その涙は、
隣の席の彼女は何があっても笑っている明るい子だった。
どんなに暗いことがあっても常にクラスを盛り上げてくれるリーダー的な存在。
彼女はとても素敵な生徒だった。
だが、ある日彼女がいつものように笑いながら早退した。
その後、僕は、母親が倒れたという噂を聞いた。
本気で僕は心配した。
だが、彼女は大丈夫だからと笑うばかりだった。
僕は、いつも笑っている彼女が素敵だと思っていたが、違ったみたいだ。
彼女の目には涙が溜まっていた。
医者曰く、もって1週間という話だそうだ。
幼くして母親を亡くした僕にとって、辛い気持ちはよく分かる。
覚悟を決めたのか、彼女は悲しそうに笑っていた。
母親から明日以降は来ないで欲しいと泣きながら頼まれたようだ。
死んでいく瞬間を自分の子供に見せたくなかったのかも知れないね、と彼女は語っていたが、それで良いのかと僕は彼女を問い詰めた。
何故死ぬ瞬間一緒にいてあげられる権利があるのに行かないのか。
交通事故とか、予測できない死に方では無いんだぞと。
君は会える権利を持っているんだぞと。
彼女は初めて僕の前で泣いた。
いつも笑っていた彼女が、泣いた。そして、彼女は人前では泣かずにいつも笑っている。
そんな彼女が、泣いた。
「………行きたい、お母さんの場所へ…。」
涙でぐしゃぐしゃになった彼女の顔は、笑顔よりも素敵で美しかった。
息切れの激しく、呼吸の乱れた彼女を後ろに乗せて僕は今までにこいだことのないくらいに全速力で病院まで飛ばした。
途中、彼女から礼を言われたが、礼を言われることはしていない、というとまた彼女は泣いた。
だが、僕たちが着いた頃には彼女の母親は亡くなっていた。
それ以来僕は、彼女が泣いているところや起こっているところを見たことがない。
現在の彼女はというと、あの出来事で吹っ切れたのか、今までよりもよく笑うクラスの女神みたいになっていた。
だが、あの時泣いていた彼女は、その涙は、確かに美しかった。
彼女の笑顔よりも格段に素敵で美しかった。