第九十五話 周りのことは注意して見ましょう
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
校外学習で登る山へ向かうバスの中、車内のあちこちで、クラスメイトたちがそれぞれ楽しそうに移動時間を過ごしていた。
友だちとお喋りしてたり、トランプしてたり、こっそりお菓子を食ってるやつもいる。
お喋りはともかく、トランプなんかして酔ったりしないんだろうか。というか校外学習でトランプってお前、それはもう林間学校とか修学旅行で持ってくるやつじゃない? バスに乗ってるのって30分くらいだぞ?
「ダウト」
「ふっ、流石だね……さっきから僕の嘘をこうも簡単に見抜くなんて。もしかしてキミは僕の心が読めるのかい?」
「いや、だってお前絶対に1捨てないじゃん」
「当然だろう? 常に1番を目指す僕が、せっかく手に入れたエースを手放すわけがないじゃあないか。残り一枚、最後のエースも必ず僕が手に入れて見せるよ」
「お前ダウトのルールちゃんと理解してる? エースにこだわるのは自由だけど、その結果、負けてたら意味ないだろ」
「はっはっは、何を言ってるんだい、まだ勝負はついていないよ? キミの手札は残り一枚、確かにこれは絶体絶命の状況だ。だけどここから僕の華麗なる逆転劇が始まるのさ! その特等席で僕の勝利を刮目して見るといい!」
「おーい状況わかってるか? 俺の手札が残り一枚でお前の手札にエースが3枚しかないってことはだな?」
「これ以上の言葉は不要! さあカードを出したまえ!」
「…………ほい1」
「ふっ――――――ダウトだ!!」
しかも二人でダウトて。あまりにも不毛すぎるだろ……そこはせめてババ抜きとかにしとけよ。
それに、やり取りが完全にコントなんだけど、もしかしてわざとやってるのか? うちのクラスのコント師の枠は、バスケ部三人衆だけでもうお腹一杯だぞ。
あとお菓子を食うのは絶対に早い。そこは昼まで我慢しろよ。待ちきれなかったのかよ。いつもこれくらいの時間に早弁してるからお腹空いちゃったの? まあ、弁当を食ってないだけまだマシか。
…………しっかし、改めて見てみるとうちのクラスって、他のクラスに比べたら妙にキャラの濃いやつが多い気がするな……キャラが濃いっていうよりは、個性が強いっていうか。
バスケ部三人衆だったり、念仏くんだったり、オペラ調でしゃべる1番が大好きな男子野球部だったり、運動部でもないのに毎日早弁する男子パソコン部だったり…………あれ、どいつもこいつも男子ばっかりだな。もしかしてうちの男子って変なやつ多いのか? ていうか男子パソコン部って何だ? そこで男女分ける必要あるか?
腹立たしいのは、今挙げた変人男子どもは割とクラスカーストじゃ上位に位置していて、中には彼女がいるやつまで存在するという事実。どういうことなの。
「……もしかして世の中、普通のやつより変なやつの方がモテるのか?」
「は? 急にどうした」
ぽろっとこぼれた呟きに、隣の席に座ってる竜也が反応した。また変なこといいだしたなと、面倒くさそうな顔でこっちを見てくる。
「いやなんか、改めて考えてみたらうちのクラスの男子って変なやつ多いなって思ってさ。しかも、そういうやつらに限って、何故かモテてたり彼女がいたりするっていう理不尽なこの世の事実に気づいてしまったというか……そういえば、昔から女子は面白みのない真面目で普通の男子より、ちょっと不良っぽい男子に惚れやすいって聞くし、その理論でいけば普通の男子よりは少し普通じゃない男子――無個性よりは多少変でも個性があった方がモテるってことになるのでは!? まさか俺が彼女を作るために必要だったのは周りに変人だと思われるレベルの個性だった可能性が……!?」」
「ねえよ。彼女が欲しいならそんなバカなこと考えてないで、もっとちゃんと周りを見るようにしろ」
「バッサリ! まあ今のは流石に冗談だけども! てかそのアドバイスはどういう意味だ?」
「言葉通りだ。もしそれがちゃんとできたら彼女の一人や二人、今すぐにでもできるだろうよ」
「いや彼女は二人も作ったらダメだろ。それにそもそも、そんなことくらいで俺に彼女ができるわけないだろうが。今まで俺がどんだけモテてこなかったか知ってるだろ?」
「知ってるから言ってるんだよ。あとさっきから、それくらいちゃんとできてます風に喋ってるけど、昔からずっとできてないからな、お前」
「失礼な! 俺ほどちゃんと周りのことを見てるやつはいないぞ? 悪目立ちしないように常に周りの人の顔色を窺って生きてるからな俺は!」
「そんな情けないことを堂々と言うんじゃねえよ……」
俺にそんな宣言をされて、呆れたようにため息をつく竜也。
常に周りのことを注意して見ておくのは、目立つのが嫌いなスーパー陰キャの必須科目だ。そして同時に、気配を消して周りからはこっちのことを気づかれないようにするのも忘れてはいけない。その時はわざとらしく寝たふりとかはせず、空気に一体化する感じで自然体でいるのがコツだ。
目立つ竜也と喋っている時なんかは一緒にいる俺も目立ってしまうように思うかもしれないが、それは意外とそんなことはなかったりする。どう考えても俺より竜也の方が目立つので、そっちに視線が集中するのだ。
