第十四話 服装と個性
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
着ている服装によって人の印象は、驚くほど変わるものだ。
制服姿のクラスメイトと私服姿のクラスメイト、同じ人物でも服装が変わると、全然、違って見えたりする。ただそれが、いい意味でも悪い意味でも起きるのが、怖いところだけど。
もし、好きな人に初めて私服を見せた時、似合ってないとかダサいとか変とか思われるのは想像すると、かなり辛そうだ。
そういえば、この前、伏見さんには私服姿を見られてるんだよな……今更になってどんな風に思われたのかめちゃくちゃ気になってきた。ダサい格好したやつがナンパしてきたとか思われてたら、恥ずかしくて死ねる。
とにかく、服装が変わると印象も変わるってことは間違いないだろう。そのことを今、俺は目の前の光景を見て実感している。
「はぁ……はぁ……いい! 実にいいですよぉ! 似合ってます! めちゃくちゃ似合ってますよ天崎さん! 次はこっちに目線お願いしましゅ!」
「こうですか?」
「ああっいい! 実にビューティフル! 最高ですよぉ!」
目の前には、白のゴスロリ服を着た天崎が熊のぬいぐるみを抱っこ、あどけなく笑っている。うん、服はめちゃくちゃ似合っているし、素直に可愛い。
それに加えて外面モードとでも言うべきだろうか、生徒会室にいる時の天崎とは話し方も雰囲気もまったく違うので、全然、印象が変わって見えた。
そして、そんな天崎を、ごっつい一眼レフのカメラを構えて興奮した様子で撮影している女子生徒。
さっきから、ぱしゃぱしゃとシャッターを切る音だけが空き教室に響いている。
昨日、目安箱に入っていた唯一のお仕事案件、その内容が書かれた紙には、丁寧な文字で、非常にきちんとした文章が並んでいた。
拝啓から始まり、時候の挨拶を挟んで、最後にはきちんと敬具。教科書に載っていそうな、ちゃんとした手紙の文章がそこにはあった。が、問題はその内容。
丁寧に書かれていたが要約するとその内容は、
自分が作った服を着てもらって、思う存分その写真を撮らせて欲しい、というもの。
謎すぎる依頼だった。というか怪しすぎじゃない? しかも名前が書いてあるのはいいけど、明らかに本名じゃなくてペンネームみたいな感じのものだったのが尚更。
どう考えても怪しいと思ったが、天崎が言うには、この差出人は天崎の友だちだから安心していいとのことだった。
うん、どこからそう判断したのかまったくわからん。というか、友だちなら目安箱使わずに直接言えよ……。
そんな感じで、色々とつっこみ所だらけの依頼を確認した次の日、放課後になって、少し警戒しながら、依頼文の中で指定されていた空き教室にやって来た結果、あれよあれよと撮影会が始まり今に至る。
「はぁ……はぁ……! やっぱり天崎さんは可愛い! さすがです! 可愛すぎ! もう天崎さんしか勝たん!」
「ありがとうございます。何かポーズを取ったりはしなくていいんですか?」
「そ、そそそそんな! い、いいのですかそんなサービスまでしてもらっても!?」
「いいですよ。あ、でもあんまり過激なのはダメですからね?」
「は、はい! それはもう!」
結局、この後、30分ほど撮影会は続いた。
「この度は本当にありがとうございました」
撮影会も終わり、天崎の着替えも済んで全部がひと段落したタイミングで、依頼主の女子生徒、山本仁美さんが深々と頭を下げてきた。
この山本さん、実は俺と同じクラスの子で、休み時間なんかは静かに文庫本を読んでいる、文学少女っぽいイメージの女の子だ。いつもメガネをかけていて、髪型がおさげなのも、そんなイメージを抱いた要因かもしれない。
まあ、さっきの、はあはあ言いながら怪しいテンションで撮影する姿を見たおかげで、そんなイメージは吹き飛んだけどな……。
「お礼なんていいですよ、生徒の要望に答えるのが生徒会の仕事ですから。それより、あのような感じでよかったでしょうか? ああいった服は初めて着たので」
「それはもう! ばっっっっちり似合ってました! 最っっっっ高でした!」
「ならよかったです。あと、いつも言ってますが、撮った写真はくれぐれも、誰かに見せたり、渡したりしないでくださいね。仁美さんのことですから大丈夫だとは思っていますが念の為」
「それはもちろんです! 撮らせてもらう側としての当たり前のマナーですから!」
直立不動でびしっと敬礼する山本さん。
というか今、天崎のやつ、いつもって言ったけど、まさか、こういう撮影会を今までに何回かやってるのか?
それにしても、まさか山本さんが天崎の友だちだったとは、まったく思わなかった。普段、二人が話してたり絡んでるところを見たことは、覚えてる限り一度もない。どういう付き合いなんだろうか?
