第九十六話 ハイキングのはじまり
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
これでもかと冷房のきいていたバスの車内から降りると、むわっとした蒸し暑い空気と、山の匂いとでも呼べばいいだろうか、自然あふれる香りに出迎えられた。
学校と同じくこっちの天気も憎らしいくらいの快晴。今からこの暑い中、2時間ほとかけて山登りをするのかと思ったら、少しだけ憂鬱になる。せめて風が吹いてたら、まだ涼しかったのになぁ……。
バスから降りてクラスごとに並び、全員の前で学年主任の先生がこれからの予定を説明する。そして、「班で固まって行動するように」などの簡単な注意事項を言ったかと思うと最後に「解散!」の一言。
いやそれはちょっと違くない? それは全部終わって学校に帰って来てからやるやつだろ。解散していいなら今からでも家に帰るぞ俺は。
なんてことを考えつつ、竜也、ゆーちゃん、山本さんと一緒に楽しい楽しい登山の開始。男女2人づつ横並びになって登っていく。
さっきのバスの座席とは違って、今度は俺と竜也が前でゆーちゃんと伏見さんが後ろだ。傾斜の緩い登山道を4人でゆっくりとしたペースで登る。
山登りって言うからきついイメージをしていたが、どちらかというと、これはハイキングだった。こうして周りの風景を楽しむ余裕があるしな。
まあ風景って言っても、生い茂った草木と花、たまに小鳥がいるくらいだから、そこまで見応えがあるわけじゃないけど。というかさっきから、そんな自然の風景よりも、ずっと気になってることがあるんだよなぁ……。
「なあ竜也」
「なんだ? またバスの時みたいに変なこと言い出すんじゃねえだろうな」
「違うからそんな露骨に嫌そうな顔するなって。俺の気のせいじゃなかったらだけど、なんかさっきからめちゃくちゃ見られてるよな?」
山登りが始まってから、何故か俺たちは同級生たちからものすごく見られていた。見覚えのないやつばかりなので全員、他のクラスの生徒だろう。ハイキングをしながら、誰も彼も興味津々な様子で俺たちを見ており、中には話しかけるタイミングを狙ってそうなやつもいた。
「これはやっぱりあれか。竜也とゆーちゃんがうちの班にいるからか? 二人とお近づきになりたい勢が話しかけようと虎視眈々とこっちの様子を窺ってるに違いない。二人ともモテモテで羨ましい限りだよコンチクショウ」
「やっぱり変なことじゃねえか。つーかバスの時も思ったけど、なんで急にモテたいとか言い出したんだ? もしかして何かあったのか?」
「いや別に何も? ただ、朝っぱらからうっかり知らない先輩カップルのイチャコラを見てしまったり、バスの中じゃうちのクラスの変なやつが意外とモテてる事実に気づいたくらいだ。別に、羨ましい!! 俺も彼女欲しい!! って気持ちがふつふつと湧いてきたりはしてないぞ?」
「なんだ、定期的にやって来る、空太の彼女欲しい期か。もう6月で季節の変わり目だから、そろそろだろうなとは思ってたよ。4月もそうだったが、お前って毎年毎年、季節が変わるタイミングで彼女が欲しいって言い出すよな」
「え、空ちゃんって季節が変わると彼女が欲しくなるの!?」
班で固まって歩いているので、当然、後ろの女子二人にも俺たちの会話は聞こえてしまう。竜也のとんでもない暴露にゆーちゃんが驚いていた。
「そうだぞ? つーかお前も4月に経験しただろ。あんな感じで、昔からこいつは季節の節目が来るたびに彼女を作ろうとするんだよ」
「異議あり! その言い方には悪意がある! まるで俺が節操なしみたいな言い方するのはやめろ!」
「そうだな。口だけじゃなくて、彼女を作るために実際に行動する節操なしの方が、見方を変えればマシかもしれねえな」
「今の異議はそういう意味で言ってないけど!? そもそも節操なしって、色んな女子をとっかえひっかえ付き合うやつのことだろうが! 生まれてこの方、誰一人付き合ったことのない俺が節操なしなわけあるか!」
「誰もお前が節操なしだなんて一言も言ってないし、そもそも先に節操なしとか言い出したのお前だろうが」
「ぬぐぐぐぐ……! そ、それはそうだけども……!」
相変わらず竜也の正論というかツッコミの威力が強い。俺がバカなせいだろうか、まったく隙が無く感じる。昔、ゆーちゃんが泣きついてきた理由がよくわかった。誰かに助けを求めたくなるな、これは。
そんなことを思ったせいか、ほぼ無意識的に、この場で助けを求められそうな相手であるゆーちゃんに視線が向いてしまう。
さっきからずっと驚いたような顔をしていたゆーちゃんだったが、俺と目が合うと、おそるおそるといった様子でとんでもないことを聞いてきた。
「そ、空ちゃん……もしかして今までに、私にしたようなことを何回もしてたりするの?」
話ながら、どんどんショックを受けたような感じで不安そうな表情になっていくゆーちゃん。
あんなこととは、間違いなく4月にうっかりゆーちゃんをナンパしてしまったことだろう。
なるほどなるほど、俺にナンパされた経験があるゆーちゃんが、実は俺が季節の変わり目が来たら彼女を作ろうとするようなやつだった、なんて聞かされたら、まあそんな事を考えても不思議じゃないわな。
…………やばいやばいやばいやばい! このままだとゆーちゃんに、俺が、彼女が欲しいからって毎年毎年、季節の節目にナンパしまくるチャラいやつみたいに思われてしまう! ナンパなんてゆーちゃんにしかしたことないのに!
