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第26話 混迷2 side 颯太


堤防に座って一緒に食べる弁当に幸せを噛み締めながら、これからどうやって陽菜との距離を縮めていくか考える。

さっきの謎掛けに、少しだけ反応があったがその後何も言わずスルーしている陽菜。

今ここで、強気でいくよりももっと効果的な場面がきっとあるはず。その時に、もう一度陽菜に聞こう。


パクパクと擬音語がつきそうな位美味しそうに食べたり、子供扱いされて拗ねたりと感情豊かな所や、今日が俺の誕生日だと知って慌てたり悩んだりしている姿が、予想通りで笑いと愛しさが込み上げてきて自然と出てくる「 ほんとカワイイよね」という言葉。

さっきの謎掛けが効いているのか、『カワイイ』の言葉に顔が真っ赤になっている陽菜を見て、恋愛感情かはイマイチはっきりしないが好意を向けられている事を確信する。

二人で話しながら歩く海辺。

陽菜は楽しそうに周りを見ているけど、 彼女と手を繋いで歩きたいと思いながら陽菜を見ていた。



昼間楽しそうにしていた陽菜が、レストランでは途中から表情が暗くなった。

きっかけは分からないが、あんなに可愛かった笑顔が消えた。

陽菜が、何について悲しく思っているのか分からない。

ただ、彼女は誕生日に俺が自分と一緒にいることを気にしているみたいだった。

俺にとっては、誕生日だからこそ一緒に居たかった。

自分の気持ちを隠さないと決めたからには、彼女に『今日、一緒に居たかった』という気持ちを知ってもらいたかった。

もっと俺に気持ちに気付いてもらいたかった。

そんな俺の言葉に彼女は泣きそうな目をしながら、ただ首を振るだけだった。

少しでも彼女に笑ってもらいたかったのに、消えてしまった笑顔を取り戻すことが出来ない自分がもどかしくて堪らなかった。


どうしたら良かったんだろう?


