第27話 何かが違う side 陽菜
はぁ〜
思わずため息をついてしまう。
最近では、癖のようにでてくるため息。
つく度に逃げる幸せって何だろう?
彩音ちゃんの事?それとも霜織君の事?
霜織君への気持ちに気付いた日から、彩音ちゃんに対する罪悪感が日をおうごとに膨らんでくる。
彩音ちゃんに早く言わなきゃ、って思いながらもそれが出来なくて、時間だけたが過ぎていく。
心の中では焦りながら、何も言うことのできない自分に呆れてしまい意気地のない自分に自己嫌悪のため息の数がでる。
※ ※ ※
何だろう?教室の中が変な雰囲気になのは気のせいかな?
講義が終わって、一人トイレから戻ってきた私は、彩音ちゃんが他の子達と話してるのを見かけた。
私に気付いた彩音ちゃんは、一旦話を止めたがすぐに話始めた。
彩音ちゃんと一緒に話している子たちは、うちの学科でも可愛いくてお洒落な子たちが集まっているグループで、彼女たちの華やかさと高いテンションに付いていけない私は、少し苦手なグループでもあったせいで彩音ちゃんの所へはいかず自分の席にもどった。
教授が講義室に入ってくるのと同時に彩音ちゃんは戻ってきた。
講義中あまり話したりしないけど、さっきまでの彩音ちゃんと何かが違う気がする。
いつも通り座って講義を受けてるだけなのに彩音ちゃんから感じる雰囲気がいつもと違ってる。
話しかけちゃいけないような雰囲気。
何か怒ってるのかな?
講義が終わってザワザワと皆が帰っていく中、話しかけていいのか分からなくて、こっそり彩音ちゃんの様子を窺ってみる。
帰る準備が出来た彩音ちゃんは明るく話しかけてくるから、講義中に感じた違和感は私の思い違いだったと、いつも通りの彩音ちゃんにホッとした。
彩音ちゃんが違うと感じたのは、私自身にやましい気持ちがあったからなのかもしれない。
週末、霜織君と二人で過ごして初めて霜織君の事を好きだと気付いたことや、キスされたこと。
そんな後ろめたい気持ちがあったから、いつもの彩音ちゃんなのに怒ってると感じたんだ。
そうなんだ。
私はまだ、あの日のことや自分の気持ちをずっと彩音ちゃんに隠したままでいる。
こんなの卑怯だって分かっているのに、ダメだって思ってても霜織君からくる何気ないメールを待っている。
あの時言われた謎かけも、自分のいいように解釈しちゃって、私のことを少しでも好きでいてくれてるのかな?とか思っている。
霜織君には、ずっと想っている人がいるっていうのに・・・
(私、何時からこんなに卑怯になったんだろう?)
知らずに、またため息をついてしまう。
今、私がやっていることって自分のポリシーに反している。
彩音ちゃんの応援しするって約束しておいて、自分も好きになってしまった事を隠しているなんて。
しかも、二人で会ったりして全然フェアじゃない。
※ ※ ※
「彩音、昨日は楽しかったね。今度あのショップに行ってみない?」
楽しそうに私達が座る席に近づいてきたのは、お洒落な集団の一人・麻奈美ちゃんだった。
二人で雑誌を広げて見ていた彩音ちゃんが顔をあげ楽しそうに話し出した。
麻奈美ちゃんは、手入れがしっかり行き届いた自慢の髪の毛を綺麗に巻いていて、クリクリの目にバサバサと音がしそうな長いまつげで瞬きしながら話している。
何となく二人の会話に入りづらい雰囲気があって、話に参加せず一人下を向いて雑誌を見続けた。
こんな状況が最近よくある。
最初の頃は、一緒に話そうとしていたけど、どうしても居心地が悪くて、だんだんと彩音ちゃんが麻奈美ちゃんたちと話す時は、違う子たちと話すようになった。
二人でいる彩音ちゃんは、いつもと変わらず笑って色々とお喋りをするけど、それは二人でいる時だけ。
麻奈美ちゃんとか他の子が一緒にいると私のことなんていない存在の様になる。
だから最近の悩みの大半が彩音ちゃんとの友達関係にシフトしてきている。
ひょっとして彩音ちゃんに嫌われているのかな?なんて、被害妄想まで出てくる始末だし・・・
今日もまた同じ様なのかな?って思うと憂鬱な気分になってしまう。
講義室に入ると彩音ちゃんはすでに来ていて、麻奈美ちゃんたちの席で話している。麻奈美ちゃんたちの席は教室の後ろだから、後ろのドアから入って真ん中のあたりの席に座ってる私は必然的に麻奈美ちゃんたちの席を通らないといけない。
「おはよう」と挨拶すると、彩音ちゃんや麻奈美ちゃんたちは笑顔で挨拶を返してくれたけど、すぐにおしゃべりを再開した。
席に着くとまた小さく嘆息する。
こんな事今まで経験した事ないから、どう対処していいのか分からない。
最近物事をネガティブに考えすぎてしまう。
そんな私を明るくするのは、霜織君からのメールだ。
霜織君かのメールを読むときだけ、沈んだ心が浮上する。
だけど彩音ちゃんへの罪悪感や、何となくおかしい彩音ちゃんとの関係があって霜織君への返信をなかなかする事が出来なかった。
