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第29話 君をさらう side 颯太

ベッドの上でゴロゴロしながら翔に貰ったチケットを見つめる。


避けられてるよなぁ〜って思ってた所で、それを翔たちにも認められると、

分かってた事でも余計に凹む。


凹みながらもその一方で、俺や陽菜に関係ない周りの奴らが勝手に言ってる事実

にイラついてくる。


マジで勘弁して欲しいよ。


どうしようもない憤りを抱えながら、

じっとチケットを見ていると翔から連絡が来た。



「あっ颯太?お前って明日講義?」



何の脈絡もなく話し出した翔に、イラついていた俺は一層イラつきが増した。


「普通に一般教養があるけど?」


不機嫌な声で答える俺に翔は全く我関せずっといった様子。


「そっ?じゃ明日は自主休講しろよ?んで、朝、車で俺んちに迎えに来い」


いきなり何言い出すかと、口を開こうとしたが「チケット忘れんなよ」の一言で口を閉じた。

翔の言わんとすることが分かって、素直に頷いた。



 ※ ※ ※



いつもよりも気合いを入れて早起きし、シャワーで目を覚ました後、

クローゼットから洋服を見繕うって出掛ける準備をする。

大学に入って一人暮らしを始めてから、朝食を摂るという習慣がすっかり無くなってしまったので、

いつもの様にコーヒーを一杯飲む。


逆にここ最近習慣化しつつあるタバコを吸って時間を確認すると、翔たちを迎えに行くには丁度良い時間になっていた。

タバコの火を消し、徐に車のキーを持って出掛ける。

外に出ると、いつもよりも湿気もなく気持ちよい天気。

外出にはもってこいの今日は、きっと神様も俺を応援しているに違いない。


翔の家が見えてくると、すでに翔と結衣が玄関先で待っているのが見えた。

車を止め、二人が乗り込むのを待つ。


「はよ。颯太」


「おはよ〜このまま陽菜の家に言ってくれる?」


携帯を耳に当てたまま後部座席に座る結衣をルームミラーで確認する。

陽菜の名前を聞いて、体が強張った。


今日俺がいる事を陽菜は知っているのかな。

俺がいるのが嫌で、今日キャンセルするって事ないよな?


またネガティブ思考に陥りそうになる俺の横で、助手席に座った翔は鼻歌まじりで、流す音楽を探してゴソゴソしている。

それを見て、何だか無性に翔を恨めしく思ってしまう。


(くそっ 無性に頭をはたきたくなった)


「翔。頭叩いても良いか?」


「何いきなり言ってんだよ」


「いや。無性にそんな衝動に駆られて。いいから叩かせろ」


翔の頭を無理矢理叩こうとする俺に、それを避ける翔。

いや。本気じゃないんだけど、なんつーか落ち着かない。

まじでネガティブになってる場合じゃないし。

こうやって翔と絡んでテンション上げていかないと。


なんとかテンションを元に戻し、陽菜を迎えに車を走らせる。

いつの間に電話を終わらせた結衣が「ったく、いつまでも子供なんだから」と、言ってる。


「そういや、今日のことちゃんと陽菜に言ってるのか?」


さっきから気になっていた事を結衣に聞く。


「ううん。全く何も言ってない。気分転換に遊びに行こうって誘っただけ」


おいおい。

それって大丈夫か?

