第20話 裏切りですか? side 陽菜
結衣と話す事が出来たのは、霜織君と一緒に食事した翌日の午後だった。
結衣と二人で、アップルパイが美味しいと流行っているカフェで三時のおやつをしている。
翔君と仲直りした結衣は、いつもの結衣に戻っていた。
「本当は色々詳しい事を聞こうとしたんだけど、それ知っちゃうと絶対許せなくなりそうだったから、エッチをしたかどうかだけ確認したよ。
すっごい勢いで否定してたけど、エッチ以外の何かはしたみたいだね。何か言いそうになったんだけど、私が止めたの。なぜか、付き合う前のことまで話し出しちゃって・・・
あんなに一生懸命に謝ってる翔見ちゃうと、もう別れる事も怒っている事も出来なくなっちゃった。これも惚れた弱みよね。」
照れくさそうに笑っている結衣は、ここ最近で一番の幸せそうな顔をしていた。
「でも、これから一ヶ月はエッチな事はしないし、デートの経費は翔持ちにするように約束したんだ」
「許したからって、何のペナルティーなしっていうのはありえないからね」と言ってアップルパイを一口頬張っている。
さすが。結衣は押さえるべきポイントを押さえている。
デートの経費一ヶ月分にはチョット翔君に同情しそうになったけど、今回は仕方がないかな?
一時はどうなる事かと思ったけど、二人が仲直りしてくれて良かった。
「良かった」と一言漏らす私に結衣が話を変えてきた。
「それにしても陽菜と颯太には嵌められたな〜。いつの間にか颯太と連絡とって示し合わせてるんだもん。それで、あの日颯太と何かあった?」
照れた可愛らしい表情から一転、ニヤリと人の悪い顔をした結衣が聞いてくる。
「別に結衣が期待しているようなことは何もないよ」
平気そうに答えながらも、霜織君に感じた気持ちがバレるんじゃないかって動揺する。
それを隠そうと、プレートに添えられた生クリームをアップルパイに少しのせて食べる。
「陽菜は颯太のことどう思ってるの?」
ドキリ、と心臓が一回大きくウサギの様に跳ねたことを悟られない様、
必死に平静を装ってたけど動揺が一層増してきた。
女の子は恋愛話が大好きだから、どうしてもそっちに話が傾いてしまう。
だけど、今まで結衣が霜織君について聞いた事なんて一度もなかったのにどうしたんだろう?
やっぱりバレちゃった?それとも何か変な所あった?
頭の中で色々考えが浮かんでは消え、浮かんでは消えていく。
「べ、別に普通だよ。前は噂通りの軽い人と思っていたけど、大学に入ってからの霜織君は全然別人みたいになっているし・・・もっと話せるといいな、って思う。」
きっと、言霊って本当にあるんだと思う。
どんなに誤摩化しても結衣にはバレちゃうんだろうな、って思ったら今の気持ちを正直に話していた。
そして一度自分の気持ちを言葉にしてしまうと、霜織君に興味を持っている自分を素直に認める事ができた。
彼を意識してしまった一方で、彩音ちゃんの事を思い出して気が重くなる。
この気持ちは何なんだろう?
ただの興味?それとも、もっと別の何か?
百面相をしている私をジッと観察している結衣に気付かずに、昨日から自分の中で感じている気持ちに想いを馳せる。
「颯太かぁ〜いいんじゃない?以前の颯太なら絶対に陽菜を近づけさせないんだけど、今は別人の様に変わったからね。もともと女関係以外なら信頼できると思うしね。陽菜が颯太に興味を持ったんなら、もっと話してみたら?興味が恋に代わるかもしれないしね。」
いたずらっ子の様な顔をした結衣が言っている事が少しの間理解出来なかった。
興味が恋に代わる・・・?
――― 恋? ―――
「べっ、別に好きだなんてっ」
思いがけない結衣の言葉に一層動揺してしまった。
だって、霜織君の事を恋愛対象で見ていなかったから。
「誰も今、陽菜が颯太の事を好きだなんて言ってないよ。可能性の一つを言ってみただけ。」
あまりにも意外な言葉に動揺してしまったけど、結衣の言葉に落ち着きを取り戻した。
好きになる可能性ね・・・
私が霜織君を好きになる事は多分ないと思う。
なぜなら、彼は彩音ちゃんの好きな人だし応戦するって約束したから。
じゃあ、彩音ちゃんと霜織君のことを考えると気持ちが沈んじゃうのは何でだろう?
