表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
28/36

第28話 アンフェア or フェア side 陽菜


彩音ちゃんに付いていったカフェは、穴場なのかお客さんがパラパラといる位で落ち着いた感じの所だった。

いつもなら楽しいはずの時間が、今日は辛い。

お互いオーダーしたものを待つ間沈黙が流れる。

どうやって切り出したらいいのか分からず、目の前に置かれた氷の入ったコップに目をやる。

だけど、時間が経つにつれて二人に流れる沈黙に苦しくなってくる。


「急に誘ってごめんね?陽菜ちゃん、予定とかなかった?」


重苦しい沈黙を破ったのは、首を傾げて聞いてくる彩音ちゃんだった。


「大丈夫だよ。特に何もなかったから」


笑顔で答えようするけど、頬に変な力が入る。

私のぎこちない笑顔をジッと彩音ちゃんが見る。


「そっか。デートでもあるのかと思った」


ポソっと言われた一言に全身が金縛りにあったようになった。

今日彩音ちゃんに誘われた時から、ちゃんと自分の気持ちを言おうと決心していたのに、私の勇気は一向に膨らむことがない。

もともと穴の空いた風船は、その穴が一層大きくなった様な錯覚を覚えたと同時に、彩音ちゃんの一言は胸を突いた。

金縛りはなかなか解けてくれなくて、再び沈黙が重く漂っている。



「あっ、あのっ」

「ねぇ、陽菜ちゃん」


二人とも同じタイミングで話を切り出したのは、目の前にオーダーしたコーヒーと紅茶が置かれて間もなくだった。

勇気を出して話そうとして、言葉が被ったことで一度膨らんだ勇気が一気に萎む。

そんな私に気付いたのか、彩音ちゃんが言葉を続ける。


「陽菜ちゃんって、颯太くんと付き合ってるの?」


その質問に首を振って否定する。

ふーん、と彩音ちゃんは小さく言うと、ジッとこっちを見る。

その表情は、いつもニコニコ笑っているものとは全く違っていた。

予想出来ていたこととはいえ、彩音ちゃんの一挙手一投足は鋭さを帯び私を突き刺す。


「じゃあ、陽菜ちゃんは私が颯太君の事好きって知っていたのにデートしたんだ」


目を細める彩音ちゃんに何も言えないまま、じっとしていると彩音ちゃんは増々言葉を重ねてくる。

言いたいことが纏まらず、ただ沈黙する私に彩音ちゃんは畳み掛けてく。


「約束したよね?協力するって?なのに、颯太君と二人で誕生日過ごしたんだ?友達って顔しながら陰で私の事バカにしてたのね!」


「違う!違うよ。彩音ちゃんの事バカになんてしてない。でも、霜織君と二人で会ったのは本当。・・・ごめんなさい」


話しながら感情が昂ってきたのか、声が大きくなってくる彩音ちゃんの言葉に咄嗟に否定する。

バカになんて一度もしたことなかった。

だけど、罪悪感を感じながらも、それを無視して霜織君に会いたかったっていう気持ちは嘘じゃないから、謝るしかなかった。

そんな私を彩音ちゃんは蔑み、そして断罪する様に私を見つめる。


「ホント、無邪気な顔してやってる事えげつないよね。私のこと知ってるのに何とも思わないで二人で会ってたんだ。っていうか、寧ろ私をダシにして颯太君に近づいたんでしょ?」


その言葉が私の奥深くにグサリと突き刺さる。


(そうじゃない、そうじゃないよ!そんなつもりなんて全然なかった。)


