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第十七話 好きなものとコスプレ

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 自分が好きなものについて話すことは、案外、難しいことだと俺は思う。


 好きというのは自分の心の中でも特にプライベートな部分だ。それこそ自分の趣味嗜好なんかは完全に好きという感情の塊だし、それがバレるのは嫌だって思う人も少なくないだろう。


 自分の好きなものについて話した結果、同じものが好きな友だちや仲間ができることもあれば、周囲にひかれたり変な目で見られたりすることもある。


 つまるところ、好きなものを口に出すという行為は、自分の心の内をさらけ出すようなもので、しかも自分の人間関係に大きな変化をもたらす可能性があるのだ。


 自分が好きなことや熱中していることについて誰かに話すことは、意外と勇気のいることなのである。

 

「私、昔から漫画やアニメが大好きなんです……」


 空き教室での攻防にギリギリのところで勝利して、なんとか山本さんを落ち着かせた後のこと。


 山本さんは、どうしてあんな撮影会をしているのかの説明をし始めた。


 俺を呼び出したのは先週のことを謝るためでもあったが、本題は、どうして自分があんなことをしているのか、ちゃんと理由を説明したかったかららしい。


 山本さん曰く、自分の都合に巻き込んでしまうのだから、当然、俺への説明義務はあるし、もし理由を聞いて、嫌とか気持ち悪いとか思ったら、遠慮せず断ってくれていいとのこと。


 さっきの罰の件といい、変なところで真面目である。


「漫画やアニメの中のキャラクターって、とってもキラキラしてて魅力的じゃないですか……そんな子たちを見てたら、あんなふうになりたいなぁって憧れるようになっちゃって……私みたいな暗くて地味で可愛くないモブみたいな子じゃ絶対無理なのはわかってたんですけど……それでも……せめて、見た目だけでも好きなキャラになりきってみたいって思って……その、コスプレをするようになったんです」

「コスプレ」

「はい……あ、もちろん個人で楽しむだけで、イベントに出たりとかネットにあげたりとかはしてませんけど……さ、最初はお店で売ってる好きなキャラの服を親にバレないようにこっそり買ってこっそり自分の部屋で楽しんでたんです……で、でも、その、もっとこの衣装のこの部分はこうしたいとか、もうちょっとクオリティが欲しいなぁとか……どんどん満足できなくなってしまって……気がつくと、いつの間にか自分で作るようになってたというわけです……」


 恥ずかしそうに顔を赤くしながら言う山本さん。いや、まさか山本さんがレイヤーだったとは……人は見かけによらないというかなんというか。


「あれ? でもそれじゃあ何で天崎に着てもらったりしてるんだ? 話の流れ的に山本さんが自分で着るために服を作ってるんだろ?」

「そ、それはその……やっぱり、コスプレをするならできるだけ原作に近づけたいといいますか……例えば可愛いロリキャラの服なんか私が着てもまったく似合わないじゃないですか? こだわり始めるとそういう色々な所がどんどん気になってきて……せっかく衣装を作るなら、いっそ私じゃなくてもいいから、一番似合う人に着てもらいたいなぁと……」

「な、なるほど……それで自分が作った服を友だちの天崎に頼んで着てもらうようになったと」

「は、はい……ついでに言いますと、先週この空き教室で撮影をしたのも、天崎さんに着てもらった衣装の子が学園モノの子なので、撮影するならどうしても学校の教室で撮りたかったからなんです……」

「あー……なるほどそういう」


 何でわざわざ空き教室で、とは思っていたがまさかそんな理由だったとは。

 でもまあ、コスプレとかなら場所にもこだわりたくなるのは当たり前か。


 ていうか、天崎が着てたのって思いっきりゴスロリだったし、クマのぬいぐるみ抱えてたけど、それで学園モノっていったいどんな作品なんだ。ちょっと気になってきたぞ。


「えっと……話をまとめると、山本さんは漫画やアニメが好きで、好きなキャラの服を作ってそれを自分で着たり、誰かに着てもらったりして、それを撮影するのが趣味ってことでいいのか?」

「はい……あ、でも今じゃ自分で着ることはほとんどないです……私の好きなキャラってロリキャラばかりなので、私みたいな背の高い可愛くない女じゃまったく似合いませんので……あはは……」


 乾いた笑いをこぼす山本さん。

 いや、そんな虚無っぽく笑わなくても……普通に似合うと思うけどな。


 背が高いと言ってはいるが、当然、男子よりは小さいし、同年代の女子の中でもちょっと高いくらいだと思う。


 まあ、ロリかって言われたら難しいけど、山本さんは童顔で小動物っぽい雰囲気があるから、普通にロリっぽい服も似合うんじゃないだろうか。そんなこと本人に言えるわけないけど。


 しかしなるほど、ロリキャラなら、そのコスプレが似合うのは間違いなく天崎だろう。あいつほどロリな同年代の女子を俺は知らない。


「と、とにかく、私からの説明は以上です……ど、どう思いましたか? や、やっぱり気持ち悪いですか気持ち悪いですよね? 嫌なら嫌だと遠慮なく断ってもらっていいので! あ、で、でも、欲を言うとしたら、二度と高原くんには迷惑もかけませんし償いが必要でしたらなんでもしますのでこんな私の趣味は他の人には秘密にしておいてもらえると嬉しいのですがすみませんごめんなさい贅沢なお願いですよねでもこんな私でも学校には普通に通いたいと思ってますし不登校にでもなってしまって両親に迷惑をかけたくないのでどうかお願いします許してください!」

