第32話 ドキドキの行きつく先1 side 陽菜
だんだん日差しが強くなりだして、あーもうすぐ夏が来るんだって昼下がりの公園で一人思った。
自宅から歩いていける距離に公園がある。
この公園は近くに住んでいる人なら皆知っている公園で、春になるとお花見に来る人で盛り上がる。
なかでも小さい子供に人気なのが噴水。
今も子供連れのママさん達が噴水前で子供を遊ばせているのを見つめる。
幸せそうだなぁ〜なんて思っていた所で、こちらの方へ歩いてくる人影を見つけた。
はっきりと姿が見えなくても、それが誰なのか分かって自然と鼓動がはやる。
こちらをに気付いていないその人を気付くまで見つめる中、縮まる距離に反比例する様に、心拍数は上昇してくる。
霜織君たちと一緒に行った遊園地の日からずっと考え続けた。
私はどうしたいのか?
どうすることが一番良いのか悩み続けて、やっと答えを出せた。
私に気付いた霜織君と目が合って、フワリと微笑する彼に心臓が一瞬止まる。
本当にいいんだろうか?
私が出した結論は間違っていないかな?
そんな考えが頭の中をよぎる。
「ごめん。待ったかな?」
私が先に待っていただけなのに、 約束の時間より早くに来てくれた霜織君はいつもと同じ様に優しい声で気にかけてくれる。
言葉以上の優しさを声色や仕草から感じてきて心臓がキュンと悲鳴を上げてくるけど、これから彼に言うことを考えると一層緊張してきて顔が強張る。
「こっちこそ、呼び出してごめんね」
「そんなこと気にしなくていいよ。俺は陽菜に会えるだけで嬉しいんだから」
ドキンとする様なことをサラリと言う霜織君。
どうしてこんなに好意を持ってくれるのか不思議に思ってしまう。
何か好かれることをしたわけじゃないのに・・・
自分じゃ分からない。
だけど、とにかく今日は自分が出した答えを伝えなきゃ。
遊園地に行った以降も霜織君くんからメールでの連絡は来るけど、『待ってくれる』っていった言葉通り答えを急かすこともなく待っていてくれた。
凄く待たせたと思う。
だけど、ちゃんと考えたかった。
霜織君のこと。彩音ちゃんのこと。そして自分のこと。
そして今日、やっと霜織君に伝えることが出来る。
「あっ、あの」
「その前にさっ」
やっと出せた答えを伝えようと霜織君にバレない様小さく深呼吸緊張して、言葉にしようとした時、私の言葉に被って霜織君が話しだした。
「食事。食事もう済んだ?俺、実はまだ食べてなくて。よかったら、どこか行かない?」
少し焦った様に言葉早めに話しだした霜織君の勢いに負けてしまって、二人でお店に行くことにした。
公園近くのパーキングに止めてあった霜織君の車に乗り込む。
いつ乗っても車は綺麗にされているけど、今日はいつもと違って微かにタバコの匂いがした。
一緒にいる時にタバコを吸っている所を見たことがなかったから、この時初めて霜織君がタバコを吸っていること知った。
タバコを吸っている姿は格好良いいだろうということは想像がついたけど、何となく違和感があった。
車が静かに発進していて道を滑らかに進む一方、車内は静かだった。
話をいつ切り出したらいいのかタイミングを伺って、横目で盗み見た霜織君は口を引き結んで運転していたけど雰囲気がピリピリと気を張っていた。
多分私が今日呼び出した理由を彼は気付いているからなんだと思う。
何ともいえない雰囲気が漂っているなか、二人とも会話というコミュニケーションツールを忘れ去ってしまったみたいに無言が続いた。
食事に行こうと言って車を走らせた霜織君だけど、もうずいぶんと車を走らせていることに今更ながら気付いて窓から見える風景を確かめる。
(あれ?)