心の中では、彩音ちゃんに伝えたい言葉が溢れてくるのに、実際に声に出して伝えることが出来ない。

そうじゃないと伝えるために、ただ首を振だけの自分が増々嫌になる。


「じゃあ、そんなに違うって否定するなら、颯太君のことちゃんと協力出来るでしょ?私たち友達でしょ!?友達裏切る様な最低なことしないでよ!!」


ダン!っとテーブルを叩いて立ち上がると彩音ちゃんはお店を出て行った。

もともとあまりお客がいなかった店内では、きっと私たちのやり取りが聞こえていたんだと思う。

彩音ちゃんが出て行った後も、じっと下を向いている私のぼやけた視界にオシボリが入ってきた。

顔を上げると、そこには温かい表情をしたお店の人が私の様子を窺っていた。

お礼を言いたかったけど、声を出すときっと体の中に凝っているものが込み上げてきそうで、黙って頭を下げるだけが精一杯だった。

手にしたオシボリはお店の人と同じ様に温かくて、それを目に押し当てて声が出そうになるのを必死に噛み殺しながら泣いた。



 ※ ※ ※



あれ以来彩音ちゃんが霜織君の事を言ってくることはない。

だけど時折私を見てくる視線が、雄弁に彩音ちゃんの言いたいことを伝えてくる。

その視線を避けながら、どうしていいのか分からなくて、立ち往生している中途半端な状態だった。

それでも、霜織君からのメールは届いてくる。

本当は自分のするべきことは分かっている。

彩音ちゃんのことを考えると拒否した方がいいんだと思う。

頭では分かっている。だけど、頭では分かっていても、心がついていかない。


先日構内で霜織君と遭遇しそうになって、慌てて逃げてしまった。

きっと不快に思っただろうな、霜織君。

だって、目が合ったもん。

わざと逃げたのバレてるよね。


はぁ〜私ってこんなにイジイジしてたっけ?

最近、暗いなって自分でも思う。っていうか、ネガティブ思考に陥りがち。

何とかしなきゃ。

だけど・・・彩音ちゃんと霜織君、友情と愛情。

どちらかを選ばなきゃいけないのかな?



 ※ ※ ※



「陽菜。ちょっとこっちにいらっしゃい」


そう言ってグイっと腕を引っ張られて、振り向くと結衣が綺麗な眉を寄せていた。

その表情に、ああ〜やっぱりって思ってしまった。

そろそろ結衣にもバレるんじゃないかって思ってたんだよね。

結衣も、自分が何の用件で私を呼び止めたのか、私が理解してると思ったのか小さく頷く。


「ここじゃ何だから、どこか行こ?」


結衣はそう言って、私と並んで大学を後にする。

時間はちょうど昼時で、大学周辺には同じ大学の人らしき人たちが多くいた。

やっぱり知り合いに出会いそうな所で話したくないと思っていたのは結衣も同じだったのか、大学から数駅のオフィス街に行こうと提案してきた。

オフィス街もやっぱり、サラリーマンやOLの人が多くて時間がかかりそうだったため、結局二人で適当にデパ地下でランチを確保して私の家に行くことにした。


「お邪魔しま〜す」


明るく言いながら、結衣はそそくさとリビングに向かっていった。

すぐにキッチンに入って飲み物を用意すると、座ってリラックスしている結衣の前に冷やしておいたジャスミンティを置く。

いつ話を切り出されるんだろうって気負いながら食事するけど、一向に結衣から話を切り出されることはなくて、普通に他愛無ないおしゃべりを続けた。

買ってきたランチを食べ上げひと心地ついた時に、結衣が急に真面目な顔をして私を見た。


「翔に聞いたんだけど、颯太のこと避けてるって本当?」


(きたっ!)


食事の間中楽しい雰囲気だったから、このまま触れないでくれるのかな?って甘い考えが浮かんだりしたけど、無理だよね。

そう思いつつも、逃げ腰の自分に呆れてしまう。

霜織君のこと、避けたくて避けてるわけじゃないけど、実際本当の事だから何も言えない。


「こら!目をそらさない」


後ろめたくて視線を結衣から外すと、デコピンされてしまった。

突然のことで、しかもそれがクリーンヒットだったから額を押さえながら結衣を見る。


「じゃあ、陽菜が颯太のことで責められたってホント?」


思わず息を飲み込め、結衣を見つめる。

彩音ちゃんは霜織君のことが好きで、裏切る様な事をしたのは私だから責められても当然だったと思う。

だから、違うと言って否定すると、結衣は視線を一度下に下ろした後視線を戻す。


「実は、その噂結構前から知ってて、でも陽菜何も言わないし・・・気になって陽菜の様子見に講義室まで行ったことあるんだよ、私。」


結衣の言葉に、驚いてしまった。

いつ見に来たんだろう?全然気付かなかった。


「そしたら陽菜、暗いし、他の子と話してる時も顔が強張ってるっていうか、いつもと雰囲気全然違うでしょ?よく教室見ると、後ろの方のグループが何かヒソヒソ話しながら陽菜のこと見てるし」


