表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/36

第22話 引力 side 陽菜

だんだん太陽も中天に近づいてくる午前10時、マンション前で立っている私の前に一台の黒い車がハザードランプをつけて停車した。

不思議に思って見てみると、助手席の窓が開いて聞き覚えのある声が聞こえてくる。何となく気になったけど、知らない車の中を凝視するわけにもいかず視線を遠く駅の方へと向け目的の人を待つ。

すると、目の前の車のドアが開いたのでもう一度視線を車に戻すと、そこには待ち人― 霜織君 ―が立っていた。



 ※ ※ ※



霜織君から『前にファミレスで約束した食事なんだけど、来週の土曜日とかどうかな?』っていうメールが来たのは、彩音ちゃんや梶君たちと一緒に食事した翌日だった。

彩音ちゃんのことや梶君から聞かれた事が頭から離れなくて、色々考えてた私は霜織君のメールにどう返信していいのか分からなかった。

彩音ちゃんの事を思えば二人で会っちゃダメだって思うのに、彼に会って話したいと思ってしまう。

友達としてなら、いいかな?

だって約束してたんだもんね?

そんな言い訳を考えながら、メールの返信をした。

月曜日にあった彩音ちゃんは、霜織君に送ってもらった事について何も言わなかったし、私も土曜日に彼に会うっていう後ろめたさから、彼の話をする事はなかった。



※※ ※



「おはよう、吉岡さん。待たせてごめんね」


私の側まで近づいて爽やかに挨拶する霜織君を見て、ドキンと心臓が一回不規則に跳ねたその後にチクチクと小さな棘が私を責める。


「時間通りだよ。私もたった今外に出たばかりだから」


すまなそうにしていた彼はニコリと笑い、「良かった。じゃあ、車に乗って」と自然な動作で助手席のドアを開けてくれ、私がシートに座るとドアを閉めてくれた。

なんだかお嬢様みたいな扱いに、ほんの少しの居心地の悪さと恥ずかしさを感じながら顔が熱くなった。

なんとか赤くなっている顔を元に戻そうと深呼吸していると、運転席のドアが開いて霜織君は座るとこっちを向く。


「吉岡さんって車酔いとか大丈夫な人?俺、今日の事勝手に決めちゃって、吉岡さんが車酔いするかとかって全然気がつかなかったから・・・」


「全然大丈夫。車酔いとかって全くないよ。むしろバスの中でも本とか読める位平気」


霜織くんは、私の答えに安心したよう「それなら大丈夫だね」と頷くと車を走らせた。

それにしても・・・まさか車酔いにまで気遣ってくれるなんて思わなかった。

だって、普通そんな事気付いて聞いてくれる人っている?

これまでも何回か友達の車で出掛けた事あるけど、そんな事に気付いて聞いてくれる人いなかったし、私も気にした事なんてなかった。

なのに、一度も乗り物酔いってしたことない程頑丈な私に、気を遣って聞いてくれる霜織君にむしろ申し訳ないような気がした。

車を運転する霜織君は、いつも見る彼よりも大人びて見えた。


「霜織君って、車の免許持ってたんだね」


今まで霜織君が車を運転する所を見た事なかったから、今日目の前に車で登場した彼にビックリした。


「入試終わってすぐに免許はとったんだよ。で、合格祝いとしてこの車貰った」


サラリと言う彼に何も言えなかった。

だって、霜織君が乗ってる車って外車なんだもん。

普通合格祝いって言っても、免許取りたての人にVOLKSWAGENのGOLFなんて買うもの?

ひょっとして霜織君の家ってすごいのかな?それとも家族が車好きなのかな?

何ともないといった風に話す霜織君に目をやって、そんな事考えたけど、まぁいいやと考えるのをやめた。

迷いなく運転する霜織君にどこに行くのか気になって聞いてみると、


「実はあんまりどこに行くとか考えてなくて、ドライブしたかったんだ。でも、せっかく天気もいいし海なんてどう?」


楽しそうに話す霜織君に同意しながら、何だか楽しくなってくる。

実はドライブって大好き。特に海沿いや平原みたいな所を走っているのが大好きだった。だから、霜織君が同じ事が好きだと聞いて、つい笑みがこぼれてしまう。勝手なイメージだけど、霜織君って自然よりも都会的なものを好みそうなだと思っていたから、余計に嬉しかった。


