第33話 ドキドキの行きつく先2 side 陽菜
夕食をこの前行ったレストランに行こうと霜織君と決めたので、昼はコンビニで軽く食べた後浜辺を歩いたり、少し車で移動して海岸に隣接しているモールで色々なショップを見て回った。
この前の時と違うのは、お互いの指を絡ませて手を繋ぐ所謂カップル繋ぎでいた事と、霜織君は時々甘い視線で見つめてくる事。
霜織君は、時々見上げたことに必ず気付いてくれて微笑んでくれるけど、その甘さにくすぐったい気持ちが沸き上がって、二人してハニかむ。
何回か同じ事を繰り返すとさすがに照れてしまった私に、繋いだ手をわざと大きく振って歩いて『何でもないよ』って顔する霜織君にプって笑いが零れる。
特別何かするわけじゃない。
だけど、他愛無ないやり取りが心をホッコリさせてくれる。
■ □ ■―――――――――――――――――――■ □ ■
夕暮れ時、お腹が空いてきたところでレストランに行く事にした。
二人でお店に入ると、以前と同じ様に温かい笑顔のオーナーが迎えてくれた。
今日は二人にとって記念日になるんだから少しだけ贅沢をしよう。っていう霜織君は、オーナーおすすめのコースを選んだ。
霜織君は運転しないといけないから今回もアルコールはやめて、ノンアルコールの物で乾杯した後何となく照れくさくなってお互いに照れ笑いし合う。
きっと今の私たちは初々しい雰囲気を醸し出しているのかもしれないけど、周りのことを気にする余裕も無いほど一杯いっぱいだった。
それでも、なんとか霜織君と会話を続けてちょっとお洒落な雰囲気なレストランの中でも少し余裕を持てるようになってきた頃、オーナー夫婦の奥さんがテーブルに近づいてきた。
「いらっしゃいませ。本日はお越し頂いてありがとうございます。またお会いできて嬉しいです」
とても親しみを込めて挨拶をしてくたことに驚いた。
だって、前に来た時は特に会話することもなかったし、時間だって結構経っているから覚えてもらっているなんて思いもしなかった。
「覚えてくれていたんですか?」
素直な感想と驚きで、つい聞いてしまった私に、前回見せてくれた穏やかな笑顔を向けながら頷いてくれて、笑顔と変わらない優しい声で『勿論よ。来てくれたお客さんは忘れないわ』得意げに胸を張る奥さんに、スゴイって尊敬の眼差で見ていたら、クスクス奥さんが笑い出した。
「そうだったらカッコイイんだけどね。そうじゃなくて、貴方達はとっても印象深かったから覚えていたの」
何か印象に残る様な事したかな?と二人で顔を見合わせていると、楽しそうな声のまま奥さんは話を続ける。
「以前来てくれた時、美男美女のカップルでお似合いだったから。芸能人さんなのかと思ちゃたもの」
確かに、霜織くんは誰から見ても人目を引く人だから印象深かったのかもしれない。
芸能人だっていっても、きっと周りは信じるんじゃないかな。
「その時も雰囲気があって素敵なカップルだなって思っていたけど、今日来てくれた貴方たちを見ていたらこっちまで幸せそうな雰囲気があって、邪魔しちゃダメだって分かっていたんだけど、どうしても声をかけたかったのよ」
その後デザートを持ってきてくれた奥さんと3人で雑談をしていると、あっというまに時間は過ぎていて、そろそろ帰ろうと席をたった時厨房からオーナーも顔を見せてくれた。
『また来てくださいね』というオーナー夫婦に挨拶をして、車に乗り込んだ。
楽しかった食事で、緊張がほぐれていたのに霜織君と二人きりになって改めて霜織君を意識すると、レストランの奥さんが言うように、霜織君は芸能人にみたいだった。
これまでそんな事気にしなかったのに、こんな人が自分の彼氏になったんだと思うとなんだか、緊張してきた。
いったん緊張すると何を話していいのか分からなくて、一体これまで二人きりの時どんなことを話していたか考える。
そういってこれまでを思い返してみる、いつも会話が途切れないように霜織君が話を自然につないでくれていたことに今更ながら気づいた。
霜織君は、こんな風に私が気づいていないところでも気を遣ってくれる。
だから、私は今彼と一緒にいることが出来るんだって思ったら、胸が締め付けられるほど苦しくなった。
本当は、告白する前に伝えたいことがあったんだけど、緊張のあまり気持ちを伝えちゃって言わずにいたことを今話しちゃってもいいかな?
