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婚約少女と、恋人未満のクラスメイト? 好意対決の末、誰を選ぶ?  作者: 不知火 カエン-赤色
第二章 戦いの火蓋
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07_何かしよっか


「ねえ、そういえば、貴女の名前は?」

 リビングにいる綾瀬が、少女へと問いかける。

「私は、葵だけど。お姉さんは、綾瀬なの?」

「綾瀬って。年上に対して、呼び捨て? それに綾瀬は苗字。名前は佳だから」

「そう、佳ね」

 葵は生意気そうな表情で、ため口を続けている。


「ねえ、そういう態度やめたら?」

「佳も、そんなに怒りっぽいと、よくないよ。実年齢よりも老けて見えるかも」

「んッ、わ、私、普段はそんなに怒らないから」

「へえぇ、そうなんだぁ」

 なんかよくわからないところで、火蓋が切られた。

 互いに言葉の応戦になっていた。


「今は時間ないし、私は朝食を作ってくるから。緋色君、期待して待っててね」

「う、うん」

 一応、緋色は頷く。

 昨日の綾瀬の料理はカップ麺で、あまり期待はできないと、内心感じていた。

 けど、昨日は時間がなく、少々雑になっていただけかもしれない。

 今は様子見しておいた方がいいだろう。


「私だって、朝作るから」

 葵は立ち上がり、綾瀬と同様に、キッチンへと向かっていこうとする。

「ねえ、葵ちゃん、昨日のお題を忘れたの?」

 綾瀬はキッチン前で振り向き、少女に言う。


「う、そうだね。別々のことをして、ひーろーに好感を持たせないといけなかったね」

「そうよ。でも、そのお題は、緋色君には聞こえないようにしてよね。わかった?」

「はいはい、わかってますよーッ」

 葵は適当にいい、綾瀬に背を向け、緋色がいるところへと向かっていく。

 何を話していたんだろ。

 緋色がいる場所からは、二人の内容が聞こえなかった。

 まあ、問題はないと思い、そのまま近くのソファに座る。


「佳って、朝食作るみたいだし。私はどうしよっかなぁ」

 葵は考え込みながら、緋色の隣に腰を下ろす。

「あ、そうだ。ひーろー、少し会話しよ」

「え? 会話?」

 葵は彼の右上で両手を掴み、笑顔を見せている。


「朝からしていたじゃないか」

「してるけど。いいじゃん。ねッ」

 葵は強引に話を推し進めようとしていた。


「ねえ、ひーろー、何について話をしよっか」

 少女は嬉しそうな口調で、緋色の返答を待ち望んでいる。

「なんでもいいよ」

「じゃさ、ひーろーは何人ほしい」

「え、な、何を?」

 まさか、あのことか?


「何って、決まってるじゃない。赤ちゃんの事」

「いや、気が早いだろ」

「えー、どうせ、私があの佳ってお姉さんに勝つしぃ。ね、何人がいいかな?」

 葵はせかしてくる。


「僕は、まだ、そんな気分じゃないけど……二人くらいかな?」

「二人? 少なくない?」

「というか、多くても、育てられないような」

 育てたこともないので、実際のところはわからない。

 けど、もし結婚するなら、綾瀬の方を選ぶだろう。

 今のところは――

 今後、どうなるか、わからないけど。


「うう、もしかして、私に魅力がないから、二人ってことじゃないよね?」

 葵は瞳をウルウルさせながら、見つめている。

「え⁉ いや、葵との子供とじゃないからな。何人かって言ったら、二人ってことで」

「もうー、なんで、私と結婚を考えてくれないの?」

 少女は不満げな口調。


「もう、いいだろ。その話は」

「んん。あッ、そうだ。ひーろーの見たんだけどさ」

「え? 僕のを、見た?」

 どういう意味?

 まさか、寝ているときに、布団の中で、あれを見られたのか?