なんて疑問を思って二人を見ていると、不意に天崎と目が合った。にっこり笑う天崎。
なぜか、猛烈に嫌な予感がした。
「そうそう仁美さん、次からは高原くんも手伝ってくれるそうですよ。よかったですね。男物の服も作ってみたいけど、着てもらう相手がいないって言ってたじゃないですか」
ちょっと待て。そんな話、俺は聞いてないぞ。
「え、そ、そんな……い、いいんですか?」
「わたしたちは生徒会です。そして彼もその一員。生徒の皆さんから、頼り、にされたら協力するのは当たり前のことですよ」
露骨に、頼り、を強調した天崎。
あー……たしか天崎のやつ、昨日、俺のことをずっと頼りにするとか言ってた気がするけど……それってこういうことじゃなくない!?
「ですから仁美さん。遠慮、なんてしないで、どんどん、頼って、下さい」
「……ほ、本当にいいんですか?」
「はい。それに昨日、目安箱に入っていた仁美さんからの依頼を見て、彼自身が、わたしと一緒にやりたいと言ったんです。だから仁美さん、本当に高原くんに、遠慮、なんてしないでいいんですよ?」
たしかに言ったけど、前後の会話とか色んな文脈とか無視して、そこだけ切り抜くのやめろ! 悪質なネットニュースみたいなことするんじゃないよ! あと、遠慮の方もわかってるから強調もやめろ!
「遠慮、しないで、頼って、いいんですよね? 高原くん?」
「…………はい」
にっこりと綺麗な笑顔の天崎。こ、こいつマジで……!
内心でめちゃくちゃドヤ顔なのが手に取るようにわかるのがなおさら腹立たしいが、そんな感じの実際、昨日言ったし、それに、この空気で無理とは言えなかった。
すると、山本さんがものすごーくキラキラした目になっていることに気がついた。
「い、いいんですか!? いいんですね!? で、でしたら早速……! はぁ……はぁ……だ、大丈夫です……す、すぐに終わりますから……!」
「ちょっと待とうか山本さん、いったん落ち着こう。何をしようとしてるのかわからないけど冷静になって」
「あ、安心してください! 壁のシミを数えていればすぐですから……!」
「本当に何する気だ!?」
息を荒くしながらゆっくりとにじり寄ってくる彼女の目は、さっき天崎を激写してた時とまったく同じものだった。
違うのは、持ってるものが一眼レフからメジャーになっていることくらい。失礼だが、ぶっちゃけめちゃくちゃ変態っぽい。ぐへへ、とか言いそう。
というか山本さんってこんな子だったの!?
普段の大人しい様子からは、まったく想像できない姿だった。
「あ」
身の危険を感じたので、ゆっくりと後ろに下がって山本さんと距離を取っていたが、背中に硬い壁の感触。そして目の前には迫り来る山本さん。構図が完全にホラー映画のそれだった。
「も、もう逃げられませんよ……?」
「待って待って待って話し合おう山本さん。ほ、ほら? 人間は対話できる生き物のはずだよ?」
「はぁ……はぁ……と、とりあえず上着を失礼しますね……!」
「本当に待て!? おいこら強引に脱がそうとしてくるな! やめろこらーーってか山本さん力強いな!?」
結局この後、彼女の望み通りのことが行われた。
俺と天崎が生徒会に戻る時には、彼女は、それはそれは満足していることがわかる、ほくほく顔で俺たちを見送ってくれた。
「いや〜、それにしても、服を作るために必要な数値をメジャーで測るだけなのに、さっきの高原くん、めちゃくちゃ大袈裟なリアクションしてたよね。もしかして仁美に触られるの恥ずかしかったとか? 意外と可愛いところあるよね〜ってあ痛ぁっ!?」
そして、生徒会室に戻ってくると天崎がそんな感じでいじってきた。むかついたので、とりあえずデコピンをくらわせてやった。誰のせいでああなったと思ってるのか。
おかげで、クラスメイトの女子にメジャーで体の数値を測られるとか珍しい経験をすることになった。
その時、山本さんとの距離がけっこう近くなったり、微妙に体が当たったりして、ちょっと、いや割と恥ずかしかったのは天崎には秘密だ。もうこれ以上、いじられるのはごめんだった。
とりあえず、今日わかったことは、クラスメイトの山本さんの趣味が、服を作ることとそれを着た人を撮影すること、そして何かしらスイッチが入ると変態みたいになるということ。
天崎が言っていた、うちの学校は個性の強い生徒が多いということを、まさかこんなすぐに、身をもって実感することになるとは思いもしなかった。
いや、あれは個性が強いって表現でいいのか?
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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