10_葵との放課後
学校を後にした双月緋色は街中の本屋に来ていた。
寄り道して帰るのも、たまにはいいだろう。
そして、緋色、葵、疾風は店内に入り、漫画が置かれているコーナーへと向かっていく。
この本屋は比較的小さいものの、本揃えが良いこともあり、中学生の頃から通っている場所である。
大半の本屋が営業を終了する中、ここだけは以前と変わらずに続いていた。
今の時代、ネットとかで注文している人が多く、経営していくだけでも大変だろう。
でも、ネットで見るよりも、実際に手に取って見たい。という考えを緋色は持っていて、気になった本があれば、この本屋で、立ち読みするのだ。
気に入れば、そのまま購入するという流れになる。
「へえ、こんなにも本があるんだね。緋色の家にあった本の量と違うね」
葵は珍し気に、辺りを見渡しながら、本のカバーデザインなどを見ていた。
「ひーろー、それで、あれはどこにあるの?」
「あの本のことか。多分、こっちだったと思うけど」
緋色は案内してあげる。
「ここだよ」
そこには多くの漫画が置かれているのだ。
葵は漫画の近くに行くなり、そこに置かれている漫画を手に取って、表紙や裏表紙を交互に見ていた。
「ひーろーが持っていない漫画なのかな?」
葵は、いろいろな漫画に興味を持っているようだ。
「それと、これがひーろーの家にあった、日常系の漫画だよね?」
表紙のタイトルが同じで、手に取るなり、ページをめくって、中身を確認していた。
「でも、この表紙なんか違う。見たことないよ」
「え?」
緋色は、少女が持っていた漫画を見せてもらう。
「ああ、これは新刊だな」
「新刊?」
「新しく発売されたってこと」
「へえ。じゃあ、それを見たい」
「でもな、どのみち購入する予定だったし。これ、購入すれば、自宅でも読めるけど? どうする?」
「んん、じゃあ、自宅でいいかな」
葵は悩みつつも、自身の意見を告げる。
「じゃあ、購入するからさ」
緋色は、レジカンターに向かおうとしたが、葵が一向に動こうとしなかった。
「どうしたんだ?」
「もう少し他のも見てもいい?」
葵は、まだ別の漫画にも興味があるらしい。
「なあ、今日は葵ちゃんが好きになれる漫画を探してやろうぜ」
「まあ、いいけど」
緋色はスマホの画面を見て、時間を確認する。
まだ、時間には余裕があり、葵と一緒に漫画を探そうと思ったのだ。
「それで、どんな漫画がいいんだ?」
「私は、どんな漫画あるのか、よくわからないし。ひーろー、教えてよ」
「なら、別の漫画コーナーにもいってさ。見せてあげれば?」
疾風が緋色を見ながら言う。
「しょうがない。じゃあ、こっちにおいで」
「うん」
緋色と葵は、一緒に行動する。
疾風は別のコーナーに行くと言って、別行動をすることになったのだ。
「それで、どんな感じの漫画がいいの?」
「んん、じゃあ、日常系の」
「日常系って言っても、いろいろあるし」
緋色は悩む。
「じゃあ、いろいろな漫画が掲載されている雑誌を見せるか」
緋色は、週刊系の雑誌が置かれているコーナーを訪れる。
「これでいいか?」
「うん。でも、さっきとなんか違うね」
「そうだな。さっきの単行本と言って、連載されていたものが、まとめられたものなんだ」
「それで、これは?」
「毎週連載されている多くの漫画で構成されているんだよ」
「へえ、違うんだね」
葵はその雑誌を手に取り、ページをめくりながら、まじまじと見ている。
「……」
葵は無言のまま、何も話さなくなった。
「どうした?」
「なんか、戦っている感じなのかな?」
「そうだけど」
葵は女の子であり、あまりバトル系は好きじゃないのだろうか?
一応、彼女の様子を伺い、その後の方向性を考えることにした。
「どうかな?」
「私はやっぱり、日常系の方がいい」
葵は緋色の方を見つめていた。
「でもさ、日常系って言ってもいろいろあるし、具体的には?」
「男女同士が関わっていて、人が出るような、そんな感じ」
「人が出るって……じゃあ、恋愛系なのかな?」
緋色は考え込み。
あの作品を見せてあげようと思った。
「じゃあ、こっちにおいで、葵が気に入る作品があるかもしれないし」
緋色は葵を連れて、その場所へと向かう。
「これにしようかな? でも、こっちの漫画の方が……」
緋色は、葵に見せようとしていた漫画を手に取り、複数の作品を見比べつつ、考え込んでいた。
「じゃあ、これにしようか。ねえ、葵? あれ?」
周辺を見渡すが、先ほどいた少女の姿がない。
「どこに行ったんだ?」
緋色は、店内を見て回り、葵を探す。
「なあ、これなんてどうだ?」
「これ? ……いいと思う。これを買いたい」
そんな中、別のところから葵と疾風の会話が聞こえた。
そこにいたのかと思い、二人の元へと近寄っていく。
「葵、ここにいたのか」
「うん」
少女は振り向く。
「疾風、葵ちゃんが読みたい漫画が見つかったんだが。これでいいだろ? 葵ちゃん、男女が出る作品がいいって言っていたしさ」
「え? どんな作品?」
緋色が問う。
「これだよ」
葵はテンションを上げ、その漫画の表紙を見せてくる。
「って、それ、あっち系の作品じゃんか。疾風、何見せてんだよ」
「まあ、いいじゃんか。葵ちゃんもそういったことに興味あるだろうし」
「だからって」
緋色はげんなりしてしまう。
「まあ、さっさと購入しようぜ」
「勝手に話を進めるなよ、疾風……」
緋色はドッと疲れてしまった。
「私はこれでいいし。緋色の部屋にも、こんな漫画あったじゃん」
「え? そ、それは、ここでいうな」
「え? もしかして恥ずかしいの?」
「そういう感じじゃなくて。ああ、じゃあ、それも購入するからさ」
緋色はレジカウンターの方へと向かう。
葵が隣にやってくる。
「ひーろーにも後で見せてあげるからさ」
「こ、こんなところで、そんな話をしないでくれ」
緋色はそのまま恥じらいを見せる。
「なんか、可愛いね、ひーろー」
「う、うるさい」
緋色は、葵を見てしまうと変なことを想像してしまい、咄嗟に視線をそらした。
レジで会計を済ませると、本屋を後にする。
「なあ、少しどっかによっていかないか?」
「今から?」
「ああ、俺さ、もう少し葵ちゃんのことも知りたいしさ」
疾風は別の店に行く気満々だった。
「葵はどうする?」
「私も行きたい」
「葵ちゃんもそう言ってるし、行こうぜ」
三人で別の店屋に向かうことになったのだ。
緋色は葵に手を引っ張られ、街中を移動するのだった。