いきないり俺たちが現れたら陽菜が驚くだろ。


いや、こうでもしないと陽菜は会ってくれない気もする。

シレっと答える結衣に、一瞬不安な目を向けるも気を取り直す。

せっかく翔や結衣がセッティングしてくれた『お返し』だ。

ここは有効に活用させないとな。


陽菜の家まで近くなると、結衣が玄関先で待つ様に陽菜に連絡した。

俺たちが到着した時、以前と同じ様に陽菜が立っていた。

だけど陽菜の顔が驚いている。

可愛らしい目がいつもより大きくなって、固まってる。


すぐに結衣が車から降りて陽菜に近づく。

少し会話をしていた陽菜が小さく頷いて、結衣の後ろでこちらに歩いてくるのを車の中から見ていた。


車に乗り込んだ陽菜に翔が挨拶する。

俺も同じ様に「おはよう」と言うと、「おはよう」とぎこちなく陽菜が返す。

そんな陽菜の様子をルームミラーでつぶさに確認。


驚いてはいるけど、嫌がっているわけじゃないな。

内容は聞こえなかったけど結衣と離している時も、そんな素振りはなかった。

てことは、俺の事が嫌いで避けてたとか、そんなわけじゃないって事だよな。


陽菜本人に聞いたわけじゃないが、嫌われていないと結論を出した。

とにかく、今日はちゃんと陽菜と話したいんだ。


平日ってこともあるんだろうけど、車も渋滞に引っかからなく順調に高速に乗ることができた。


「あのね、今日ってどこに行くの?」


ちょうど最初のインターを通過した所で、陽菜が聞いてきた。


「結衣、お前陽菜ちゃんにまだ何も言ってなかったのか?」


呆れた様に翔が結衣を振りかえると、結衣は「そうだっけ?」ととぼける。


「今日は遊園地に行くんだよ。親父の知り合いが優待券くれたから」


翔がチケットを見せながら説明する。

俺たちが今日行く遊園地は、『日本最大級の』を売り物にするジェットコースターとかがある。


「陽菜は絶叫系大丈夫?」


あの遊園地に行って絶叫系が乗れなかったら辛いだろうと聞くと、「大好きだ」と笑顔で答えてくれた。

最初のぎこちなさも無くなっていて、いい感じだ。

そのまま陽菜と会話をやり取りしていると、翔が話しかけて来た。


「俺喉が渇いた。次のサービスエリア寄って」


「あ〜ドリンクならいくつか買って来た。後ろにあるだろ?」


「何、颯太。いつからそんなに気の付く男になったの?!」


結衣があからさまに驚いてみせる。

悪ぃかよ?俺がみんなの分のドリンクを買ってくることが。

実際は、陽菜のためなんだけど


「ジャスミン茶は陽菜の分だから、それ渡して」


前に一緒に出掛けた時、陽菜がジャスミン茶を好んで飲んだのを忘れてない。

あの時ジャスミン茶が好きかどうかも、それとなく本人に探りを入れて確認したから。

それ以外にも、翔や結衣がいつも飲んでいるドリンクも買って準備しておいた。


「私もジャスミン茶が飲みたかったかも」


結衣がボソリと呟く。

って、ウソつけ!このやろ〜!!

お前、癖のあるお茶苦手じゃねぇか!!

知ってんだからな!

ほら見ろ、陽菜がジャスミン茶を結衣に譲ろうとしてじゃんか


翔が結衣のドリンクと交換しようとしている陽菜を、笑いながら止める。

結衣の奴絶対にからかってやがる。

翔も止める気全くないし。


このままだったら、陽菜と話す前にコイツ等に邪魔されそうな気がしてきた。

後で覚えてろよ、結衣。



 ※ ※ ※



無事に遊園地に着き、入園の際に貰ったマップを広げながら、

翔や結衣がどこから回るかを相談している。

時折、陽菜にも聞いているのを俺は眺めながら考えていた。


勿論ここまで来たからには、おもいきり楽しみたい。

だけど、それよりも大事なことが今の俺にはある。

まずは話をするために二人きりになりたい。

それが俺の最優先事項だ。

陽菜には申し訳ないけど、俺に付き合ってもらう。


「なあ、颯太はどこ・・・って、オイ!」


翔が話しかけたのと、陽菜の手を引いて走り出したのが一緒だった。

後ろから翔や結衣が呼ぶ声が聞こえる。


「悪い!昼前になったら連絡するから、それまで別行動な!」


走りながら振り返ってそれだけ言う。

目線を下にやれば、朝見た時以上に驚いてこっちを見ている陽菜と目が合った。

そんな陽菜の手を引っ張って、翔達から遠ざかる。


さっきマップで確認した目的地に近くなった事で、走るペースを少しずつ落とす。

俺は普段鍛えているから平気だけど、陽菜はキツそうに呼吸している。

近くのベンチに陽菜を座らせると、そこから少し離れた所にある自動販売機でドリンクを買って陽菜に渡した。


「ごめん。急に走り出したりして」


ある程度呼吸が整ってきた陽菜が、「ありがとう」と言ってドリンクを飲む。


「まずは、陽菜と話したかったから」


一度は近づいたはずの陽菜が遠くなった様な気がして不安だった。

別に付き合っていたわけでもないし、陽菜が俺に対して恋愛感情を持ってくれているかは自信が無い。


少しずつ陽菜に近づいているはずだった。

だから、陽菜と話したかった。


自分の気持ちを強引に押し付けてるのかもしれない。

だけど一度近づいた、その距離の心地良さを知ってしまったら、

もう、元には戻れない。

戻りたくない。


ただ、陽菜のことを思っていた時に、戻りたくないんだ・・・


「逃がさないから」


俺の想いが籠った声音に気付いたのか、陽菜が見上げる。


「ちゃんと話してくれるまで、俺、陽菜の事離さないから」


一度離した手をもう一度握って、目的地に向かって歩き出す。

さっき陽菜の手を引っ張って走っていた時より、少しだけ強く握る。

この手から、陽菜に俺の気持ちが少しでも届く様にと。



minimoneです


いつも拍手有り難うございます。

現在、遅筆で更新もゆっくりですが完結させたいと思っていますので、これからも宜しくお願いします。

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