一度もないけど。

 まあ、なんだかんだで、今までそこまで悪いことを言われたことはないので、今回も大丈夫だろう。


「今日の高原くんは、可愛い女の子が原因で学校中の注目の的になるでしょう」


 …………あれ? これやっぱり、学校生活詰んだのでは?

 

 なお、この先輩のありがた〜い予言だが、的中率100%の記録を見事更新し続ける結果になるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。

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