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第8話 出会い8 高校2年・冬 side 颯太

学校に行くと、校門の前で鞠が待っていた。

昨日のことで気分が落ち込んでいるのに、鞠の姿を見て更に気が重くなった。

昨日なげやりに約束したことを後悔するが、仕方なく鞠に近づく。


二人でいつも行く特別棟に向かう。

目的は美術部の作品置き場だった薄暗い部屋。

ここは日中でも北側の教室のせいか日が射すのは真昼の数時間位だ。

二人で籠るのには便利な所だった。

扉を閉めてすぐに鞠が首に腕を絡めてキスをしてきた。

沈んだ気持ちが、少し紛れてくる。

鞠と舌を絡ませながら、自分にはこういう付き合いが合ってるんじゃないかとボンヤリ考える。

柔らかくボリュームのある胸を揉んでいると、カチャカチャと鞠がベルトを外す音が聞こえる。

鞠の体に手を這わせながらも、頭を占めるのは彼女の事だった。

自分の行いによって、好きになった彼女に振り向いてもらえない。

そんな絶望が俺を自暴自棄にする。

鞠からの愛撫で、彼女の事を諦めて今までの様な快楽を求めてもいいんじゃないか?という思いがさらに大きくなっていく。

鞠を机の上に乗せブレザーを剥ぎ取り、ブラウスとセーターを一緒にたくし上げる。

彼女への気持ちを振り切ろうと胸に舌を這わせようとした時、鞠と目が合った。


その一瞬、昨日の彼女の笑顔や声、その全てが蘇った。

それだけで、心と体が止まる。

自暴自棄になり、これまでの惰性で本能のままに流されそうになった自分に理性が戻ってきた。

そして、気付いた。


こんな事しても、自分は満足しないことを。

もう彼女を知らなかった自分には戻れないことも・・・


押し倒した鞠からゆっくりと離れる。

鞠起き上がり、不機嫌そうに軽く睨んでくる。

そんな鞠を見ながらも、徐々に冷静になってくると色々気持ちの整理もついてくる。


「鞠、俺たち別れよ。これ以上鞠とは付き合う事が出来ない。」


鞠は何も反応を見せない。

今まで自分達を取り巻く雰囲気と全くそぐわない言葉に、鞠はついて行けてないようだった。

俺が言った言葉を一言ずつ咀嚼するように、鞠が反応するのをじっと待った。


「何で?私、何かした?だって、今さっきまでそんな感じじゃなかったじゃん?」


まだ正気になっていないのか、ぼんやりと鞠は俺に聞いてきた。


「ごめん。俺、好きな子が出来たんだ。鞠には悪いけど、今までみたいに軽い気持ちじゃないんだ。だから、もうこんな事するは止めにしたいんだ。」


その言葉に鞠は涙を浮かべ乱れた制服のまま俺に抱きついてきたが、抱きとめることはしなかった。

堰を切った様に鞠は言い募る。


「私、颯太が浮気しても我慢してたんだよ。飽きられないように頑張ったし私に出来る事なら何でもした。我が儘が嫌なら、もう言わないから!だから・・・だから別れるなんて言わないで・・・」


胸に押し付けられた頬を伝う涙がブレザーに吸い込まれていく。

どちらかと言えば気の強いほうだった鞠が、こんなに縋ってくるとは思わなかった。もっと気楽にこの関係を続けていると俺は勝手に思っていた。

どうやら軽く考えていたのは、俺だけだったらしい。

鞠に対して申し訳ないという思いはあるがそれ以上には心が動かない。


「ねぇ、その子とはもう付き合ってるの?」


「いや。俺が勝手に想っているだけだから。」


「それなら・・・!このままじゃダメなの?時々会ってくれるだけでいいから。その子と付き合っても私何も言わないから・・・だから・・・お願い・・・」


背中に回された腕に少し力が入って、俺を見上げる鞠は苦しそうな顔をして泣きながら見つめてくる。

そんな鞠の腕を静かに離し、俺は見つめ返した。


「それじゃ意味がないんだよ。今までと変わらない。俺は、彼女に俺を好きになって欲しいんだよ。彼女に俺の本気を知ってもらいたいから、これまでみたいなことは止めるんだ。」


一旦言葉を切って、鞠の反応を窺うが鞠は何も言わない。


「勝手な事言ってるのは分かってる。鞠が、悪いわけじゃないんだよ。」


始業のチャイムが鳴り出す。教室に行くよう促したが「先に行って」と首を振られた。

俺は鞠の気持ちを受け入れる事が出来ない以上この場に去った方がいいと思った。

正直、別れ際で泣いて縋られたのは初めてだった。

これまで付き合ってきた子とは、期間も短かったのもあってか後腐れなく別れる事が出来た。

だから、鞠がこんなにも俺に対して本気だったことに罪悪感を感じた。

昨日、俺が吉岡さんとのことで絶望感を感じたのと似ているんじゃないかと思ったら、本当に自分のやってきたことがどれだけ無神経なことだったのか痛い程分かった。


鞠に対して罪悪感はあるものの、これ以上の事は出来なかった。

そして、鞠を傷つけてもいいと思ってしまう位吉岡さんに惚れてる。

昨日彼女と話して、どうしようもない程彼女で一杯になっている自分がいる。

彼女と視線が合うと、緊張もしたがそれ以上に言いようのない甘い疼きを感じ、同時に温かいものが流れてきた。

振り向いてもらえない事に絶望を感じて、他の子に流されている時じゃない。

諦めるのはまだ早い。

俺はまだ、自分に出来る事を何もやっていない。

これまでの事を後悔しても始まらない。

それなら、これからの道が彼女に続く様にすればいい。

彼女との未来は、自分に懸かっている―――






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