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婚約少女と、恋人未満のクラスメイト? 好意対決の末、誰を選ぶ?  作者: 不知火 カエン-赤色
第二章 戦いの火蓋
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08_学食にはあの子が?


 双月緋色は学校に到着すると、綾瀬と一緒に会話を弾ませながら教室へと向かう。そして、彼女は自身の席に座り、普段から関わり合いのある友人たちと会話をし始めていた。

「なあ、緋色。昨日はどうだった?」

 席に座ると、隣にいる友人、疾風が話しかけてくる。

「まあ、それなりには」

 緋色は昨日あった出来事を思い浮かべながら告げた。少々やましいことが多く、友人には顔を向けずに、静かに呟く。


「そうか。それで、どこまでいったんだよ」

「どこまでって、そんなには……」

 緋色は斜め後ろの席に座る綾瀬をチラッと見、小声になる。

 彼女とは大きく関係性が変わったと思う。それと、あの少女とも出会い、いろいろと本音で話しづらい。


「なんだよ。特になかったのかよ。こんな時にさ、何かの手違いで泊まることになって、朝まであれとか、これとかさ」

「い、いや、そんなことは……」

 と、その先のセリフは口が裂けても言えない。

 本音で言えば、綾瀬とは一緒に住むことになった。そんな発言を今したら、確実にクラスメイトから殺されそうだ。


「付き合っているのに、何もないなんて、寂しい青春だな」

「いや、綾瀬さんとは友達って関係性なんだけどな」

「え? そうなのか?」

「昨日そう言ったじゃん」

「そうだったな。でもさ、彼女と友達であっても付き合ってると思えばいいじゃんか」

「疾風は、いろいろとモテるから、そんな風に考えられるんだろうけど。僕は」

 緋色は自信ない態度を見せてしまう。

 綾瀬とは正式に付き合いたいのだが、どうしても、まだ、そういった関係性にはなってはいなかった。

 どうしたらいいだろうか。


「それでさ。今日は綾瀬と何かするのか? 俺がもっと協力して、付き合える関係性にしてあげようか?」

「い、いいよ。自分の力で何とかするから」

「そうか。でも、困ったときは、なんでもやってやるからさ」

「うん。ありがと」

 緋色は一応、頷く。

 そんな中、担任教師が教室に入ってくる。


「じゃ、今から朝のHRを始めるから、さっさと席につけ」

 辺りにいるクラスメイトは、各々の席に座りはじめ、そして、担任が出席確認を行い、今日のスケジュールを告げた。

 それから午前中の授業に移るのだが、なんか、今日はやけに疲れて集中できない。

 昨日からあの子と関わって、ドッと疲れた。

 ああ、こんなんでいいのかな。

 緋色はそんなことを思い、授業中、斜め後ろにいる綾瀬に視線を向けた。

 彼女は真剣に授業を受けている感じだった。

 普段は明るくて話しやすい存在で、授業態度もよく、大半のことはこなしている。けど、一緒に住んでみてわかったことだが、家庭のことはあまり、うまくできないようだ。

 なんか、学校では知りえない一面を見てしまい、少しだけショックを受けていた。

 一時限目、二時限目、そして、三時限目の終わりに差し掛かった頃合い、昼休みのチャイムが鳴り響く。


「では、これで授業は終わり」

 教師はそのまま教室を後にし、室内がゆっくりとうるさくなる。

「ああ、ようやく昼休みか」

 隣の席の疾風は、背伸びをしていた。

「なあ、緋色。今日は学食に行かないか?」

「え? なんで?」

「いや、なんかさ。噂で聞いたんだけど。学食に小柄で可愛い子が、いるって話」

「バイトしている子ってことかな?」

「さあ? そこまでは分かんないけどさ。確認のために行こうぜ」

「二十代くらいってことかな?」

「いや、俺らよりも年下らしいよ」

「年下……」

 いや、まさかな、と、思った。


「どうした、緋色?」

「いや、なんでもないよ。気にしないで」