せっかく仲良くなれた彩音ちゃんをとられちゃうって感じているのかな?
何も話さない私に、結衣も話は終わりと思ったのか次の話題に話を変えた。
※ ※ ※
「彩音ちゃん、霜織くんたちと食事に行くって言ってたの覚えてる?日程決めるのに、彩音ちゃんは都合がいい日ってある?」
講義も終わり、一緒に新しいミュールを買おうとお気に入りのお店を物色してる時に彩音ちゃんに聞くと、すでにお目当てのミュールを買っていた彩音ちゃんは、目を輝かせながらこちらを振り向く。
「えっ、本当に霜織君と食事できるの!?」
嬉しさを表していた彩音ちゃんが急に眉を顰めて私をみる。
「何時そんな話したの?」
それまでの雰囲気が少しトゲのあるものに変わった様な気がした。
「前に話した霜織君の幼馴染みの結衣と食事している時に、結衣の彼氏と一緒に霜織君が来時に話しただけだよ。」
彩音ちゃんが気分を害したんじゃないかと慌てて説明する。
嘘はついてないけど、携帯のアドレスについてだけは素直に言うことが出来なかった。
「そっか。そういえば、陽菜ちゃんの親友って同じ大学なのに一度も会った事ないね。今度私にも紹介してくれる?」
笑顔の彩音ちゃんは、やっぱり可愛いな。て思いながら頷く。
彩音ちゃんの言う通り一度も結衣と彩音ちゃんを紹介していなかった事に気付いて、今度紹介することを約束した。
彩音ちゃんは、自分のスケジュール帳をみながら都合のいい日を探している。
「金曜日なんてどうかな?今度は、クラコンみたいに迷惑はかけないからね。土曜日の午前中から予定があるから、家に帰らないといけないし」
クラコンで霜織君に助けてもらった事は、彩音ちゃんにとってよっぽど恥ずかしかったみたい、少し照れ笑いしている。
良かった。さっき機嫌が悪くなった様に感じたのは勘違いみたい。
安心した私は、新作のミュールを試しに履いて鏡でチェックする。
買おうか迷って、後ろにいる彩音ちゃんにも聞いてみようと振り向くと、彩音ちゃんが私の目をじっと見つめてくる。
「陽菜ちゃん。私、今度の食事の時に少しでも霜織君と仲良くなりたの。手伝ってくれる?」
見つめられて、不安そうな声で聞かれると協力したくなってしまう。
彩音ちゃんは、霜織君に少しでも自分を知ってもらいたいって思って一生懸命なんだ・・・
胸の奥の方がチクンと何かに刺されている気がする。
「何していいか分からないけど、勿論協力するよ。」
笑顔で応えながら、好きな人にひた向きな彩音ちゃんに対してひどく罪悪感を感じた。
彩音ちゃんを応援したいって、本当に思っている。
なのに、霜織くんから『特別』と言われて嬉しかった事や彩音ちゃんの事を話す時に気分が沈んだこと、
そんな自分がひどく最低な人間に思えた。
きっと胸がチクチクするのは、最低な私を責めているんだ。
霜織君の事は、気になっている。
もっと彼と話してみたいと思うけど、それは人として色んな魅力をもっているから、どうしても興味を持ってしまうって言う意味。
だけど結衣が言う様に、今自分が抱いている気持ちが絶対に恋にならない、って誰が言えるだろう?
そんな風に興味を持って霜織君と会うのは良くない事なのかな?
この気持ちは、彩音ちゃんを裏切っている事になるのかな?
minimoneです。
2/25,26に拍手&コメントを下さった方ありがとうございます。
颯太の男っぷりがあがってきた。とお褒めに預かりminimoneも一安心です。
そして、彩音はこのまま本当に引き下がるのか?といったコメントも頂いて本当に嬉しいです限りです♪
お察しの通り彩音は、もう少し頑張る予定です!
今回は、前回の場面から時間は少し遡った陽菜サイドでした。本当は、前回と今回どちらを先にしようか迷ったんですが・・・皆さんはどちらが良かったですか?
もし良ければ、教えて下さい。今後の参考にしたいです。