幕間⑬ ゆーちゃんは人見知り(例外あり)
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「自分らしさとは……俺らしさとは……わ、わからん……! なあ竜也、せめてヒントくれヒント。ノーヒントはちょっとキツすぎるって」
「昔から言ってるだろ。残念ながらこの件に関してはない、ノーヒントだって。そもそもお前が自分で気づかないと意味がないって言ってんのに、ヒントとかあるわけねーだろ」
「竜也の鬼畜! もう何年もずっとわからないことなんだから、ちょっとくらいヒントをくれてもいいだろ!?」
「お前が何を言おうと、ないものはない。つーか未だに気づけてないお前に俺は驚きを隠せねえよ。はぁ……中学を卒業する頃には流石に理解するだろうと思ってんだが、まさか高校になってもわからないまだとはな」
「よく見るその呆れ顔のため息やめろ! わからないものはわからないんだから仕方ないだろ! 人間、自分のことは意外とわからない生き物なんだぞ!?」
「だとしてもお前はわからなさすぎるわ。クソ鈍感にもほどがあるぞ」
うんうん、空ちゃんって鈍感だよね……。
私たちの前を歩いている空ちゃんと竜也の話に心の中で頷く。
ノーヒントなんて言いながらも、クソ鈍感だなんてヒントどころかほとんど答えを言ってる竜也だったっけど、それに気づいた様子もなく悩み続ける空ちゃん。そんな空ちゃんに、竜也が深くため息をついたのを見て、思わず小さく笑ってしまった。
この様子だと、「空ちゃんらしい」に込められた意味に空ちゃん本人が気づくのは、まだまだ先の話になりそうだね。でもよかった……去年まで空ちゃんが「空ちゃんらしく」いてくれて……。
そんなことを思ってしまう私は、間違いなく悪い子だと自分で思う。
だって、もし空ちゃんが鈍感じゃなかったら、絶対に彼女がいたに決まってるから。
中学の頃の空ちゃんの話を、竜也から聞いたりしてるからわかる。空ちゃんに好意を持ってた女の子は何人もいたみたいだし、実際、「空ちゃんらしさ」がなかったら間違いなく付き合ってただろうって、竜也も言っていた。
もしそんなことになっていたら、私はきっとどうしようもなく辛い気持ちになっていたと思う。ずっと好きだった幼馴染と再会したら彼女がいた、なんて辛すぎるもの。もしそうなってたら、私は空ちゃんのこと諦められていただろうか?
…………うん、無理…………好きって気持ちを抱えたまま、ずっと空ちゃんのことを想い続けてたんだろうなぁ……。
試しに想像してみただけで心がきゅってなった。空ちゃんには悪いけれど、彼女がいなくて本当によかったと思ってしまう。
でもまあ、そのせいで今度は私が困ることになっちゃってるんだけどね……。
以前、竜也から割と真剣な顔で忠告されたことがある。空ちゃんは自分に対する好意についてとんでもなく疎いから気をつけろ、ものすごい鈍感と変な勘違いをするから、って。
聞いた時は、それがどういう意味なのかいまいちよくわかっていなかったけど、空ちゃんと同じクラスになってから、痛いほど実感した。というか現在進行形で実感している。
自分で言うのもあれだけど、空ちゃんのことが好きっていう私の気持ちは、わかりやすく出てしまってると思う。
特にゴールデンウィークに一緒に遊びに行って、昔みたいに仲良くなれたと思ってからは、積極的に空ちゃんに話しかけるようにしてるし、こ、この前も勇気を出して手を振ってみたりしたし。
それに、これはゴールデンウィーク前の話だけど、クラスメイトの前で告白する一歩手前のところまで行ったこともあった。あの時は天崎さんに邪魔されてしまったけど……。
そのせいでお友だちには、完全に私が空ちゃんのことが好きだってバレちゃってるんだよね……球技大会の時なんて、普段話さないクラスの女の子からも応援されちゃったし。
私の勘だと、きっと私の気持ちはクラスのほとんど全員に知られてしまっている気がする。最近、私と空ちゃんが話してると、たまにクラスの人たちが生温かい目で私たちを見ていたりするのが、少し恥ずかしかった。
そんな感じで私の好意は割とダダ洩れのはずなのに、空ちゃんが気づいた様子は一切ない。何なら、「男子は勘違いしやすい生き物なんだから、もっと色々と気を付けて! スキャンダル、ダメ絶対! アイドルの自覚は大事!」って空ちゃんから注意されたこともある。
空ちゃんなら勘違いしてくれてもいいのに……。
悩みながら前を歩く空ちゃんの背中に、少しだけ恨めし気な視線を向けてみる。
どうして私がアイドルになって、しかも恋愛OKを公言してるアイドル事務所に所属してると思っているのか。
きっと空ちゃんは、これっぽっちも自分が関係してるって思ってないんだろうなぁ……私が空ちゃんに告白未遂をやらかしちゃった時も、自分が告白されるはずなんてないって心の底から信じちゃうような空ちゃんだもんね……。
あの時に「空ちゃんらしさ」とはどういうことなのかを完全に理解させられた。ほんと空ちゃんってば鈍感すぎる……!
