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第九十四話 校外学習の朝

有織はべりです。

拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。

 班決めから3日後、土日を挟んだ月曜日の天気は、今までずっと続いていた雨はいったいどこに行ってしまったのかと言いたくなるような見事な快晴だった。


 どうやら天崎の逆さてるてるは、残念ながら効果を発揮しなかったらしい。今日の校外学習は無事に決行されることになった。


 雨が降って中止になって欲しいと願っていた天崎には悪いが、晴れてよかったと心の底から思う。

 まだ朝なのに普通に暑いし、もしこれで雨が降って湿度までプラスされたら本気で憂鬱だった。


 登校時間中の朝の校庭には何台ものバスが停まっており、体操服姿の2年生がその近くに集まっている。学校指定の鞄ではなく各々が私物のリュックを持っていた。


 俺も例に漏れず山登りをするのでもちろん体操服は上下ともに長袖、肩に負担がかからないようなリュックを準備してきている。肩にリュックのストラップがくい込んだりして痛くなってくるのは、地味に辛いからな。 

 

 見た感じうちのクラスが集まっているだろう場所へ向かっていると、登校中してきた制服姿の1年生や3年生たちの会話が聞こえてくる。


「そういえば今日って2年の先輩は校外学習だっけ。どこ行くんだろ?」

「行き先は全学年同じらしいから、僕たちと一緒だったはずだよ? 行き先は毎年違うらしいけど」

「そうだっけ? 去年はどんなとこ行ったのか気になるなぁ。あ、先輩方、おはようございます。ちょうど今、校外学習について話してたんですけど、去年の校外学習はどこに行ったんですか?」

「おはよう。去年は確か、博物館めぐりだったわよね?」

「だな。美術館とか科学館とか、そういう施設を一日かけて回ったぞ。そうそう聞いて驚け、その時にこいつ、科学館のプラネタリウムでうっかり爆睡しやがってな、しかも奇跡的に誰にも気づかれなかったせいで危うくバスに置いて行かれそうになって――待て待て待て待て俺が悪かった! 悪かったからその裁縫ポーチをしまえ!」

「うふふふふふ、付き合っても全然変わる気配のない、そのおしゃべりな口を縫い付けてあげましょうか?」

「おうおう朝からいちゃつきますね~先輩方~ひゅ~ひゅ~」

「邪魔したら悪いので僕たちはお先に失礼しますね~」

「ちょ!? こら待てお前ら助けろ! 部活の先輩の命の危機だぞ!? これのどこがいちゃついてるように見えるんだ!?」


 どう見ても普通にいちゃついてるだろ! うらやましいなコンチクショウ!!


 にっこりと笑う先輩(女子)に頬を引っ張られて、抵抗してはいるがまんざらでもなさそうにしている先輩(男子)の姿に思わず心の中で叫んでしまう。

 

 誰がどう見ても恋人のイチャコラを目撃してしまい、朝っぱらから無駄に精神的ダメージを受けてしまった。これから山登りなんて体力的に疲れることが待ってるんだから勘弁して欲しい。

 

 さっきの1年生とリア充先輩たちの会話からもわかるように、うちの校外学習は6月中にそれぞれ学年ごとに違う日程で行われる。なので今日、校外学習で山登りをするのは俺たち二年生だけだった。


 行き先もやることも同じなんだから同じ日に一気に済ませればいいだろうに。


 もしそうだったら海音のやつも「ちょっとお兄ちゃん聞いてよ~1年の校外学習の日、あたしの誕生日の次の日なんだけど。しかも天気予報じゃ普通に雨だし、もう最悪~」って愚痴らなくても済んだのにな。


 けどまあ、まだ誕生日の前とかじゃなくてよかったけどな。あいつ、この時期はいっつも体調を崩しがちだし。


 うちの妹は、元々そこまで運動が得意じゃないし、体力があるわけでもない生粋のインドアっ子なので、雨の中で山登りなんかしたら、風邪をひいて熱でも出してしまうんじゃないかと、実は秘かに心配していた。


 昔から海音は季節の変わり目、特に6月の梅雨時はよく熱を出して学校を休んでいた。

 小学校の頃なんかは、せっかくの誕生日なのに風邪でダウンしていたことも何度かある。体調を崩しやすい月に自分の誕生日があるというのは、なんとも悲しい話だ。


 しかも、普段は遠慮なんて言葉を知ってるのか怪しいぐらいずけずけとしているが、体調が悪い時は何故か自分からは言おうとせず黙って隠そうとするので、昔から季節の変わり目は海音のことを注意しておいてやらないといけなかった。


