第九十二話 最後の1人は誰?
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「それで、結局のところ残りの一人はどうするんだ?」
あの後、なんとか反論しようとするゆーちゃんを徹底的に論破した竜也は、さらっと話を本題に戻した。
竜也を言い負かすことができず完全論破されてしまったゆーちゃんは、ものすごく悔しそうに竜也を睨んでいる。さすがにもう高校生なので、昔みたいに俺に泣きついてくることはなかった。まあ昔みたいに泣きつかれても困るけども。
「空太は誰か誘えそうな女子にあてとかないのか?」
ゆーちゃんのにらみつける攻撃をものともしない様子で竜也が俺に聞いてくる。
「いやそんなこと急に聞かれてもなぁ……ていうか、ゆーちゃんをフォローしなくていいのか? めっちゃ睨まれてるけど」
「特に害はないからほっとけ。もし気になるならお前が頭でも撫でて慰めてやれ。そうすりゃ一発でご機嫌になるだろうよ。そこんとこどうなんだポンコツ?」
「だからポンコツじゃないって言ってるでしょ! あ、でも、その、空ちゃんに撫でられるのは、ちょっと興味あるかな……もしかしたら、ご、ご機嫌になっちゃう、かも?」
竜也に怒ったかと思えば、恥ずかしそうに少しだけ頭下げてをこっちに差し出してくると、どこか緊張した面持ちでじーっと上目遣いで見てくるゆーちゃん。
えちょっと待って上目遣いの威力ヤバすぎ――ってそうじゃないそうじゃない! なんで俺がゆーちゃんの頭を撫でる流れになってんの? いやいやいやいや無理無理無理無理! 女子の頭を触るとか竜也みたいなイケメンにしか許されない特権だし! 頭を撫でるとか、そんな畏れ多いこと俺みたいなモテない男子がやっていいことじゃないから! いくら幼馴染のゆーちゃんが相手でも!
あとめっちゃクラスのやつらがこっち見てるんだけど。
女子はなんかニヤニヤしてて、男子は相変わらずどいつもこいつもチベスナになってやがる。ニヤニヤはともかく、チベスナ顔はどういう感情なんだよ。なんで竜也でもゆーちゃんでもなく、俺がクラス中の視線を集めてるんだ!? おかしいだろ!
「そ、そういや、俺が誘えそうな女子の話だっけ!? 早く班決めしないと時間も限られてるし、あんまり他のことに時間使うのはダメだよな! うん! ちょっと該当する人がいるか考えてみるわ!」
「逃げたなこのヘタレめ」
う、うるさいよ! こんな状況でゆーちゃんの頭を撫でるなんてできるか! いやこんな状況じゃなくても、そんなとんでもないことができるか!!
このままだと周りの圧力に負けて、うっかり頭を撫でてしまいそうなので、強引に話を逸らすと、竜也から呆れたような目で見られてしまった。それどころかこっちを見ていたクラスメイトにも、どこか白けた空気が広がっていくのを感じる。
「やっぱ高原ってヘタレだよねぇ」
「ヘタレだねぇ。伏見ちゃん頑張ったのに……」
「いやでも、これでさらっと頭撫でるようなことしたら高原じゃなくない?」
「それはそう。むしろ今回みたいにヘタレてこそ高原って感じがする」
「だね~伏見さんも大変そうだなぁ。男子的にあの感じはどうなの? 男子を代表してそこのバスケ部三人衆、試しに答えてみて」
「チベスナ」
「チベスナ」
「チベスナ」
「ヤバい、こいつらチベスナしか言えなくなってる」
「ウケるわ~」
ええい外野もうるさいな! こっち見てないでお前らもさっさと班決めしろよ! あとチベスナしか喋れないはもう狙ってやってるだろ!
「……………」
やめてゆーちゃん、そんなめちゃくちゃ物欲しそうにじーっと見てこないで。そんな目で見られたら本当に撫でちゃいそうだから。撫でたいか撫でたくないかの二択だったら、申し訳ないしとんでもなくキモイけど、撫でたい気持ちが無きにしも非ずなんだよ。
もし俺が耐えられなくなって撫でたりしたら、とんでもない騒ぎになることくらいわかるでしょ? アイドルの頭を男子が撫でてる姿とか、スキャンダル的に言えば割と決定的だと思うよ?