つまりはメインを竜也にして自分は添え物になりに行くスタイル。これを俺は刺身の菊作戦(旧呼称、刺身のタンポポ作戦)と呼んでいる。よくタンポポと呼ばれてはいるが、あれの正体が実は菊らしい。
とにかくそんな感じで俺は目立たないために昔から無駄に尽力してきたので、普通の同級生よりも周囲をよく見ているし、逆に周りからどう見られてるか敏感に察することができている自信があった。
その証拠に、さっきクラスメイトたちの様子を観察していた時も、今もこうして竜也と話している最中も、俺はバスが発車してからずっと、一つ前の座席の様子を注意して見ていた。
俺たちの一つ前の座席に座っているのはゆーちゃんと山本さんだ。
バスの座席は班ごとで固まって座っており、このバスのシートは一番後ろを除くと全て二人掛けなので、一番後ろじゃない限り、それぞれ2人ずつ座ることになる。そしてそうなった場合、男2女2で別れて座るのが自然な流れだろう。
うちの班はちょうどバスの真ん中のあたりに固まっているので、その例に漏れず、俺と竜也、ゆーちゃんと山本さんでそれぞれ座ることになったのだが、その時の、まるで助けを求めるように、ものすごく不安そうな顔で俺のことを見てきた山本さんが忘れられない。
『お話』されると思ってるから、ゆーちゃんの隣が怖かったんだろうなぁ。けどあんな目で見られても何もできないって……。
助けてあげたい気持ちはあったけど、わざわざ男女ペアで座るような理由もなかったし、上手い言い訳も思いつかなかった。
あまり強引に男女の組み合わせで座ろうとしたら、不自然すぎて竜也とゆーちゃんに理由を追及されるのが目に見えていたので、せめて何かあったらすぐフォローに入れるよう、こうして席に座ってからは二人のことを注意して見ていたわけである。
まあ、そもそもゆーちゃんに『お話』する気なんてまったくないから、別に気にしなくてもいいんだけどな。山本さんが変な勘違いしてるだけなわけだし。
ぎこちなさそうではあるが二人とも普通に話せているようだし、今のところ何も問題はなさそうだった。声の調子から山本さんがめちゃくちゃ緊張してるのはわかったけど、早口でもないし暴走しそうな感じはなさそうから大丈夫だろう。よかったよかった。
けどなんかあれだな……よくよく考えたらなんかこれって女子二人の会話を盗み聞いてるキモイ変態みたいになってないか? もしかしてこっそり周りのことを注意して見てるのって、けっこうな変態行為なのでは?
いったん、今の俺の行動を字面に起こしてみる。
陰キャのモテない男子高校生の高原空太は、アイドルで幼馴染の伏見結月と最近仲良くなった女友だちの山本仁美が話している会話を後ろの席でこっそり聞きながら、ずっと二人の様子を窺っている。
間違いなくストーカーか変態の二択だった。キモイ以外の言葉が当てはまらない。
「竜也……俺、今日から周りのことを注意して見るのは絶対にしないようにするわ」
「は? お前、俺の話ちゃんと聞いてたか? なんで逆のことしようとするんだよ。彼女が欲しいんじゃないのか?」
「めちゃくちゃ欲しいわ! 欲しいけど……そんなことしてたら彼女ができる前に捕まる未来が見えるんだよ!」
「…………はぁ……どうせまた盛大に変な勘違いをしたか、バカみたいな考えすぎでもしたな……とりあえず、何がどうしてそうなったのか説明してみろ」
「つまりだな、ちゃんと見るってことは――」
さっきから俺に呆れっぱなしの竜也に俺がどうしてそんな風に思ったかを説明する。念のために、前の席に座る二人には聞こえないよう声を落として。
俺がこっそり盗み見と盗み聞きをしていたなんて二人にバレてしまったら、今日の校外学習の空気が地獄になる。そして次の日からの学校も間違いなく地獄になるだろう。女子は噂話が好きだって言うし、俺がそんなキモイことをしていたことが一瞬で広まるのは想像に難くない。しかも二人とも隣の席なので逃げることもできない。生き地獄確定である。
そんな感じにどんどん最悪の未来を想像しながら話していると、最後の方は絶対に周りに聞こえないようにするため、もう竜也の耳に顔を近づけて、ひそひそ話をするみたいになっていた。露骨に嫌そうな顔をしながらも、そのままの姿勢で聞いてくれる竜也に感謝。
そして、最後まで聞き終えた竜也は大きなため息をつくと、今までで見てきた中で一位二位を争うレベルの面倒くさそうな顔で、
「気にしすぎ」
めちゃくちゃシンプル過ぎる言葉を放ってきた。
あまりにも簡潔すぎる答えに、説明したことがちゃんと伝わっているか不安に思っていると、それが顔に出てたのか「お前のそれはただの気遣いだから問題ない。むしろそんな風に気にする方が気持ち悪い」と追加までされてしまう。
本当に問題ないのか心配ではあったが、イケてる男の竜也がそう言うなら大丈夫だろうと、ひとまずは納得。ただ念のために、これからは周りのことを気にかける時は、少し注意しようと思う俺であった。
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