車は見たことのある車道を走っていた。
霜織君の誕生日に一緒にドライブに行った時に来た海の近くだと気付いた。
「もしかして、海に行ってる?」
「うん。食事しようと思ったんだけど、やっぱり食欲なくてさ。どうせなら海に行こうかなって思ったんだけど。良かったかな?」
何となく聞いた私にチラリと目をやった霜織君は、やっぱりいつもよりも硬めの声で答える。
そしてやっぱり沈黙が続いていた車が徐に止まった。
「少し歩こうか」
シートベルトを外して私に話しかけた霜織君は幾分かいつもの彼に戻ってて、少しぎこちなさは残った笑顔をみせた。
和らいだ雰囲気の霜織君にホッとした自分に、彼の雰囲気が知らずに緊張を強くさせていたことに気付いた。
もしかしたら、答えをいつ言おうかと伺っている私の緊張が霜織君にも伝わっていたんじゃないかって思い当たってリラックスしようと深呼吸する。
二人で歩く砂浜は、以前歩いたときよりも海の青さが増しているように感じて、サーフィンなど海を訪れている人は多くなっていた。
賑やかになっていた海岸とは切り離されたみたいに私たちはゆっくりとだけど、特に話す事なく歩いていた。
霜織君の半歩後ろ歩いていたけど、思い切って今日呼び出したこと事を伝えようと呼びかけたけど、霜織君は振り向く事はなかった。
呼びかけた声が小さかったのと、ザザンという波の音で私の声は霜織君に届く前にかき消されたみたい。
これから伝えることにも勇気がいるのに、もう一度呼びかける勇気を出そうとする前に体が自然に動いた。
咄嗟に霜織君の洋服を後ろから引っ張って引き止めた私に、振り向いた霜織君は目を小さく見開いて立ち止まった。
「あのね、今日来てもらった事なんだけど」
一旦言葉を切った私に、やっぱり少し硬い表情の霜織君が頷いた。
「分かってるかもしれないけど、遊園地の時に話してたことで・・・ちゃんと自分で出した結論を伝えたいの」
何も言わない霜織君に不安を感じて、何て言って伝えればいいのか分からなくなる。
昨日の夜も、今日伝える事を何度も頭の中で反芻していたけど、実際その場になると頭の中が真っ白になっちゃって昨日の練習も意味がなくなってしまった。
「ずっと・・・ずっと考えたの。私・・・私ね、」
言葉が喉に詰まって途切れてしまう。
酸素が足りない金魚の様に、空気を取り込むため喘ぐ様に呼吸する。
そんな私を霜織君は、じっと見ているだけで何も言葉を発しようとはしなかった。
背中に冷たいものが流れ、緊張で手が冷たくなる。
「好きなの」
本当はもっと色々な事を伝えたかったのに、最初に口から出た言葉は『好き』っていう一言だった。
一度自分の気持ちを言っちゃうと、他に伝えたかった言葉はもうどこかに消えてしまった。
「霜織君の事好きなの。返事遅くなってごめんなさい」
精一杯の気持ちをやっと伝える事が来たという思いと、未だに反応を見せてくれない霜織君に不安になる。
どうしていいか分からなくなって途方に暮れて、視線が自然と下げてしまう。
一度視線をおろしてしまったら、霜織君がどんな表情や反応をするのか怖くて、もう顔を見る事が出来なくなってしまった。
どの位時間が経ったのか分からない。多分、そんなに時間は経っていないのかもしれないけど、気持ちは死刑執行の宣言を待つ死刑囚だった。
いいしれない不安が全身を覆い尽くそうとした時、上からハァ〜という大きな溜息が聞こえたかと思うと、その場で蹲った霜織君が視界の中に入ってきた。
「緊張したぁ」
脱力といった感じの声の霜織君は、いつも自信に満ちている彼とは違っていた。
「自分でも情けないけど、陽菜の答え聞くのが怖かった」
顔を膝の間に埋めて呟いている霜織君は見方によっては情けない姿なのかもしれない。
だけど、その姿に胸がキューンと締め付けられた。
締め付けられた胸の痛みに促される様に霜織君を抱きしめていた。
気温は熱いのに、抱きしめて感じた霜織君の体は冷たかった。
「待たせてごめんね。それと、ありがとう」
『ありがとう』の言葉に沢山の気持ちを込めた。
抱きしめていたはずの霜織君は顔をあげて、お互い同じ目線の高さで見つめ合う。
はた。と自分の行動を振り返って、緊張で冷たかったはずの自分の手温かくなっていた。
きっと顔も赤くなっているはず。
恥ずかしいけど、霜織君の顔もうっすら赤くなっていることに気付いたら、自然と笑みが零れる。
「なんか安心したら腹空いてきた」
そう言った霜織君と顔を見合わせて声を出して笑った。
さっき思いを伝えてばかりなのに、二人でこうやって笑い合っていると少し照れてくすぐったい感じがあるけど、幸せを感じてしまう自分が不思議だった。
minimoneです。
いつも拍手&コメントありがとうございます。
皆さんからの反応は私のやる気の素です。
やっと思いが通じ合った颯太&陽菜
次回はもう少しイチャついてもらいたいな〜と思っています。
次は一週間後ぐらいと期間をあけずに更新したいな。できるかな?
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