 まあ、今年はいまのところ大丈夫そうだけど。しんどそうにしてたり、くしゃみとかもしてないし。


 ただあんまり気にしていると「お兄ちゃん、妹のこと好きすぎでしょ~このシスコ~ン」と調子に乗りやがる(というか実際に乗られたこともある)ので、絶対に、注意して見ていることは妹に悟られてはいけない。


 もうあいつも高校生にもなったから、そこまでして俺が気にしなくてもいいって思うんだけど、やっぱり心配なんだよなぁ。ただこれだけは言いたい。俺はシスコンじゃない。家族を心配するのは当たり前のことだから、断じてシスコンではないのだ。


 誰かが聞いてるわけでもないのに、心の中で俺はシスコンじゃないと謎の言い訳をしていると、あっという間にうちのクラスが集まっている場所に到着。どうやら班ごとに集まってるっぽいので、俺も同じ班の仲間を探してみる。


 お、山本さんがいた。


 どこか落ち着かなさそうにきょろきょろとしている山本さんを発見。目が合うと、まるで迷子の子どもが親を見つけたような安堵したような顔になり、ぱたぱたと小走りでこちらに近づいてきた。


「お、おはようございます、高原くん」

「おはよう、山本さん。竜也とゆーちゃんはまだ来てないみたいだな」

「そ、そうみたいですね。あ、あの、今日は幼馴染の皆さんの中に入っちゃってすみません……私のことは気にせず放置してくださっていいので、皆さんで楽しくお話をしてください」

「そんな酷いことしないから……ていうか、山本さんがそんな風に思ってたとしても、ゆーちゃんは間違いなく山本さんに話しかけると思うぞ? あ、念のために言っておくけど、山本さんが言ってた『お話』じゃなくて普通の雑談的な意味で」 


『お話』という単語を出した途端、びしっと山本さんが固まってしまう。


 ああ、この反応、多分だけどまだ変な勘違いしたままだな……。


 班決めをした日、山本さんはゆーちゃんの『お話』を変な風に勘違いして不安になっていたけど、結局『お話』については、あの休み時間しか話すことができなかったので、今日までずっと『お話』を怒られることだと思っている可能性は十分にあると踏んでいた。


 内容は言ってくれなかったが、山本さんはゆーちゃんを怒らせた心当たりがありそうだったので、一応、ありえないとは思うけど、もしかしたらゆーちゃんが怒ってる可能性を考慮して、ゆーちゃんに山本さんのことをどうして誘ったのかそれとなく聞いてみたが、


「山本さんを誘った理由? 誘った時にも言ったけど、せっかく同じクラスなんだし、話してみたいなって。それに空ちゃんとも仲良しみたいだから。あんまり話したことのない私の友だちより、よくお話してる山本さんの方が、同じ班になっても空ちゃんは気まずくないでしょ?」


 そんな感じで、俺の予想通りまったく怒ってる感じは一切なく、むしろ俺が他の女子と同じ班で気まずくならないかを気にしていた。ゆーちゃんの優しさには感謝だけど、流石に俺もそこまでコミュ障じゃないよ? ……まあ、あんまり話したことのない女子よりは山本さんの方が何百倍もいいのは確かだけども。


 そんなわけでゆーちゃんが山本さんに『お話』をすることは間違いなくありえないんだけど、ゆーちゃんがそんなことを言ってたと山本さんに直接伝えるのは、安心させるためとはいえ流石にデリカシーにかける。


 ただ、今日一日ゆーちゃんに話しかけられるたびに、『お話』かもしれない!? みたいに山本さんがびくびくしてしまうんじゃないかと思うとあまりにも不憫すぎるので、ゆーちゃんから聞いたとは言わず、改めて俺の意見として伝えてみようとしたが、


「あ、空ちゃんおはよう~。山本さんも、おはようございます」

「ゆーちゃん、おはよう」

「ぴぃっ!? お、おはようごじゃいましゅ……」


 タイミング悪く? ゆーちゃんが来てしまったので、これ以上『お話』について何かを話すことはできなくなってしまったのだった。

 

 あー……これはもう仕方ないか……せめて、何かあったらフォローできるように今日はできるだけ二人の様子に気を配るようにしておこう。万が一、山本さんが暴走しそうになったら止めないと……。

 

 あと山本さんは何で俺の後ろに隠れてるんだよ。いくらなんでもゆーちゃんのこと怖がりすぎだろ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

よろしければ、ご感想や評価などをいただけると嬉しいです。

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