「そうか。じゃ、行こう」

「う、うん」

 緋色は教室を後にする。

 その直後、綾瀬とたまたま視線が合ってしまう。

 先ほどのやり取りを聞いていたのか、彼女は不満げな表情を浮かべていた。

 気まずく、彼は咄嗟に視線をそらし、学食へと向かって歩き出す。

 緋色が、この学校に入学してから、二年目なのだが、あまり学食に行ったことがない。

 お金もかかるし、余裕があるときじゃないと、利用しないからだ。

 学食前には、ガラスケースに入った、サンプルのようなものが置かれている。

 緋色が、そこを見ていると――


「なあ、そればかり見ていないでさ。早く入ろうぜ。どんな子か確認したいし」

「そ、そうだな」

 その中に入ると、やけに人が多いような気がした。

 そんなに可愛い感じの子なのだろうか?

「多分さ。あの人だかりのところにいるんじゃない?」

 疾風は調子よくいう。

 そこへ向かい、人だかりをかき分け、友人の後ろに続き進んでいくと、そこには見慣れた感じの小柄な子がいた。その子と視線が重なる。

 え? な、なんで、あの子が⁉

 緋色の心臓の鼓動が嫌な意味で高まり、一瞬固まってしまうが、すぐに背を向け、立ち去ろうとする。


「どうした?」

 疾風に言われるものの、早くここから逃げたい。

「や、やっぱりさ。購買部にしよ」

 そんな発言をした直後、

「ひーろー、どうして、私を無視するのー」

 あ、自然な感じには誤魔化せなかったか。

 なんせ、さっき、普通に視線が合っていたのだから、無理があるというもの。


「緋色。この子と知り合いなのか?」

「い、いやぁ、まさか」

 緋色は、何が何でも少女と距離をとろうとする。

「もう、そんなに照れないでよー」

 葵は、緋色に近づいてくる。

 彼はしょうがなく、視線を合わせた。

 そして、そこに集まっていた人らの視線も一心に受けることになったのだ。


「どういうこと?」

「まさか、綾瀬さんだけじゃなくて、この子とも繋がりが?」

「なんで、こんな奴が」

 いろいろな発言が飛び交う。反発するような声が多い。

「いや、本当に違うんだ」

 辺りにいる人らを見て、全力で告げた。普段よりも少し、声の度合いが戦ったかもしれない。


「ひーろー、私と全裸で一夜を過ごした仲だもんね」

「は? いや、やめろ、そんな発言」

 周囲の視線がよりいっそ鋭くなる。

「おい、一夜を?」

「全裸だって、不潔ね」

「一体、どういうことなんだ?」

 皆がまじまじと緋色へ、視線を向けている。

 一瞬で、学食が魔の雰囲気へと変貌を遂げた。

 今まで以上に最悪だ。


「ねえ、どうして、葵ちゃんが?」

 背後を振り向くと、そこには、いつもの友人と一緒に、綾瀬の姿があった。

「私のお父さんに創案して、何とかしてもらったの」

「へえ、そうなの? それと、緋色君。さっき聞こえてきたんだけど。全裸で一夜を過ごしたって、どういうこと?」

 綾瀬の鋭い視線が、緋色を襲う。


「いや、それには深い訳が」

「今はいいけど、後で説明してくれる?」

「は、はい」

 綾瀬に睨まれ、怖くなった。

 後で素直に話そう。

 ああ、綾瀬と付き合いたいだけなのに、こんなんじゃ、うまくいかないじゃないか。

 緋色は絶望した。


「ねえ、ひーろー、一緒に食事しよ。私が食べさせてあげる♡」

「いいよ、こんなところで」

「いいじゃーん」

 葵は緋色の体を嫌らしく触ってくる。

「いや、ここでは」

 緋色は困惑し、疾風に視線を向けた。


「疾風。やっぱ、購買部に行かない?」

「俺は学食がいいんだけど」

「いいからさ」

「はあ、しょうがないな」

 疾風を連れて、急いで学食を後にするのだった。

 あんな空間で、食事なんて耐えられない。

 どうしてこうなっちゃうんだ。

 緋色はそんな風に思いつつ、駆け足で廊下を移動するのだった。


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