第十六話 下駄箱とメジャー
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
下駄箱に入れるものと言えば? と聞かれたら、何を思い浮かべるだろう。
まあ、普通に考えたら靴になるだろうが、意外と靴以外のものが入っていることもある。
例えば手紙。ラブコメとかだとラブレターなんかは定番だし、他にも、バレンタインなんかだとチョコが入れられたりする。似たような場所としては、机の中なんかもそうだ。
ただし、そんなイベントが起きるのは、ほとんどの場合、モテる男女の下駄箱に限るわけだが。その証拠に、竜也なんか、もう数えられないくらい、そんな体験をしているのを知っている。
ちなみに俺も何度か経験したことはあるが、全部、竜也に渡しておいて欲しいというメモ等が必ずセットだった。いや、俺の下駄箱に入れるくらいなら、直接、竜也の下駄箱に入れろや。
とにかく、下駄箱にそんな青春っぽい類のものが入れられるのは選ばれた人間だけであり、俺みたいな普通の男子が経験することはありえないのである。それは今までの経験からも明らかだし、そう思っていた。
だからこそ、今ここでこうしているのは、我ながらナイス判断だったと思うのだ。
「この前は、本当に申し訳ありませんでした……」
こうして申し訳なさそうに謝ってくる山本さんを見てると尚更、そう思う。
土日があっという間に過ぎ去り、月曜日。
次の土日までの長い五日間がまた始まるのかと、若干、いや、かなり面倒な気持ちになりながら登校して、下駄箱を開けると、そこには一枚の紙。
今までの経験から、これが自分宛だなんて欠片も思わなかったので、また竜也案件か、なんて思いながら、中身の確認はせずに、そのまま竜也の下駄箱に入れようとして、ふと気づいた。
その紙が、やたら綺麗にきっちりと折られていて、それになんだか既視感があったことに。具体的には先週、木曜日あたり。
まさかな? なんて思いながら念の為に確認すると、見覚えのある丁寧な文字、そして、拝啓から始まる丁寧な文章。そして、最後に山本仁美という名前。
しかもその内容は、昼休みに俺一人で、先週、撮影会をした教室に来て欲しいというもの。
まさかの山本さんからのお呼び出しだった。もし、竜也の下駄箱に入れてたら、それはそれは気まずいことになってただろう。ナイス判断だった。
下駄箱に、自分宛の、女子からの手紙が入っていたという初めてのイベントに、俺は内心ドッキドキ。思い出すのはあの暴走した山本さんの姿。
呼び出す理由も書いてなかったので、正直、戦々恐々だったが、流石に無視するわけにもいかない。
いざとなったら天崎を呼び出して助けてもらおう、なんて思いながら昼休みに空き教室へ向かうと、山本さんが一人、所在なさげに立っていて、俺が教室に入って来たことに気がつくと、深々と頭を下げてきて、今に至る。
「嫌がる高原くんに無理やりあんなことをしてしまって、本当にごめんなさい……! 本来なら、すぐにでも謝らないといけなかったんですけど、土日で学校がお休みで……高原くんの連絡先も知らなかったし……」
「いや、別にそこまで気にしてないから、そんな謝らなくても……」
「き、気にしてないなんて……そんなわけないじゃないですか……わたしが高原くんの立場だったらトラウマになってるかもしれないですよ……あ、あの……完全に言い訳になっちゃうんですけど、あの時、私、とても嬉しくなっちゃってめちゃくちゃテンション上がっちゃって……ごめんなさい気持ち悪かったですよね……勢い余って同級生にセクハラしちゃうなんて……私なんてセクハラ大好きな中年の管理職おじさんと同じ存在なんです……どうぞ被害届をお出しください……」
「出さない出さない。というか、本当にそんな気にしてないから頭あげて」
頭を上げた山本さんの顔は、本当に申し訳なさそうだった。どうやら、俺の想像以上に落ち込んでるらしい。
いやまあ、もし俺が山本さんの立場でも、やらかした……って落ち込んでると思うけど、それにしても落ち込み過ぎじゃない? あと、暴走してた時とのテンションの落差が激しすぎるだろ。
「優しいんですね高原くんは……天崎さんが言ってた通りです……ああ……こんな優しい、慈愛が形になったような人に私はなんてことを……」
「うん、天崎から何を聞いたのかは知らないけど、とりあえず俺を聖人か何かみたいに言うのはやめようか? とにかく、これ以上は謝らなくていいし、山本さんも気にしないで?」
「そ、そういうわけにはいきません……! 私みたいなセクハラ女が、高原くんの優しさに甘えてはダメなんです……!」
「なんでそこまで頑ななの……じゃあ、逆に聞くけど山本さんは、とうやったら納得するんだ?」
このまま何を言っても埒が開かなそうだったので、もう直接、聞いてみることにした。
すると、山本さんはスカートのポケットから素早くメジャーを取り出して、こちらに差し出してきた。
「目には目を歯には歯を、です……! わ、私が高原くんにしたのと同じことを、私にしてください……!」
山本さんが俺にしたことってあれか。
メジャーを使って、腕とか足の長さとかスリーサイズとか、体中の色んな数値を、服の上からとは言え、体の隅々まで測り尽くしたやつか。
それを今ここで山本さんにやれと?
………………いやいやいやいやいやいやいやいや。
「無理無理無理無理! 絶対無理!」
「そ、そんな!? ど、どうしてですか!?」
「セクハラになるからだよ!」
「だ、大丈夫です! こ、これは私からお願いしてることですからセクハラにはなりません……! そ、それに、この行為は私への罰ですから正当なことです……! ですから…………ど、どうぞっ!」
目をぎゅっと閉じて、両手でメジャーを差し出す山本さんは、顔を真っ赤にしながらぷるぷると震えていた。よく見ると目の端にうっすら涙がたまっている。
「どうぞじゃないよ! ていうか、泣きそうになるくらいならやめとけって!」
「こ、これは涙じゃありません、あ、汗です……! で、ですから、ひと思いにお願いします……!」
「どう見ても涙だよ! とにかくいったん落ち着け! また後で思い出して、後悔することになるぞ!」
「そ、そうかもしれません……で、でも、それでも高原くんから罰を頂くと決めたんです……! そ、それに、罰なんですから、な、泣くほど恥ずかしいのは当たり前なんですっ!」
「何でそんなに罰を受けたいんだよ!? そんな目で見ても受け取らない、そのメジャーは絶対に受け取らないぞ!」
この後、意地でも俺に自分の体を測らせようとする山本さんを何とか納得させて落ち着かせるのに、昼休みの時間を半分も使うことになるのだった。
山本さん、意外と頑固というか面倒くさいところあるな……。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。