「ないないないない! あんなことしたのはゆーちゃんが生まれて初めてだから! それに竜也がさっき言ったことについても少しだけ語弊がある! 確かに定期的に彼女が欲しいって相談はしてたけど、それだけだから! 実際に行動に移したのは4月のあれが初めてなんだよ! そもそも自他ともに認めるヘタレの俺が、ナンパなんて何度もできるわけないだろ!?」
「な、ナンパ!?」
ああしまった!? うっかりナンパってワードを出してしまった!
山本さんがびっくりしたような声を上げたことで、うっかり自分がやってしまった大失敗に気づくバカな俺。
クラスメイトをナンパしたことだけは絶対に誰にもバレないように、ずっと気を付けてたのにぃぃぃ! は、早く口止めしないと!!
もはや4人で仲良くハイキングどころじゃない。
足を止めて、山本さんの両肩をガシッと掴み、正面から山本さんの目をできる限り真摯な目で見つめる。
「待ってくれ違うんだ山本さん、ナンパしたのは間違いないんだけど、俺はそこまで乗り気じゃなかったって言うかぶっちゃけこの金髪イケメンに脅されてやったみたいなものなんだよだからクラスにやつらには黙っててくれお願いします!!」
「わひゃぁ!? わ、わわわわわかりましたわかりました! ぜ、ぜぜぜぜ絶対に言いません!」
「本当か!? 信じていいんだな!?」
「だ、だだだだだ大丈夫です絶対に大丈夫です! そ、そもそも話すような友だちがいませんから! わ、私、クラスじゃ高原くんしかお友だちいませんし! で、ですから絶対に大丈夫なので、そ、そのぅ、す、少しだけ離れてくださぃぃ……お、お顔が、た、高原くんのお顔がち、近いですよぅ……」
「あ、わ、悪い!」
顔を真っ赤にした山本さんの消え入りそうな声に指摘されて、いつの間にか、かなり山本さんに顔を近づけていたことに気づき、慌てて距離を取った。
いくら焦ってたとはいえ必死過ぎか! 前のめりすぎるわ! 必死過ぎてキモすぎるぞ俺!!
俯いてしまった山本さんにものすごく申し訳ない気持ちでいっぱいになってしまう。
そして同時に、心の中の自分自身をマウントでぼこぼこにしてやりたいくらい後悔。ていうか恥ずかしすぎて今すぐに家に帰ってベッドでのたうち回りたい。また一つ黒歴史が増えてしまった。
思えば肩を掴んだのもマズい。いくら友だちとはいえ男子から急に掴まれたら驚くだろうし、そもそも許可なく女子に触るなんて行為はイケメンしか許されていないはずだ。
いやほんと……何で俺はこう、キモイ行動をやらかすことが多いんだろうか。
改めて一連の自分のキモすぎる行動に、死にたくなっていると、竜也とゆーちゃんが俺のことをじーっと見ていることに気づく。
竜也は呆れたような顔をしており、ゆーちゃんはどこか拗ねたような雰囲気で半目になって口をとがらせていた。
「な、なんだよ竜也、言いたいことがあるならハッキリ言えよ」
「別に何も。結月も大変だなって思っただけだ」
「どういうことだよ!? 今の俺と山本さんのやり取りのどこにゆーちゃんが大変になる要素が!?」
「それがわかってないあたり、空太はやっぱり空太だな」
「うん、安定の空ちゃんだね……」
「竜也はともかくゆーちゃんまで!? というか、たまにそんな感じのこと言うけど、そもそもそれってどういう意味なんだよ! 頼むから説明してくれ!」
「前から言ってるが、これはお前が自分で理解しないと意味のないことだから断る」
「そんなこったろうとは思ってたよ! 相変わらず厳しいやつだなお前は! けど考えてもわからないから聞いてるんだって!? あ、そうだ、ゆーちゃん! 優しいゆーちゃんなら教えてくれるよな!?」
「……ご、ごめんね、私も竜也と同意見かな。これは空ちゃんが自分で気がつかないとダメなことだから」
「まさかのゆーちゃんまで竜也と同じ意見!? いったいどういうことなの……本当にわからないんだけど……」
幼馴染たちからきちんとした説明をしてもらえず、しばらくの間、俺らしさとは何なのか、そんな恥ずかしくなるようことを真面目に考えて悩む羽目になってしまう。
そんな俺の様子に、竜也は呆れたようにため息をつき、ゆーちゃんは苦笑いをしていたのだった。
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