第30話 ただ、君だけを side 颯太
ここの売りは絶叫系のアトラクションと巨大観覧車だ。
遊園地なんてテンション上げて楽しむ所に、静かに話が出来る場所なんて多くない。
とにかく二人きりなれる所って考えたら、観覧車しか思いつかなかった。
口を開いたら、陽菜に色々聞いてしまう。
だから無言で観覧車の所まで陽菜を引っ張っていく。
陽菜も何も言わず、ただ黙って歩く。
タイミング良く観覧車は一周回り終わったらしく、 待っていたカップル達が 次々に乗り込んでいる。俺と陽菜もその流れに入ることが出来て、待ち時間もなく乗り込むことが出来た。
観覧車という狭い密室の中、陽菜と向き合って座る。
緊張しているのか、きっちりと座っている陽菜に笑みがこぼれる。
メッチャ気負ってたんだけど、陽菜を見ていたら逆にリラックスできた。
「何にもしないからさ、緊張しないで」
苦笑まじりで見つめる俺と陽菜の視線が絡んだ。
「ごめんなさい」
頭を下げて絡んだ視線を外す陽菜。
― ごめんなさい ―
何に対してのゴメンナサイ何だろう。
避けていたことに対してだろうか。
それとも、俺の気持ちを受け入れないって意味だろか。
「連絡くれていたのに、返信とかしなくてごめんなさい」
何も反応を示さない俺に、陽菜はもう一度謝る。
別に謝って欲しくて、二人きりになったわけじゃない。
陽菜の気持ちが知りたいだけなんだ。
陽菜に俺と同じ位の気持ちを返してもらえるなんて思ってない。
反対に、彼氏になりたいっていう気持ちを受け入れてもらえるかどうかすら分からない。
誕生日に過ごした日に、『陽菜の事が好きだ』という事を初めて態度で意思表示をしたのに、すぐに陽菜から返答を求めようとするのは時期尚早なのかもしれない。
じゃあ、いつまで待てばいい?
今更高校の時にみたいに、たった数回しか会ったこともない陽菜をひたすら思うだけなんて、本当にもう無理なんだ。
陽菜の理想に近づくため、真面目に過ごした日々。
一度も迷わなかったかと言えば嘘になる。
本当に俺は陽菜のことが好きなんだろうか、と疑問に思ったこともある。
他の女とヤってもいいや、とか隠していたらバレないだろうとかは思わなかった。
陽菜の何がそこまで俺を惹き付けるのか分からなかった。
これまでに付き合ったりヤッた中には、もっと俺の好みの子がいたのかもしれない。
ただ、それまでの出会った女に俺の中の雄が食指を向けることがあっても、陽菜を見た時の衝撃は、そんなものを凌駕したものがあった。
大学入試の時、試験なんかよりも陽菜の姿を会場や行き帰りの道程で探した。
入学式でやっと再会して手を繋いだ時、『やっぱり』って思った。
理由なんてないんだ。
陽菜に会って、これまでの生活の全てを変えてもいいと思えた。
うまく言葉に表すことができないけど、
言葉にしたら陳腐で、軽いものなってしまうけど、
陽菜に側に居て欲しいと思う。
陽菜のそばに、俺が、居たいんだ。
陽菜は,陽菜だけは、大切にしたい。泣かせたくない。
「俺のこと嫌い?」
「俺とは友達になりたくない?」
「俺のこと恋愛対象として見ることが出来ない?」
「そんなことない」と言って否定していた陽菜が、最後の質問にだけは答えてくれなかった。
ただ、少しタレている大きな目に大きな水滴を湛えて、俺を見つめる。
泣かせたいわけじゃない。
笑って欲しい。
名前の様に、春の様な朗らかな笑顔を向けて欲しいんだ。
「ごめん。俺が泣かせてるんだよな」
「ちっ、ちがっ・・・」
涙でいっぱいになっている目を大きくする陽菜を見たら、思わず抱きしめていた。
考えるよりも、体が動いていた。
「し、霜織君・・・」
陽菜の甘やかなで透き通る様な声が、耳をくすぐる。
その甘い痺れを体中に感じる。
「これまでしてきた過去のことで、俺を信じられないのかもしれないと思う。
信じてって言っても、すぐには難しいと思う。・・・だけど、」
一度言葉を切って、抱きしめていた陽菜を少し離し、陽菜と目を合わせる。
「好きなんだ」
瞳を逸らさずに・・・見つめる。
「陽菜のこと、 すごく、好きだ 」
想いを込めて、一言ずつはっきり伝える。
陽菜が小さく息を飲み込んだのが分かった。
それでも陽菜は見つめ合う事を、視線を外すことはなかった。
生まれて初めての告白に緊張しながら、陽菜の反応が怖かった。
見つめ返してくれる陽菜に安堵し、淡い期待が沸き上がってくる。
「構内での噂のことは聞いてる。俺が勝手に陽菜のこと好きになった事で、陽菜に迷惑かけてるのも分かってる」
陽菜の事好きなら身を引くべきなのかもしれないと心の何処かで思うけど、
同じ陽菜を守るなら、側に居て守っていきたい。
「俺の事嫌いじゃないなら、逃げないで欲しい。
周りに流されないで、俺の事を見て欲しい。
周りのせいで、俺から離れて行かないで欲しい。
守るから。
陽菜が俺をみてくれるなら、俺が陽菜を守るから。
だから、陽菜には自分の気持ちだけ考えて俺の事を決めて欲しい」
もう一度、陽菜を胸に閉じ込めた。
陽菜の腕が恐る恐る俺の背中に回された。
抱きしめるというには、あまりにも弱々しいけど、陽菜が腕を回して答えてくれた。
「時間が欲しいの。もう少し・・・待ってもらってもいい?」
くぐもった声が俺の耳に届くと、ゆっくり陽菜への戒めを解く。
「うん。待つよ。陽菜が答えてくれるのを、いつまでも待ってるから」
陽菜の顔を覗き込む様に「出来れば、俺の彼女になってくれるって言葉を待ってるよ」と言う俺に、陽菜の顔はアメリカンチェリーの様に赤くなっていた。
いつの間にか観覧車は頂上を過ぎ高度を下げていく。
それから地上に戻るまで、二人でただ座っているだけだった。
手を繋いだまま特に話さなかったけど、時折目が合う陽菜は最初と違い緊張や戸惑いみたいなものはなく、ただハニカんでくれた。
それだけで、幸せになれる。
かなり強引に引っ張ってきたけど、気持ちを伝える事が出来て良かったと思う。
陽菜が他の事に煩わされる事なく、俺の事を考えてくれる様にしないと。
周りに邪魔されるなんて、まっぴらごめんだ。
陽菜、君を守るよ。
君がいつまでも笑っていられる様に。
俺にだけ特別な笑顔を向けてくれる様に。
君が好きなんだ。
きっと、この想いは冷める事はないんじゃないかって思う。
それは確信めいたもの。
俺は陽菜をずっと、ずっと想い続けるよ。
君をずっと―――
ただ、君だけを・・・思い続けるよ。
minimoneです。
7/20,21,22拍手&メッセージありがとうございました。
更新を待ってくれている方がいる事が、本当に嬉しいです。
あまりに嬉しくて、書き上げるスピードが倍速以上でした。
少しストックしてから更新しようかと考えていましたが、少しでも楽しみにしてくれる方へ、お礼代わりとして更新しました。
本当にどうもありがとうございます。
ここまで読んでくれた皆様に、感謝をこめて・・・