第25話 混迷1 side 颯太
俺は何か間違った?
焦りすぎた?
彼女は、もう俺とは会いたくないのかもしれない。
俺の事を嫌いになってしまったのだろうか。
彼女は・・・陽菜は俺の事をどう思って、何を考えてる?
俺たちの間が近づいたと、陽菜に好かれてるって思ったのは勘違いだったのか?
陽菜に会いたい、声が聞きたい、それがダメならせめて連絡だけでもとりたい。
陽菜と連絡が取れなくなったのは、二人で出掛けて少し経ってからだった。
※ ※ ※
気がつけばリプレイ機能をつけたように、いつも同じ事を考えている。
二人で出掛けて、初めて陽菜を抱きしめた日の事を―――
何がいけなかったんだろう。
どこで間違ったんだろう。
俺の誕生日。初めて二人だけで出掛ける日、その日の俺は少し緊張していた。
寝坊しない様にアラーム機能を駆使して起き、逸る気持ちを抑えつつ準備をした。
ヘビースモーカーではないが、どことなく落ち着かない気持ちを抑えるためにタバコを探すが切れている事に気付き、迎えにいく途中コンビニで買うため少し家を早く出る。
停車しやすいコンビニに入り、タバコと飲み物を買うことにする。
今日は海へドライブにするつもりでいた。
それほど遠くまで行くつもりはないが、それでも1時間以上は車に乗る事になるだろうから、途中飲み物が必要になることに思い至り、陽菜の分も買うことにする。
ペットボトルの所にいったが、陽菜が何を好むのか分からず束の間迷った。
約束の時間も気になり、めぼしい物をいくつか棚から選ぶと次は何か食べる物も用意しておいた方がいいような気がした。
陽菜はよく結衣と甘い物を食べに行っていると翔から聞いた事があるし、一緒に食事にいった時もデザートを嬉しそうに食べていた事を思い出し、甘い物も買う事にする。
会計を済ませ陽菜の家へと向かうと、すでに待ち合わせの場所に陽菜が待っていた。
車を目の前に横付けしたが、陽菜は全く気付かない。
声を掛け車に乗る様に促した陽菜は、うっすらと顔が赤くなっていた。
朝から二人きりで出掛けるということが嬉しくて、運転席の隣に座っている陽菜を時々見る。
気付かないふりをしていたが、少しタレ気味のクリっとした目がチラリとこっちを窺う様に見る様子や、ペットボトルを両手で持って飲む動作を可愛らしいと思ってしまう。
ほんと、どうしてこんなに俺のツボなんだろう。
焦ってはダメだと思っていても、早く俺だけの陽菜にしたいと思う。
一緒にいる事に、理由のいらない関係になりたい。
週末陽菜と出掛ける事が決まって、どうしたら今日陽菜が楽しんでくれるだろうと思って考えたら、俺ってちゃんとしたデートってしたことがなかった事に初めて気付いた。
これまでの女達とは何やってたか思い出せなかった。
というより、デートっていったらホテル行く前食事するとか位だっけ?って感じだったし。
実際俺の欲求が満たされればそれで良かったし、相手の事を思いやるってことの必要性も感じた事がなかった。
過去の自分を振り返る度に、ホントどうしようもないな、と思う。
無駄に経験があるだけで、ちっとも役に立たない。
マジ恋愛初心者。
ぶっちゃけ、「海に行こう」って提案した時も、喜んでくれるか不安だったが、陽菜の嬉しそうな顔を見れて安心すると同時に充足感が込み上げてくる。
二人だけの初デートに陽菜の嬉しそうな顔を見れたことで、自然とテンションも上がっていた俺に陽菜は突然爆弾を落とす。
『 霜織君が体育館裏で女の子と一緒の所を目撃した事があって・・・』
頭の中が真っ白になった。
(は?今、何て言った?)
その一言は調子にのっていた俺をあっさりと地獄にたたき落とす。
陽菜が話している体育館裏のことが何時のことなのか理解出来た。
(あの時鞠とやってた事を見られてたって事だろ?)
遊んでいた時の噂はどうしようもないと思っていた。
でもそれは、あくまで噂でしか陽菜は知らないと思っていたのに、まさか目撃されていたなんて思いもしなかった。
しかも、外なんかでやっていたわけだし・・・陽菜には、どんだけ節操なしって思われてたのかなんて考えもしなかった。
俺が陽菜に一目惚れした日に、自らの首を絞めていたなんて。
目の前が真っ暗になった。
陽菜にあの時の事を見られていた事、それまで平気でどこでもヤッていた自分に腹立ち、しらずに唇を強く噛んでいた。
『 マジかよ・・・』思わず失意の言葉がこぼれる。
ただ噂だけを知っているのと、実際に見ているのでは相手に与える印象が違う。
百聞は一見にしかずって言うが、きっと彼女の第一印象は最悪だったんだろうなということを再認識すると、まだまだ俺が望む関係になるには時間がかかるような気がした。
自分が蒔いた種だ。昔の事を今更嘆いても仕方がない。
ここは気持ちを入れ替えるしかないと思い直し、一度息を吐いて自分を立て直す。
昔の事を忘れて欲しいという俺の頼みに、慌てる陽菜を見て笑いが込み上げてくる。
笑っている俺に対し下を向く彼女をみながら、やっぱり陽菜を好きになったことは間違いじゃないと思った。
昔のどうしようもない俺を実際に知っている陽菜が、それでも今、俺と一緒にいて一生懸命フォローをしてくれている。
最低だった俺のことも含めて、今の俺をちゃんと見てくれている。
そして、自分で判断して今側に居て笑ってくれる。
それは、陽菜に出会ってから変わった俺を、この1年半を陽菜に認めてもらえている気がした。
彼女が少しは好意を持ってくれていると自惚れていいんだろうか。
懸命にフォローする陽菜は、高校の時と変わらない。
一見何も進んでいない様に見えるこの状況だけど、あの頃よりも陽菜は俺の近くにいると感じる事が出来る。
それが嬉しい。可愛い。愛しい。抱きしめたい。もっと陽菜を感じたい。
俺の中で、何か吹っ切れた。
もっと陽菜に意識してもらえる様に、少しだけ陽菜に対して積極的になろうと思った。
だからもっと態度に出そう。言葉で伝えよう。俺の想いを。
「 俺、誰にでも優しいわけじゃないから。こういう事するの、吉岡さんだからだよ」
簡単な謎掛けをする。
陽菜、この意味ちゃんと理解してくれる?
俺は、自己中で優しくない。
誰にでも優しくなんて出来ない。
陽菜だから。
陽菜だけだから。
minimoneです。
3/26,27,28,29に拍手&コメントを下さった方ありがとうございます。
コメントを下さった方の中で、「梶さん大好き」と言って下さった方がいて、実はかなりビックリしました。
当初の予定では登場予定ではなかった彼なのですが、気に入ってもらえてすっごく嬉しいです♪♪
確かにいい所もっていってる梶に対して、同じサポート役の翔はいい所なしな気がする・・・いやいや。翔もいい奴なんですよ!?
ということで、翔の名誉挽回として翔&結衣のスピンオフ書いてます。ただ、こちらの方の更新も遅くなっている状況なので、もう少し書いてから定期的に更新するか、不定期更新にするか検討中。
ちゃんと決めたら、改めてお知らせします。