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第19話 男の友情、女の友情 side 颯太

四人で行った店は梶おすすめのアジアンテイストだった。

俺の隣には彼女の友達の彩音が座っている。

酒も食事も美味しく会話も盛り上がっていたが、梶や彼女が見えない所で彩音と何度か手がぶつかったり、指が微妙に絡んでくる様な気がした。

あからさまじゃないし故意なのか偶然なのか判断し難い所だったが、もし彼女に見られたりしたらたまったもんじゃない。

それとなく彩音から距離をおくが、話す時に上目遣いでじっと俺を見てくる。

これまで俺が相手にしていた女みたいに色気を纏って絡んでくるようなものではないため、

はっきりと拒否の態度が出来ない。

男によっては誘っているととれる彩音の態度に、彼女の計算高さを感じる。

女の計算高さには慣れているから誘惑に引っかかったりしないけいど、吉岡さんにバレるんじゃないかとヒヤヒヤして様子を窺が、彼女は至っていつも通り会話を楽しんでいる。


「颯太、ちょっと席替わってくれる?」


会話の合間に突然梶が席を替わる様に言ってきた。

どうやら梶は俺と彩音のやり取りを気付いていたようで助け舟を出してくれた。

さすが侮れない男。

この分じゃ、吉岡さんの事を好きな事も気付いているんだろな。


彩音と離れたおかげで、何の憂いもなく吉岡さんとも話す事が出来る。

彩音の打算的な態度の後だったから、彼女の純粋に食事を楽しんでいる様子に気持ちが和らぐのを感じた。

やっぱり彼女の雰囲気が俺は好きだ。

初めは、側にいるだけで止まらない動悸や緊張で上手く話す事も出来ない程の一目惚れだったと思うが、

彼女と話す回数が増える度に彼女の中身も含めて全てを好きになっていく。

純粋に彼女の事を知りたいと思うと同時に、彼女の女の部分を知りたいという欲望も出てくる。

ーーーそれは、恐らく誰も見た事のない彼女・・・



ふと時計をみると、そろそろ終電が気になる時間になっていた。

終電に間に合う様に店を出る。

吉岡さんを一人で帰す事は危険という事を知っているため、送ろうと声を掛けた。


「私そんなに酔ってないし、どちらかと言えば彩音ちゃんの方が酔ってて危ないからお願いしてもいい?

私の家に泊める事が出来たら良かったんだけど、明日、朝早くから用事があって家に帰らないといけないんだって。

だから彩音ちゃんを送ってもらえると助かるんだけど・・・」


彼女に言われて彩音を見ると、彼女より酔っている様に見える。

俺の申し出に、申し訳なさそうな複雑な顔をした彼女に頼まれたら断れない。

それでも一人返すのはやっぱり不安だ。

すると梶が彼女を送ると言い出した。

悩んでいる彼女に「送ってもらいなよ。」と促すと、彼女も受け入れる。


(くそっ、本当は彼女を送るのは俺の役目だったのに!なんで、別の女を送らなきゃならないんだ。)