少しでも自分の気分を上げるため霜織君からのメールを見ようと携帯を開いた時、「陽菜ちゃん」と呼ぶ声が聞こえた。
声を掛けられた方へ振り向くと、さーちゃんが手招きをしていた。
さーちゃんは、彩音ちゃんが麻奈美ちゃんたちと話している時に私が話す様になった子で、霜織君の学部と一緒にやった合同クラコンの時に、私たちと一緒に地元の話をしていた子の一人。
隣のあいている席をポンポンと叩いているさーちゃんの所に近づいていき、言われた通りに隣に座る。
「おはよう」と言う私に挨拶を返してくれるさーちゃんは、深刻そうな顔をして見つめてきた。
どうしたのかと首を傾げる私に、あのね。と小声で話し出した。
「霜織君と陽菜ちゃんが、この前の週末に二人で海辺デートしてたって噂が流れてるよ」
サーっと冷たいものが背中を流れたような気がした。
一気に頭の中が真っ白になる。
「それでね、言いにくいんだけど・・・麻奈美ちゃんたち、霜織君のこと気に入ってたって知ってる?」
さーちゃんが確認する様に聞いてくるのを、首だけ振って否定する。
そっか。って頷いた後、さーちゃんが話してくれた事で最近の違和感の理由が分かった。
その噂が流れ出したのは、週が明けてホントにすぐだったらしく、この噂をいち早く知った麻奈美ちゃんたちのグループは、その真相を確かめるために、私がいない時を見計らって彩音ちゃんに尋ねたらしい。
そして、それをきっかけに彩音ちゃんは麻奈美ちゃん達と仲良くなったということが分かった。
そしてショックだったのが、楽しそうに話している彩音ちゃん達が私の事を話していたという事。
どんな事を話していたのか具体的な事をさーちゃんは教えてくれなかったけど、私が感じていた違和感は決して勘違いでも被害妄想でもなく、悪意のあるものだったらしい。
「最初は黙っていようと思ったんだけど、陽菜ちゃん見てるとだんだん元気なくなってるし・・・もし辛いんなら、こっちにおいでよ」
あまりにショックで何も言えない私に、さーちゃんが優しく声を掛けてくれる。
「ありがとう」と小さく言って、足下が覚束ない感覚で席へと戻る。
講義が始まるまで、グルグルとさっき聞いた事が頭を廻る。
何か考えようとするけど、何も考える事が出来ない。
下を向いている私に、隣の席へと戻ってきた彩音ちゃんが「どうかしたの?具合が悪い?顔色悪いけど?」と気遣う様に覗き込んでくる。
「平気。少し寝不足なだけ」と作り笑いをして取り繕う。
「気分悪くなったり、何かあったら言ってね」と優しく言う彩音ちゃんに泣きそうになった。
どうして?
こんなに優しく気に掛けてくれるのに、陰では私の事を悪く言って麻奈美ちゃん達と笑ってた事が信じられなかった。
どっちが本当の彩音ちゃんなんだろう。
こんなに優しくしてくるのは、演技なのかな?って思うと体の奥底から大きな塊が込み上げてきそうになって、思わず手で口元を押さえる。
目もギュッと閉じて、大きな感情の奔流をやり過ごそうとする。
(ダメ。こんな所で泣いちゃダメだ)
勝手に被害者ぶって泣いちゃダメ。
傷ついちゃダメ。
こんな風になった原因は、私にあるんだから。
私が、彩音ちゃんを裏切ったのがいけないんだから。
彩音ちゃんも傷ついてるはずだもん。
自分がやった事を棚に上げて、傷ついて泣くのはズルイ。
ただ卑怯な自分にしっぺ返しがきただけ。
自分に一生懸命言い聞かせ、なんとか涙を飲み込む。
それでも、知ってしまった事実が残す爪痕からは、次々と痛みが生まれてくる。
講義の間中、泣かない様にずっと耐えながら、90分という時間がいつもの倍以上に長く感じた。
「ちょっと麻奈美ちゃんのところに行ってくるね。体調悪そうだったら帰った方がいいよ。ノートはちゃんととっておくから」
笑顔で言う彩音ちゃんに無言で頷いて、その後ろ姿を追う。
陰口を言われることもショックだけどそれ以上に、たった今気に掛けていた私の事を麻奈美ちゃんたちと話していると思うと彩音ちゃんがすごく怖かったし、聞こえないと分かっていても、聞こえない様に耳を塞いで机の上に顔を伏せた。
「陽菜ちゃん、体調大丈夫?もし、平気なら一緒にお茶しよう?」
私の体調を気遣いながら、彩音ちゃんが誘う。
なんとか1日を乗り切った私は、正直気力体力ともにすり切れそうだったけど、彩音ちゃんと一緒にお茶する事にした。
彩音ちゃんは噂を知っているんだから、これ以上隠すことは出来ない。
今まで逃げておいて今更だけど、正直に言おうと決心した。
minimoneです。
4/14,15,19,20日に拍手&コメントくださった方有り難うございます。
皆さんから応援して頂いたおかげで、前回よりも早く更新する事が出来ました!
颯太が本格的に動き出した一方、陽菜の周りも動き始めました。
ただいい方向とは言えませんが・・・
なるべく早く更新出来る様に頑張ります。