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第21話 揺さぶる質問 side 陽菜

約束の金曜日が来た。

講義が終わって待ち合わせ場所に行く前に、彩音ちゃんは鏡の前でメイクを直し髪の毛をチェックしている。

終わるのを待っている私は、少しボーっとして彩音ちゃんを見ている。


彩音ちゃんに協力すると言っておきながら、霜織君に興味を持つ事は裏切っている事になるんじゃないかっていう思いが頭から離れない。

裏切っているって思う一方で、興味が恋に変わること前提で考えているのだから、興味は興味のままでいるようにすれば裏切る事にならなんじゃないの?って考えてしまう自分もいる。

出口の見えない問題を、一人でハムスターの様にグルグル空廻って考えている。


「陽菜ちゃん、どこか変な所ない?」


私の前でくるりと回る彩音ちゃんを見る。


「大丈夫。どこも変じゃないよ。可愛い。」


どこか後ろめたい気持ちがあるからなのか、どうしてもぎこちなくなる。

明確な回答は見つからないけど、あんなに一生懸命な彩音ちゃんに協力したいって思うから、今はそれを優先する事にした。


「あのね、少しでも霜織君と話せる様に協力してね?」


私を覗き込む様に『お願い』と手を顔の前で合わせてくる彩音ちゃんに頷いた。

正門まで歩きいていると既に待っている霜織君たちを見つけた時、チョットだけドキって心臓がビックリした。

約束通り霜織君達と合流して、お店に行く間も彩音ちゃんと霜織君が二人で話す事が出来る様に、なるべく梶君と話したし、席も梶君の隣に座った。

彩音ちゃんは本当に嬉しそうに霜織君と話していて、それを見るとこれで良かったって思えた。

胸の奥の方がチクリチクリと刺してくるのを無視して、楽しそうに笑顔を作って無視をした。


帰る頃になると、彩音ちゃんは酔っている様に見えた。

クラコン程ではないけど彩音ちゃんを一人で帰すのは不安だし、私一人で家に送るのは無理。

霜織君か梶君に協力してもらった方がいいだろうなって思った時、すぐに霜織君に頼もうって思えた。

きっと、私や梶君が送るよりも彩音ちゃんは喜ぶと思ったし、これも彩音ちゃんの言った協力になるじゃないかなって思えた。

霜織君に彩音ちゃんを送る様に頼むと、梶君が私を送ってくれる事になった。

私の帰り道の事を霜織君が気にかけてくれた時、ずっと感じていたチクチクが無くなっただけじゃなくて、心が温かくなった。

お店を出て駅前まで歩いた後、霜織君と彩音ちゃんと別れた所で、今日の自分の役目は果たせたかな?って思って一安心して彩音ちゃんを見ると、霜織君に抱きかかえられながら歩いていた。


それまで霜織君と楽しそうに話している所とか、二人並んで座っている所を見ても何とも思わなかったのに抱きかかえられながら歩いている二人を見た時、これまで感じた事ない様な胸を掻きむしられる様な思いが体の奥から込み上げてきた。

