第九十話 席替えの結果はいかに?
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
「おーし、全員移動したなー。今月はこの席でやってくから、各々、周りのクラスメイトといい感じにやるようにー」
全員がくじを引き終えて、席の移動を済ませて新しい席順になった俺たちに担任が言う。
いい感じってあんた、そんな雑な言い方ある? まあ、少なくとも俺はいい感じに仲良くやっていけそうだけども。
正面に竜也が座ってる時点で今回の席替えは勝ち確というか、友だちの近くに座れただけで当たりだった。強いて言うなら隣の席に誰が来るのか少し不安だったけれど、そっちも問題なし。
「やったぁ……!」
右を見てみれば、さっきからずっと嬉しそうにニコニコ笑顔のゆーちゃん。めでたく30番を引き当てたので、幼馴染グループで固まって座ることができてご満悦な様子だ。
くじを引いた時も、めっちゃガッツポーズして喜んでたもんなぁ。
ゆーちゃんが嬉しそうで何よりである。俺も幼馴染3人が集まって嬉しい限りだ。
喜ぶゆーちゃんに微笑ましい気持ちになりながら、反対側の席へ視線を移す。
「うぅぅぅぅぅぅ……こんなことあっていいんですか、ダメですようん絶対にダメに決まってますさっきは自分の欲に負けてもう見納めのつもりで盗み見という変態行為を続けてしまった私にこんな幸運が起こるなんていいわけがないですよ現実的に許されません。もしかしてこれは夢? 夢ですか? こんな私に都合のいいことが起きるなんて絶対に夢ですよね? 夢でも高原くんに申し訳ないので夢なら早く覚めてくださいお願いします……!」
左を見てみると、ものすごく目の奥をぐるぐるさせながら焦った表情の山田さん。声が小さく何を言ってるのかは聞き取れないが、早口で何かをぶつぶつ言ってるのはわかった。
おいおいおい、なんかこれ暴走モードに入ってないか!?
隣の席(左)はまさかの隣の席三ヶ月連続というミラクルを起こした山田さんだった。まあ起こしたっていうか、くじで最後まで残った席が俺の隣だっただけなんだけど。
今月も山本さんが隣の席になったことがわかった時、思わずお互いに顔を見合わせてしまった。その時に「すみません……」と山本さんから深々と頭を下げられたのだが、何となく、この暴走モードとあの謎の謝罪は関係がありそうな気がする。
気にはなったが、今までの経験上、暴走モードの山本さんはとんでもないことを言う可能性が高いので、ホームルーム中の今、下手に声をかける勇気は俺にはなかった。休み時間になったら、この暴走モードとあの謝罪について聞いてみるか。
自分が関係することだったら、わからないことがあったら些細なことでも気になってしまう、俺はそんな面倒くさいタイプの男だった。
とまあこんな感じで今回の席替えは正面に竜也、隣にゆーちゃんと山本さんという、友だちに囲まれるという満足すぎる結果になったわけだが……気にしいの面倒くさい男の俺には、ただ一つだけ今回の席替えで気になっていることがあった。
それは男子たちのリアクションだ。
ゆーちゃんが隣の席になったから、てっきりクラスの男子たちから嫉妬とか怨嗟の目で見られると思って覚悟してたんだけど、不思議なことに何故か今回はそんなこともなく、男子全員が大人しかった。
4月5月と、ゆーちゃんの隣の席に座りたがる男子がどれだけ多かったことか。しかもその熱量は竜也の隣に座りたがる女子に負けず劣らずという凄まじさ。いやもうほんと人気者ってすごい。
幼馴染グループで固まりたいというゆーちゃんの願いが叶うと、必然、俺は人気アイドルのゆーちゃんとめでたく隣同士になるので、実は心の底で男子たちからのリアクションにびくびくしていた。
まあ実際は特に何も起きなかったわけだけど。ただ、ここまで大人しいと逆に不気味すぎて怖い。そうなった理由がわからないのが尚更。
「なあなあ竜也」
「なんだよ。てか背中突っついてくるんじゃねえよ」