このままだと、破壊力が凄まじいゆーちゃんの上目遣いに本当に負けそうなので、ゆーちゃんの方を見ないようにして、本題、俺たちの班の最後の一人をどうするかについて考えることにする。考え事に集中してたら、いつの間にか撫でたい気持ちも忘れてしまうはずだ。
……まあ考えてみるとか言っても、ゆーちゃん以外で俺が誘えそうなクラスの女子なんて、山本さんくらいしかいないんだけど。
頑張って考えてはみたが、思い当たるのは彼女くらいだった。というか、そもそもこのクラスで女子の友だちって山本さんしかいないし。ゆーちゃんは幼馴染だから特別枠である。
ただ俺はそんな風に思ってても、山本さんがこっちをどう思ってるかは別の話というか……急に誘って変に思われないか不安なんだよなぁ。
テスト勉強を通して、ある程度、仲良くなった実感はある。ただ、休み時間に雑談するくらいなら大丈夫だとは思うけど、こういう行事で一緒の班に誘えるくらい仲良しかと言われたら、ちょっと判断が難しい。
ちょっと話すようになったからって、急に距離詰めてきたキモ……みたいなことになりそうで非常に怖い。
あと冷静に考えて、幼馴染3人が固まってる班に最後の一人として誘われるとか、俺だったら気まずすぎて全力で遠慮したくなるしな……。
もし山本さんが、今もこっちの様子を窺ってる竜也狙いの女子と同じだったら、そんな気まずさなんて跳ねのけて誘いに乗ってくれるかもしれない。
だがしかし、山本さんは竜也に興味がない系の珍しい女子なので、山本さんの性格も込みで考えると、おそらくお断りされる可能性が非常に高そうだった。
さっきの席替えの時も、竜也の隣の席とか全く気にした感じもなく、ずっと楽しそうに本読んでたもんなぁ。
なので竜也というエサで釣れない以上、山本さんを誘うのは難しいだろう。山本さんが、実はゆーちゃんと一緒の班になりたいとか思ってたらワンチャンいけるかもしれないが。俺と同じ班になりたい説は、そもそもあり得ないので考慮にすら値しない。
「……すまん竜也。自分から考えるとか言っておいて何だけど、俺が誘えそうな女子、いるけどいないわ」
「は? なんだそりゃ。いるのか、いないのかどっちだよ」
「よりわかりやすく言うなら、誘えそうな相手はいるけど間違いなく断られる」
「最初からそう言えよ。なんでわざわざわかりにくい言い方してんだ。空太が無理なら結月の方はどうだ? あと、お前はいい加減、頭を上げろ」
俺が考えてる間もずっと姿勢を変えずに撫でられ待ちをしていたゆーちゃんに、いい加減にしろとばかりに竜也がツッコんだ。
よかった、やっと竜也がツッコんでくれた……さっきから山本さんのこと考えながらも、実は全然諦める気配がないゆーちゃんをどうすればいいか悩んでたからな。
竜也に言われてゆーちゃんはとても残念そうな表情ではあったが、頭を上げてくれた。
「撫でられたいんだったら続きはちゃんと班が決まってからやれ。もし早めに決まったら、残りのホームルームとロングホームルームの時間を全部使って竜也におねだりできるぞ」
「! わかった!!」
「竜也ぁ!?」
不満げな感じから一転、めちゃくちゃ張り切った感じで目をキラキラさせるゆーちゃん。
た、竜也のやつなんてとんでもないこと言ってくれてんだ!? ロングホームルームだけでも50分あるんだぞ!? 最低でもそんな長い時間さっきの攻撃をされるなんて……耐えきる自信が微塵もないんだけど!?
そんな俺の心の叫びが聞こえるはずもなく、竜也は話を進めていく。鬼かお前は!
「それでどうなんだ? 誘いたいやつとかいるか?」
「うん。実は誘いたいって思ってた子がいるんだけど、二人がいいなら、その子でもいいかな? 前からお話してみたいなって思ってたんだけど、なかなかきっかけがなくて」
「俺は別にいいぞ。空太も別に問題ないだろ?」
「それは問題ないけど、さっきのおねだりの話は問題大ありだぞ!?」
「空太も問題なさそうだな。それで、お前が誘いたい女子って?」
「聞けよ!? いや聞いてくださいお願いします!!」
無視するんじゃないよ!! いいのか!? 本当に俺がゆーちゃんのことを撫でたりしたら、間違いなく微妙な空気になるぞ!? 幼馴染二人が気まずい空気になってもいいのか!?
とか竜也に全力で心の中で叫びながらも、頭の片隅でゆーちゃんが話したいと言ってる女子が誰なのか気になってしまう俺。
人気者のゆーちゃんの周りには男女問わずよく人が集まっているし、ゆーちゃんに話しかけるクラスメイトは多い。もうこのクラスになって3ヶ月目だし、まだクラスで話したことのない相手なんているか? そんな俺じゃあるまいし。
「山本さん。色々お話したいなって思ってたんだ」
竜也の問いに、にっこりと笑顔で答えるゆーちゃん。
まさかの、さっき俺が誘えるかどうか考えていた相手の名前が出たので驚いてしまい、つい山本さんの方を見てしまう。
「…………………え?」
竜也が言った通りゆーちゃんは声が大きいので、俺の隣の席に座っている山本さんにも、ゆーちゃんの誘いたい人が誰なのか、ばっちり聞こえたようだ。
班決めの時間もずっと読書をしていたらしい山本さんは、本を持ったまま顔だけを俺たちの方に向けて、信じられないことを聞いてしまったような表情で固まっていたのだった。
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