でもそんなところも何故だか可愛く見えてしまうのは、私が空ちゃんに恋をしてるからだろうか。鈍感で勘違いするところも、まったくもう、仕方がないなぁって気持ちになってしまう。もしかしてこれが母性ってやつなのかも?
自覚なく母性本能をくすぐってくる空ちゃんはズルいなぁって思う。
……もし山本さんが「空ちゃんらしさ」を知った時、彼女も私と同じ気持ちになるのかな?
何となく気になって、隣を歩く山本さんにちらっと目を向けてみる。
少し猫背気味の彼女は、まるで周囲を警戒する猫のような、どこか緊張した雰囲気をまとっていた。
「っ!?」
私の視線に気がついたのか、山本さんがこっちを向いた。慌てた表情になって、ものすごくぎこちない動きで小さく頭を下げてくる
う、うーん……どうして私にそんな緊張してるんだろ? 出発前からずっとこんな感じだけど、同じ班に誘っちゃったの悪かったかな……バスでもずっと緊張した感じでぎこちない返事ばっかりしてたし……もしかして私、知らない所で山本さんに何かしちゃったのかな?
今まで山本さんとはあまり話したことがないから、こんなに警戒されるようなことしちゃった覚えはないんだけど……。
考えてみても、そんな心当たりはまるでなかった。
色々お話したいんだけど、これじゃ難しそうかなぁ……空ちゃんのこととか聞きたいんだよね。ずっと隣の席になってるけど何かコツとかあるの? とか、空ちゃんと勉強会ってどんな感じだったの? とか!
空ちゃんに関することは些細なことでも知りたい私だった。人見知りであまり自分から話しかけるのは苦手な私だけど、空ちゃんが関係してる時は別だ。空ちゃんが絡むと、自分でも不思議に思うくらい積極的になれてしまう。
でも中々、空ちゃんについてのことを話せる機会がないんだよね……山本さんすっごく緊張してるし、バスの時も今も空ちゃんが近くにいるし。
さすがに空ちゃんに聞こえる可能性があるのに、空ちゃんの話をするなんて恥ずかしくてできないし、万が一、うっかり話の流れか何かで、私が空ちゃんのことを好きだって口に出しちゃって、それを聞かれたりしたら本当にマズい。
まあ、鈍感な空ちゃんだから、もし聞かれても大丈夫かもしれないけど……。
それに、空ちゃんのことを抜きにしても、せっかく席も近くになったんだから、普通に話してみたいし、色々聞きたいこともあった。
もしかしたら山本さんが、こ、恋のライバルの可能性もあるわけだし……。
さっき空ちゃんから肩を掴まれて顔を近づけられてた時のリアクションは、どう考えても、山本さんが空ちゃんのことを好きになってるようにしか感じられなかった。
もし嫌だったり何とも思ってなかったら、あんな恥ずかしそうに顔を真っ赤にしないはず。少なくとも空ちゃんのことを意識してるのは間違いないと思う。
まあ実際のところ、山本さんが空ちゃんのことを好きなのかどうかは、彼女にしかわからないんだけど、さっきの様子を見て、私の中じゃ山本さんは空ちゃんに恋をしている判定を下していた。
だから、山本さんが空ちゃんのことをどう思ってるのか、私はとても気になってしまっている。
そのためにも頑張って校外学習中に、山本さんとちゃんとお話する時間を作らなきゃね。お昼ご飯の後は自由時間の予定だったはずだし、その時間にチャレンジしてみよう……! 頑張れ私!
ゆっくり山道を登りながら私は、どうやって山本さんに自然な感じで話しかけるかを考え始めたのだった。
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