梶と代わってもらいたいが、彼女の手前一度約束した事は守り通そうと思い直す。

帰り道を彼女一人で歩かせる事が無くなった事に安心する反面、梶とあの暗い道を二人で歩くというのも違う意味で心配だ。

だが、背に腹は代えられない。

梶の事を信用していないわけじゃなく、彼女と一緒にいるという事が俺的にダメなんだ。


「吉岡さんの事は心配しなくてもいいよ。ちゃんと送り届けるし、手は出さないよ。

だから颯太は自分の事やってこい」


こっそりと俺に囁いて、意味ありげな笑顔を残して梶は彼女を送るために歩いてホームに歩いて行く。

やっぱり梶は俺が彼女の事を特別に思っている事に気付いているの間違いないだろう。

次に会った時に、何を言われるのかと思うと少し面倒だと思うが、

彼女をちゃんと送ってくれると言った梶に安心した俺も彩音を送る事にした。

酔っている彩音が凭れかかってくるため仕方なく支えながら歩き始める。

家を聞くとここから遠くない所に住んでいるが、この状態で一緒に歩くのは勘弁して欲しい。

タクシーをつかまえ乗り込むが、二人になって話す事も特になく、お互い無言のままだった。


タクシーを降りると、彩音は少しフラフラしながら歩いている。

家の前まで着いても、上手く鍵を差し込めず代わりに玄関のドアを開く。

さすがに家に上がる事は躊躇われるため、玄関から彩音がそのまま部屋の中と歩いて行くを確認する。


「じゃあ帰るから、ちゃんと鍵かけて」


一言声を掛けて家を出ようとすると、「霜織君」と呼びかける声に振り返る。

いつの間にこちらに戻ってきたのか、目の前に彩音がいた。


「帰らないで。・・・私、高校生の時から霜織君の事好きだったの」


そう言って、ゆっくりと抱きついてきた。

そのまま下から見上げる様に上目遣いで俺を見つめる。


「去年の夏に隣の県の高校に合宿に来たでしょ?私そこの出身で、夏に霜織君と会っているの。

体育館横の水道の所で、私が置き忘れたタオルを隣にいた霜織君が追いかけて、渡してくれたの。

・・・思い出してくれた?」


思い出したかと聞かれても、さっぱり思い出せない。

たしかに合宿に行ったのは覚えているが、そんな小さな事を覚えているわけがない。

思い出せないため、何の反応も示さない俺に彩音は続けて話す。


「それ以来ずっと霜織君のこと忘れられなくて、バスケの試合に応援行ったりして見ていたの。

だから大学でもう一度会えた時、凄く嬉しくて・・・それから大学で見かける霜織君の事を本気で好きになったの。

今日、一緒に・・・いて?」


少し潤んだ瞳で見つめられた後、顔を胸に埋めて抱きしめてくる。

客観的に見て彩音は男受けするタイプだと思うし、きっと昔の俺だったら、そのままベッドへに直行だったと思う。

だけど色々な女を見てきたからこそ、庇護欲をそそるような仕草や何気なく男を誘う様な態度を冷静に見る事が出来る。

彩音は全てが計算ずくというわけではなく、本能的に自分がどうすればいいか悟っているタイプなんだろう。

胸に埋めていた顔をあげ、もう一度俺を見つめてくる目は期待が込められていた。

そんな目をされても、俺の心はちっとも反応しない。

高校生の頃からと言われても彼女の事を知らないし、なんと言っても俺は吉岡さんが好きだ。



「ごめん、好きな人いるから」


期待を込めた瞳が暗くなっていく。


「ずっとその人の事好きで彼女の好みに少しでも近づきたくて俺、変わったんだよ。

今の俺がいいっていうなら、それは俺の好きな人のおかげだし、

今の俺は、彼女のための俺だから、君のために同じ事を出来るかって言われたら無理だ」


吉岡さんを送りたいのに梶に任せたのは、はっきりと俺の気持ちを彩音に伝える必要があると思ったからだ。

彩音は、吉岡さんの友達だ。

変に期待を持たせることも出来ないし、ここをはっきりさせなければ、

彼女が『友達の好きな男』としてしか俺を見てくれなくなると思ったからだ。

フェアを信念にしている彼女は、友達の好きな男を恋愛対象に見たりしない事は明らかだ。

きっと女の友情を優先してしまう。そうなる前に、先手を打つ必要があった。


じゃなければ絶対に彼女をたとえ友達だとしても、みすみす他の男になんかに送らせたりしない。

彩音が酔った振りをしていたのは、薄々気付いていた。

実際家についてからの彩音は酔っているように見えなかったし、

俺に送らせる様仕向けるため、事前に吉岡さんに上手いこと言っていたんだと思う。


梶も彩音の酔った振りに気付いていたのか、俺の思惑を知っていたのか分からないが、

聡いあいつの事だから察してくれたからこそ、彼女を家まで送ると言ってくれたんだと思う。

背中に回していた彩音の腕を外し、「ごめん」と最後に一言伝えて玄関を出て行く。

大通りまで戻りタクシーで家に帰ることにした。

タクシーに乗っていると、梶から「任務完了」というメールが届く。

梶に心の中で感謝しつつメールを返し、こっちも無事に終わった事を伝えた。




minimoneです。


2/23,24に拍手を下さった方ありがとうございます。

今回は、ちゃんと更新することが出来て一安心です。

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