一応ホームルーム中なのでこそこそと声を落として声をかけると、顔を少しだけこっちに向けてくる竜也。これぞ、友だちと近くの席になった時の醍醐味だなぁなんて思った。
「闇討ちされた時の対処法を教えてくれ」
「あ? んなこと知るわけねえだろ。そもそも闇討ちされるようなことしないようにしろ」
「正論すぎる。けど今回はもう手遅れだからこうやって聞いてるんだよ」
「手遅れって何したんだよお前……」
「うっかり人気アイドルの隣の席になった。だからもしかしたら男子から闇討ちでもされるんじゃないかと思って……」
「ああ、そういう。けどそれでなんで闇討ちって発想になるんだよお前……」
「ゆーちゃんは人気アイドルだし、伏見さんの隣の席に男子が座るなんて許さない、自分が座れないなら空席にしてやる! 的な過激派がいる可能性もあるだろ?」
「ねえよ。うちのクラスにそんな病んでるやつはいねえし、仮にいたとしたら幼馴染だってバレた時点でお前はとっくに被害に遭ってるだろ」
「それはそう。まあ、闇討ちは流石に冗談だけど、伏見さんと隣の席なんて羨ましい妬ましい! キーッ! ってハンカチを咥えて騒ぎそうなやつはいるだろ?」
球技大会の時一緒だったあのバスケ部三人組とか。
球技大会後もなんやかんやで絡んでくることが増えたし、バスケの時にもわかりやすくモテたいアピールしてたから、絶対に何かしらのリアクションはしてくると思ったのに、全員めちゃくちゃ静かだった。
ゆーちゃんが隣の席になった時も、3人ともチベスナ顔でこっちを見て来ただけだったし。いやチベスナ顔も立派なリアクションか?
「だから、ゆーちゃんの隣になった俺に、男子全員が静かなノーリアクションなのが、すげえ不気味っていうか怖いんだよ……! 闇討ちされるんじゃないかって冗談でも考えるくらいには!」
「なるほどな。けどまあ、安心しろ、静かなのは色々と諦めたからだ。世界にたった一つしかない限定特別品がとっくに売約済みだってことに、男子全員が気づいたんだよ。売約済みのものをいくら欲しがっても無駄だし、売り手の方も自分が決めた相手以外には絶対に売る気がないってわかりやすく態度に出てるからな」
「んん? 悪いちょっとよく意味がわからん。男子がお前の言う特別限定品? を諦めたってことはわかったけど、限定特別品って何だ? そこんとこ詳しく説明してくれ。わからないことがあると完全に安心できないから」
「んなことしたら俺が闇討ちされるから絶対にお断りだ。とにかく男子が静かでもお前には問題もない、俺が保証してやるから安心しろ」
そのまま前を向いてしまう竜也。これ以上は言う気はないと、いい感じに筋肉のついた大きい背中が語っていた。
えぇ……お前が闇討ちされるってどういうこと? てか誰に?
よくわからないが竜也が闇討ちされてしまうのは忍びないので、これ以上のことを聞き出すのは諦めることにする。というかもし闇討ちされても、その筋肉で普通に撃退できそうだなお前。最近、キックボクシングも始めたらしいし。鍛えるのはいいけど、いったいどこに向かってるんだろうかこいつは。
まあともかく、細かいことはよくわからないが、ゆーちゃんが隣になったことでクラスの男子に何かされることはなさそうなので、それでよしとする。竜也も大丈夫だって言ってたし。
それにもし、竜也の予想が外れて何かされたとしても、ゆーちゃんの隣の席になったことに後悔はない。
ちらと、ゆーちゃんに視線を向けて見ると、相変わらず本当に嬉しそうにしているゆーちゃん。
その笑顔を見てると、なんかもう別に闇討ちぐらいはいいかな、なんて思えてしまう。
「あ……え、えへへ……」
喜んでいるのを見られたのが恥ずかしかったのか、俺の視線に気づいたらしいゆーちゃんが少し照れ臭そうに微笑んでくる。その不意打ち気味に放たれたあまりの可愛さに、なんだかこっちが恥ずかしくなって慌てて顔を逸らしてしまうのだった。
ちょっとうちの幼馴染可愛すぎない!? その可愛さアイドル級だろ。あ、違ったもう本物のアイドルだったわ。
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