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第九十七話 手作りは意外とハードルが高い

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 うっかり俺がゆーちゃんをナンパしてしまったことをお漏らししてしまったこと以外には、特に大きなハプニングもなく無事に2時間のハイキングが終了。目的地である山の頂上付近にある大きな広場には、うちの学校の生徒たちが集合していた。


 バスから降りた時と同じく学年主任の先生が俺たちの前で話をしている。


「では、この後は各自、昼食を取ってください。昼食を取った人から自由に行動してかまいませんが、今から1時間後にはまたこの場所に集まることを忘れないように。それと周りの人に迷惑をかけないよう気を付けること。それでは解散!」


 朝と同じく「解散!」で学年主任が話を終わらせる。

 自由時間が始まると、一斉に生徒たちが楽しそうに話をしながら広場のあちこちに向かい始めた。


 大きめの樹の下や、ベンチがある東屋なんかが、あっという間にうちの生徒で埋まっていく。その中には、花見の場所取りかよとツッコミを入れたくなる勢いのやつもいた。


 まあ、どうせ弁当を食べるなら、ハイキングらしい所の方がいいもんなぁ。流石にそこまでの熱量は持てないけど……。


 幸いここは山の中なので、東屋はともかく樹は至る所にある。俺たちの班は少し広場の中心から外れた、まだ誰もいない樹の下を確保した。お昼くらいは、周りからジロジロ見られずに食べたいよな。


「あ、ちょっと失礼」


 リュックから、4人くらいなら楽々座れそうな大きめのレジャーシートを取り出して、凸凹の少なそうな地面に敷く。


「よし、準備完了。ほら、座って座って。ウェットティッシュも持ってきたから、これ使って手を拭いてくれ」

「相変わらず準備がいいな、お前。んじゃ遠慮なく」


 リュックからウエットティッシュ(箱)を取り出してシートの真ん中に置くと、シートの上に腰を下ろした竜也が1枚取り出して手を拭き始めた。


「あ、ゆーちゃんも山本さんも、良かったら座ってくれ。ティッシュも自由に使ってくれていいから」

「うん、ありがとう空ちゃん」

「あ、ありがとうございます」


 促すと、どこか遠慮がちに立っていた2人も竜也と同じようにシートの上に座る。ゆーちゃんと山本さんがウエットティッシュを取った後、最後に俺も座って同じように手を拭いた。


 シートに座って綺麗に手を拭いた俺たちは、それぞれ自分のリュックからお昼を準備を始める。


 お弁当タイムである。こうやって自然の中で弁当を食べるのが、遠足やハイキングの楽しみの一つだろう。樹の下は木陰となっており、時々、涼しい風が吹いていて、とても過ごしやすく心地よい。ロケーションとしては充分すぎる。


「やっぱり竜也はコンビニ弁当か」

「おう」


 竜也が取り出したのはコンビニ弁当。シンプルな唐揚げ弁当だった。


 竜也のご両親もうちと同じかそれ以上に仕事が忙しい人たちらしく、昔からお昼や学校行事の時はコンビニ弁当率が高い。


 中学校の時は自分で弁当を作って持ってくることもあったけど、高校になってからはそれも面倒くさくなったのかコンビニ弁当のローテが基本だった。


「けどお前、その唐揚げ弁当好きだよなぁ。最近毎日それ食ってないか?」

「まあ1番安いからな」

「理由がシンプル過ぎる。てか安さで言ったら自炊が間違いなく1番安いぞ? それに、たまには別のもの食えよ。唐揚げばっかり食べてて、栄養的に心配になるわ」

「自炊が1番安上がりなのはわかってるが、毎日朝早く起きて自分のために弁当を作るのは面倒すぎる。そうなると、安いし量もそこそこある唐揚げ弁当が一番コスパがいいんだよ。正直、腹が膨れたら何でもいいし。栄養の方も野菜ジュースを飲んでるから別に問題ないだろ」

「またお前はそんなこと言って……」


 この竜也というイケメン、昔から食べることに無頓着が過ぎる。


 本当に腹が膨れたら何でもいいらしく、しかも毎日同じものを食べても飽きないタイプなので、放っておくとずっと同じものしか食べないのだ。それどころか、別に一日くらい食べなくても死にはしないとか言って、何も食べないこともある。しかも割と頻繁に。


 何でもできる万能なイケメンではあるが、この食事に関する姿勢だけは、個人的になんとかした方がいんじゃないかと思う。いやほんと、いつか本気で体壊すぞお前。


 普段は俺が竜也にポンコツだのヘタレだの言われるが、食に関してだけはその立場が逆転するのだ。


「お前は本当に食事だけはズボラというか無頓着だよなぁ。ほら、サンドイッチ作ってきたから、これも食べなさい! 野菜ジュースじゃなくて、これ食べてちゃんとした野菜を取れ!」


 リュックから大きめの保冷バッグを取り出して、ウェットティッシュの隣に置く。蓋を開けると、朝に詰めた時とほとんど変わらない綺麗な状態のサンドイッチが、特に崩れた様子もなく無事に並んでいた。崩れてなくて、内心でガッツポーズ。


 おお、よかった。登ってる最中に崩れてぐちゃぐちゃになったりしたら嫌だな、って心配だったんだよな。うん、これでもかってくらい隙間なくサンドイッチを詰めた甲斐があったわ。やっぱり料理は見た目も大事だからな。まあ竜也の場合は、腹に入れば同じとか言いそうだけども。


