幕間⑪ 席替え中のそれぞれの思惑
有織はべりです。
拙文ですが、お読みいただき、楽しんでいただけると嬉しいです。
30番か40番! 30番か40番! 30番か40番……!!
空ちゃんの番号を知ってから、私は心の中で必死に祈っていた。
せっかく空ちゃんと同じクラスになれたのに、4月5月と私の席は空ちゃんと遠い場所ばかりだった。
4月はまだいい。まだ私が幼馴染だって空ちゃんに言えてなかったから、きっと近くの席になっていたとしても緊張で何もできなかったと思うし、なにより一番後ろの席だったから、授業中、空ちゃんのことをずっと眺めていられた。
ただ5月は最悪だった。先月には空ちゃんに幼馴染だって言えてたし、ゴールデンウィークに一緒に遊びに行ってからはいい感じにお話しすることができるようになっていた。なのに近くの席どころか、同じ列の一番前と一番後ろになっちゃうとか……授業中、空ちゃんのことを眺めることすらできなくなっちゃったし。
だから今月こそ、私は空ちゃんの隣に座りたい。後ろから眺めるのも好きだけど、やっぱりもっと近く、隣同士になりたい。
あの時は私だけ別の学校だったから、二人が羨ましくて仕方なかったんだよね……その頃にはもう空ちゃんのこと大好きだったから尚更……。
だから実は空ちゃんと、あとついでに竜也とも、同じ学校同じクラスになるのは、実は私の小学校の頃からの夢だった。
そんな私の気持ちを知ってるくせに「俺は空太と同じクラスだぞ? しかも隣の席だ」とかドヤ顔で言ってきた竜也のことは何年も経った今も鮮明に覚えている。なんなら今でも許してない。
というか、思い出すとまた腹立たしくなってきた。今回もちゃっかり空ちゃんの前の席になってるし!
順番で言ったら空ちゃんが竜也の後ろの席になった形だけど、結果的に空ちゃんと前後になってることには変わりないので、やっぱりズルいし、羨ましい。
でも羨ましいっていったら、竜也より山本さんの方なんだよね。4月5月と、ずっと空ちゃんの隣の席をキープしてるから。二ヶ月続けて隣同士とかそんな確率は中々ないんじゃないかな?
それだけじゃなくて中間テストの時は空ちゃんとテスト勉強もしたらしいし……うぅ、私もお仕事がなかったら空ちゃんと一緒にテスト勉強したいと思ってたのにぃ……テスト前にライブツアーなんて、もっとお仕事のスケジュール考えて欲しかったよぅ……。
そんなわけで今の私は、とてもとてもとても山本さんが羨ましい。
二度あることは三度あるとか言うけど、まさか今月も山本さんが空ちゃんの隣になるとかないよね? うぅ、もしそうなったらもう完全にラブコメのヒロインだよ……で、でも私だって負けないんだから! まだ空ちゃんの両隣は空いてるから、隣になれる可能性は十分あるもん! 今月は絶対に私が山本さんのポジションを奪ってやるんだからね!
勝手に山本さんに対抗心を燃やしながら、私はよりいっそう空ちゃんの隣の席に座れるよう、自分の番が来るまで願うのだった。
◆◆◆
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~!?」
ぞわぞわぞわっ! と私はものすごい寒気に襲われる。鳥肌が立つのを感じた。
ええ……ここでそういう展開で来るの!? 嘘でしょ!? そこが繋がってくるとか予想できないって!?
原因は席替えなんてそっちのけで読んでるラノベ。最後のまさかのどんでん返しに、興奮待ったなしだった。
異世界転生かつループかつ並行世界かつタイムリープまで絡んでくるという、要素を詰め込み過ぎているせいでとんでもなくややこしいけど破綻してない、と最近ネットで地味に評判になってきているシリーズ。
これは評判になるのもわかるなぁ……もっと有名になってアニメ化とかしてくれないかなぁ。
怖いもの見たさに試しに一巻を買ってみたのだけど、気づけば私はどっぷり世界観にハマってしまっていた。放課後になったら、速攻で最新巻を買いに行こうと決心する。ネットでぽちってもいいけど、届くまでの時間が待ち遠しい。
すっきりとした読了感と、放課後の楽しみな予定に満足な私。
まだ席替えの時間はありそうだったので、もう一回、気に入ったシーンを読みなおそうとページを開く。
今回の席替え、私は何もしなくていいわけだしね。
先月と違って今月は出席番号順にくじを引いてるから、出席番号が最後の私は残った席に座ることが決まっている。なので時間と気持ちにとても余裕があった。山本という五十音の中でも後ろの方から数えた方が早い「や」から始まる苗字に感謝。
教卓の前まで行ってくじを引くなんて、そんな注目されるようなことしたくないし……しかもこんな空気の中で……。
先月、先々月と同じように五位堂くんの席が決まってから空気が変わった。彼の隣に座りたい女子生徒たちの圧がすごいことになるのだ。
あと伏見さんの席が決まった時も。彼女の隣に座りたい男子生徒のテンションがすごいことになる。
とにかく五位堂くんと伏見さん、二人の席が決まってしまうと、席替えの空気がえらいことになってしまうのだ。なんていうか本気度が増すという感じ。
でもどうしてクラスの人たちは、そこまで二人の隣に座りたいなんて思うんだろ?
目立つのが嫌いな地味陰キャの私としては、むしろ二人みたいな人気者で陽の存在とはできる限り距離を取りたい。なので考えてみても、よくわからない気持ちだった。仲のいい友だちとか好きな人とかと隣の席になりたいとかだったら、まだわかるけど。
そんなことを考えていると、自然と視線が隣の席に向いてしまう。
やっぱり夏服の高原くんもいいなぁ。ブレザーじゃ見えなかった腕の筋肉もばっちり見えてるし……メジャーで体の採寸を測った時にも思ったけど、高原くんって運動部じゃないのに引き締まったいい体してるんだよね――ってなにやってるの私!?
慌てて視線をラノベに戻す。こそこそ隠れるみたいに盗み見て、そんなことを考えてた私は間違いなく変態だ。とんでもなく恥ずかしいことをしてしまったせいか顔が熱い。ページに顔をうずめて猛省する。
私のアホ! バカ! 変態! うぅ……ごめんなさい高原くん……私は友だちだって言ってくれた優しい高原くんのことをこっそり盗み見するような変態です……!
心の中でひたすら懺悔懺悔懺悔。
好きな相手をこっそり見るとか、ラブコメとかじゃ鉄板のシチュだけど、いかんせん私じゃ可愛さと心の綺麗さがあまりにも足りてなさすぎる。
でも安心してください高原くん……きっと次に隣の席になる人はもっと普通の、少なくとも私みたいな変態ではないはずなので……!!
私みたいな変態じみたことをするような生徒がうちのクラスにいるとは思えないし、それにまさか三ヶ月連続で隣同士の席なんてミラクルは起きないだろう。
うんうんそうそう、間違いない! まさかそんな二つの意味であり得ないことが起きるわけないもの! だから高原くんは無事に変態の私と離れることができるはず! それですべてはまるっと万事解決ってわけですよ!!
ラノベで顔を隠したまま、もう一度、ちらっと、高原くんの方を見る。
こうやって高原くんのことを見られるのも最後かぁ………………………………………もう少しだけ隣がよかったなぁ――って何キモイこと考えてるの私! ずっと私が隣なんて高原くんも迷惑に決まってるでしょ! さっき自分が何やったか思い出しなさいこの変態オタク女!!
そうやって自分に言い聞かせる私だったけど、残念に思ってしまう気持ちを消すことはできなかったのだった。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
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