あ〜結衣には大学で起こっていること全部バレちゃってるんだなって思った。

正直こんな事初めての経験で、自分でもどうすればいいのか分からなくなってた。

だって、自分といる時には普通に笑ってるのに、他の子と陰で色々言ってるって知ってしまったら、何だか人と話すのが少し怖くなった。

だから、さーちゃんと話す時も何となく、ぎこちなさが抜けなかった。

結衣のこと信じてないわけじゃない。

だけど、話すことが出来なかった。

だって原因は私にあるんだから、当然の報いなのかもしれないとも思う自分もいた。


「様子見に行った後も、陽菜から言ってくるのを待とうと思ってたんだけど・・・もう我慢出来なくなったってわけ。ほら。もう隠しても無駄なんだから、全部話しちゃえ」


優しく微笑んで促してくれた結衣に、ピンっと張った心の線が緩んだ。

そうなったら、今まで自分の中で考えてたことや起こったことを途中支つかえながら、全部話してしまった。

ずっと黙って聞きてた結衣が、話終った私に、えいっ、とデコピンをもう一度してきた。

胸の中に堪っていた物を吐き出すことが出来て油断していたから、さっきのデコピンと同じ位痛かった。

痛いと呟いてる私に、結衣が溜息をつく。


「あのさ、陽菜がいつも言っている『フェア』ってどんなの?自分の友達とその子の好きな人との事を協力するって言って、自分も好きになってしまったらフェアにならないってこと?」


額を擦って痛みを少しでも和らげようとしていた手が止まる。


「人を好きになるのに順番って必要?大事?先に好きな人の事を相談した方を優先しないといけないのかな?

私はそんなの本当のフェアじゃないと思う。フェアって事は、正々堂々と公平にって事でしょ?陽菜が颯太の事を好きになっちゃったんなら、その事を彩音ちゃんに伝える事がフェアなんじゃないの?」


結衣の意志の強い瞳が私を見据える。


「で、でも・・・応援するって・・・」


「確かに、陽菜は約束したよ?だけど、もう協力出来ないって言えばいいだけの事なんじゃないの?だって陽菜は協力するって事をダシにして、颯太に何かした?」


その問いかけに首を振って否定する。

そんな、彩音ちゃんの事をダシにするなんて絶対にしない。


「じゃあ何の問題もないじゃない。それはフェアよ。寧ろ、その事や陽菜をダシにしてるのは向こうのほうじゃない。だから、陽菜は正々堂々とフェアに彩音ちゃんに本当の事を言えばいいのよ」


結衣の言葉は、雷に打たれたように衝撃的だった。

大体、前に協力云々の話を聞いた時から打算的だって思ってたのよ。って結衣がぼやいているのが、意味をなさずに耳を通過する。

それほど、結衣が言った言葉は私に大きな衝撃を与えた。

だって、今まで一度もそんな風に思ったことなかったんだもん。


今まで、約束していたのに裏切る様な事をした自分、彩音ちゃんが好きなのを知ってて霜織君の事を好きになった自分を責めてばかりいた。

こんなのフェアじゃないって、いつも思ってた。

それって、本当のフェアじゃなかったのかな?

私、霜織君の事好きだって彩音ちゃんに言ってもいいのかな?