 緋色の心臓の鼓動が高まっていた。


「ひーろーが持ってる漫画」

「え、ああ。漫画のことか。どんな漫画?」

 漫画といえども、いろいろなジャンルがある。如何わしいものを見られていなければいい。


「うん。日常系の作品だんだけど。初めて見て。なんか、面白かったの」

「初めて見た? 今まで漫画を見たことないの?」

「うん。それで、あの漫画って、どこで売ってるの?」

 葵は、漫画というものに興味津々だ。


「でもさ。勝手に見ないで」

「いいじゃん。ひーろーのことを、もっと知りたかったんだもん」

「それと、漫画は店屋か、ネットで購入できるから」

「そうなの? ネットとかもよくわからないけど。今度、店屋の方でもいいから、連れて行ってよ」

「一応聞いておくけど。葵は、店屋って知ってる?」

「それくらい、知ってるから。馬鹿にしないでよ。村の人から、教えてもらったし」

「そうなんだ」

 一応、村のどこかで情報源となっている場所があるのだろうか?

 緋色は、少し考えながら、もう一度、少女を見やった。


「それで、いつ時間ある?」

 葵は早く、漫画が売っている場所に行きたくて、うずうずしている。

「放課後かな」

「えー、午前中は?」

「その時間は学校にいるし」

「学校?」

 葵は、首を傾げ、悩む。


「もしかして、学校も知らない?」

「う、うん」

「というか、どこで、勉強をしてたんだ?」

「私が住んでいた村にはお寺があって、そこにいる人から教えてもらったの。その人って、いろいろなことを知ってて、村の外に出た経験もあって、それでね、親切なの」

「そうなんだ。一応、そういう風な人もいるんだな」

 親切な人か。

 なんか、少し心苦しくなる。

 自分自身でも理由は分からないけど、複雑な気分だった。


「ねえ、ねえ。私もひーろーの学校に行きたい」

 葵はもう通う気満々。

「無理だよ」

「どうして?」

「高校は基本的に十五歳からだし」

「絶対に?」

「うん。絶対に」

 緋色は注意深く告げた。

 仮に、葵が学校に来たら、確実に面倒なことになってしまうのが、目に見えている。

 隣にいる葵は、つまらなそうに、緋色の腕をつねってきた。


「いたッ、何するんだよ」

「ずるいよ。それって、佳ってお姉さんが有利じゃない。私も行きたい、行きたい」

 駄々をこね始めている。

 葵は、さりげなく、緋色の足を触り、そして――


「ちょっと待て。なんで勝手に、変なところを触ろうとしてるんだよ」

「だって、いいことをしたら、ひーろーがなんでもしてくれると思ったから」

「そんなことをされても、僕は従えないから」

「むうう。じゃあ、いいもん。実家に相談する」

「え?」

「ひーろーが意地悪なことをして、私を傷つけてくるって」

「やめろ、勝手に捏造するな」

「じゃあ、いいでしょー」

「いや、来ないでくれ」

「それだと、私だけ、ひーろーと関われないじゃん」

 葵は何が何でも、学校に行こうと企んでいる。


「わかったわ」

「ようやくか」

 一瞬、ホッとするが……


「私、何とかしてみるから」

「……」

 葵はまだ諦めていないようだ。

 怪しい感じしかせず、不安が募る。

 なんか、変なことにならなければいいが……


「ねえ、朝食できたよ」

 そんな中、キッチンの方から、綾瀬がやってくるなり、不思議な臭いが漂い始めたのだ。

 彼女はソファ前のテーブルに、料理がのっている皿を置いた。


「えっと、これは?」

「朝食だけど?」

「え、いや、その、それはわかるんだけど。この黒い塊みたいなのは?」

 冥府の力が与えられたかのような物体は、なんだろうか?