レストランを出て、車に向かう陽菜の後ろ姿がひどく頼りなく、泣いている様に見えた。

風が吹き、彼女の細く厚みのない華奢な肩から髪の毛が泳ぐ様になびく。

髪の毛が靡く事で見え隠れする細い首。

それら全てが彼女を儚くみせ、そのまま消えてしまうんじゃないかと感じてしまう。

焦燥感に駆られながらも彼女が消えてしまわない様に、そっと後ろから抱きしめる。

飛び立たないよう、蝶をそっと捕まえる様に―――


抱きしめた陽菜は本当に華奢で俺の体にスッポリ収まる。

抱きしめて初めて分かる彼女から香る甘い香り。

甘い香りに誘われる様に、肩に顔を埋める。

その香りが呼び起こすものは、どうしようもない程の切なさと、愛しさと、もどかしさ。


『陽菜って呼んでもいい?』


その言葉に小さく頷いてくれた彼女に、込み上げてくる感情。

堪らなくなって陽菜を振り向かせる。

少しタレ気味のクリっとした目。厚くも薄くもない唇は、そのままでも赤味を帯びていて白い肌が一層彼女の唇の色を際立たせていた。

肉欲的なタイプではなく、まだ少女らしさが抜けきらない―――


まだダメだ。焦るな。

理性はそう言って俺を押しとどめようとする。

だけど、ここで何もしない程聖人君子でもない。


理性と欲望の妥協点のこめかみへのキス。

唇から甘い痺れが体中に広がる。

その心地いい痺れとキスを受け入れてくれた彼女をもっと感じたくて、抱きしめる腕に力が入る。


きっと彼女に俺の気持ちは届いたと思った。

これまで不確かだった彼女の気持ち。

だけど、受け入れてもらえるんじゃないかという期待を抱いて、陽菜にした謎掛けをもう一度する。

それに対して何も言わない陽菜。

それでも良かった。彼女が俺の腕の中にずっといてくれたから。

それが陽菜の答えだと思った。


どの位抱き合っていたか分からないが、どちらともなく離れた。

陽菜をみると、その頬には涙の後が一筋あった。

帰りの車の中では、お互い何も話さないままだった。

俺は、陽菜の涙のわけが分からず、その理由を聞く事も出来なかった。

陽菜の家の前に車を止め、彼女がドアを開いた途端に不安が襲ってきた。

駐車場で抱きしめた陽菜が、消えて俺から逃げていきそうで思わず引き止める。


「また、メールするから」


小さく微笑で頷いた陽菜を見て安心する。

受け入れたられたはずなのに、嬉しさよりも不安が凌駕する。

陽菜の一挙一動に気持ちがふらつく。

何でだろう。

捕まえた思った陽菜の涙の理由も分からず、今の関係がひどく不安定な元に築かれた気がして足下のフラつき、不安を拭いきれない。

そんな漠然とした不安を抱えながらも、嬉しさも確かにあって俺は家へと戻った。



 ※ ※ ※



「ど〜も〜。残念会にご招待頂き有り難うございます」


明るく大きな声で俺たちのもとやってきた梶に頬が引きつる。


「颯太。陽菜ちゃんに振られたんだって?」


賑やかな店内と同様の梶が笑いながら軽く俺の地雷を踏んだ。


「お前、不吉なこと言うんじゃねーよ。まだ振られてねぇ〜から!」


音をたてて手に持っていたジョッキを置き、梶を睨む。


「まだって振られるつもりなんだ。弱気だね」


睨む俺を軽くいなしながら、梶はまた笑ってオーダーを取りに来た店員に生ビールを注文する。


今こいつにそこはかとなく殺意を覚える。

苛つきと殺気を纏ってビールをガッと飲み下す。


「まぁまぁ、梶もそう颯太を虐めるなって。実際、かなり凹んでるんだよ。颯太」


今まで俺たちのやり取りを見ていた翔が苦笑しながら梶に言う。

梶は肩をすくめてみせた。


「でもさ、避けられてるんだろ?陽菜ちゃんに」


俺が凹んでいるのを知っているくせに、わざと傷に塩を塗る様なことを梶は言う。


「いや、はっきり言えばそうなんだけど」


そんな歯に衣着せぬ梶に、フォローしているはずの翔まで俺をどん底に突き落とす。


「颯太はこれまで、そういう経験ないんだって」


翔の言葉に梶が「これだからモテる奴は」と言って運ばれてきたビールを飲み、つまみの唐揚げを食べる。

最近大学近くの居酒屋で翔と梶の三人で飲む事が多い。

今日も、翔から誘われていつもの居酒屋に行くと遅れて梶が来た。

そしてその第一声が、さっきの「残念会へのご招待」なんて笑えない冗談だ。


そんな梶の縁起でもない発言が実際ピッタリな今の状況を考えてみると、陽菜と一緒に過ごした誕生日が嘘の様に思えてくる。

てか、俺の妄想?とか真剣に思ってもおかしくないくらい今、陽菜に避けられている。

初めは何とも思ってなかったんだけどね。

あの日の翌日もメールした俺に、陽菜からちゃんと返信がきたし変わった所は何もなかった。

それが、いつの間にかメールを送っても返信がないし電話をかけても繋がらない。

忙しいのか。としか思っていなかった俺は暢気に構えていた。

避けられていると気付いたのは、構内で陽菜に出会った時だった。

構内を歩いている俺の反対側から陽菜が歩いてきた。

久しぶりに見る陽菜におもわず笑顔になり声を掛けようとした時、俺に気付いた彼女はあからさまにクルっと向きを変えたかと思うと走り去って行った。

あまりの出来事に、驚いた俺はしばし動く事が出来なかった。

陽菜の行動が分からずメールをしてみるが、俺の携帯が鳴る事はなかった。

そこにきて初めて陽菜に避けられている事に気付いた俺は、見事に落ち込んだ。


さっきの翔じゃないけど、これまで追っかける恋愛なんてした事なかったから避けられるなんて経験した事なかった。

むしろ簡単に女をきってた俺は、分けもなく切られる事の辛さを知った。

いくら遊びだったとはいえ、面倒臭くなったら切り捨てていたこれまでの女達に懺悔の気持ちだった。


やっぱりキスは早すぎたのか、とか、受け入れられたと思ったのはただの勘違いだったのか、とか、陽菜にとっては強引だったのか、とか色々ネガティブな思考に陥ってしまう。

こんなんじゃダメだと陽菜に直接気持ちを聞こうと思ってみても、連絡つかないし、ついたとしても拒否られるんなら、このまま何事もなかったかの様に友達に戻ったほうがいいんじゃないかとさえ思ってしまう。