「はい。飲み物と甘いもの買ってきたんだけど、吉岡さん好きなの選んで」


家を出て初めて信号待ちしている時、霜織君が後ろのシートからコンビニの袋を取り出して私に渡した。

そこには、コーヒー、ミルクティー、ジャスミンティーにウーロン茶それにシュークリームとエクレア、レモンキャンディーとミントガムが入ってた。


「すごいね。遠足みたい。」


あまりにも大量に買われた品物をみて、袋をガサゴソしながら素直な感想をいってしまった。


「吉岡さんの好みが分からなかったから、とりあえず目につくもの買ってみた」


その言葉にまたもやビックリした。

ホント霜織君って凄い。さっきも思ったけど、まさか飲み物とかまで買ってきてくれてたなんて思わなかった。

彼が、女の子にモテてる理由かが分かった気がする。

見た目が派手って言うのもあるんだろうけど、きっとこの優しさと気遣いがあるからなんだ。

こんな事されちゃったら、ときめかない人の方がいないと思う。

何だかくすぐったい様な気持ちになりながらも、あまりに霜織君が気遣ってくれるから、先に飲み物を選ぶ様に言う。


「俺はどれでも大丈夫だから、吉岡さんからどうぞ。デザートも冷たいうちに食べた方が美味しいから、もし食べれるなら食べて?」


いつの間に青信号になっていたのか、前を見て車を走らせる霜織君の声が少し苦笑混じりの様に聞こえた。

せっかくの好意を無にするのも悪くて袋からジャスミンティーを選んだ後、霜織君が選んだウーロン茶の蓋を開けて彼に渡した。

ジャスミンティーを一口飲んだ後、こっそり運転している霜織君を盗み見る。

太陽に照らされて霜織君を縁取る光が彼を格好良く見せて、神様って不公平だなってボンヤリしてしまった。


「なんだか、霜織君がモテる理由が分かった気がする」


あまりにもボンヤリしすぎたのか、思っていた事をつい口に出してしまった。


「いきなり何言ってんの?」


私の突然の言葉に霜織君は不思議そうに聞き返す。


「う〜ん。時効って事で言ってもいいかな?・・・霜織君て、高校生の時すごく遊んでるって噂が流れてたでしょ?いつだったか、うちの高校に練習試合に来た時に私、応援に行ったことがあるの。その時に、霜織君が体育館裏で女の子と一緒の所を目撃した事があって・・・」


偶然とはいえ覗いた事に気まずさを感じて、一旦話を切った後霜織君の様子を窺う。

少し唇を噛み締めていた彼が「マジかよ・・・」って小さく呟く声が聞こえた。

やっぱりこの事は話すべきじゃなかった。

誰だって、そんなとこ覗かれるのは嫌だし、その事を話されるのは気分のいいものじゃないって事を今更ながら気付いて、後悔から焦りが生じてしまう。

自分の配慮のなさに情けなくなりながら謝った。


「ごっ、ごめんね。わざとじゃなかったんだよ!?それに、すぐその場から離れたから、全部見てないよ!」


自分からこの話を持ち出しておいて、何を言ってるのかさっぱり分からない今のこの状況に既視感を覚えた。

高校の時一度だけ霜織君と食事した時と同じ状況に一層焦りを覚えてしまって、自分を落ち着かせるためにジャスミンティーをグイっと一口飲む。

霜織君の様子を見たかったけど、気分を害したんじゃないかと思うと怖くて見ることが出来ない。


「えっと私が言いたかったのはこんな事じゃなくて、高校の時は噂通りの人なのにどうしてモテるのかなって思ったけど、大学に入って霜織君と会って話してみたら優しいし、今日みたいにスマートに人を気遣えるのってスゴイと思って・・・だから、霜織君が皆から好かれるのが分かったって言いたかったの・・・ごめんね、気分悪くさせて」


段々小さくなっていく声を自覚しながらも、今となっては言い訳としか聞こえない話を懸命にする。

霜織君を見るのは怖かったけど恐る恐る様子を窺うと、一度大きく嘆息した霜織君がこっちをチラリと見た。


「まさか、吉岡さんにそんな所見られたなんて思ってなかったよ。あの時の俺って考えなしだったからさ、出来れば忘れて欲しいんだけど」


いつもより低く真面目な声で言う霜織君に、勢いよく手を左右に振る。


「大丈夫!私、霜織君のこと今はそんな風に思ってないよ!?真面目で信頼出来る人だなって思ってるから!」


さっきよりも大きな声で一生懸命に話す私が面白かったのか、あはっ、って霜織君が笑いだした。


「なんか、こんな風に焦ってる吉岡さん見ると初めて翔達と食事した時の事思い出す。てゆーか、展開が全然進歩してね〜」


そう言って笑う霜織君に、私は恥ずかしくなって下を向いてしまった。

ひとしきり笑って気が済んだのか、笑い声が止まった。


「あのさ、」


話しかけられて顔を上げると、丁度車も赤信号で止まった所で霜織君は私をじっと見ていた。


「俺、誰にでも優しいわけじゃないから。こういう事するの、吉岡さんだからだよ」


その言葉に呼吸が止まるかと思った。私を見つめながらゆっくりと話す霜織君は、男の人の色気を纏っていた。


「そ、それって、どういう、意味・・・?」


霜織君の雰囲気にのまれて、上手く言葉を紡ぐ事が出来ない。


「さぁ、どういう意味だと思う?」


ニコっと色気のある笑顔を見せた後、静かに車を発進させた霜織君はそれ以上何も言わなかった。

さっきの霜織君の言葉と笑顔に、ドキドキが止まらない。

いつもは、そんな私をチクリと責める棘が今は感じられない。

私の心臓は今、棘の痛みを感じる以上に強く深く私の中で鼓動を刻んでいた。



minimoneです。


3/5,8に拍手&コメントを下さった方ありがとうございます。


今回、ストックしていた分が全部消えているという考えたくない状況に陥ってしまい、書き直してました・・・

なるべく更新ペースおとしたくないのに、すみません。


今回は、颯太&陽菜の初一日デートです♪♪

颯太は陽菜から過去の行いを目撃されていたという事実を暴露されてましたけど・・・ここでは、颯太の陽菜への甘やかしぶりが伝わればと思ってます。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