帰りの電車の中での二人の姿が頭から離れないし、胸を掻きむしられる思いはずっと燻り続けていて、梶君話も耳を通過するだけだった。


「ショックって顔してるね」


最寄り駅から家までの道を歩いている時に、突然梶君が覗き込む様に背を少し屈めてきた。

急に話が変わった事と近くにある梶君の顔にビックリした私に構わず、もう一度梶君が話を続ける。


「颯太と彩音ちゃんが寄り添って帰るのが、そんなにショックだった?」


梶君に指摘されて、胸を掻きむしられる程自分がショックを受けている事に気付いた。

それでも、そんな事ないよ。と何でもない振りして首を横に振る。


「ふ〜ん。彩音ちゃんって颯太の事気に入っているみたいだけど、陽菜ちゃんはそれでいいって事?」


私の否定は意に介さない様な返事をした梶君の言葉にズキンとした痛みと共に二人の寄り添った姿がフラッシュバックする。

心はズキンズキンと痛みながらも、夜の冷たい空気を一度吸ってから答える。


「いいも悪いも私は何も言えないし、それに彩音ちゃんと霜織君の問題だから」


「じゃー陽菜ちゃんは颯太の事どう思っているの?」


次から次へと質問してくる梶君の意図が全く分からない。

さっきからチカチカと私の前でちらつく霜織君と彩音ちゃんの姿と、梶君のせいで頭の中が上手く回転しない。

ちゃんと正常に機能しない思考回路から理性的な考えなんて出てくるわけもなくて、理性が追いつく前に感情的な考えがお腹の中に渦巻いてくる。

霜織君をどう思っているかって、こっちが聞きたい位なのに、そんな事聞かれても困るだけだよ。

どうして梶君はこんなに意地悪な事ばかり言うんだろう


「いい人だなって思います。頼りになるし・・・だけど、自分でもよく分からないから、色々聞かれても困ります」


お腹の中には自分でも理解し難い気持ちがあったけど、それを全部梶君に言える程私たちは仲良くないから、なるべく理性的に話そう、って思いながらも最後の方は感情的になってしまった。

そんな私をクールダウンさせるためか、梶君は何も言わずに歩き出す。

しばらく無言でいると、昂っていた感情が落ち着いてくる。


「彩音ちゃんが霜織君の事好きだって、近くで見ててそれがよく分かるから上手くいって欲しいって思ってる。だから、私が霜織君を恋愛対象で見てるってことはないと思う」


梶君の質問攻撃がなくなると、カラカラと空回りしていた思考回路が元通り機能し始める。

戻ってきた思考回路と理性で、さっきの感情的な言葉をフォローするような言い訳を梶君にしてしまった。


「それって、彩音ちゃんが颯太を好きじゃなかったら恋愛対象で颯太を見るってこと?」


「やっ、そうじゃなくて、応援するって約束したし・・・」


焦った私はさらに言い訳を続ける。


「彩音ちゃんと約束したからダメなの?」


私の言い訳を繰り返す様に質問してくる梶君に、今度こそ頭の中がフリーズしてしまった。

―――逆転の発想

さっきからの言い訳の裏を返せば、彩音ちゃんの事がなかったら、私は霜織君の事を恋愛対象としてみるって事を言っている様にも聞こえる。

私は、彩音ちゃんのことがなかったら霜織君を恋愛対象としてみるのかな?


「友達が先に好きになったとか、約束したからって簡単に自分の気持ちをコントロールできるもん?」


聞いてきた梶君にコクリと頷く。

実際、今までの私はそうやってきた。

少しいいかな?って思ってた男の子も、友達が好きだと言えばそれ以上特別な感情を持つ事もなかったし、むしろ協力してた。

だから、梶君の質問には自信を持って頷く事が出来たんだ。

そんな私を梶君は少し目を細めて見るだけで、それ以上何も言ってくる事はなかった。


少し居心地悪い雰囲気の中、やっと家に着いた。

梶君にお礼を言って別れ家の中に入った後、どっと疲れがでた。

今夜はもうお風呂に入る気にもなれず、ノロノロとルームウエアに着替えてメイクを落とすとベッドの中へと入る。

アルコールのおかげか、すぐに睡魔が襲ってきたけど、目を閉じると色々な事が浮かんでくる。

彩音ちゃんを抱きかかえる霜織君、彼と一緒にいて笑顔の彩音ちゃん、『特別』だと言ってくれた霜織君、そして梶君の言葉・・・

眠気でクリアでない頭は、考える事を拒否して深い眠りへと誘う。

自分でも何を考えたいのか分からず、眠りの沼にどっぷり浸かりながら梶君の言葉が蘇ってくる・・・


―――  『彩音ちゃんが颯太を好きじゃなかったら、恋愛対象で颯太を見るってこと?』 ―――


――― 彩音ちゃんが好きじゃなかったら、私はどうしてた・・・? ―――




minimoneです


2/27,28,3/1,2,3に拍手&コメントを下さった方ありがとうございます。

毎日の様に皆さんから拍手を頂けて本当に嬉しいです。

しかも颯太&陽菜だけでなく、翔&結衣の話も読みたいとのコメントも頂きました。

話がなかなか進まないため、翔&結衣の話は詳しく書かなかったのですが、いつか書ければいいなと思っていました。

もし、皆さんが翔&結衣も気に入ってもらえるなら書いてみようかな?と無謀にも思っています。


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