「もし陽菜が自分の気持ちを正直に伝えて、壊れる様な友達関係なら、そんなの本当の友達じゃないよ。今は良くても長続きしないし、卒業したらサヨナラになるって。それに、陽菜の友達は彩音ちゃんだけじゃないでしょ?私もいるし、きっとクラスの子の中にも陽菜の事分かってくれる人はいるから。」


涙が一粒こぼれた。

最近彩音ちゃんたちの冷たい視線や態度に晒されていた私にとって、結衣の言葉はとても温かくて、本当に私の事を思ってくれているんだな、って素直に受け入れる事が出来た。


「それに、私は寧ろ颯太を褒めてやりたいわね。颯太が変わったのは陽菜も知っているでしょ?高校生の時一度食事を一緒にしたこと覚えてる?」


今までの真剣な声色が少しおどけた様な声に変わった結衣の質問に頷く。

忘れないよ。あの時の霜織君は聞いていた噂通りのような、少し違ったような気がした事覚えてる。

そんな事を思い出している私にお構いなく結衣は話を続ける。


「あの当時の颯太は、ぶっちゃけ幼馴染みとしてはいい奴だけど、男としては最低だったからね」


その当時を思い出す様に顔をしかめた結衣が、急にフッと笑い出す。


「人間その気になれば変われるものなんだって本当に思ったよ。陽菜に会って以降、陽菜の理想に近づこうと颯太必死だったんだから。最初は、すぐに飽きるだろうって思ってた私も颯太を応援したくなっちゃう位。幼馴染みとして近くで見てた私が言うから颯太の事信じていいよ。私だけで不安なら、翔もいるし?」


どんな反応をしたらいいのか分からないけど、顔が火照ってくるのが分かった。

そんな私を見ながら、結衣はもう一度真面目な表情に戻る。


「陽菜は、颯太の中身を知って惹かれたんでしょ?もし、外見だけなんて軽い気持ちだったら、これまでに彼氏なんてとっくに出来ているはずだし。颯太とも、高校の時に付き合い始めてるよ。だから、今、陽菜が颯太の事を好きになったのは、少しでも陽菜に認められたいって颯太が頑張った成果でしょ?別に陽菜が悪いことしたわけじゃないの。もっと自信もって。何もアンフェアな事してないんだから」


優しく励ましてくれる結衣に、止まっていた涙が込み上げてきそうになる。

それを必死に我慢して、結衣に感謝の気持ちを伝えたい。


「ありがとう。結衣。もっと早く話聞いてもらえば良かった」


「ホントだよ。バカチンがぁ」


そう言ってまた結衣がデコピンをする。


「もう3回も。痛いじゃない」


そう言って、滲んできた涙を痛みのせいにする。


「当たり前でしょ。痛いようにしてるんだから」


結衣のその言葉に、また泣けてきて、ホント痛い、って小さく呟いて泣いた。

ずっと泣かない様に頑張ってきたから、これまで溜めこんであった涙が次から次へとが零れる。

ようやく落ち着いてきた私に、結衣は頭をグリグリ撫でて慰めてくれる。


「よし!じゃあ、明日は気晴らしに朝から出掛けよう!」


まるで今思いついたかの様に明日出掛けることを提案する。


「えっ。でも、明日普通に講義あるし・・・」


泣きすぎて重くなった瞼で結衣に言けど、あっさり却下されてしまった。


「あんな辛い状況で、休まずに講義に出てたんでしょ?一日位大丈夫よ。それに、今まで頑張った陽菜の心にもエネルギーを与えなきゃ。って事で、明日朝迎えに行くから準備しとく様に!詳しいことは、夜にでもメールするから」


満面の笑みと結衣らしい強引さに、つい頷いてしまった。

講義を休むのは後ろめたいけど、うん。少しは気分転換も必要かな?

何だか、久しぶりに心が明るくなる。

本当に結衣がいてくれて良かったって、心から思う。


そして、もっと自分の気持ちに素直になろうと誓う。


せっかく心に灯った温かな想いを大切にしていきたい。




お久しぶりです。

気付いたら2ヶ月近く更新がストップしていました。

今回は陽菜さんがなかなか動いてくれず、それに伴う逃避が原因です。

本当にすみません。

それなのに、拍手やメッセージを下さった方々本当に有り難うございます。

感謝しても仕切れない程の気持ちで一杯です。


今回は彩音の悪役ぶりとキラリと光る活躍の結衣が書けて良かったです。ただ、イマイチ陽菜が輝いていない様な・・・今後に期待したいです。

次は、颯太サイドの予定なので比較的早く更新出来るのではないかと思います。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