「陽菜。右手出して」
言われた通りに右手を前に出すと、「そっちじゃなくて、こっち」運転しながら器用に自分の左手を伸ばして、私の手を捕まえた霜織はそのまま何も言わずに運転している。
(手、このまま繋いじゃってもいいのかな?)
「当分急なカーブとかない直進だからね」
霜織君が私の疑問が通じたように答えてくれる。
今走っている道は海岸通り沿いで、霜織君が言うように殆どが直進だから手を繋いだまま運転はできる。
昼間もずっと繋いでいたに車の中でもって嬉しいような恥ずかしいような・・・
誰かに見られるわけじゃない、二人だけの秘密の空間。
時々霜織君は悪戯するように、繋いだ手全体でギュッて一瞬力をいれたり、人差し指でトントンってノックしてきたりする。
経験値の差なのか、どう反応していいか分からなくて、悪戯される度に霜織君を見てしまう。
だけど、嫌じゃない。
心がくすぐったくなるけど、繋いだ手は離さない。
彼の誕生日の帰り、この道を車で通った時に感じていた罪悪感や彩音ちゃんを裏切っている自分に対する嫌悪感。それと霜織君を好きだって気持ち・・・
そんな自分でも持て余しそうな気持ちを抱えていた事が嘘みたいに今幸せ。
でも今感じている幸せも霜織君のおかげだって、私は知ってる。
話すなら『今』だって、思った。
ありがとう。って伝えるなら、この時だと思った。
「あのね、二人でレストランの帰り、この道を通っていたとき私辛かったんだ」
突然話し始めた私にチラっと投げてきた霜織君の視線に翳りを感じたから、「そうじゃないよ」っていう意味をこめて繋いだ手に力を少しいれると、無言でトントンって返事が返ってきた。
無言だったのは、私にそのまま話を続けさせたかったんだと思う。
「あの日、霜織君を好きだって思う気持ちと、その時、その・・・友達にね、霜織君の事好きだって相談されてて、協力するって約束してたの」
霜織君が彩音ちゃんの気持ちを知っているか分からなかったから、名前を出すことは避けた。
「約束した時、まだ霜織君のこと好きとか考えたことなくて・・・でも、いつの間にか好きなってた」
あの時の私は霜織くんと一緒に過ごすことが心地よければ心地良いほど、彩音ちゃんとの板挟みで苦しかった。
もっと一緒にいたいと思う反面、これ以上一緒にいることはダメだと自分に言い聞かせて、彩音ちゃんへの裏切りに心臓が潰されるように息苦しかった。
「その後も色々あって、友達の事やと霜織君の事ずっと考えて・・・正直に言うと、最近まで霜織君とのこと諦めた方がいいんだろうなって考えてたの。だけど・・・」
ピクリと小さく反応した霜織君の手から、彼の心の動きが伝わった。
何も言わず話のを待っている霜織君に、そのことには敢えて気づかないふりをする。
「どうするべきなのか悩んでいたらね、ある日クラスの友達が話しかけてくれたの」
明けましておめでとうございます。
今年最初の更新です。
話が途中ぽいですが、思ったよりも長くなりそうだったのでここで一度話を区切りました。
いつも拍手&コメントありがとうございます☆
本年も颯太&陽菜を宜しくお願いします。
minimone