「めっちゃ早口! ていうかまだ何も言ってないだろ! 別に気持ち悪いとか思ってないし、他の人にも言う気もないから落ち着け!」

「え……ほ、本当ですか?」

「むしろ、めちゃくちゃすごいって思うよ」


 今まで生きてきて、山本さんみたいに何か一つのことに熱中したことは一度もなかった。


 遊びでもなんでも、何かに没頭し続けることはとてつもない熱量が必要だと、以前、どこかの漫画家のインタビューを見たことがある。そして、その熱量の一番の原動力は、好きだという感情だともインタビューでは語られていた。


 きっと山本さんは、そんな好きという熱量をすごく持ってる人なんだろう。少しだけ彼女のことが羨ましかった。


「す、すすすすごくなんてないですよ! ありえません! わ、私は自分の好きなことをしてるだけですし、むしろそのために天崎さんを欲望のはけ口にしているわけで!」

「言い方がひどすぎるだろ! いや、本当にすごいって! どうやって衣装を作るのかとかはよく知らないけど、好きだからってだけでそんな簡単に作れるもんじゃないだろ? それこそ服飾の専門学校とかあるくらいだし、衣装を作れるようになるために頑張って努力したんだなって思う。天崎が着ているのを見てただけだけど、詳しい知識がない俺でも、すごく丁寧に作られてるのはわかったし、あんな綺麗に衣装を作れるなんて山本さんは本当にすごいと思うよ」

「ひ、ひやぁぁぁぁぁぁぁぁは、恥ずかしいのでそれ以上は勘弁してくださいぃぃぃぃぃほ、本当にそんな褒められることじゃないんですぅぅぅぅぅ!!」


 真っ赤に染まった顔を両手で隠して、体を縮こまらせる山本さん。よく見ると耳まで真っ赤になっていた。


 そ、そこまで恥ずかしくなること言ったか? ていうか山本さん、どこが地味でモブなんだ。個性ありありというかめちゃくちゃキャラが濃いじゃないか。


「ま、まあとにかく、俺は山本さんの趣味が気持ち悪いなんて思ってないしむしろすごいと思ってる。だから別に断る理由もないし、もちろん誰かにバラしたりもしない。だから、えっと……これからよろしく?」

「は、はぃぃ……よ、よろしくおねがいしましゅぅぅ……」

「……あ、ごめん、山本さん。一つだけ聞きたいことがあった。山本さんは好きなキャラのコスプレを作ってて、好きなキャラはロリキャラが多いわけだろ?」

「そうです……ごめんなさい犯罪ですよねこれから私のことは遠慮なくロリコンとお呼びください……」

「誰もそんなことは言ってない! ただ、山本さんの好きなキャラがロリってことは、作る衣装もロリっぽい衣装が多いのかなって思ったんだよ」

「そ、そうですね……と言いますかむしろ最近はずっとロリキャラの衣装しか作ってません……」

「なるほど……じゃあ一応……念のために聞くぞ? まさかとは思うけど、俺もロリキャラの服を着るなんてことはないよな?」

「着てくれるんですか!?」


 恥ずかしそうに、ぼそぼそと小さな声で話していた山本さんのテンションが急にぶちあがった。


 ずっと顔を隠していた両手を、自分の胸の前あたりでわきわきさせながら、ゆっくりとこちらに近づいてくる。彼女のつぶらで大きな瞳が、無邪気な子どもみたいにめちゃくちゃキラキラしていた。


 やばい、これ先週見たことあるぞ。

 

「着ない着ない着ない! さっき、せっかく衣装を作るなら似合う人に着て欲しいって言ってただろ! ロリの衣装なんて、どう考えても俺が着て似合うわけないから!」

「た、確かにそうなんですが……女装は別腹と言いますか、むしろ似合ってないのがいい場合もあると言いますか……! はぁ……はぁ……!」

「何を言ってるのかさっぱりわからない! ただその目と息をしてる時はヤバいってことは知ってるぞ! お、落ち着け! 深呼吸! ゆっくり深呼吸しろ!」

「だ、大丈夫、大丈夫です私は落ち着いてます……! はぁ……はぁ……高原くんの女装姿……!」

「何を想像してるんだ!? 絶対着ないぞ!? 着ないからな!? フリとかでもないぞ!?」

「わかってますわかってます……! ばっちりちゃんとわかってますから安心してください……!」


 ドラ〇エのスライムみたいな口の形で、はぁはぁ言ってる山本さん。どう言い繕っても、興奮してる変態としか表現できない姿がそこにはあった。


 相変わらず顔が赤いままだが、その赤さの理由はさっきまでとは全く違うものが原因のような気がした。どう考えても興奮して赤くなってるだろこれ!


 そんな彼女を見ながら、断らなかったことを早くも後悔するのだった。


 次の山本さんの撮影会が怖くて仕方ない……え、まじで女装とかないよな? もしそんなことになったら、悪いけど全力で逃げるぞ俺は。


 

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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