「こっちからハムサンド、卵サンド、BLTサンドな、ちゃんと食えよ」

「お前は本当に昔からマメだよな。つーか野菜を取るにしても、サンドイッチじゃそこまで野菜は取れねえだろ」

「またこの子は屁理屈言って! いいから黙ってお食べ! トマトとレタスとキュウリの栄養価に震えろ! 特にキュウリはギネスにも載ってるくらいなんだぞ! カロリーが一番低い果実としてな! だからカロリーは気にしなくていいぞ! やったね! つーわけでしっかり食え!」

「んなもん気にしたこともねえよ。あと何だそのしゃべり方、お前は俺の母親か。まあ、ありがたくいただくけども」

「そうしなさいそうしなさい。あ、よかったら、ゆーちゃんと山本さんも食べてくれ。これ4人分作って来てるから」


 さすがにいくら竜也の食生活が心配でも、こいつ一人のためにわざわざサンドイッチを作ってくるなんてことはしない。そんなことをしたら、また嫌な感じの誤解を招きかねない。


 中学の頃、似たようなことをしてたら腐のつく女子たちにすんごい目で見られるようになってたからな……そういう関係じゃないしそっちのケは俺も竜也も一切ないっての!


 元々、昔からこういう班で行動するような学校行事の時なんかは、極力、何か簡単につまめるようなものを作って持ってくるようにしていたので、その流れで作って来た感じでもある。


 正直、俺の手作りとか誰得だよというか、気持ち悪く思われたりしそうじゃない? なんて思わなくもないから、手作りじゃなくて既製品の方がいいとは思うんだけども、さすがに行事の度に毎回、買って持って行ったりしてたら金銭的にキツイ。特に今月は海音の誕生日もあるからな……。


 って、いつもの調子で持ってきたけど、女子相手は流石にマズかったような気がするなぁ……中学の時なんかもつるんでたのは全員男友達だったし。


 男子はこういうつまめるものを持ってくると案外、素直に喜んでくれるが、女子的には果たしてどうなんだろう。内心、手作りとかキモ……とか引かれたりしてないだろうか。 


 冷静に考えたら、そもそも俺みたいなやつが手作りで何か持ってくるとかどうなの? 喜んでもらえるかもとか思って持ってきたけど、よくよく考えたら自意識過剰じゃないか? それに手作りとか嫌がる人って結構多いしなぁ……ちゃんと調理用の手袋を付けて作ったけど、それを伝えても信じてもらえるかはわからないだろうし……なんで俺は手作りサンドイッチなんて持ってきた?


 さっきから驚いた表情をしているゆーちゃんと山本さんがいったいどんなことを思ってるのか、果てしなく気になる。


「えっと、一応ちゃんと味見もしてるから不味くはないと思うぞ? あ、でも本当によかったら! 本当によかったらでいいから!? 無理して食べなくても大丈夫だからな!?」

「た、食べる! 絶対食べるよ! で、でも空ちゃんってお料理もできたんだね。山本さんは知ってました?」

「い、いえいえいえいえ!? 知りません知りません!? た、高原くんってお料理もできるんですね……すごいです……!」

「いやいやいやいやいや!? そんなすごくないから! ちょっとだけ、ほんと、たしなむ程度に作るくらいだから! サンドイッチなんて具材を準備して挟むだけだし!」 

「二人とも騙されるなよ。試しに一つ食べてみたらわかるが、たしなむ程度じゃなくて、こいつ、めちゃくちゃ料理できるからな」

「はぁ!?」


 さっそくハムサンドを一つぺろりと平らげた竜也が、謎の俺が料理上手いアピールをする。


 竜也みたいなイケメン男子の言葉は信用性が高い。これまた美味そうにサンドイッチを食いやがったから尚のこと。


 なんで食べることにそこまで関心がないのに、お前ってやつはそんなに美味そうに食べられるんだ? イケメンか? イケメンだからなのか? イケメンだったら何をやっても、プラスに見えちゃうのか? CMなんかでイケメンが起用される理由がよくわかったわ!


 そんなイケメン補正のおかげだろうか、ゆーちゃんと山本さんが、ものすごく感心したような声をこぼした。


 作った本人でサンドイッチの味を知ってる俺ですら、竜也が食べるサンドイッチが美味そうに見えてしまったんだから、女子二人は俺の比じゃないのかもしれない。


 ごくり、とつばを飲み込む音が聞こえたのは気のせいだと思いたかった。


 やばいやばいやばい、これは間違いなくサンドイッチのハードルが上がったぞ!? お前ほんと急に何してくれてんの!? 無駄にハードルを上げるんじゃないよ! 本当にごく普通のサンドイッチだぞこれ!? さっきも言ったけど本当に具材を準備して挟んだだけなんだから、そこまで期待されても困るんだよ!!


「じ、じゃあ空ちゃん、お一つ、貰っちゃうね」

「わ、私も、その、い、いただきます」


 ゆーちゃんと山本さんが、どこかおそるおそるといった様子でサンドイッチにそれぞれ手を伸ばす。どこか緊張してるように見えるのは気のせいだろうか。今度は卵サンドを手に取って、これまた美味そうに食ってる竜也とは大違いだ。


 竜也てめえこの野郎、こんな状況を作っといてのん気にサンドイッチ食ってるんじゃないよ! やばい、なんかめちゃくちゃ緊張してきたんだが……なんで校外学習で料理対決番組の料理審査みたいな空気になってるんだ!?


 俺は無駄にドキドキした気持ちで、ゆーちゃんと山本さんがサンドイッチにかぶりつくのを見ることになるのだった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

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