 魔境か、どこかで入手できそうな食べ物に見える。


「これは、オムライスだけど?」

「え?」

 綾瀬が釣ったダークマターは、オムライスらしく、聞かないとパッと見、判断がつかなかっただろう。


「ねえ、私が食べさせてあげるから」

 スプーンを持った綾瀬がオムライスの皿を片手に近づいてくる。

「え? ひ、一人で食べられるから。その皿を、テーブルに置いてて」

「いいの。あーんして。ね」

 作ってくれたのは、嬉しいが……黒い塊を食べなければいけないことに恐怖心を抱いてしまう。

 こ、これって、一種の拷問じゃ……

 多分、命に別状はないと思うが、どうなるからわからず、表情をしかめてしまう。


「ねえ、それって、食べて大丈夫なの?」

 葵が、指摘を入れた。

 そして、綾瀬の手が止まる。


「どういう意味かな? 葵ちゃん」

「だって、それ食べ物じゃないでしょ?」

「何を言ってるのかな? そんなことないでしょ」

 綾瀬は強気な姿勢で臨んでいる。

 緋色の目線から見ても、オムライスには見えない。

 彼女の瞳には、黄色の卵と、赤いケチャップがかかっているように映っているのだろうか?

 葵はそのにおいがきつく。顔を背け、鼻をつまんでいるようだった。


「食べれるよね、緋色君」

「う、うん」

 緋色が頷いた直後、綾瀬は、スプーンで掬ったオムライスの一部を口へと向けてきたのだ。


「ん?」

 こ、これは……

 食べた瞬間、口内に異変が生じる。

 やはり、オムライスではないような、味が広がっていくのだ。

 もはや、別の料理だ。

 麺と、納豆と、チョコの味がする。

 緋色は、一瞬眩暈を感じ、気を失いそうになった。


「どうかな?」

「う、うん。いいと思うけど」

 緋色は、彼女を傷つけないように言う。


「よかったあ。緋色君に、そう言ってもらえて。じゃあ、毎日作るから」

「え⁉」

「どうしたの?」

「いや、なんでもないです」

 緋色は、綾瀬の笑顔を見てしまうと、口が裂けても本当のことを言えなかった。

 でも、こんなのが毎日続いてしまったら、命がいくらあっても足りないだろう。

 ああ、僕はどうなってしまうんだろ。


「ねえ、残さずに食べてね」

「う、うん」

「私も食べないと、学校に行かないといけないし。葵ちゃんは?」

 緋色の隣にいる少女に問う。


「わ、私は、遠慮しておく」

 葵は、ソファから立ち上がり、別の部屋に向かっていくのだった。

「それで、綾瀬さん的に、オムライスの出来は良かったと思う?」

「うん。そうね」

 綾瀬はそのダークマターを口に含んで、咀嚼した後、言葉を紡ぐ。


「そ、そうなんだ」

 綾瀬の味覚は自分たちとは全く違うのだと感じた。

 絶望感に襲われてしまう。

 緋色は黒いオムライスを口にし、一応は間食した。

 そして、テーブルに皿を置く。

 生きた心地がしない、ひと時であった。


「緋色君。学校に行きましょ」

「そ、そうだな」

 リビングの時計を見やると、すでに、八時を示しており、朝のHRまで、あと四十分である。

 けど、自宅から近い場所なので問題はなかった。綾瀬が皿などを洗ってくれている。

 その後、二人は各々の場所で準備をして、十五分後、自宅に玄関へと集まった。


「葵ちゃんは、留守番だからね」

 綾瀬は、玄関前に姿を現した少女に伝えていた。

「わかってるから」

 意外と素直だった。

 さっきまで、駄々をこねていたのに。

 外に出ると、一応鍵を閉め、綾瀬と一緒に学校へと向かうのだった。


「では、そろそろ、やりましょうか」

 自宅内、玄関付近にいる葵は、企んだ表情を見せ、据え置き電話のところへと向かう。

「ねえ、お父さん。あそこに行きたいんだけど――」


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