マイナスな考えが頭から離れず、翔と梶が何やら二人で話しているのを尻目に、グイグイとオーダーしたビールを飲む。


(あーここ最近の俺って情けない)


「では、ここで陽菜ちゃんに振られるカウントダウンが始まった颯太にお伝えしたい事があります」


今日は終止このチャラけたテンションで通すと決めたのか、翔と話していた梶が話しかけてきた。

『振られるカウントダウン』とか、マジで笑えないとイラつく。


「今学内に広がっている噂があるって知ってるか?」


梶の話を引き継ぐ様に翔が聞く。

もともと噂なんて興味なかったし、最近はそれどころじゃなかったから噂なんて知らないと、黙って首を振る。


「颯太は知らないかもな。最近の颯太は、イライラしているって雰囲気醸し出して皆が近づけなかったし」


「俺イラついてたっけ?」


梶の言葉に、自分がこれまでどんな雰囲気だったのか分からなかった。


「おう。俺それどころじゃねぇから話しかけんなってオーラが語ってた」


翔も頷く。


「結衣も言ってたぞ。颯太の機嫌が悪いって女の子が近づけないって騒いでるって」


翔の言葉で、そういえば、ここ最近纏わりつく女とかいなかったと思い当たる。

噂ってそれ?

べつにそんな噂俺関係ない。


構内で広がっている噂に興味をなくした俺に気付いたのか、「俺たちが話そうとしている噂それじゃないから」と、梶は手を軽く振る。


「霜織颯太と吉岡陽菜が海辺デートしてたって噂知ってる?」


その言葉に驚いて翔を見ると、翔も俺を見て頷く。


「そこで問題です。二人がこれまで親密だったなんて話を聞いた事がなかった周囲は、この噂を聞いてその是非を知りたい。事の真相を知るには、本人に聞くのが一番手っ取り早い。そして、女の習性として責めるとしたら男と女、どっちに矛先が向くでしょう?」


梶は軽い口調で話しているが、その内容は全く軽いものじゃなかった。

俺の周りに女達が居なかったのは、俺の機嫌が悪かっただけじゃなく、その噂のせいもある事に気付き、すぐに立ち上がろうとした俺を翔が制止する。


「待てよ、颯太。それだけじゃない。むしろ、こっちの方が重要」


そういって翔が話した内容は、俺を本当にムカつかせた。

どうして女って、そう(・・)何だろう。

中高生みたいな幼稚な事すんなよな。

言いようのないイラつきに、頭をガシガシと掻く。


「落ち着けよ颯太。こればっかりは陽菜ちゃん自身が解決しなきゃどうしようもない事だろ?」


分かってる。

頭では分かってるけど、今は感情を抑える事が出来ない。

昂った気持ちを抑えようと、最近吸う回数が増えているタバコに火をつける。

一本吸い終わって、多少落ち着いた俺を見た二人は小さく嘆息する。


「颯太がする事は、一人凹んだりイラついているんじゃなくて、やる事やれって事だろ」


今まで軽かった梶の口調が、一変真面目なものにかわる。

俺の向かいに座っていた翔があるもの(・・・・)を目の前に出してきた。


「ということで、俺と結衣からこの前のお礼と誕生日プレゼント」


差し出されたものを見つめ、フッと笑ってしまった。

一人弱気になって凹んでる場合じゃない。

こうしている間にも、陽菜が逃げて行ってしまう。


必ず捕まえてみせる

だから陽菜、俺から逃げないで。

そして受け入れて欲しい。

そのためだったら俺何でもする。



minimoneです。


約2週間ぶりの更新です。

遅くなってスミマセン。皆さんに見捨てられてないか不安ですが・・・


そして拍手&コメントくださった方有り難うございます。

皆さんに頂いた拍手とコメントは私の元気の素です!

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