9. ガンツ工房
俺はいま、レーヴァに手を引かれて街を歩いていた。
商店が集まっている南街を抜けて西街の近くまで歩いてきている。
「タインさんの言っていたお店も過ぎてしまったけど何処へ向かっているんだ?」
「武器のことなら私にお任せください。マスターが使う剣なんですから相応のものでないと」
そう言って初めて来た街の中をズンズンと歩いていく。
「ここですね」
一つの工房のような建物の前で立ち止まる。ドアの横の看板にハンマーが2つクロスをしたような絵と読めない文字が書いてあった。後からレーヴァに聞いたところ「ガンツ工房」と書いてあるらしい。
建物のドアは閉められているが、建物に設置されている煙突からは煙が上がっている。中には人はいるのだろう。
レーヴァは全く躊躇なくドアを開けると中に入っていく。
「こんにちは」
誰からも反応はないが、レーヴァは完全に部屋の中に入って行ってしまった。手をまだ離されていない僕も必然的に中に入ってしまったわけだが。
なるほど、工房、鍛冶屋といったところなのであろう。
そこら中に無造作に、剣や槍、またまたことも無いような武器が置かれている。
奥からは金属を叩く音が聞こえてくる。きっと奥に人がいるのであろう。
こんなに武器が置かれている様子は見たことがなく、少しワクワクしている自分がいるのがわかる。やはり男子たるもの武器には憧れるものである。
少しその辺りに置いてある剣を持ってみようと手を伸ばしたところ。
「マスター、触らないでください」
レーヴァが強い声をだして、僕を制止する。
驚いて思わず手を止めてしまった。
「おい、お前ら何をしている」
レーヴァの声に気がついたのか、奥から男が……アレ?いた、背が小さいので一瞬気付かなかったが、ずんぐりむっくりな男がこちらを向かって歩いて来ていた。
「剣をいただきに参りました」
レーヴァは不法侵入?を悪びれることもなく、堂々と返す。
見るからにきっとドワーフだと思われる男は、拍子を抜かれたのか、頭を書きながら。
「なんでい、客か。どこからここを聞きつけやがった。うちは一眼を相手にしているわけでは無いんだがな……そこらに置かれているものは手入れ待ちのものだ。こっちに来な」
そう言ってドワーフは店の奥へと向かっていく。小柄な割に歩調が早い。僕らはその後を離れないように追いかけた。
「この辺が最近作ったもので、売り手がついてないものだな」
ドワーフに連れていかれた小部屋には明らかに先ほど置かれていた武器よりグレードの高そうな武器が所狭しと並べている。
手に取ってはみたいものの、僕の所持金では到底払えそうにないように思う。
そのことをレーヴァに伝えようと口を開こうとすると……
「まずまずと言ったところでしょうか」
誇りを傷つけられたのだろう、レーヴァの言葉を聞いたドワーフが口を開こうとした。
「ここにミスリルの剣があるでしょう、それを持って来なさい」
「なっ」
ドワーフの顔が驚愕に包まれている。
「おめぇ、どこでそれを」
「隠しても無駄ですよ」
ドワーフとレーヴァが向き合ってしばらく目を合わせると、観念したのか
「どうやって知ったのかは知らんが、そうまで言われて知りませんというわけにもいかんか」
ドワーフはため息をつくようにして言葉を吐き出すと
「しばらく待っておれ」
そう言ってまた奥の方に消えていった。
「おい、レーヴァ、僕お金持ってないぞ」
チャンスとばかりにレーヴァにコッソリと告げると、
「大丈夫ですので、お任せください。マスター」
と言ってニッコリと笑う。
まさか強奪でもするつもりじゃないだろうな……
五分ほど待っただろうか、ドワーフが古そうな箱を持って帰ってきた。
テーブルの上に箱を置いて、ドワーフが慎重な手つきで箱を開ける。
「これは、うちの初代の作品だ、材料もさることながら、まだ俺にはこの域までは達せてはいねぇ」
そこには、青白い刀身の片刃の剣が置かれていた。
「凄い」
「マスター」
レーヴァがちょっと不機嫌そうだ。
「いや、うん、なかなかだな」
少しトーンを下げておく。剣が剣に嫉妬するとはよくわからない……
「男性ですし、まあ良いでしょう」
男性?剣に性別なんてものあるのか……とはいえ、レーヴァも女性ということを考えたらあり得るのか……
「主人、こちらをもらいましょう」
「おい、嬢ちゃん、こちらをもらいましょうじゃねぇよ。これはなうちの一族の家宝で、かつ目指すべきお手本なんだよ。売りもんじゃあねえ!」
「お金の問題ですが?ではこちらを差し上げましょある」
「黒金貨......まさか本物か……姉ちゃんから1つで城が建つぞ……いやいやいや、我が一族の名にかけていくら積まれても家宝を売ることはできん」
目の前で交渉が進むが僕は蚊帳の外だ。黒金貨?城?
「うーん、しぶといですね。しかしこれを見てもそう言えますかね?マスターこの剣を持って見てもらっていいですか?」
ドワーフの目線が痛いがまあ、盗むわけでもないので。言われるままに剣を握る。
「失礼しまーす」
柄を握った瞬間剣から光が発せられる。
うわっ、思わず目を瞑ってしまったが。光が引いた後の部屋に
「ワ、ワタシハ……イッタイ……」
え?今誰か喋って。
あたりを見回すも、レーヴァは微笑んでおり、ドワーフはこちらを驚愕の表情で見つめている。
「ココハ……」
思わず手元を覗き込むと……け、剣が喋ってる!?
「インテリジェンスソード……」
ドワーフがそう呟いた。
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おそくなっちゃいました。
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