第九十一話 校外学習の班を決めよう
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「んじゃ、席替えも終わったしどんどん行くぞー。お次は校外学習についてなー。今年の校外学習は山登りだぞー」
校外学習の行き先について担任が発表すると、えー、と教室のあちこちから不満げな声が上がった。
「気持ちはわかるが騒ぐなー。この梅雨の時期に山登りとか正気かよとか先生も思わなくもないし、本音を言えば晴れてても山登りなんてしたくないが、決まったもんは仕方ない。文句があるやつは、私じゃなくて、行き先を決めたもっと上の立場の先生方に言えー」
うわぁ、うちの担任も天崎と似たようなこと言ってる。中間テストの時といい、相変わらず教師なのにぶっちゃけすぎだろ。
「てことで、校外学習の班決めしてくぞー。班の人数は男子2人女子2人の計4人。立ち歩いてもいいから、今からいい感じに相談して組めー。タイムリミットは一限目のロングホームルームの時間が終わるまでなー」
のっそりとした動きで箱を持って教室の隅へ移動したかと思うと、球技大会の時と同じように椅子に座った。あとはご自由にとばかりに眠そうな顔で俺たちを見ている。
いや、さっき席替えの時にも言ってたけど、いい感じって使いすぎじゃね? もうちょっとなんかあるだろ。色々と雑すぎるわ。
ただ、こんな雑な感じなのに、授業の方はものすごく分かりやすくて面白いという不思議。うちの担任は雑な所とそうじゃない所の差が激しすぎる。
それはともかく、校外学習の班決めか……男2女2の男女ペアの構成とか、また席替えの時と同じような荒れ方をしそうな予感がプンプンするな。
席替えの隣の席と同じように、竜也やゆーちゃんと同じ班になりたがる生徒はきっと多いだろう。竜也に関しては間違いなく多い。過去の経験と目の前の光景からもハッキリわかる。
班決めが始まってまだすぐだというのに、もうすでに何人もの女子たちが竜也の様子を窺うようにちらちらと見ていた。たぶん同じ班になりたいけど、どうやって誘えばいいかわからなくて悩んでるんだろうな。
席替えと同じく、班決めなんかの時の竜也への女子の気持ちも手に取るようにわかる。小中高と今まで竜也と一緒にいたことの経験が活きているのを感じた。いやまあ、わかったからといって何もないんだけど。
竜也でこれだから、当然ゆーちゃんの方にも男子たちが同じ班になりたそうに組みたそうな目を向けているはず――と思いきや男子たちは誰もゆーちゃんを意識してる感じはなかった。
さっきの席替えの時といい、男子たちの動きが意外すぎる。ゆーちゃんと同じ班になるなんて、男子なら喉から手が出るほど欲しい権利だろうに。なのにそんな素振りが欠片もないどころか、ゆーちゃんのことを見てるやつすらいない。
……ていうかなんかこっち見てない? いや見てるなこれ。怖い怖い怖い。なんでお前ら俺のこと見てるんだよ。しかもどいつもこいつも、さっき席替えの時にバスケ部三人組がやってたみたいなチベスナ顔だし。
「空ちゃん空ちゃん、校外学習、一緒の班になろうよ!」
クラス中のほぼ全ての男子からチベスナ顔で見られるという恐怖体験をしていると、隣の席に座る可愛すぎる幼馴染アイドルからのお誘いが来た。
わくわくとした雰囲気を隠しきれてないゆーちゃん。どうやら校外学習がとても楽しみらしい。そんなに山登りが好きなんだろうか? 山登りなんて絶対にしたくないって言ってた天崎とは正反対だな。
「おう。ゆーちゃんさえよかったら一緒になろうぜ」
「! やった! じゃあこれで空ちゃんと私は一緒の班だね!」
断る理由がないどころか、むしろボッチにならずに済むのでこっちからお願いしたいくらいなので当然、お誘いに乗ると、俺の答えにとても嬉しそうにゆーちゃんが笑う。
ゆーちゃんやめて! そんな嬉しそうにされると、うっかり俺と一緒の班になって喜んでるとかキモイ勘違いというか妄想をしちゃいそうになるから!
危なかった。席替えの時に、幼馴染で固まりたいとゆーちゃんが思ってることを理解してなかったら、完全にやらかしてたかもしれない。
席替えで幼馴染グループで集まりたいと思ってるんだから、当然、こういう班決めとかでも幼馴染で一緒になりたいって考えてるに決まってるからな。いくら鈍感と言われる俺でも、それくらいは推測できる。
この嬉しそうな笑顔も、俺という幼馴染を無事に誘えたことに喜んでいるんだろう。ゆーちゃんが俺と一緒の班になって喜んでることに変わりないが、それは俺個人ではなく幼馴染と一緒になったことを喜んでいるわけだ。そこを勘違いをしてはいけない。
いやぁ危ない危ない。もし幼馴染じゃないのに、さっきみたいに誘われてあんな顔をされたら100%勘違いしてたわ。
そして、竜也じゃなく俺から誘ってきたのは、単純に隣の席だから声をかけやすかったからだろう。斜め前って地味に声をかけづらいからな。
よし、ゆーちゃんの意図は完璧に理解できたわけだし、せっかくだから竜也のことは俺が誘うか。ゆーちゃんじゃないけど、せっかくなら俺も幼馴染で班になりたいし。
「おーい竜也ー、一緒に山登りしようぜー」
「だから背中を突っつくんじゃねえよ。まあ、俺も空太と同じ班になろうと思ってたから別に構わんが」
「あらやだこの子ってば、またそんな気取った感じの反応しちゃって~。実は俺に誘われて嬉しいんだろ? 素直に喜んじゃえよ~」
「うざい感じの絡み方やめろ。それで空太、男子は俺とお前でいいとして、残りの女子はどうするんだ? さっきお前のこと誘ってたそっちのポンコツ以外にも、あと一人必要だぞ?」
「ポンコツ!? ちょっとそれどういう意味!? ていうかその口ぶり……もしかしてさっき私が空ちゃんのこと誘ってるのこっそり聞いてたの!? 盗み聞きとか悪趣味だと思うんだけど!」
「あ? 誰がそんなことするか。普通にこの距離で聞こえない方がおかしいだろうが。昔からお前の声は無駄にデカいんだよ。そんなこともわからないからポンコツなんだお前は」
「無駄じゃないよ! アイドルにとって声の大きさは重要なんだから!」
「そうかもな。だが、その調節をできないのは間違いなくポンコツだろ。教室でしゃべる時くらい声の大きさを落とせ」
「うぐぐぐぐぐぐ……!!」
淡々と指摘する竜也と、自分でもそこは反論できないと思ったのか、ものすごく不満そうに唸りながら竜也を睨むゆーちゃん。
相変わらず二人とも仲いいなぁ。そういえば昔もよくこんな感じになってたっけ。最後は毎回、竜也に全く言い返せなくなったゆーちゃんが、何でか俺に泣きついてきたんだよなぁ。
目の前の光景に、正論でツッコミとダメ出しを繰り出す竜也と、それに涙目で必死に反論するゆーちゃんという昔の記憶を思い出して、俺は何だか懐かしい気分になるのだった。
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