第10話 アンリエット第1王女が現れました
さてはて、引き続き、
あんまり興味のない勇者Aの観察日記をつけている、
お兄さま親衛隊の俺、モモちゃん、ジャンさん。
格好をつけて、チャラ剣を肩に担ぎ、
歩く勇者Aの前に、美しいアンリエット王女殿下が通りかかった。
アンリエット王女殿下は、俺(15歳)よりも2~3歳年上だと思われる。
ライラック色のふわりと揺れるセミロングの髪をハーフアップにしており、
意志の強そうな輝く金色の瞳は、思わず魅入ってしまいそうだ。
太ももの中間くらいまでの着丈の服をブラウンのベルトで締めており、
俺たちのような立襟ではなく、
ワイシャツやブラウスのようなレギュラーカラーだ。
また、全体的に白地で、襟から裾まで金色の縁があしらわれている。
腕には、異世界特有のブラウンの部分鎧をつけており、
左腕につけている腕章には、俺たちのいる国・・・
サザンフォーリア王国の国章があしらわれている。
白地に上下金のラインが入っており、
中央にはプラチナブルーの六角星の両側に
6枚羽の白い翼をあしらったデザインだ。
お兄さまの隊服と同じように勲章や
肩にぴらぴら(※エポレット)がついており、
背中には白いマントを纏っている。
そして、勇ましさに似合わず、花をあしらった髪留めをしているあたりが、
何故か庶民的には親近感が沸く・・・そんな王女殿下だ。
「アンリエット王女殿下!」
美しいアンリエット王女殿下に気が付いた
勇者Aは、素早く彼女に歩み寄る。
さすがは女好き。
行動が素早すぎて、若干引くんすけど。
「どうでしょう?これから俺と、お茶でもいかがですか?」
勇者A。地球にいたころのように、
巧みにアンリエット王女殿下をお茶に誘いだした。
因みに、彼の本名は巧である。
「悪いが、鍛錬で忙しい。
君もそのようなことをしている暇があれば、鍛錬に身を費やしたまえ」
い・・・勇ましい!
あのひとこそ勇者なんじゃないだろうか。
「で、ですが・・・休憩も必要では?」
「休憩ならば一人で十分だ。
それに、君のレベルはまだ2だそうじゃないか」
「えぇ!もうレベル2まで上がりました!」
レベル・・・レベルの概念があったのか、この世界。
そして、レベル2ってそんなに誇るべきなのか?
「・・・私と鍛錬をしたければ、最低でもレベル20までは上げたまえ」
あぁ・・・あと10倍必要らしい。
「では、私は忙しいのでな」
まぁ、王女殿下だもんなぁ。
無理はない。
「あ・・・アンリ王女殿下!」
ん・・・?勇者A・・・それは、
アンリエット王女殿下のことか?
いきなり愛称っぽいもので呼び始めたぞ、オイ。
それは、恐らく勇者Aの
女子に見向いてもらう策戦であったのだろう。
しかし、直後、
アンリエット王女殿下は、ぐわりっと勇者Aを振り返る。
彼女が振り返ったことで、顔を輝かせた勇者Aだったが、
彼女の鬼ように美しくも厳しい形相を見て、
ハッと息を飲むのがわかった。
「貴殿に私を愛称で呼ぶ許可を与えた覚えはない。
今回は見逃すが、今後は不敬罪にあたると思え!」
い・・・勇ましい・・・そして、かっこいい・・・
勇者Aは、ふるふるとふるえ、格好悪くその場にへたりこむ。
そんな勇者Aに目もくれず、
アンリエット王女殿下は颯爽とその場を後にする。
「・・・アンリ姫姉さん」
俺は、ぼそりと呟いた。
「俺は、彼女を、アンリ姫姉さんと呼びたい」
何故かその愛称が、しっくりきたのである。
何だか・・・懐かしい・・・ような?
気のせいかな・・・
「・・・!それはいい。アンリ姫姉さん・・・
アンリ姫姉さんは、私も武人として尊敬している。
武勇猛々しくも美しく可憐なアンリ姫姉さんにぴったりな愛称だと言えよう。
早速、観察日記に追記しよう」
モモちゃんも賛同してくれたらしい。
「アンリ姫殿下に・・・」
ジャンさんの合図に合わせて・・・
『敬礼!!』
シャッ!!!
そして、その後は暫く、興味のない勇者Aの観察よりも、
アンリ姫姉さんの観察に、時間を費やした俺たちなのであった。